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最終更新日:2026/7/7

個人事業主とは?メリットや注意点・開業する方法・税金などを税理士が解説

森 健太郎
この記事の執筆者 税理士 森健太郎

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
【公式】ベンチャーサポートグループチャンネルを運営。

PROFILE:https://vs-group.jp/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:【公式】ベンチャーサポートグループチャンネル
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

個人事業主とは?メリットや注意点・開業する方法・税金などを税理士が解説

自分の力でビジネスを始めてみたい。そう考えたときに、まず候補になるのが個人事業主という働き方です。
会社員からの独立に限らず、副業の延長や、子育て・定年後のセカンドキャリアとして検討する方も増えています。

しかし、個人事業主になった場合、税金や保険の手続きを、すべて自分で判断・管理することになります。
調べるほどに分からないことが広がっていき、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、個人事業主の定義や法人との違いといった基本から、メリット・デメリット、開業届の手続き、納める税金の種類、確定申告のしくみまで、個人事業主として事業を始めるうえで知っておくべき知識を、税理士が詳しく解説します。

個人事業と法人の違い、会社設立の流れ、必要書類、費用など会社設立の全体像をわかりやすく解説!

目次

起業する際は「個人事業主」と「会社設立(法人)」の2択になる

起業する際は「個人事業主」と「会社設立(法人)」の2択になる

日本で起業する場合、個人事業主として始めるか、株式会社や合同会社などの法人を設立するかという2つの選択肢があります。

許認可や登録などが必要な業種はありますが、多くのビジネスは、法人を設立しなくても個人事業主として始めることができます。

個人事業主とは

個人事業主とは、法人(会社)を設立せずに、個人で事業を営んでいる人のことです。
「事業」とは、営利目的の活動を反復・継続・独立して行うことを指します。

飲食店やネットショップの経営、Webデザインやプログラミングの受託、動画制作やライターなど、業種や職種に制限はありません。
従業員を雇っていても、法人を設立していなければ個人事業主に該当します。

個人事業主として事業を始める際は、原則として税務署に「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出します。
しかし、この届出をしていなくても、事業の実態があれば税法上は個人事業主として扱われます。
実際に、開業届を出さないまま事業を行っている方も少なくありません。

個人事業主と法人の違い

法人とは、法律上の手続き(登記)によって設立される組織のことです。
株式会社や合同会社が代表的な法人にあたります。

法人は設立の際に、定款などさまざまな書類作成や、登記申請という手続きなどが必要となり、手間とコストがかかります。
また、ビジネスで得た利益に課される税金の種類も異なります。
個人事業主は主に所得税を、法人は法人税を納めることになり、それぞれ税率のしくみが違います。

具体的な個人事業主と法人の違いを、以下の表にまとめました。

項目 個人事業主 法人
開業手続き 税務署に開業届を提出するのみ 定款作成・登記申請などが必要
設立費用 なし 株式会社:約24万円〜/合同会社:約11万円〜
税金の種類 所得税(累進課税:5〜45%) 法人税(15%・23.2%の2段階)
経費の範囲 事業に直接関係する支出が中心 役員報酬・社宅など計上できる範囲が広い
赤字の繰越※ 最大3年間 最大10年間
社会保険 原則として国民健康保険・国民年金に加入 健康保険・厚生年金への加入が義務
責任の範囲 無限責任(個人の全財産で責任を負う) 有限責任(出資額の範囲内で責任を負う)※株式会社・合同会社の場合
事業の継続性 事業主の死亡により原則として廃業 代表者が変わっても法人として事業を継続できる
決算期 12月で固定 自由に設定できる
廃業の手続き 税務署に廃業届を提出するのみ 解散登記・清算手続きなどが必要

※「赤字の繰越」とは、事業で赤字が出た年の損失を翌年以降に持ち越し、黒字が出た年の所得と相殺して税金を減らせるしくみです。
開業初期は赤字になりやすいため、繰越期間が長いほど将来の節税効果が大きくなります。
青色申告の特典の1つであり、白色申告では赤字の繰越は利用できません。

より具体的な違いについては、以下の記事もご確認ください。

まずは個人事業主として起業するのが一般的

法人と個人事業主のどちらで始めるか迷った場合は、まず個人事業主として事業をスタートするのがおすすめです。
事業が軌道に乗り、所得や規模が大きくなった段階で法人化(法人成り)を検討しても遅くはありません。

個人事業主は開業届を出すだけで開業できますが、法人は設立だけで数万〜数十万円の法定費用がかかります。
さらに法人は、事業が赤字でも年間約7万円の「法人住民税の均等割」を毎年納める必要があります。
毎年の決算や申告、社会保険の手続きなど、事業の維持にかかる手間とコストについても、個人事業主よりも大きなものになります。

また、もし事業をやめたいと思ったときも、個人事業主は廃業届を提出するだけで事業を終了できますが、法人の場合は解散・清算という法的な手続きが必要です。

会社設立のメリットやデメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。

個人事業主の5つのメリット

個人事業主として事業を始めることには、以下のようなメリットがあります。
特に「手軽さ」と「税務上の優遇」は、これから事業を始める方にとって大きな利点です。

その1:開業の手続きが簡単で費用もかからない

その1:開業の手続きが簡単で費用もかからない
個人事業主の開業に必要な手続きは、税務署に開業届を提出することだけです。
提出の際に何らかの費用が発生することもありません。

一方で株式会社を設立する場合は、定款の作成・認証、法務局での設立登記といった手続きが必要で、登録免許税や定款認証手数料などの法定費用だけでも約20万〜25万円かかります。

「まずは小さく始めてみたい」「事業がうまくいくかわからない段階で大きなコストをかけたくない」という方にとっては、個人事業主がおすすめです。

その2:青色申告で最大65万円の特別控除を受けられる

その2:青色申告で最大65万円の特別控除を受けられる
「青色申告承認申請書」を提出し、複式簿記で帳簿をつけたうえでe-Taxで確定申告を行うと、最大65万円の青色申告特別控除を受けることができます。

青色申告特別控除とは、事業の利益(所得)から一定額を差し引ける制度です。
たとえば年300万円の所得がある人の場合、本来は300万円すべてに所得税などが発生しますが、青色申告特別控除を活用することで、控除額の最大65万円を引いた235万円まで課税される所得を減らすことができます。

所得税・住民税の負担が軽くなるため、個人事業主にとって非常に重要な節税制度のひとつです。

参考:No.2072 青色申告特別控除|国税庁

なお、2027年分からは制度が見直され、控除額の上限が75万円に引き上げられる予定です。
これから開業する方は、最初からe-Taxと会計ソフトを使った申告を前提に準備しておくとよいでしょう。

青色申告には特別控除のほかにも、40万円未満の資産を一括で経費計上できる「少額減価償却資産の特例」や、赤字の繰り越しなど、さまざまな税制面でのメリットがあります。
詳しくは以下の記事をご確認ください。

その3:事業にかかった費用を経費として計上できる

その3:事業にかかった費用を経費として計上できる
個人事業主は、事業のために使った費用を「経費」として売上から差し引くことができます。
経費を計上した分だけ課税対象となる所得が下がるため、結果として税金の負担を抑えることにつながります。

たとえば、仕事で使うパソコンやソフトウェアの購入費、取引先との打ち合わせにかかった交通費や飲食代、業務に必要な書籍代などが経費に該当します。
自宅を仕事場としている場合は、家賃や光熱費、インターネットの通信費のうち事業で使用している割合を「家事按分」として経費に計上することも可能です。

税理士 森健太郎

代表税理士
森 健太郎

「経費で落ちる=無料になる・得をする」と考えている方も多いですが、経費で落ちるというのは「その金額が所得から引かれ、納税する額を抑えられる」という意味です。

決して「経費にすればするだけ儲かる」というわけではないので、注意してください。

その4:働く場所・時間・仕事内容を自分で決められる

その4:働く場所・時間・仕事内容を自分で決められる
個人事業主には、勤務場所や時間の決まりがありません。
自宅やカフェ、コワーキングスペースなど好きな場所で働くことができますし、何時から何時まで働くかも自分で決められます。

また、どのような仕事を受けるか、どの取引先と付き合うかも自分の判断です。

もちろん、自由であるということは、仕事の獲得や時間管理をすべて自分で行う必要があるということでもあります。
ただ、育児や介護と両立しながら働きたい方や、自分のペースで事業を成長させていきたい方にとっては、働き方の裁量が大きいことは大きな利点になります。

その5:会社員のまま副業で個人事業主になることもできる

その5:会社員のまま副業で個人事業主になることもできる
個人事業主になるために、必ずしも今の仕事を辞める必要はありません。
会社員として勤務しながら、副業として個人事業を始めることも可能です。

実際に、本業の給与収入を得ながら、週末や空き時間を使って個人事業主として活動している方は少なくありません。
副業であっても、その所得が税務上「事業所得」に該当し、期限内に青色申告承認申請書を提出していれば、青色申告の特別控除を利用できるようになり、事業にかかった費用を経費として計上できます。

ただし、副業で得た所得は、確定申告の際に「事業所得」と「雑所得」のどちらに区分されるかによって、受けられる税務上のメリットが大きく変わります。

事業所得であれば、青色申告特別控除(最大65万円)の適用や、赤字が出た場合に本業の給与所得と相殺して税金を減らす「損益通算」が認められます。
一方、雑所得に区分されるとこれらの優遇は受けられず、税負担が大きくなります。

この区分について、国税庁は「その所得に関する取引を記録した帳簿書類を保存しているかどうか」を重要なポイントとしています。
帳簿書類の保存がない場合は、原則として雑所得として扱われます。

ただし、帳簿をつけていても、以下のようなケースでは事業所得と認められない可能性があります。

  • 副業の収入が例年(概ね3年程度)300万円以下で、かつ本業の収入に対する割合が10%未満程度の場合
  • 例年赤字が続いており、かつ黒字化に向けた営業活動などの取り組みを行っていない場合

参考:所得税通達の改正について|国税庁(PDF)

なお、副業を禁止している会社もあるため、開業届を出す前に勤務先の就業規則を確認しておくことをおすすめします。

個人事業主のデメリット・注意点

個人事業主には事前に知っておくべきデメリットや注意点もあります。
特に、会社員からの独立や、配偶者の扶養に入っている状態からの開業を考えている方は、社会保険や税金への影響を正しく理解しておくことが重要です。

その1:会社員のような健康保険・厚生年金には加入できない

その1:会社員のような健康保険・厚生年金には加入できない
個人事業主は、会社員が加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)や厚生年金には原則として加入できません。

会社員の場合、健康保険料も厚生年金保険料も、標準報酬月額に応じた金額を会社と折半で負担します。
個人事業主にはこのしくみがなく、加入する保険の種類自体が変わります。

保険の種類 会社員 個人事業主
医療保険 健康保険(協会けんぽ・健保組合):保険料は報酬に応じて算出され、会社と折半 国民健康保険:保険料は前年の所得や世帯の加入者数などをもとに市区町村が算出。全額自己負担
年金 厚生年金:保険料は報酬に応じて算出され、会社と折半。将来の受給額は報酬に連動 国民年金:保険料は定額。将来の受給額は加入期間に応じた定額

会社員から独立する場合、健康保険から国民健康保険へ、厚生年金から国民年金へ切り替えが必要になります。

保険料の計算方法が変わるうえ、会社との折半もなくなるため、負担額が大きく変わる可能性があります。
詳しくは「会社員から独立する際の社会保険・年金の切り替え」にて後述します。

すでに国民健康保険・国民年金に加入している場合、保険の種類は変わりませんが、事業所得が増えれば国民健康保険料も上がります。
一方で、もし配偶者の扶養にはいっている場合は、所得が一定額を超えなければ、扶養を維持できる可能性もあります。

その2:扶養から外れる可能性がある

その2:扶養から外れる可能性がある
配偶者の扶養に入っている方が個人事業主として開業すると、所得や収入の水準によっては扶養から外れることになります。
この際、「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」は別の制度であり、判定の基準が異なります。

税制上の扶養(配偶者控除)とは、配偶者の所得が一定額以下の場合に、もう一方の配偶者の所得税・住民税が軽くなる制度です。

判定の基準は、個人事業主本人の合計所得金額(売上から経費や青色申告特別控除を差し引いた金額)が一定額以下であることです。
青色申告を活用して所得を抑えれば、扶養にとどまれるケースもあります。

参考:No.1191 配偶者控除|国税庁

社会保険上の扶養(健康保険の被扶養者)とは、配偶者の勤務先の健康保険に扶養家族として加入できる制度です。
扶養に入っている間は、自分で健康保険料を負担する必要がありません。
協会けんぽの場合、認定日以後1年間の見込み収入が130万円未満であることが原則的な基準とされています。

参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構

個人事業主の場合、「売上から経費を差し引いた金額」で判定されるのが一般的ですが、加入先の健康保険組合によっては「開業届を出した時点で扶養から外れる」というルールを設けているところもあります。

扶養を維持したまま開業できるかどうかは、事業の規模や加入先の健康保険組合の規定によって異なります。
開業届を提出する前に、配偶者の勤務先を通じて加入先の健康保険組合に確認しておくことをおすすめします。

その3:法人と比べて社会的信用が低い

その3:法人と比べて社会的信用が低い

個人事業主は法人と比べると、対外的な信用の面で不利になりやすい傾向があります。

法人は法務局で登記を行うため、商号(社名)や所在地、代表者名、資本金といった基本情報が公開されます。
個人事業主にはこうした公的な登録制度がなく、事業の実態が第三者から確認しにくい面があります。

信用が問題になりやすい場面としては、銀行から融資を受ける際や、法人の取引先と新たに契約を結ぶ際、事務所や店舗の賃貸借契約を結ぶ際などがあげられます。

個人事業主だからといって融資や契約ができないわけではありませんが、法人と比べて審査が厳しくなったり、追加の書類を求められたりする可能性があります。
事業の拡大にともなって信用力が必要になった場合には、法人化を検討するのもひとつの選択肢です。

その4:所得が増えると法人より税負担が重くなることがある

その4:所得が増えると法人より税負担が重くなることがある
個人事業主が納める所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税です。
税率は所得に応じて5%から最大45%まで段階的に上がります(これに加えて住民税が約10%かかります)。

一方、法人が納める法人税は所得の金額にかかわらず税率がほぼ一定で、最大でも23.2%です。
そのため、事業の所得が少ないうちは個人事業主のほうが税負担は軽くなりますが、所得が一定の水準を超えると、法人のほうが税負担を抑えられるようになります。

ただし、これはあくまで「所得税」と「法人税」を単純に比較した場合の話です。
実際には税だけでなく社会保険料の負担なども考えなければならず、それには役員報酬の設定や各種控除、扶養に入れられる家族がいるかなど、さまざまな条件が絡みます。

税理士 森健太郎

代表税理士
森 健太郎

一概に「これだけ収入があれば会社を設立すべき!」とはなかなか言いにくいのですが、ベンチャーサポートでは「年間の課税所得が500万円を超えている」のであれば、法人化によってコストを抑えやすくなると考えています。

気になる方はぜひ、無料相談でシュミレーションをご依頼ください。

その5:帳簿づけや確定申告を行う必要がある

その5:帳簿づけや確定申告を行う必要がある
個人事業主は、毎年1回、1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年の確定申告期間中に所得税の確定申告を行う必要があります。
会社員であれば年末調整で済むことの多い税金の手続きを、個人事業主はすべて自分で行わなければなりません。

また、日々の取引を帳簿に記録し、領収書や請求書などの書類を保存する義務もあります。
青色申告で65万円の特別控除を受けるためには、複式簿記による記帳が必要です。

とはいえ、最近はクラウド型の会計ソフトが普及しており、銀行口座やクレジットカードと連携させることで、帳簿づけの手間は以前に比べて大幅に軽減できるようになっています。

個人事業主になるためには

個人事業主になるためには
ここまでの内容を踏まえて「個人事業主として事業を始めよう」と決めたら、具体的な手続きに進みましょう。

必要な手続きの中心は「開業届」と「青色申告承認申請書」の提出です。

「開業届」の提出方法と期限

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)とは、事業を始めたことを税務署に届け出る書類です。
提出先は納税地を管轄する税務署で、提出方法はe-Taxによるオンライン提出、税務署の窓口への持参、郵送の3つから選べます。

提出期限は、開業した年の翌年3月15日まで(土日祝の場合は翌平日)です。
これは確定申告の期限と同じ日付にあたります(2026年1月1日以後に開業した場合)。
ただし、後述する青色申告承認申請書の提出期限もあるため、実務上は開業後できるだけ早く提出するのがおすすめです。

参考:A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁

以前は、税務署の窓口で書類を提出すると、控えに受付日の印(収受日付印)を押してもらえたため、「届出を提出済み」という証明として使うことができました。
しかし、2025年1月以降はこの押印が廃止されています。

窓口で提出する場合は、希望すれば収受日付と税務署名が記載された「リーフレット」を受け取ることができます。
郵送の場合も、切手を貼った返信用封筒を同封すれば同じリーフレットが返送されます。
e-Taxで提出した場合は、受信通知を保管しておきましょう。

参考:令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて|国税庁

開業届を出さない場合のデメリットとは

前述のとおり、開業届を出さなくても事業を行うことは可能であり、届出をしなかったことに対する罰則もありません。

しかし、届出をしないままでいると、以下のような実務上のデメリットがあります。

  • 青色申告が利用できない(青色申告承認申請書も提出していない場合)ため、最大65万円の特別控除が受けられず、税負担が大きくなる
  • 屋号付きの銀行口座を開設できない場合がある
  • 小規模企業共済(個人事業主向けの退職金積立制度)に加入できない
  • 補助金・助成金の申請時に、事業を行っている証明として開業届の控えを求められることがある

特に、青色申告の特別控除が使えないことの影響は大きいです。
年間65万円の控除があるかないかで、所得税と住民税をあわせて年間10万円以上の納税額の差が出ることも珍しくありません。
事業を継続的に行うのであれば、開業届は早めに提出しておきましょう。

「青色申告承認申請書」もあわせて提出しよう

個人事業主が青色申告を行うためには、開業届とは別に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。

青色申告承認申請書の提出期限は、開業届とは異なり、開業の時期によって以下のように定められています。

開業の時期 提出期限
その年の1月1日~1月15日に開業した場合 その年の3月15日まで
その年の1月16日以降に開業した場合 開業日から2カ月以内

この期限を過ぎてしまうと、その年分の確定申告では青色申告ができず、白色申告での申告となります。
青色申告のメリット(特別控除、赤字の繰越しなど)は初年度から活用したいところですので、開業届と同時に提出するのが確実です。

青色申告承認申請書の書き方や提出方法などについては、以下の記事で詳しく解説しています。

会社員から独立する際の社会保険・年金の切り替え

会社員から独立する際の社会保険・年金の切り替え
退職すると、会社で加入していた健康保険(協会けんぽや健康保険組合)と厚生年金から脱退することになります。
個人事業主として事業を始めるにあたっては、健康保険と年金の両方について、自分で切り替えの手続きを行う必要があります。

健康保険については、退職後の選択肢が主に2つあります。
1つ目は、住所地の市区町村が運営する「国民健康保険」に加入する方法です。
退職日の翌日から14日以内に、市区町村役場で手続きを行います。

2つ目は、退職前の健康保険をそのまま最長2年間継続できる「任意継続被保険者制度」を利用する方法です。
会社との折半がなくなるため保険料は全額自己負担になりますが、国民健康保険より保険料が安くなるケースもあります。
退職前に両方の保険料を試算し、有利なほうを選ぶとよいでしょう。

参考:健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について|協会けんぽ

年金については、厚生年金から国民年金(第1号被保険者)への切り替えが必要です。
こちらも退職日の翌日から14日以内に、市区町村役場または年金事務所で手続きを行います。

参考:会社を退職したときの国民年金の手続き|日本年金機構

それまで配偶者が扶養に入っていた場合(第3号被保険者)は、配偶者も国民年金の第1号被保険者への切り替えが必要です。
届出を忘れると未納期間が発生し、将来の年金受給額に影響する可能性があるため、あわせて手続きを行いましょう。

いずれも退職日の翌日から14日以内が手続きの期限となるため、退職前にスケジュールを確認しておきましょう。

個人事業主が納める税金

個人事業主が納める税金

個人事業主は、事業の所得に応じて税金を納める必要があります。

主な税金は「所得税」「住民税」「個人事業税」「消費税」の4つです。
それぞれのしくみと課税の基準を把握しておきましょう。

所得税:多く稼ぐほど税率も上がる

所得税は、個人事業主にとって最も中心的な税金です。

1月1日から12月31日までの1年間の事業所得(売上から経費を差し引いた金額)に対して課税されます。
所得税は所得が増えるほど税率が段階的に上がり、5%から45%までの7段階に分かれています。

課税所得 所得税の税率 控除額
1,000~194万9,000円まで 5% 0円
195万~329万9,000円まで 10% 9万7,500円
330万~694万9,000円まで 20% 42万7,500円
695万~899万9,000円まで 23% 63万6,000円
900万~1799万9,000円まで 33% 153万6,000円
1,800万~3,999万9,000円まで 40% 279万6,000円
4,000万円以上 45% 479万6,000円

参考:No.2260 所得税の税率|国税庁

住民税:前年の所得をもとに課税される

住民税は、前年の所得をもとに都道府県と市区町村に納める地方税です。
税率は所得に対して一律約10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%が標準)です。

会社員の場合は住民税が毎月の給与から天引き(特別徴収)されますが、個人事業主は市区町村から届く納税通知書にもとづいて自分で納付(普通徴収)します。

前年の所得が基準となるため、サラリーマンからの独立の場合、まだ売上が立っていない時期に、サラリーマン時代の所得をもとにした住民税が課され、大きな負担となることがあるので注意しておきましょう。

個人事業税:事業所得が年290万円を超えると課税される

個人事業税は、個人で事業を営む方に対して都道府県が課す地方税です。
地方税法で定められた70の法定業種に該当する事業を営んでおり、かつ年間の事業所得が290万円(事業主控除額)を超える場合に、業種によって3〜5%課税されます。

小売業(物販販売業)、飲食店業、製造業、不動産貸付業、デザイン業、コンサルタント業など多くの事業が対象となりますが、ライター、画家、作曲家などは法定業種に該当しないため、原則として個人事業税はかかりません。

注意すべき点として、個人事業税の計算では青色申告特別控除は適用されません。
所得税の確定申告で65万円の控除を差し引いた後の所得が290万円以下であっても、控除前の所得が290万円を超えていれば個人事業税が課されます。

確定申告を行っていれば個人事業税の申告を別途行う必要はなく、都道府県税事務所から届く納税通知書にもとづいて、原則として8月と11月の年2回に分けて納付します。

消費税:課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が発生する

消費税は、商品の販売やサービスの提供に対して課される税金です。
原則として、売上にかかる消費税から、仕入れや経費にかかった消費税を差し引いた差額を国に納めます。

個人事業主が消費税の「課税事業者」となり、納税義務が発生するのは、原則として基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超えた場合です。

また、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、前年の上半期(1月1日〜6月30日)の課税売上高などが1,000万円を超える場合には、その年から課税事業者となることがあります(この判定では、課税売上高ではなく給与等支払額で判定することもできます)。
開業して間もない時期は基準期間の売上がないため、原則として消費税の納税義務はありません。

参考:No.6501 納税義務の免除|国税庁

ただし、2023年10月に導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、状況が変わっています。

この制度では、適格請求書発行事業者として登録していない事業者との取引について、取引先が消費税の控除(仕入税額控除)を十分に受けられなくなります。
取引先にとっては実質的なコスト増になるため、事業者に対し「登録してほしい」と求められるケースが増えており、課税売上高が1,000万円以下でも自ら課税事業者になる個人事業主が増えています。

適格請求書発行事業者に登録すると、売上高にかかわらず消費税の申告・納付が必要になります。
登録するかどうかは、取引先との関係や事業の規模を踏まえて慎重に判断しましょう。

参考:特集 インボイス制度|国税庁

個人事業主の確定申告とは

確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間の所得と税額を計算し、翌年に税務署へ申告・納税する手続きです。

会社員は勤務先の年末調整で所得税の精算が完了するため、多くの場合は確定申告を意識する必要がありません。
しかし個人事業主は、事業の収支を自分で計算し、自ら申告を行う必要があります。

確定申告が必要になる所得の基準

確定申告が必要かどうかは、事業の所得金額と適用できる控除の関係で決まります。

個人事業主(専業)の場合、事業所得(売上から経費を差し引いた金額)から、基礎控除や社会保険料控除などの各種所得控除を差し引いた結果、課税所得がプラスになる場合は確定申告が必要です。

所得控除のうち最も基本的な「基礎控除」は、2025年分以降の税制改正で48万円から引き上げられています。

2026年分の基礎控除額は、合計所得金額に応じて以下のとおりです。

合計所得金額 基礎控除額
489万円以下 104万円
489万円超〜655万円以下 67万円
655万円超〜2,350万円以下 62万円
2,350万円超 段階的に減額され、2,500万円超で0円

※489万円以下の104万円は特例加算を含む金額であり、2028年分以降は変更される見込みです。

参考:令和8年4月源泉所得税の改正のあらまし|国税庁(PDF)

事業所得が少額であっても、青色申告で赤字を翌年以降に繰り越したい場合や、源泉徴収された税金の還付を受けたい場合は、確定申告を行ったほうが有利です。

会社員が副業で個人事業主をしている場合は、本業の給与以外の所得(事業所得や雑所得)が年間20万円を超える場合は、確定申告が必要です。

20万円以下であれば所得税の確定申告は不要ですが、住民税の申告は別途必要になる点に注意してください。

白色申告と青色申告の違い

個人事業主の確定申告には、白色申告と青色申告の2種類があります。
それぞれの違いを比較すると以下のとおりです。

比較項目 白色申告 青色申告
事前の届出 不要 青色申告承認申請書の提出が必要
帳簿の方式 簡易な記帳(単式簿記) 複式簿記(65万円控除の場合)
特別控除 なし 最大65万円
赤字の繰越 不可 3年間繰越しが可能
家族への給与の経費処理 上限あり(配偶者86万円、その他の親族50万) 届出の範囲内で全額を経費にできる(実際の労働の対価として妥当な額であること)

両者を比べると、青色申告のほうが税務上のメリットが圧倒的に大きくなっています。

帳簿付けの手間は増えますが、現在はクラウド型の会計ソフトが複式簿記の記帳を自動化してくれるため、以前ほど負担は大きくありません。

これから開業届を出す方は、特段の理由がない限り、青色申告を選ぶことを推奨します。

なお、2027年分からは青色申告特別控除の制度が見直されます。
e-Taxでの申告に加えて優良な電子帳簿保存の要件を満たせば控除額が最大75万円に引き上げられる一方、紙での申告書提出で適用できていた55万円控除は廃止され、e-Taxでの申告が必須となります。

参考:10万円控除要件が変わります!|国税庁(PDF)

確定申告の流れ

個人事業主の確定申告は、おおまかに以下の流れで進めます。

確定申告の流れ

  • STEP1日々の帳簿づけ(年間を通じて)
  • STEP2年間の収支を集計する(翌年1月〜)
  • STEP3確定申告書と決算書を作成する
  • STEP4税務署に申告書を提出する(2月16日〜3月15日)
  • STEP5所得税を納付する(3月15日まで)

まずは事業の取引(売上・経費)を帳簿に記録し、領収書や請求書などの証憑書類を保存します。
会計ソフトを使って銀行口座やクレジットカードと連携させておくと、記帳の手間を大幅に減らせます。
こうした1月1日から12月31日までの1年間の売上と経費を集計し、事業所得の金額を確定させます。

青色申告の場合は「青色申告決算書」、白色申告の場合は「収支内訳書」を作成し、確定申告書(第一表・第二表)とあわせて提出します。
会計ソフトを使っていれば、日々の帳簿データから決算書や申告書を自動で作成できるものが多いです。

確定申告の期間は、毎年2月16日から3月15日まで(期限日が土日祝の場合は翌平日)です。
e-Taxで提出する方法のほか、税務署の窓口への持参や郵送でも提出できます。
申告書の提出と同じ期限までに、所得税を納付します。

納付方法は、e-Taxからの電子納税、クレジットカード納付、振替納税、金融機関やコンビニでの窓口納付などがあります。

参考:所得税の確定申告|国税庁

個人事業主から会社を設立する「法人化」とは

最初から法人を設立するケースだけでなく、個人事業主として事業を始めた後に法人を設立する「法人化(法人成り)」を選ぶケースも多くあります。

法人化とは、個人事業主として営んでいた事業を、新たに設立した法人(株式会社や合同会社)に引き継ぐことです。
法人化すると、事業の利益に対して所得税ではなく法人税が課されるようになり、事業主自身は法人から役員報酬を受け取る形になります。
個人事業主は開業のハードルが低い反面、所得が大きくなると税負担が重くなる、社会的信用に限界があるといったデメリットがあることは、ここまで解説したとおりです。

事業が成長してこうしたデメリットが大きくなったタイミングで法人化を検討するのが、一般的な流れです。

参考:法人化とは?個人事業主が知っておくべき基礎知識を税理士が解説

法人化を検討すべきタイミング

法人化に適したタイミングは、事業内容や経費の状況、家族構成などによって異なるため、「年収◯◯万円を超えたら必ず法人化すべき」とは一概にいえません。

ただし、一般的には以下のような状況が、法人化を具体的に検討するシグナルとされています。

  • 事業の課税所得が継続的に増え、年間500万円以上となった
  • 課税売上高が1,000万円を超え、消費税の納税義務が発生する段階に入った
  • 従業員を雇いたい、金融機関からの融資を受けたいなど、事業拡大のフェーズに入った
  • 取引先から法人であることを求められた

一方で、法人化には社会保険料の負担増、法人住民税の均等割(赤字でも最低約7万円)、経理・法人決算の事務負担といったコストも発生します。

「自分の場合は法人化したほうが有利なのか」を正確に判断するには、税金だけでなく社会保険料や法人の維持コストも含めた総合的なシミュレーションが欠かせません。
判断に迷った場合は、現在の所得や事業の将来計画をもとに、税理士に相談することをおすすめします。

法人化のタイミングを判断するための具体的な基準は、こちらの記事でより詳しく解説しています。

まとめ:起業について悩みがあれば税理士に相談しよう

個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営む人のことです。
開業届を税務署に提出するだけで、費用をかけずに事業を始められます。

個人事業主として事業を始めるにあたっては、開業届や青色申告の手続きだけでなく、税金や社会保険、将来の法人化など、判断すべきことが多くあります。

特に、税金や社会保険の負担がどの程度になるかは事業の内容や所得の水準によって異なるため、一般的な情報だけでは判断しきれない部分も少なくありません。
起業の進め方や税務について不安や疑問がある方は、税理士への相談を検討してみてください。
事業の状況に合わせた具体的なアドバイスを受けることで、安心して事業のスタートを切ることができます。

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