最終更新日:2025/12/24
低リスクで起業・開業する方法とは?お金・仕事・家族を守る起業リスク設計

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-mori
YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

「起業したいけれど、失敗して借金を背負うのが怖い」
「家族がいるので、今の生活水準を落とすようなリスクは取れない」
こうした不安から、起業を思いとどまってしまう人は数多くいます。
実際の起業でも、将来的な成功を見据えて計画を立てる一方で、万が一失敗したときのことを考え、低リスクで起業する視点も重要になります。
低リスクでの起業とは、単に始めやすいビジネスを選ぶことではなく、自分の資金や環境に合わせて、「これなら最悪のケースでも再起できる」という安全圏を計算してからスタートすることです。
この記事では、数多くの起業家を支援してきた税理士法人の視点から、お金と生活を守るために知っておくべき「起業リスク設計の具体的な手順」を解説します。


目次
そもそも「起業のリスク」とは何か?
起業のリスクと聞くと、一般的には「赤字」や「借金」などが想像されがちです。
しかし実際には、資金繰りや収入のリスクに加え、起業家自身のキャリアや家族の生活、健康といった生活面など、複数のリスクを考慮しなければいけません。
大まかに起業のリスクを分類すると、以下の6つのカテゴリに分けられます。
- お金のリスク
- 市場・ビジネスモデルのリスク
- 人・パートナー・組織のリスク
- 家族・健康・メンタルのリスク
- 法務・コンプライアンスのリスク
- 税金・社会保険・会社設立でのリスク
これらのリスクの詳しい内容については、別記事でまとめています。
起業を検討している段階で、自分がどのリスクをどの程度取れるのかを整理したいときは、先にこちらの記事も確認してみてください。
低リスクで起業するための4つのチェックポイント
低リスクな起業を実現するためには、以下の4つの視点から事業を考える必要があります。
- 初期投資はいくらまでに抑えるべきかを考える
- 固定費を可能な限り削る
- 売上の安定性・分散度を高める
- 撤退ラインを事前に決める
この4つの視点は、どんな業種を選ぶにしても考慮しておくべきポイントです。
それぞれについて詳しく解説します。
その1:初期投資はいくらまでに抑えるべきかを考える
初期投資は、一度決めてしまうとあとから変更しにくく、かつ高額になりやすい支出です。
低リスク起業を目指すなら、手元資金の何割までを初期投資に使うかを、数字であらかじめ決めておきましょう。
初期投資額の目安は個々のビジネスモデルや考え方によって異なりますが、一般的には「生活費の半年分を現預金として残し、余剰資金の範囲内でスタートする」というスタイルが1つの目安となります。
最初に予算を決めることで、物件の内見や見積もりの場面でも、感情に流されず冷静に判断できるようになります。

よりリアルな金額を知るためには、同じ業種の先輩経営者などに話を聞けないか打診してみましょう。
その2:固定費を可能な限り削る
家賃や人件費などの毎月必ず発生する固定費は、起業後の資金繰りを悪化させる大きな要因の1つです。
固定費は売上の増減に関わらず支払う必要があるため、一度増やしてしまうと、事業が悪化した際に経営を立て直す足かせとなります 。
起業段階で固定費を可能な限り削っておかないと、事業が悪化したときの対応が難しくなります。
具体的には、最初の1年はオフィスを借りずに自宅やシェアオフィスを利用する、従業員を雇う代わりに必要な業務だけを外部へ委託するといった方法が有効です 。
ソフトウェアについても、高額な買い切り型ではなく、月額数千円でいつでも解約できるクラウドサービスを選べば、無駄な出費を防げます 。
このように、売上の減少に合わせて支出も減らせる構造にしておけば、仮に事業が一時的に停滞しても、資金ショートによる倒産リスクを大きく下げることができます 。
その3:売上の安定性・分散度を高める
低リスク起業では、一時の売上の多さだけでなく「安定的に予測しやすい収入があるか」という視点も重要になります。
仮に単発の案件が集中して月50万円稼げたとしても、翌月の売上がゼロになるようでは、精神的にも資金的にも安定しません。
理想的なのは、毎月定額が入る「顧問契約」や「保守管理費」などのストック型収入を持つことです。
毎月の固定費をストック収入だけで賄えるようになれば、経営の安全性は劇的に高まります。

しかし定期検診や消耗品の定期配送などを、会員限定のサービスとして付け加えることで、ストック型収入を追加で計上することができます。
「自分のビジネスだとストック型は難しいな…」と感じる方も、他業種をヒントにしてみると定期収入を得られるアイデアが見つかるかもしれません。
また、取引先を分散させるという視点も、リスクを考えるうえでは外せません。
全体の売上の大半を1社からの取引に依存していると、その取引が終了したときに事業全体が一気に傾きます。
1つの取引先が占める売上構成比を3割前後までに抑え、少なくとも3社から4社以上と継続的な取引がある状態を目指すと、そのうちの1社との取引が停止したとしても、影響を和らげることができます。
その4:撤退ラインを事前に決める
低リスク起業では、失敗したときの撤退ラインを決めておくことが重要です。
撤退ラインが曖昧だと、事業がうまく行かないときに「もう少し頑張れば損失を取り戻せる」と考え、追加で資金を注ぎ込み続けてしまいがちです。
一時的なキャッシュフローの悪化であれば問題ありませんが、改善の見込みがないまま多額の資金を投入し続けてしまうと、最終的に大きな負債を背負うことになってしまいます。
そうならないためにも「月商30万円を3カ月連続で達成できなければ事業の継続形態を見直す」「半年経っても利益が月10万円を超えない場合は撤退を検討する」といった具体的な撤退ラインを、起業する際に設定しておきましょう。
撤退ラインの決め方は人それぞれですが、事業収益や働き方の負荷、家族の同意といった観点から、自分なりの条件を紙に書き出しておくと、判断しやすくなります。
「何があれば続けてよいのか」「どの状態になったら撤退するのか」を明確に定め、それを厳守することを心がけましょう。

多くの経営者は「あと少しだけ」という思いから採算の取れない事業を続けてしまいがちです。
不退転の思いで起業することは大事ですが、傷が浅いうちに撤退すれば再チャレンジもできることを頭の片隅にいれておいてください。
低リスクで起業するための3つの進め方
低リスクで起業するためには、さきほどの4つのチェックポイントで「どこまでリスクを取れるか」を整理したうえで、その許容範囲の中に収まる始め方を選ぶことが重要です。
ここからは、リスクを抑えるための具体的な進め方を、以下の3つのパターンに分けて整理します。
- 本業を続けながら副業として始める
- 自宅やオンラインを活用して固定費をほぼゼロにする
- 売上の安定性・分散度を高める
- 小さく始めてから、創業融資・法人化で拡大する
自分の状況に近い順にイメージしながら読み進めてみてください。
パターン1:本業を続けながら副業として始める(収入を守る戦略)
最もリスクを抑えやすいのは、会社員としての給与を維持したまま、副業として事業を立ち上げる方法です。
毎月の生活費は本業の収入で賄えるため、もし事業がうまくいかなくても、生活が破綻することはありません。
まずは副業として小さくテストを行い、売上が安定してきた段階で独立を検討しましょう。
「副業の月収が本業を超えたら独立する」といった基準を持つのも有効です。
副業のアイデアが思い浮かばない場合は、以下の記事などを参考にしてください。
ただし、会社の就業規則で副業が認められているかという点は、着手前にかならず確認しておきましょう。
本業の収入で土台を守りながら、小さく検証を重ねるこの進め方は、家計とキャリアの両方を守りつつ起業の準備を進めたい人にとって、現実的な選択肢になります。
パターン2:自宅やオンラインを活用して固定費をほぼゼロにする(支出を抑える戦略)
事業用の固定費を極限まで削るアプローチも重要です。
オフィスを借りずに自宅を作業場にし、打ち合わせはオンライン会議、集客はSNSや無料ブログを活用すれば、月々のランニングコストを数千円〜数万円に抑えられます。
特に、在庫を持たないビジネス(コンサルティング、デザイン、ライティング、代行業など)であれば、金銭的なリスクはほぼゼロに近づけることができます。
お金をかけずにはじめられる具体的なビジネスについては、以下の記事で詳しく解説しています。
ただし、賃貸住宅で起業する場合は物件の賃貸借契約書を必ず確認してください。
多くの賃貸物件は「居住専用」として契約されており、無断で事務所として使用したり、法人登記の住所として公開したりすると、契約違反となり退去を求められるリスクがあります。
自宅で起業する際の注意点などは、以下の記事で詳しく解説しています。
パターン3:小さく始めてから、創業融資・法人化で拡大する(レバレッジを段階的に使う戦略)
3つ目は、借入れや法人化といったレバレッジを「最初から最大限に使う」のではなく「事業の手応えが見えた段階で必要な分だけ使う」という考え方です。
開業直後は自己資金のみでスモールスタートし、売上の見込みが立ってから、日本政策金融公庫の「創業融資」などを活用して運転資金を確保します。
いきなり多額の借金をして法人を作るのではなく、まずは個人事業主として実績を作り、タイミングを見て法人化することで、リスクをコントロールしながら事業を育てられます。
融資額や法人化のタイミングについては、決算の数字や将来の見通しを踏まえて、金融機関や税理士と相談しながら慎重に決めることが、低リスクで事業を育てるための基本姿勢になります。
低リスク起業で注意したいポイントとは
ビジネス自体が順調でも、税務や資金繰りの知識が不足していると、追徴課税や黒字倒産といった「知識不足による失敗」を招くリスクがあります。
低リスク起業を成功させる最後の仕上げは、こうした「守りの実務」を固めることです。
特に以下の4点は、起業する際に把握しておきたいポイントです。
- 住民税の徴収方法
- 追徴課税
- 黒字倒産
- 社会保険・年金の切り替えタイミング
それぞれについて詳しく解説します。
その1:副業する際に知っておくべき「住民税」の徴収方法
住民税の徴収方法を誤解していると、副業が原因で本業の勤め先に居づらくなるリスクが高まります。
会社員として給与を受け取りながら副業を行う場合、同じ「収入」でも、税務上の扱いが複数に分かれます。
副業の収入が原稿料や講演料などスポットの案件であれば雑所得、継続的に事業として行うのであれば事業所得として扱うのが基本です。
どちらの場合でも、最終的には確定申告で本業の給与所得と合算され、その合計額に応じて所得税と住民税が決まります。
ここで重要なのが、住民税の徴収方法です。
副業の所得を確定申告する際に、住民税の納付方法として普通徴収を選べば、副業分の住民税は自宅あてに届く納付書で自分で支払う形になり、会社に副業分の住民税が通知されません。
一方、何も指定せずに申告すると、前年より住民税額が増えた理由を総務や上司に確認される可能性が高まります。
副業の金額や性質にもよりますが、「どの所得区分になるのか」「住民税をどの方法で納めるのか」を起業・副業のスタート時点で把握しておくことが、余計なトラブルと税負担の増加を避けるための基本になります。

一部の自治体では副業の普通徴収を認めず、本業の給与からまとめて特別徴収する運用を行っています。
不安な方は、あらかじめ市区町村の住民税担当部署へ、電話などで確認しておきましょう。
その2:ずさんな記帳による「追徴課税」を防ぐ
追徴課税は、急な高額出費につながり、資金繰りを一気に悪化させる典型的なリスクです。
起業初年度は、本業との両立や営業、サービス提供で手一杯になり、経理や記帳があと回しになりがちです。
しかし、レシートや請求書をひとまとめにして、確定申告前の数週間でまとめて入力するような運用を続けていると、売上と入金、経費と支出の対応関係が分からなくなり、数字のつじつまが合わない申告書になりやすくなります。
税務署から見ると、売上の計上漏れや、事業と私的な支出の区別があいまいな経費は、否認や追徴課税の対象になりやすいポイントです。
低リスクで起業するのであれば、毎月一度は通帳とクレジットカード明細を確認し、売上と経費を会計ソフトに入力する時間を確保することが重要です。
事業用の銀行口座とクレジットカードを分けておけば、記帳の手間は大きく減り、税務調査の際にもお金の流れを説明しやすくなります。
マネーフォワード クラウド会計のようなクラウド会計ソフトを使えば、銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込めるため、「通帳を見ながら手入力する」作業もかなり減らせます。
日々の入力のハードルが下がるぶん、記帳を先送りせずに済むという意味でも有効です。
参考:会計ソフト・労務管理システムならマネーフォワード クラウド|株式会社マネーフォワード
また、青色申告の承認を受けて適切に帳簿をつけておけば、65万円の控除が受けられるだけでなく、赤字を翌年以降に繰り越すこともでき、万一売上が伸びなかった場合のダメージも軽減できます。
短期的には手間に見えても、日々の記帳と口座の整理は、結果として税務リスクと資金繰りリスクを同時に下げるための投資と考えるべきです。
その3:キャッシュフローを把握して「黒字倒産」を防ぐ
黒字倒産とは、決算書上は利益が出ているにもかかわらず、支払期日に現金が足りなくなる状態を指します。
たとえば、月の売上が100万円あり、利益もしっかり出ているとします。
しかし売上金の入金が、仕入費や外注費の支払いより遅れる設定になっていると、帳簿上は黒字でも、銀行口座の残高が足りずに不渡りを出すリスクが高まります。
低リスク起業においては、利益が出ているかどうかに加え、現金が回っているかを確認する姿勢が重要になります。
具体的には、毎月の期首残高に入金予定を足し、そこから支出予定(家賃・仕入・返済・税金など)を引いた残高推移を、簡単な一覧表として可視化しておきましょう。
こうすることで、数カ月先の「資金が減るタイミング」が事前に見えてきます。
もし掛取引での取引先が多い場合は、以下の対策を検討してください。
- 前受金・着手金をもらう
- 仕入費や外注費の支払期限を遅らせられないか交渉する
- 運転資金の3カ月分ほどを常に口座に残しておく
数字を見ないまま「利益が出ているから大丈夫」と感覚で判断すると、広告費や採用費を増やしすぎてしまい、結果として資金ショートを招くことがあります。
月次で資金繰り表を更新し、キャッシュフロー(現金の流れ)をチェックする習慣を持つことが、黒字倒産を防ぐための基本かつ最大の予防策になります。
その4:社会保険・年金の切り替えタイミングを押さえる
会社員を辞めて独立すると、健康保険と年金の制度が大きく変わります。
退職後に個人事業主としてスタートする場合、原則として国民健康保険と国民年金に加入します。
ここで注意が必要なのは、国民健康保険料は「前年の所得」に基づいて計算される点です。
会社員時代の給与所得が高いと、独立初年度でも保険料が月額3万〜4万円(年間数十万円)になるケースも珍しくなく、生活費を圧迫する原因になります。
一方で、法人を設立して役員報酬を受け取る場合は、健康保険と厚生年金への加入義務が生じます。
将来の年金受給額が増えるメリットはありますが、会社負担分と個人負担分を合わせたトータルの社会保険料は高くなる傾向があり、キャッシュフローへの影響は無視できません。
低リスク起業を実現するためには、以下の選択肢から、自分にとって負担の少ないルートを事前にシミュレーションしておくことが不可欠です。
- 任意継続:退職後、会社の健康保険を継続する(最長2年。保険料は全額自己負担)
- 国民健康保険:扶養家族の有無や所得に応じて、任意継続と比較して安い方を選ぶ
- 法人化(社会保険):売上が安定してから法人化し、厚生年金に加入する
「売上や利益」だけでなく、こうした社会保険・年金の負担も含めて最終的に手元にいくら残るのかを把握したうえで、独立や法人化のタイミングを決めることが、生活面のリスクを抑える重要なポイントです。
この記事のまとめ:低リスクでの起業の全体像
起業を低リスクで進めるためには、まず「どこまでならリスクを取っても生活を守れるか」をあらかじめ設計しておくことが不可欠です。
漠然とした不安も、資金繰り、収入の安定性、家計やメンタルといった側面に分解すれば、具体的な対策が立てやすくなります。
そのうえでの基本戦略は、初期投資と固定費を極限まで抑え、本業を続けながら副業としてスタートさせることです。
創業融資や法人化でレバレッジをかけるのは、事業の手応えを確認してからでも遅くありません。
また、家計と貯金から「耐えられる赤字期間」を計算し、投下する自己資金の上限や撤退ラインを「数値」で決めておくことも、冷静な判断を保つために重要です。
さらに、副業の所得区分や住民税の扱い、日々の記帳、社会保険の切り替えといった「守りの実務」も忘れてはいけません。
これらを軽視すると、あとから追徴課税や資金ショートといったトラブルを招く原因になります。
もし具体的な金額や制度の適用について不安があれば、早い段階で起業に詳しい税理士などの専門家に相談し、自分の状況に合った「無理のない起業プラン」を作成することをおすすめします。
起業について悩みや不安があれば税理士や司法書士に相談しよう
低リスクでの起業を目指していても、実際の会社設立手続きや創業融資の申請、税務の判断など、専門的な知識が求められる場面は数多くあります。
自分ひとりの知識だけで判断して進めた結果、本来使えるはずの助成金を逃してしまったり、知らずに不利な税制を選択してしまったりすることは珍しくありません。
「自分の計画に落とし穴はないか」「もっとリスクを下げる方法はないか」と少しでも不安を感じたら、早い段階で起業支援に強い税理士や司法書士に相談することをおすすめします。
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