最終更新日:2025/10/27
合同会社と個人事業主の6の違いとは?税金上のメリットや起業すべき人を解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

働き方改革が進むなかで、本業だけではなく副業を行う人も増えてきました。
なんとなく始めた副業が思ったよりも順調に成長し、大きな利益を生んだり、運営が楽しく感じられるようになった人もいるでしょう。
そうした場合は、思い切って個人事業主の開業や合同会社の設立を考えてみるべきです。特に合同会社を設立した場合は、単なる副業として行うよりも、さまざまなメリットを得られます。
この記事では、合同会社と個人事業主の違いについて解説します。
それぞれの特徴やメリット・デメリットはもちろん、「合同会社と個人事業主は兼任できるのか」など、よく疑問を持たれるポイントも解説しています。起業や開業を考えている人はぜひ一度目を通してください。


目次
合同会社と個人事業主とは?
合同会社と個人事業主の違いについて解説する前に、それぞれの概要について把握しておきましょう。
合同会社
合同会社とは、2006年5月に施行された新会社法によって設立可能となった、比較的新しい会社形態です。
株式会社のように株式の発行で外部からの出資は受けられず、合同会社では経営者自身が出資を行います。
また、設立費用が安く、決算の公告義務がない点や、株主が存在しないため経営の自由度が比較的高い点などから、スモールビジネスでの起業に向いた会社形態といえます。
株式会社よりも知名度はありませんが、設立数は年々増加傾向にあり、2023年時点では新設法人全体の26.5%が合同会社となっています。
合同会社については、以下の記事でより詳しく解説しています。
個人事業主
個人事業主とは、継続的に独立して事業を行っている、法人(株式会社や合同会社など)ではない個人のことです。
合同会社と個人事業主の6つの違い・メリットとデメリット

事業を始める、あるいは事業の形態を変えようと思ったとき、合同会社と個人事業主のどちらにするべきかを判断するためには、双方の違いについて理解しておかなくてはいけません。
合同会社と個人事業主の6つの大きな違いを、それぞれのメリットとデメリットとして詳しく解説します。
開業にかかるコストの違い
個人事業主は、開業にコストはかかりません。開業届を税務署に提出するだけで開業が可能です。
一方で合同会社は、紙の定款に貼る収入印紙代や登録免許税、法人印の作成費用がかかります。
電子定款を作成するなどすれば、費用を削減できますが、最低でも登録免許税の6万円は必要です。
個人で合同会社を設立する場合のコストは、平均して10万円ほどです。
税金の違い
個人事業主は、所得に対して所得税がかかります。
日本では、所得税について「超過累進課税」という制度が採用されています。
超過累進課税とは、所得が一定額を超えた際に、その金額に対して一定の税率で課税される制度です。
所得税の税率は、以下の表のとおりです。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000~194万9,000円まで | 5% | 0円 |
| 195万~329万9,000円まで | 10% | 9万7,500円 |
| 330万~694万9,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
| 695万~899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
| 900万~1799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
| 1800万~3,999万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
合同会社などの法人には、所得に対して法人税がかかります。
法人税の税率は、原則は以下の表のとおりです。
| 課税される所得金額 | 税率 |
|---|---|
| 年800万円以下の部分 | 15% |
| 年800万円超の部分 | 23.2% |
ただし、資本金が1億円を超える会社は、所得に対し一律で23.2%の税率が適用されます。
また、法人には法人税以外にも、法人住民税や法人事業税、特別法人事業税などがかかります。
これらの税率は、資本金額や年間所得額、法人税額、従業員数、本店のある市区町村ごとによって異なります。

合同会社の税金については、以下の記事でより詳しく解説しています。
社会保険の違い
個人事業主は、社会保険には加入できません(製造業や小売業、サービス業などの適用業種で常時5人以上の従業員を雇用する場合を除く)。
一般に、社会保険は、健康保険・厚生年金保険のことを指します。
個人事業主はこれらの社会保険に代わって、国民健康保険や国民年金に加入することになります。
負担額としては安くなりますが、そのぶん得られる補償の額や範囲などは、社会保険のほうが手厚くなっています。
一方、合同会社は従業員が自分一人でも、社会保険への加入が義務付けられています。
社会保険料は給与額に応じて決まり、事業主と従業員が折半して支払います。
しかし合同会社を一人で設立した場合は、半分を自分が設立した会社から、もう半分を従業員である自分が支払うため、結果的には全額を負担することになります。
会社負担分は経費に計上できますが、それなりに大きな額が社会保険料となってしまう点は把握しておきましょう。
節税の選択肢の違い
個人事業主は、確定申告を青色申告で行うことで、最大65万円までの所得控除や赤字の3年間の繰越控除、30万円未満の減価償却資産を一括で経費にできるなどの特例を受けられます。
また、事業に必要なコストや、「小規模企業共済」「経営セーフティ共済」などの掛金も、所得控除として所得から差し引くことができます。
一方で合同会社などの法人には、役員報酬の給与所得控除や事業年度の調整、出張日当の支給など、個人事業主にはできないさまざまな節税方法があります。
また、経費にできる範囲も個人事業主より広くなり、より強力な節税に取り組むことができます。
これらを組み合わせることで、年間で数十万、数百万の節税になることも珍しくありません。
ただし税金に関する専門知識と、会社運営の知識の両方がないと、結局うまく節税できなかったり、事業に差し障りが出てしまうこともあります。
最悪の場合、税務署から脱税と判断されて高額な重加算税を支払うことにもなりかねません。
節税のために合同会社を設立する際は、専門家である税理士に相談しましょう。
経理・事務作業の違い
合同会社と個人事業主で、経理の仕方などはそこまで変わりません。
どちらも白色申告と青色申告を選ぶことができます。
しかし、合同会社が取れる節税対策は経理とワンセットです。
法人税と、役員報酬などにかかる所得税の両方を扱わなくてはいけませんし、社会保険関係の事務作業も必要になります。
個人事業主のなかには確定申告などの経理、事務作業を自分で行う人も多いですが、合同会社の経営者の多くは、経理を税理士に依頼しています。
社会的信用・できることの違い
合同会社は、本名や住所、資本金などの情報が登記簿に登録されることから、個人事業主と比べて社会的信用を得やすいです。
具体的には、銀行での口座開設や融資の審査に加え、クレジットカードの審査なども、役員報酬がしっかり払われているのであれば個人事業主よりも通りやすくなります。
従業員を雇用する場合も、個人事業主よりも合同会社のほうが求職者からの印象が良くなるでしょう。
また、法人でないとそもそも申し込めないBtoBサービスや契約もあります。
自分が営んでいる事業をより安定させたい、拡大していきたいという場合には、個人事業主よりも合同会社のほうが有利に働くでしょう。

合同会社を設立すべきケースとは?
新しく事業を始める、あるいはすでに個人事業主として開業している人が、合同会社を設立したほうがいいケースについて解説します。
個人事業主と合同会社のどちらで行くべきか迷っている人は、参考にしてみてください。
合同会社の具体的な設立方法については、以下の記事を確認してください。
年間で個人事業の所得が500万~700万円ほどあるとき
個人事業主、あるいはフリーランスで取り組んでいる事業の所得が500万円を超えると、会社を設立することで節税できる可能性が高いです。
節税できるのか、どれくらい得になるのかは、事業の形態や年間経費などで変わってくるのですが、およそ年間の所得が500万~700万円になったときが、法人化を検討するタイミングです。
「収入」と「所得」の違い
収入とは、会社から支払われる給与や報酬、あるいは事業による売上の全額を指します。
その収入から必要経費などを引いた金額が、所得です。
そのため、所得は収入よりも必ず小さい額になります。
この2つはしばしば混同して用いられるため、注意してください。
事業を拡大したいとき
営んでいる事業をより拡大したいとき、特に大企業などと取引をしたい場合などには、個人事業主だと難しいかもしれません。
大きな企業では、取引を行う際に与信調査を行うことがよくあります。実績や実情を外部から把握しにくい個人事業主は、コンプライアンス的にふさわしくないとして取引を断られることが少なくありません。
先述したように、法人でないと利用できないサービスや契約も数多くあります。
より大きな利益を求めるのであれば、設立や運営にかかるコストを差し引いても、合同会社を設立するメリットは大きいでしょう。
個人事業主の開業や合同会社を設立するときのよくある質問
個人事業主や合同会社を始めるときによくある質問をまとめて解説します。
合同会社と個人事業主を兼任できないか
それぞれ別の事業を営むのであれば、合同会社の代表社員などと個人事業主を兼任することは可能です。
たとえば個人事業でITサービスを、合同会社では小売業を運営する場合などは、特に問題はありません。
しかし、同一の事業を営んだ場合は、税務署から「意図的に所得を分散させている」とみなされ、追徴課税を課される可能性があります。
合同会社と個人事業主の兼任は、税の申告業務をそれぞれで行わなくてはならないというデメリットもあります。
兼任を考えている人は、一度税理士などに相談し、本当に適切かどうかを判断しましょう。
合同会社は売上が0円でも税金がかかるのか
合同会社は、年間の売上が0円だったとしても法人住民税の均等割は納めなくてはいけません。
法人住民税の均等割とは、法人の資本金や従業員数に応じて課される税です。
これは法人の売上に関わらず納める必要があります。
法人住民税の均等割の比率は自治体によって異なりますが、たとえば東京都では、資本金1,000万円、従業員50人以下の法人には年間7万円が法人住民税の均等割として課されます。
また、固定資産税や償却資産税も、合同会社の売上が0円だったとしても納付義務が発生します。
合同会社を設立する際には、赤字でも発生するこれらの税金にも注意しましょう。
合同会社や個人事業主はいくらまでなら経費にできるのか
合同会社などの法人であろうと個人事業主であろうと、経費に上限はありません。事業に関連する費用はすべて経費に計上できます。
ただし、経費にできる範囲は合同会社と個人事業主で異なります。
たとえば家賃は、合同会社であれば社宅扱いにすることで5~7割ほどを経費にできますが、個人事業主の場合は一般に2~3割ほどしか経費にできません。
合同会社から個人事業主に戻ることもできるのか
合同会社を解散・清算してから改めて開業届を出せば、個人事業主に戻れます。
また、その場合は開業から1~2期目が改めて消費税の免税期間になります。
ただし、合同会社の解散や清算には、解散登記や清算結了登記、債権者保護手続き、清算結了申告などさまざまな手続きが必要になります。
合同会社を設立したり個人事業主になると会社にバレるのか
会社に勤めながら、副業として合同会社を設立したり個人事業主となった場合、収入が増えることで住民税も増額します。
多くの会社員は毎月の給料から住民税を会社が天引きして納付しています。
5~6月ごろに会社に届く「特別徴収税額決定通知」で、住民税額が前年より大幅にアップしていると、「本業以外に収入源がある」ということが会社にバレてしまいます。
対策としては、副業分の住民税を自分で納付する方法があります。
確定申告書の第二表に記載されている「住民税に関する事項」で「自分で納付(普通徴収)」を選択すると、納付書が送られてくるので、期日内に納付しましょう。
こうすることで、本業の会社側の住民税額はそれまでどおりとなるので、会社設立や開業がバレることはありません。
ただし、近年は多くの自治体で、個人住民税の特別徴収が徹底されています。
自治体によっては普通徴収に切り替えられないこともあるので、注意してください。

合同会社の設立は社会保険の按分措置でバレる可能性もある
合同会社を設立した場合は、社会保険の額面が減ることもあります。
社会保険は、たとえ社長しか従業員がいない一人会社であっても加入が義務づけられています。
そのため、副業で会社を設立した場合、本業の会社と設立した会社の2カ所で社会保険に加入することになります。
その際、社会保険料はそれぞれの法人で按分する(割合に応じて分ける)措置が取られ、その明細書が勤め先に届きます。
家族に事業を任せる選択肢もある
家族やパートナーがいる場合は、事業を任せることも検討してみましょう。
自分はあくまでサポートに回るという形であれば、雇用契約には当たらないので、住民税や社会保険料が変わることもありません。
一人会社にも労働基準法は適用されるのか
労働基準法は従業員に適用される法律なので、一人会社の社長には適用されません。
設立した合同会社をもっと発展させたい、もっと稼ぎたいという場合は、自分の体力が許す限り働くことができます。
なお、個人事業主の場合でも、従業員を雇ったときは労働基準法に則り、長時間労働などをさせないよう管理する必要があります。
この記事のまとめ
合同会社と個人事業主には、設立のコストや課される税金、節税できる範囲などさまざまな違いがあります。
事業をより大きくしたい場合や所得が高額になる場合は、経理などの手間が増えるとしても、合同会社などの法人を設立することで大きな金銭的メリットを得られます。
合同会社の設立と個人事業主の開業のどちらを選ぶべきかは、事業者ごとの都合や事情を考慮したうえで慎重に判断しましょう。
合同会社と個人事業主のどちらを選ぶべきか迷ったら税理士や司法書士に相談しよう
合同会社はさまざまな節税を行えますが、具体的にどのように節税を行えばいいのかについては専門的な知識が必要です。
また、設立に関しても株式会社よりは手順が少ないものの、定款の作成や法務局での商業登記、税務署への法人設立届出書の提出など、やるべき作業は数多くあります。
個人事業主であっても、経費にできる範囲や確定申告のやり方など、経理についての知識がないと思わぬ損失を被ることもあるでしょう。
合同会社を設立したい、あるいは個人事業主としての経理や事務作業に不安がある方は、一度税理士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
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