最終更新日:2026/8/5
個人事業主と法人の12の違い|選び方や注意点を税理士がわかりやすく解説

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
【公式】ベンチャーサポートグループチャンネルを運営。
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書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック

日本で起業する場合、主に個人事業主と法人の2つの選択肢があります。
これから開業するにあたってどちらで始めるか決めかねている方も、売上が伸びてきて法人化を迷い始めた個人事業主の方も、まず「個人事業主と法人の違い」を理解しておく必要があります。
個人事業主と法人の違いは、税金や社会保険、経費の範囲から、開業・廃業のしやすさ、万一のときの責任の範囲まで、事業運営のあらゆる場面に及びます。
この記事では、両者の違いを12項目で比較したうえで、それぞれの違いが損得にどう影響するのかを解説します。


目次
個人事業主と法人の根本的な違い|事業の主体が個人か組織か

個人事業主と法人の最も大きな違いは「事業の主体が誰か」です。
個人事業主は、起業家自身が事業の主体ですが、法人は「会社」が事業の主体になります。
この原則を押さえておくと、以降に解説する12の違いがなぜ生じるのかを理解しやすくなります。
個人事業主:個人のまま事業を行う
個人事業主とは、法人を設立せず、個人のまま事業を営む人のことです。
事業を開始した場合は、税務上の手続きとして税務署へ開業届を提出します。
事業の主体はあくまで個人であるため、事業で得た利益も、生じた借金も、すべて起業家個人に直接帰属します。
なお、個人事業主と似た言葉に「フリーランス」や「自営業」があります。
フリーランスは本来は組織に雇われない働き方を指す言葉であり、自営業はさらに広い俗称で、法人化して事業を営む人を含めて使われることもあります。
法人:経営者と別の人格で扱われる組織
法人とは、法律によって人と同じように権利や義務を持つことを認められた組織のことです。
株式会社や合同会社などが法人に当たります。
法人を設立すると、事業の主体は経営者個人ではなく会社になります。
法人が事業で得た売上や財産は会社に帰属し、契約も会社の名義で結びます。
経営者は会社から役員報酬という給与を受け取る形になり、経営者であっても会社の資金を自由に使うことはできません。
この、事業とお金の関係が個人事業主とは根本から変わるという点は、税金や経費の違いを理解するうえでも重要な前提となります。
【比較表】個人事業主と法人の12の違い

個人事業主と法人の違いを、一覧表にまとめました。
主にこれら12の違いが、実務上で重要になります。
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 1.税金 | 所得税(5〜45%の累進課税)・住民税・個人事業税 | 法人税(中小法人は15〜23.2%)・地方法人税・法人住民税・法人事業税。赤字でも年約7万円の負担あり |
| 2.社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金(役員1人でも加入義務) |
| 3.経費の範囲 | 事業に関連する支出 | 事業に関連する支出に加え、役員報酬・役員退職金なども計上可能 |
| 4.消費税 | 基準期間の課税売上高1,000万円超で納税義務 | 同左。条件を満たせば設立後最大2年間免税。資本金、特定期間、インボイス登録などにより設立当初から課税される場合がある |
| 5.開業の手続き・費用 | 原則は開業届の提出のみ。届出自体に手数料はかからない | 定款作成・登記が必要。設立費用は株式会社約24万円、合同会社約11万円 |
| 6.廃業の手続き・費用 | 税務署などへの届出が中心。状況に応じて消費税や地方税などの届出も必要 | 解散・清算の登記手続きと費用が必要 |
| 7.社会的信用 | 法人と比べると低い | 高い。法人としか取引しない企業もある |
| 8.資金調達 | 融資・補助金が中心 | 融資に加え、出資の受け入れも可能 |
| 9.会計・経理 | 比較的簡単。自力での確定申告も一般的 | 決算が非常に複雑。税理士に依頼するのが一般的で顧問料がかかる |
| 10.責任の範囲 | 無限責任(事業の借金は全額個人の責任) | 有限責任(出資者は出資額の範囲まで) |
| 11.赤字の繰越し | 最長3年(青色申告の場合) | 最長10年(青色申告の場合) |
| 12.事業承継 | 資産の名義変更や許認可の取り直しが必要になりやすい | 法人格を維持したまま、株式や持分などを承継できる場合があり、個人事業より事業を継続しやすい |
開業のしやすさや手続きの簡単さでは個人事業主が、税負担の上限や信用・資金調達などの面では法人が優位です。
次の章からは、とくに注意が必要な各項目について詳しく解説します。
税金の違い|税金の種類と税率が異なる

個人事業主の税率は利益が増えるほど上がり、法人の税率はほぼ一定です。
このため、利益がある水準を超えると法人のほうが有利になりますが、その水準は条件によって異なります。
「法人にすると税金が安くなる」という話は広く知られていますが、それが自分の事業にも当てはまるかを判断するには、両者の税金の種類と構造の違いを知る必要があります。
個人事業主にかかる税金の種類
個人事業主の利益には、主に所得税・住民税・個人事業税の3つがかかります。
所得税は、利益(所得)が大きくなるほど税率が上がる累進課税というしくみです。
税率は5%から45%までの7段階に分かれており、所得が増えるほど、増えた部分に適用される税率が段階的に上がっていきます。
2026年分までは、所得税額に2.1%の復興特別所得税が上乗せされます。
2027年分以後は、復興特別所得税の税率が1.1%に引き下げられる一方で、防衛特別所得税1%が新設されます。
両者を合計した付加税率は2.1%のまま変わらないため、トータルの税負担は変わりません。
参考:No.2260 所得税の税率|国税庁
参考:防衛特別所得税及び復興特別所得税の源泉徴収のあらまし|国税庁(PDF)
住民税は、所得に対して一律10%の所得割と、定額の均等割(標準で年4,000円、別途森林環境税1,000円)で構成されます。
個人事業税は、法律で定められた業種に該当する場合に、所得から290万円の事業主控除を差し引いた残額に対して、業種により3〜5%の税率でかかる税金です。
たとえば課税所得(売上から経費や各種控除を差し引いたあとの金額)が4,000万円を超える場合、所得税45%に付加税と住民税所得割を加え、約55%の税率が適用されます。
もっともこれは所得全体にかかる税率ではなく、4,000万円を超えた部分にのみ適用される最高税率ですが、いずれにせよ大きな負担となります。
法人にかかる税金の種類
法人の利益には、主に法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税(特別法人事業税を含む)などがかかります。
法人税の税率は、資本金1億円以下の中小法人等の場合、年800万円以下の所得には15%、年800万円を超える所得には23.2%がかかります。
個人の所得税と異なり、利益がどれだけ増えてもこの水準からほとんど変わりません。

代表税理士
森 健太郎
なお、2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税が導入されています。
防衛特別法人税は、原則として基準法人税額から年500万円の基礎控除額を差し引いた残額に4%を乗じて計算します。
地方法人税も国税で、法人税額に対して10.3%の税率で課されます。
法人住民税は地方税で、「法人税割」と「均等割」の2つで構成されます。
法人税割は法人税額に対して標準税率7.0%(都道府県民税1.0%+市町村民税6.0%)で計算され、利益が出るほど負担が増えます。
均等割は利益の有無にかかわらず課される税金で、年間でおよそ7万円(標準税率)がかかります。
この均等割の負担は、たとえ赤字であったとしても必ずかかります。
法人事業税は所得に応じて課される地方税で、資本金1億円以下の法人では所得に応じた税率が適用されます。
これらを合計した法人全体の実質的な税負担率(実効税率)は、中小法人の場合おおむね30%程度です。
法人税の15〜23.2%だけを見ると個人より低く感じますが、法人住民税や法人事業税を加えると、実際の負担はそれより大きくなります。
また、法人の税金を考えるうえで注意が必要なのは「法人を設立したとしても税金が法人税に一本化されるわけではない」という点です。
法人の利益には法人税等がかかりますが、それとは別に、経営者が受け取る役員報酬には個人の所得税・住民税がかかります。
法人化の損得は、法人の税金と経営者個人の税金の合計で判断する必要があります。
法人が有利になり始める課税所得の目安
一般には「利益800万円」や「900万円」が法人化の目安とされることが多いですが、ベンチャーサポート税理士法人では課税所得500万円前後を、法人化による税金・社会保険料の試算を始める目安の1つとしています。
課税所得とは、売上から経費や各種控除を差し引いた、税金が課される部分の金額のことです。
この目安は、税率の単純比較で出したものではありません。
役員報酬にともなう給与所得控除の効果、社会保険料の増減、法人の維持コスト、経費算入の範囲の違いまで含めて試算した結果にもとづいています。
それぞれの状況に応じた法人化の判断基準やシミュレーションは、こちらの記事で詳しく解説しています。
また、コスト面以外も含めた法人化のタイミングについては、以下の記事もあわせてご確認ください。
社会保険の違い|加入する保険や年金の範囲や負担額とは

個人事業主と法人では、加入する保険・年金の制度そのものが異なるため、保険料の決まり方と保障の範囲もそれぞれ違います。
社会保険料を試算に含めていないと、「税金は安くなったのに手取りがほとんど増えない・むしろ減ってしまった」という事態にも陥るので、必ず確認が必要です。
個人事業主が加入する社会保険
個人事業主は国民健康保険と国民年金に加入し、保険料はどちらも全額を自分で負担します。
国民健康保険の保険料は前年の所得と世帯の加入人数に応じて決まり、料率は市区町村ごとに異なります。
家族がいる場合は、家族の人数に応じて保険料が増えるしくみです。
会社員が利用できるような、家族を保険料の負担なしで加入させる「扶養」の制度はありません。
国民年金の保険料は、所得の多い少ないにかかわらず毎月定額です。
2026年度の時点の保険料は、1カ月あたり1万7,920円です。
保障の面では、国民健康保険には病気やケガで働けない期間の収入を補う傷病手当金が原則としてない点に注意が必要です。
さらに老後の年金も国民年金(基礎年金)のみとなるため、働けなくなったときに備えるためには、民間保険や貯蓄を自分で準備する必要があります。
法人が加入する社会保険
法人は健康保険と厚生年金保険に加入します。
従業員を雇わず役員1人だけの会社でも、役員報酬を受け取っている限り、原則として加入することが義務付けられています。
保険料は役員報酬の金額(標準報酬月額)に応じて決まり、本人と会社が原則として折半で負担します。
法人の社会保険は保険料の負担が大きくなりますが、その分、個人事業主にはない保障が加わります。
基礎年金には厚生年金が上乗せされるため、将来受け取れる年金額が増えます。
健康保険では、個人事業主では支給されない傷病手当金や出産手当金も対象になるため、病気やケガで働けない期間に一定の所得補償を受けられます。
また、収入が一定以下の家族は「被扶養者」として保険料の負担なしで健康保険に加入でき、家族が増えても保険料は変わりません。
会社設立後の社会保険加入の流れや、保険料の目安などについては、以下の記事をご確認ください。
保険料の負担と保障の範囲の比較
個人事業主と法人の社会保険は、「保険料の負担」と「保障の手厚さ」がトレードオフの関係にあります。
| 比較項目 | 個人事業主(国保・国民年金) | 法人(健康保険・厚生年金) |
|---|---|---|
| 保険料の決まり方 | 前年の所得と世帯人数に応じる+国民年金は定額 | 役員報酬の金額に応じる |
| 保険料の負担者 | 全額自己負担 | 本人と会社が原則として折半 |
| 家族の扱い | 扶養のしくみなし(人数分の保険料が発生) | 収入が一定以下の家族は保険料なしで被扶養者にできる |
| 働けないときの所得補償 | 傷病手当金はなし | 傷病手当金・出産手当金あり |
| 老後の年金 | 国民年金のみ | 国民年金+厚生年金 |
法人では、健康保険料や厚生年金保険料などを、役員本人と会社が原則として折半で負担します。
加入先や年齢によって異なりますが、本人負担・会社負担はそれぞれ役員報酬の約14~15%程度が目安です。
個人事業主時代より保険料負担が増える場合がある一方、厚生年金が上乗せされるほか、傷病手当金や出産手当金などの保障も受けられます。
また、法人化後の社会保険料は役員報酬の設定によって変わるため、報酬設計しだいで負担を調整できる余地もあります。

代表税理士
森 健太郎
法人設立のシミュレーションで見落とされやすいのが、会社負担分を含む社会保険料です。法人税や所得税だけを比較すると法人化が有利に見えても、社会保険料を加えるとトータルで手元に残る金額が減るケースもあります。
税金と社会保険料は必ずセットで確認しましょう。
経費の違い|法人は範囲が広い

経費にできる範囲は法人のほうが広く、とくに経営者自身に関する支出(役員報酬など)を一定の要件のもとで経費にできる点が大きな違いです。
ただし、事業と関係のない支出が経費にならない原則は法人でも変わりません。
個人でも経費にできる支出
事業に関連する支出であれば、個人事業主でも経費(必要経費)にすることができます。
仕入れ代金や事務所家賃はもちろん、通信費、外注費、交通費まで、事業のための支出はすべて対象です。
自宅を事務所にしている場合は、家賃や光熱費のうち事業で使っている割合を按分して経費にできます。
青色申告をしていれば、一定の要件のもとで家族へ支払う給与(青色事業専従者給与)も経費にすることが可能です。
法人だけが経費にできる支出の代表例
法人化すると、経営者自身に関する支出を経費(損金)にできる選択肢が広がります。
代表例は次の5つです。
- 役員報酬:経営者自身への給与を会社の経費にできる。受け取る側では給与所得控除が使える
- 役員退職金:将来の退職時に、適正額の範囲で会社の経費にできる
- 社宅家賃:会社が借りた住居を役員・従業員に貸す形にすると、家賃の一定部分を会社の経費にできる
- 生命保険料:契約形態に応じて、保険料の全部または一部を会社の経費にできる
- 出張日当:旅費規程を整備すれば、実費とは別に日当を経費にできる
いずれも支出すれば自動的に経費になるわけではなく、税法上の要件や適正額を守る必要があります。
このうち影響が特に大きいのが役員報酬です。
個人事業主では生活費にあたる部分を経費にできませんが、法人では経営者への給与そのものが会社の経費になり、受け取る側では給与所得控除が使えます。
法人化しても経費にできない支出とは
事業と関係のない支出は、法人でも経費にできません。
プライベートの食事や旅行、実態のない家族への給与は、法人にしたからといって経費になるわけではなく、この原則は個人事業主とまったく同じです。
経営者が会社の資金を私的に使った場合、税務上は経営者への貸付金や臨時の賞与として扱われます。
役員賞与として認定されると、会社では経費にならず、経営者個人には所得税がかかるため、二重に税負担が生じます。
経費にできる項目にもそれぞれルールがあり、たとえば役員報酬は、原則として事業年度の途中で自由に金額を変えられません。
「利益が出そうだから今月から報酬を増やそう」と期中に増額しても、増額分は経費として認められないのが原則です。
「法人にすれば何でも経費にできる」という理解のまま法人化すると、税務調査で否認されるリスクを抱えることになります。
消費税の違い|基本のしくみは同じだが法人成り時に注意

消費税は、商品やサービスの売上にかかる税金です。
税率や計算方法、納税義務が生じる基準は個人事業主も法人も同じであり、消費税のしくみ自体に両者の違いはほとんどありません。
消費税の納税義務が生じる基準
消費税を納める義務があるかどうかは、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定されます。
基準期間とは、個人事業主は前々年、法人は前々事業年度のことです。
1,000万円を超えた事業者は課税事業者として消費税の申告・納税義務を負い、1,000万円以下であれば原則として免除されます。
この判定基準は個人事業主も法人も共通です。
なお、基準期間の売上が1,000万円以下でも、特定期間(前年または前事業年度の上半期)の課税売上高等が1,000万円を超えると課税事業者になります。
売上が急に伸びた年は、この特定期間の判定にも注意しておきましょう。
法人化による免税期間のしくみ
個人事業主が法人成りした場合、個人時代の売上は法人の基準期間の課税売上高に含まれません。
設立1期目と2期目は基準期間そのものが存在しないため、条件を満たせば最大2年間、消費税の納税義務が免除される可能性があります。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は、設立当初でも免税になりません。
- 設立時の資本金が1,000万円以上
- 特定新規設立法人に該当する場合(一定の大規模法人が株主である場合など)
- 特定期間の判定で課税事業者となる場合
- 消費税課税事業者選択届出書を提出した場合
- 適格請求書発行事業者(インボイス)の登録を受けた場合
参考:No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁
インボイス制度が免税メリットに与える影響
新法人がインボイス(適格請求書発行事業者)の登録を受けた場合、登録日以後は消費税の課税事業者となるため、免税メリットは適用されません。
インボイス登録をする限り、免税期間は使えないということです。
参考:新たに設立された法人等の登録時期の特例|国税庁(PDF)
インボイスに登録するかの判断は、取引先の構成に大きく左右されます。
主な取引先が法人などの事業者である場合、取引先が自社の消費税を計算するために必要なインボイスを求めるため、新法人でも登録をせざるをえないケースが多いでしょう。
一方、主な売上が一般消費者からの事業(小売、飲食、美容など)では、インボイスの発行を求められる場面が少なく、新法人で登録を受けない選択もしやすい傾向があります。
免税期間を最大化する設立時期の設計については、以下の記事をご確認ください。

代表税理士
森 健太郎
なお、個人事業主として受けていたインボイス登録は、新たに設立した法人へ自動的には引き継がれません。
個人事業主と法人は法律上別の事業者であるため、法人としてインボイスを発行するには、新法人の名義で改めて登録申請を行う必要があります。
開業・廃業の違い|法人は手続きと費用の負担が大きい


開業・廃業の手続きと費用は、個人事業主が届出中心で費用がかからないのに対し、法人は設立にも廃業にも登記と費用が必要です。
事業の始めやすさは多くの人が比較しますが、うまくいかなかったときの撤退コストまで比較する人は多くありません。
形態選びの判断材料として、入口と出口の両方を確認しておきましょう。
個人事業主の開業・廃業の手続き
個人事業主の開業は、税務署への開業届の提出が基本的な手続きで、費用はかかりません。提出期限は、2025年以前は開業から1カ月以内でしたが、2026年1月1日以後の開業分からはその年分の確定申告期限までに延長されています。
参考:開業する場合|国税庁
青色申告を利用する場合は、開業届とは別に青色申告承認申請書の提出も必要です。
こちらの提出期限は原則として開業日から2カ月以内(1月15日までの開業ならその年の3月15日まで)で、開業届の期限より短いため、実務上は両方をまとめて早めに提出するのが確実です。
廃業も同じく身軽で、税務署に廃業届を提出するのが基本的な手続きです。
状況に応じて青色申告の取りやめ届出、消費税の届出、都道府県への届出などが別途必要になりますが、いずれも費用はかかりません。
「まず個人事業主で始めて、軌道に乗ったら法人化する」という進め方を選びやすいのは、この身軽さがあるためです。
法人の設立にかかる手続きと費用
法人の設立には定款の作成と法務局への設立登記が必要で、登録免許税だけで株式会社は原則15万円、合同会社は6万円がかかります(資本金の0.7%がこれを上回る場合はその金額)。
紙の定款で作成する場合は、さらに収入印紙代4万円がかかります。
このほかに資本金の準備や、設立手続きを専門家へ依頼する場合の報酬も見込んでおく必要があります。
費用の全体像と抑え方については、以下の記事もあわせてご確認ください。
法人の廃業にかかる手続きと費用
法人の廃業には、設立時以上の費用と手間がかかります。
株式会社を通常清算する場合は、株主総会で解散を決議し、法務局で解散と清算人選任の登記を行います。
そのうえで官報に公告を出して債権者に知らせ、財産の整理を終えてから、最後に清算結了の登記を申請します。
合同会社の場合は意思決定の方法が異なりますが、登記と清算の手続きは同様に必要です。
費用の内訳は、解散・清算人選任の登記に登録免許税3万9,000円、清算結了の登記に2,000円、官報公告の掲載に3万〜4万円程度です。
株式会社を自社で通常清算する場合、これらの法定費用だけで約8万円前後になります。
登記や税務申告を専門家に依頼する場合は、その報酬が別途かかります。
期間についても、官報公告に最低2か月を確保する決まりがあるため、順調に進んでも解散から清算結了まで3カ月程度を要します。
より具体的な法人の廃業(解散)の方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
なおこの記事では合同会社の解散について取り扱っていますが、株式会社の場合も大まかな部分の手続きは同様です。
信用・資金調達・責任範囲の違い|事業拡大の局面で差が出る
社会的信用・資金調達・責任範囲の違いは、事業を拡大しようとする局面で表れます。
利益がまだ法人化の目安に届いていなくても、取引先の開拓や採用、融資の必要性から法人化を決める事業者は少なくありません。
社会的信用の違いが影響する場面

法人は設立時に商号・所在地・代表者・資本金などを法務局に登記するため、第三者が公的な記録で会社の存在を確認できます。
国税庁の法人番号公表サイトで検索すれば、法人番号・名称・所在地が表示されます。
個人事業主には、こうした公的な情報開示のしくみがないため、一般的に法人よりも社会的信用が低く見られる傾向があります。
信用の差が実際に表れやすいのは、次のような場面です。
- 取引先の開拓:法人としか取引しない方針の企業があり、個人事業主では商談の入口に立てないことがある
- 人材の採用:社会保険の完備や、求職者とその家族からの安心感の面で、法人のほうが人を集めやすい
ただし、取引先が一般消費者中心で採用の予定もない事業であれば、信用の差が事業上の支障になる場面は限られます。
信用を理由に法人化を検討する場合は、「誰からの信用が、どの場面で必要なのか」を具体的に挙げてから判断する必要があります。
資金調達の選択肢の違い

株式会社には、融資に加えて株式を発行し、投資家から出資を受けるという資金調達方法があります。
株式会社であれば株式を発行することで、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から資金を受け入れられます。
合同会社は株式を発行できませんが、新たな社員(出資者)の加入や既存社員の追加出資という形で資金を受け入れることは可能です。
個人事業主には、こうした出資のしくみがありませんが、日本政策金融公庫や自治体の制度融資、補助金・助成金などは利用できるものが数多くあります。
また、個人事業主でもクラウドファンディングなど資金を受け取れる場合があります。
事業上の負債に対する責任範囲の違い

事業で生じた借金や賠償への責任は、個人事業主が無限責任、株式会社の株主や合同会社の社員が有限責任となります。
個人事業主は事業の主体が個人そのものであるため、事業用・個人用の区別なく全財産で返済する責任を負います。
株式会社や合同会社では、会社の借金は会社が返すものであり、出資者は出資額を超えて責任を負わないのが原則です。
ただし、中小企業が融資を受ける際には、金融機関が代表者個人に連帯保証(経営者保証)を求めることがあり、その場合は代表者が実質的に返済責任を負います。
「法人にすれば借金のリスクから完全に切り離される」とまではいえない点には注意が必要です。

代表税理士
森 健太郎
近年は「経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっている」として、一定の要件を満たす中小企業などに対し、経営者保証を求めないことや保証機能の代替手法の活用を金融機関に求める「経営者保証に関するガイドライン」が定められています。
とはいえ実際には、創業期の経営者は返済実績などの信用がない以上、経営者保証が必要となるケースがほとんどです。
参考:経営者保証|中小企業庁
会計・赤字・事業承継の違い|事業の継続で差が出る
会計・経理の手間や赤字を繰り越せる期間、事業承継のしやすさも、個人事業主と法人で異なります。
これらは開業直後には差を感じにくいものの、事業を長く続けるほど影響が大きくなる項目です。
現在の税負担だけでなく、毎年発生する事務負担や、将来の黒字化、後継者への引き継ぎまで含めて比較しましょう。
会計・経理の手間と費用の違い

個人事業主は、原則として1月1日から12月31日までの所得を集計し、翌年に所得税の確定申告を行います。
青色申告で最大65万円の青色申告特別控除を受ける場合は、複式簿記による記帳や貸借対照表・損益計算書の作成が必要ですが、事業規模が小さければ会計ソフトを使って自分で申告することも可能です。
一方、法人は会社ごとに定めた事業年度に沿って決算を行い、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税などの申告書を作成します。
日々の帳簿作成であれば、マネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使用すれば経営者自身が行うこともできます。
しかし法人の決算は、個人事業主の確定申告に比べて難易度が非常に高く、専門的な知識がない個人が行うのは困難です。
実際に財務省が公開している「令和6事務年度 国税庁実績評価書」によると、法人税の申告書の約9割弱に税理士が関与している(税理士が書類を作成して署名している)とされています。

参考:令和6事務年度 国税庁実績評価書|財務省(PDF)を加工して作成
さらに法人では、役員報酬の処理、給与からの源泉徴収、社会保険料の計算、株主総会議事録の作成など、個人事業主にはない管理業務が増えます。
これらも税理士などに任せる場合、その依頼料なども考慮する必要があります。
赤字を繰り越せる期間の違い

事業で生じた赤字を翌年以降の黒字と相殺できる期間は、青色申告を前提として、個人事業主が原則最長3年、法人が原則最長10年です。
参考:No.2070 青色申告制度|国税庁
参考:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁
たとえば個人事業主が開業1年目に500万円の赤字を出し、その後の利益が毎年100万円だった場合、通常の3年間で相殺できる赤字は300万円です。残った200万円の赤字は、原則として4年目以降の利益から差し引けません。
しかし法人であれば、繰越期間が10年あるため、黒字化まで時間がかかっても、赤字を将来の利益と相殺できる可能性が高くなります。
特に設備の購入や店舗の内装、システム開発など、開業時に大きな先行投資が必要な事業であれば、この赤字の繰越期間の差が、将来的なキャッシュフローに影響を及ぼしやすくなります。
事業承継のしやすさの違い

個人事業主の事業用資産や契約は、原則として事業主本人に帰属しています。
後継者へ事業を引き継ぐ場合は、店舗や機械、車両、在庫などの資産に加え、取引先との契約、事業用口座、賃貸借契約などについて、個別に承継や名義変更の手続きが必要になります。
営業許可や登録についても、事業の種類によっては後継者が新たに許可を取得しなければならない場合があります。
事業主が亡くなると預金口座が凍結される可能性もあるため、準備が不十分なまま相続が発生すると、事業が一時的に止まるリスクがあります。
法人の場合、経営者や株主が変わっても、会社そのものは原則として存続します。
株式会社では株式、合同会社では持分などを後継者へ承継することで、会社が所有する資産や契約関係を維持しながら経営を引き継ぎやすい点が特徴です。
事業承継税制でも、法人は非上場株式等、個人事業者は事業用資産を承継対象として区別しています。

代表税理士
森 健太郎
ただし、後継者への株式や持分の移転には、相続税・贈与税が発生する可能性があります。
さらに代表者保証の変更、許認可上の代表者変更、取引先や金融機関への届出が必要になるケースもあります。
また、合同会社では、社員が死亡したときに相続人がその地位を引き継ぐためには、相続人が持分を承継できる旨を定款に定めている必要があります。
合同会社の持分の承継については、以下の記事で詳しく解説しています。
個人事業主と法人の選び方
個人事業主と法人のどちらを選ぶべきかは、利益水準(税金と社会保険料の損得)と事業の方向性(信用・資金調達・採用の必要性)の2軸で判断します。
どちらか一方でも法人を必要とする状態になっているかどうかが分かれ目です。
個人事業主が向いているケース
次に当てはまる事業者は、現時点では個人事業主のままが向いています。
- 課税所得が法人化の試算を始める水準(500万円前後)に届いていない、または年によって大きく変動する
- 事業を大きく広げる予定がなく、従業員を雇う予定もない
- 取引先が一般消費者中心で、法人であることやインボイスの発行を求められる場面が少ない
- 法人化の必要性を感じる具体的な場面(取引先の要請、採用、融資)がまだ生じていない
法人化はあとからいつでもできますが、法人をやめるには数カ月の手続きと費用がかかります。
上記に当てはまるうちは、個人事業主の身軽さを保っておくのが合理的です。
法人が向いているケース
次のいずれかに当てはまる事業者は、法人化を具体的に検討する段階にあります。
- 課税所得500万円超の状態が今後も続く見込みがあり、法人化の試算で手取りが増える結果が出ている
- 取引先から法人化やインボイスの発行を求められている、または法人限定の取引を獲得したい
- 従業員の採用、金融機関からの本格的な融資、出資の受け入れを予定している
- 万一のときに備えて、事業のリスクと個人の資産を切り分けておきたい
利益が目安に達しているなら、税負担の面から検討を始めるべき時期です。
数字が届いていなくても、取引先の要請や採用・融資が必要になった際には、法人化を検討しましょう。
個人事業主と法人の違いに関するよくある質問
個人事業主と法人の違いについて、検討の過程でよく出てくる疑問をまとめました。
その1:取引先が法人か個人事業主かを見分ける方法とは
法人か個人事業主かは、商号と国税庁の法人番号公表サイトで見分けられます。
「株式会社」「合同会社」などの文字は法人しか名乗れないため、正式名称にこれらが含まれていれば法人です。
屋号が会社名のように見えても、これらの文字がなければ個人事業主の可能性があります。
より確実に調べるには、国税庁の法人番号公表サイトで相手の名称や所在地を入力して検索する方法があります。
法人として登録されていれば法人番号・名称・所在地が表示されます。
ただし、検索条件や旧名称・所在地変更の影響で結果が表示されない場合もあるため、検索結果がないことだけで断定はできない点に注意してください。
その2:個人事業主と法人は掛け持ちできるか
法人の代表者を務めながら、別の事業を個人事業主として営む、いわゆる掛け持ちは可能です。
ただし、同じ事業の売上や経費を法人と個人に意図的に分けると、税務上調査で指摘される可能性が高くなります。
経理と申告を二本立てで行う手間も生じるため、掛け持ちを考える場合は目的と管理体制を先に固めておきましょう。
個人事業主と法人の掛け持ちを行う際の注意点などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
その3:法人化したあとに個人事業主へ戻ることはできるか
法人を解散・清算したうえで改めて開業届を提出すれば、個人事業主に戻ることは可能です。
ただし、法人の解散・清算には登記費用や官報公告費がかかり、期間も数か月を要します。
戻る可能性が頭をよぎるようなら、法人化の判断そのものを一度立ち止まって見直してみてください。
その4:有限会社と個人事業主は何が違うのか
有限会社は法人の一形態ですが、2006年の会社法施行によって新たには設立できなくなりました。
現在ある有限会社は、それ以前に設立され「特例有限会社」として存続しているものです。
これから法人を設立する場合の選択肢は、株式会社か合同会社が中心になります。
この記事のまとめ
個人事業主と法人の違いは、「事業の主体が個人自身か、別人格の会社か」という1点から生じています。
個人事業主は開業も廃業も身軽で手間がかからない反面、利益が増えるほど税率が上がり、保障は薄く、責任は個人の全財産に及びます。
法人は設立・維持・撤退にコストがかかる反面、税率の上限が抑えられ、経費の幅と保障が広がり、信用と資金調達の面で事業を広げやすくなるでしょう。
どちらを選ぶかは、利益水準と事業の方向性の2軸での判断が必要です。
試算の際には、税金だけでなく社会保険料や法人の維持費用まで含めて検討しましょう。
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