最終更新日:2025/9/30
法人の本店移転時の異動届出書の書き方とは?登記との違いや提出先などを解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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本店移転をした際には登記変更を行いますが、それ以外にも多くの手続きが必要になります。
税務署や年金事務所、ハローワークなど、関係する機関もさまざまです。
それぞれに提出する書類や期限は違いますが、そのなかでも異動届出書は3カ所への提出が必要です。
この記事では、異動届の書き方や提出先について詳しく解説します。
また、異動届以外の書類の種類や提出期限、よくある質問についても回答しているので、本店移転を行う予定のある方はぜひ一度目を通してください。
目次
異動届(異動届出書)とは?
異動届とは、法人を設立した際に、税務署や都道府県税事務所、市町村役場などに提出した「法人設立届出書」の内容に変更(異動)があった場合に提出する書類です。
法人の変更内容を税務署などに知らせるための書類なので、個人事業主は提出の対象外です。
法務局で行う「登記」とは別の手続きで使う書類
本店移転などをした際には、法務局での登記変更も行いますが、これらは「税務署などへの異動届の提出」とはまったく別の手続きです。
都道府県税事務所などへの異動届の提出では、登記簿謄本(登記事項証明書)の添付を求められることもあります。
そのため、基本的には登記変更を行ったあとに、異動届を各所に提出します。
会社の本店移転をした際の登記変更手続きについては、以下の記事でより詳しく解説しています。
異動届は本店移転以外でも提出する
「異動届出書」という名前から、異動届は本店移転の際にのみ提出する書類と誤解されることもあります。しかし実際は、さまざまな場面で提出しなければならない書類です。
異動届の提出が必要になる主な場面は、以下のとおりです。
- 本店所在地の異動(本店移転)
- 資本金の額の異動
- 事業年度の変更
- 商号または名称の変更
- 代表者の変更
- 事業目的の変更
- 支店・工場などの異動
- 株式会社と合同会社の区分変更
- 法人の合併
- 法人の分割による事業の譲渡や譲り受け
- 法人の解散
異動届の提出先と提出期限
異動届は、法人設立届出書の訂正のための書類なので、提出先も法人設立届出書を出した機関になります。
具体的には税務署と都道府県税事務所、市区町村役場です。
それぞれの提出期限に明確な規定はなく、「異動等後速やかに」提出するように定められています。
本店移転は異動届の提出以外にも手続きが必要
本店移転を行ったときには、異動届以外にも提出しなければならない書類があります。
下表は、主な提出機関と必要書類、提出期限、提出先の管轄をまとめたものです。
提出機関 | 必要書類 | 提出期限 | 提出先の管轄 |
---|---|---|---|
税務署 | ・異動届出書 ・給与支払事務所等の開設移転廃止届出書 |
移転後速やかに ※開設移転廃止届出書は異動等から1カ月以内 |
移転前の管轄 |
都道府県税事務所 | ・異動届出書 | 移転後速やかに | 移転後の管轄 |
市区町村役場 | ・異動届出書 ・特別徴収義務者の所在地・名称変更届出書(従業員を雇用している場合) |
移転後速やかに | 移転後の管轄 |
年金事務所 (社会保険事務所) |
・健康保険・厚生年金適用事務所名称所在地変更届 | 移転後5日以内 | 移転前の管轄 |
労働基準監督署 | ・労働保険名称・所在地等変更届 | 移転後10日以内 | 移転後の管轄 |
ハローワーク(公共職業安定所) | ・雇用保険事業主事業所各種変更届 | 移転後10日以内 | 移転後の管轄 |
これらの届出書の添付書類として、多くの提出先で「登記簿謄本」が求められます。
税務署では基本的に添付は不要とされていますが、異動事項の内容確認のため、定款等の写しを確認する場合もあります。
念のため登記簿謄本や定款の写しを用意しておきましょう。
なお、上記に加えて、地域によっては「法人・事務所等異動届」などの書類が必要になることもあります。
また、新たに事務所や事業所を開設した場合は、「法人設立・事務所等開設申告書」なども必要になります。
あらかじめ提出先の機関に連絡を取り、必要な書類について尋ねておきましょう。
その際、移転前と移転後のどちらの住所を管轄する機関に提出すべきかも確認しておくとよいです。
書類は基本的に異動「後」の管轄に提出するが、税務署と年金事務所は異動「前」の管轄に出す
都道府県税事務所や市区町村役場への異動届などは「異動後の所在地を管轄する自治体」に提出します。
一方、税務署と年金事務所への届出書類は「異動前の所在地を管轄する税務署」に出します。
税務署については、以前は異動前と異動後の税務署の両方に提出しなければならなかったのですが、2017年4月からワンストップ化が行われ、異動後の税務署への提出が不要になりました。
参考:法人設立届出書等について、手続が簡素化されました|国税庁
本店移転時の異動届の書き方
本店移転をした際の異動届の書き方を、実際の画像を元に解説します。
画像は、国税庁が公開している異動届のフォーマットに、本店移転をしたと仮定して一部記入したものです。
「異動事項等」「異動前」「異動後」「異動年月日(登記年月日)」「所属税事務所、納税地等を変更した場合」の欄のみ、サンプル情報を記入しています。
実際の提出の際は、これらの欄より上の部分も、移転後の情報を参照して記入しましょう。
また異動届は、地域によってフォーマットが異なることもあります。
事業所を管轄する機関のWebサイトから、適切なフォーマットを確認しておきましょう。
他の記入欄のうち「法人番号」は、不明なら空欄でも大丈夫です。
「提出区分」は、グループ通算制度を利用している法人が記入する欄です。利用していない場合は、空欄で問題ありません。
表題の「異動届出書」の下にある「法人税・消費税」のチェックボックスは見落としがちですが、「法人税」のほうには必ずチェックを入れておきましょう。
「消費税」のチェックボックスは、免税事業者でインボイス未登録、かつ消費税関連の変更を行わない場合はチェックが不要になります。
しかし、仮にチェックを入れたとしても、それが原因で書類が受理されないといったことは通常ありません。
判断が難しい場合は、とりあえず両方にチェックを入れてしまいましょう。


ややこしく見えますが、提出の際は空白が多くても大丈夫です。ただし連絡先となる電話番号は、必ず書いておきましょう。
本店移転時の異動届の書き方についてよくある質問
本店移転の際の異動届の書き方や、提出の際によくある質問をまとめました。
登記変更の反映が異動届の提出期限に間に合わない
異動届の提出で登記簿謄本を求められたが、登記変更の反映がまだ終わっていない場合、以前の記載のままの登記簿謄本を提出することはできません。
そうしたときは、基本的に「変更した内容を確認、証明できる書類」を提出すれば大丈夫です。
変更内容を確認できる書類としては、本店移転の場合、受付印のある登記申請書、移転に関する決議をした取締役会や株主総会の議事録、総社員の同意書などが当てはまります。
念のため、提出先に確認を取っておけばより確実です。
また、仮にこれらの書類が用意できなかったとしても、提出先に説明したり、「登記完了待ち・証明書は後日提出予定」と一筆添えて提出すれば、多くの場合で異動届を受理してくれます。
特に、年金事務所への「健康保険・厚生年金適用事業所名称/所在地変更(訂正)届」などは、提出期限が5日しかありません。
現実的に考えると、そもそも変更後の登記簿謄本を期限内に提出することは不可能です。
そのため、他の書類での代用や、多少の遅れは許容される傾向があります。
書類の提出期日の「速やかに」とは具体的にいつなのか
基本的に、約1カ月以内に手続きを行えば問題ないでしょう。
ただし、税務署の場合は確定申告の期限前には手続きをするべきなど、タイミングによって期日が前後することもあります。
書類の作成と提出はあまり後回しにせず、早めに済ませましょう。
書類の提出期限を超えてしまうとどうなるのか
書類の提出期限を超えてしまったとしても、直ちに罰金などが発生することはありません。
ただし、本店の移転情報が税務署などに届いていない場合、そこから送られてくる郵便物などが新しい本店所在地に届かないことになります。
その場合、納付書などの重要書類が受け取れないため、申告漏れや税金の滞納につながり、将来的に大きな追徴課税などが発生するリスクがあります。
また、異動届とは別ですが、本店移転による変更登記を怠った場合、会社法違反となり代表者個人に100万円以下の過料(行政上の義務違反に対する金銭的な制裁)が科される可能性があります。
書類の提出は、可能な限り速やかに行いましょう。
添付書類の登記簿謄本はコピーでもいいのか
添付書類の登記簿謄本については、余白に代表者印の押印がある、「原本と相違ないことを証明します」と記した原本証明付きのコピーであれば、ほとんどのケースでコピーで問題ありません。
登記簿謄本はあくまで異動の内容の確認に使用するものであり、提出先の機関で管理や保管するものではないためです。
実際に年金事務所などは、管轄外への移転であっても、添付書類の登記簿謄本はコピーで構わないとしています。
参考:適用事業所の名称・所在地を変更するとき(管轄外の場合)の手続き|日本年金機構
この記事のまとめ
会社の本店を移転した際は、税務署と都道府県税事務所、市町村役場に異動届を提出します。
異動届は本店移転以外でも、事業年度の変更や資本金の額の異動など、さまざまな場面で提出しなければいけない書類です。
提出期限は特に定められていませんが、可能な限り早めに提出しましょう。
書類の項目はすべて埋める必要はありません。異動届は、会社の基本情報と異動の内容が把握できれば、問題なく受理されやすい書類です。
ただし修正があった場合の連絡先として、電話番号は必ず書いておきましょう。
本店移転時の異動届の書き方で悩んだら税理士や司法書士に相談しよう
異動届は提出先が多く、期限も「異動等後速やかに」としか規定がありません。
本店移転の際には、法務局での変更登記や年金事務所への届出など、期限の短い手続きを優先するあまり、ついつい後回しにしがちです。
しかし異動届の提出を怠ると、新しい本店所在地に重要な書類が届かず、思わぬ損害が発生することもあります。
複数箇所に届出を出さないといけない手続きだからこそ、しっかりとスケジュールを立てて臨まなくてはいけません。
本店移転時の異動届や、その他の書類の書き方や提出について悩んだときは、税理士や司法書士などの専門家に相談してみましょう。
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