東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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交通事故にあって負傷した場合に、医師による治療を受けたにも関わらず完治せずに後遺症が残ってしまった場合、後遺症が原因で事故の以前と同じようには働けなくなることがあります。
事故の後遺症が原因で労働能力が低下した場合、事故による後遺症がなければ本来得られたはずの収入に相当する金額を、逸失利益として交通事故の加害者に請求することになります。
もっとも、逸失利益は将来のことも考慮して計算する必要があり、関連する項目についてきちんと理解する必要があります。
後遺症による逸失利益の基準や算定方式などを詳しく解説していきます。
逸失利益とは、交通事故にあわなければ本来得られたはずの収入を得られなくなったことによる損害のことです。
逸失利益の例としては、交通事故が原因で利き腕を骨折して2ヶ月の間仕事ができなくなった職人が、交通事故にあわなければ職人として得られたはずの2ヶ月分の収入を加害者に請求する場合です。
後遺症による逸失利益とは、交通事故が原因で負傷した傷が完治せずに何らかの後遺症が残ってしまった場合に、それによって得られなくなってしまった本来得られたはずの収入のことです。
例えば、交通事故が原因で利き腕を切断して職人として働けなくなった場合に、本来職人として働けば得られたはずの収入を加害者に請求するような場合です。
詳しく知りたい方は、「交通事故による「逸失利益」 将来得るはずの利益の算出方法とは」を参照してください。
後遺症による逸失利益を求める計算式は以下のようになります。
基礎収入 x 労働能力喪失率 x 中間利息控除係数 = 後遺症による逸失利益
後遺症による逸失利益の計算をきちんと行うためには、基礎収入、労働能力喪失率、中間利息控除係数の各項目について把握することが重要です。以下、順番に見ていきます。
基礎収入とは、交通事故にあう前の被害者の収入をもとに算出する項目です。給与所得者、事業所得者、家事従事者など、被害者の立場によって考慮する要素が異なります。
給与所得者の基礎収入については、事故にあう前に被害者が実際に得ていた収入額に基づいて計算するのが原則です。
注意点としては、現に得ていた収入に固執しすぎると、年収が低くなる若年層の労働者の逸失利益が不当に低くなるおそれがあります。また、全年齢平均賃金を算出の基準にする学生の逸失利益のほうが高くなるという不都合が生じる可能性もあります。
例えば、月収が20万円で月収2ヶ月分の賞与が年2回ある28歳のサラリーマンの現に得ていた収入を計算すると、(20万円 x 12) + (20万円 x 4) = 320万円になります。
この点、実際に得ていた収入額に基づいて将来得られたはずの収入を計算してしまうと、まだ若く努力によって将来昇給していく可能性がある場合であっても、それが全く考慮されずに逸失利益の金額がでてしまうことになります。
加えて、例えば全年齢平均賃金が550万円であった場合、まだ仕事をしていない学生の逸失利益は550万円を基礎として計算することになりますが、たまたま働いていた場合にはそれよりも低い320万円を基礎として計算されることになり、不均衡が生じます。
そのため、事故前に実際に得ていた収入が全年齢平均賃金よりも定額であり、かつ事故時に概ね30歳未満である若年層の労働者については、現に得ていた収入ではなく全年齢平均賃金を基礎として逸失利益を計算することが裁判の実務で有力になっています。
上記の考えに基づいて、先ほどの年収320万円の28歳サラリーマンの例を見ると、将来的に全年齢平均賃金である550万円程度の収入を得る可能性があると判断されれば、年収の320万円ではなく全年齢平均賃金の550万円を基礎として逸失利益が計算されることになります。
次に、給与所得者のうち会社役員については、会社から受け取っていた報酬の全てが基礎収入として算定されるわけではありません。保有している自社株式の利益配当分など控除した、労務提供の対価に相当する部分のみが基礎収入の算出の基礎になるのが一般的です。
学生は労働者ではないため、現に得ていた収入を基礎として逸失利益を計算することはできません。そのため、学生については原則として全年齢平均賃金を基礎収入として逸失利益を計算します。
被害者が事故当時に大学に進学している場合は、基礎収入を算定する際に大卒の賃金センサスが認められますが、事故当時にまだ大学に入学していなかった場合は争いになります。
被害者が事故当時に大学に進学する前であっても、諸般の事情からみていずれ大学に進学することが見込まれる場合には、大学に入学する前であっても大卒の賃金センサスによる基礎収入の算定が認められる可能性があります。
家事従事者は労働の対価としての賃金は得ていませんが家事労働には従事しているため、大学生と同様に原則として全年齢平均賃金を基準に基礎収入を算定します。
パート等による収入がある場合は、パート等による実際の収入額と全年齢平均賃金を比較して、いずれか高いほうを基礎収入の基礎として逸失利益を計算します。
失業者は現に労働に従事してはいませんが、労働能力、労働意欲、就労の可能性の3点を満たしている場合には、原則として失業前の収入を参考にして基礎収入を計算することができます。
失業前の収入が賃金センサスにおける平均賃金額よりも低い場合は、事故にあわなければ将来的に平均賃金額程度の収入を得られる見込みがあれば、平均賃金額を基礎収入として逸失利益を計算します。
既に退職している高齢者については、事故にあわなければ就労の蓋然性が認められたなどの事情がある場合には、賃金センサスにおける年齢別の平均賃金額を基準に基礎収入を算定することになります。
労働能力喪失率とは、交通事故によって受けた傷などが完治せずに後遺症が残ってしまった場合に、労働能力をどの程度喪失したかを数値で表したものです。
実務においては、労働能力喪失率表という後遺障害の等級に応じた表を参考にして、労働能力をどの程度喪失したかを算出します。
後遺障害とは、交通事故を原因とする負傷の治療が終わった後に、完治せずに後遺症が残ってしまい、それによって労働能力を喪失した場合に認められる概念です。
後遺障害は障害の程度によって第1級から第14級までの全14種類に分かれています。症状が最も重いのは第1級で、最も軽いのは第14級になります。
参照:「後遺障害等級14級」の症状とは?何を請求できるのか解説
労働能力喪失率表に応じた後遺障害の等級ごとの労働能力喪失率は以下の通りです。
注意点として、労働能力喪失表はあくまで目安であり、被害者の事情によっては労働能力喪失表を下回る労働能力喪失率が認定される場合もあります。労働能力喪失率を決定するための要素としては、後遺症の程度、年齢、性別、職業などがあります。
逸失利益とは、交通事故にあわなければ被害者が将来得られるはずであった利益のことです。一方、逸失利益の金額が確定すると、原則として全額を一括で受け取ることになります。
将来に少しずつ得られるはずの利益を現時点で一括で受け取った場合、受け取った金額を銀行などに預け入れると利息を得ることが可能になります。
逸失利益として得られた金額を預け入れた場合、それによって得られる利息の分だけ被害者は本来よりも得をすることになります。その不都合を防止するために、利息として得られるであろう金額の分だけあらかじめ差し引いておく制度が、中間利息控除です。
控除される中間利息の利率については、最高裁によって民事法定利率である年5%の利率によるという判断が下されています。
中間利息控除を控除するための方式は大きく分けて2種類で、ライプニッツ方式とホフマン方式があります。ライプニッツ方式は中間利息について複利計算で算定し、ホフマン方式は単利計算で算定するのが特徴です。
最高裁判所の判例においてはライプニッツ方式とホフマン方式のどちらの方法でもよいとされていますが、実務上はライプニッツ方式を採用するのが主流になっています。
ライプニッツ方式で中間利息控除を算定する場合、まず労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を求めます。次に、求めた係数を労働能力喪失率に相当する収入額で乗じます。
労働能力喪失期間とは、労働能力を喪失したことで本来得られるはずの収入がどの程度の期間得られなくなったのか示すものです。
逸失利益の算出方法においては、労働可能な年齢は67歳までが基準として定められています。労働能力を喪失した起算点は症状固定時の年齢が基準になります。そのため、67歳から症状固定時の年齢を差し引けば労働能力喪失期間を算出することができます。
例えば、交通事故が原因で労働能力を喪失した場合、症状固定時の年齢が36歳であれば、労働能力喪失期間は67 - 36 = 31年間になります。
被害者の年齢が症状固定時に満18歳以下の場合のライプニッツ係数については,症状固定時の年齢から67歳までの期間のライプニッツ係数から、18歳に達するまでの期間に対応するライプニッツ係数を差し引いて計算します。
例えば、被害者の年齢が症状固定時に17歳の場合は、67歳-17歳=50歳に対応するライプニッツ係数から、18歳-17歳=1歳に対応するライプニッツ係数を差し引いて数値を決定します。
ライプニッツ係数は労働能力喪失期間によって数値が決まりますが、労働能力喪失期間が長いほど数値は大きくなります。例えば、喪失期間が30年間の場合のライプニッツ係数は15.3725で、40年間の場合は17.1591です。
労働能力喪失期間によるライプニッツ係数は以下の通りです。
喪失期間 (年) | 係数 | 喪失期間 (年) | 係数 | 喪失期間 (年) | 係数 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 0.9524 | 24 | 13.7986 | 46 | 17.8801 |
2 | 1.8594 | 25 | 14.0939 | 47 | 17.981 |
3 | 2.7232 | 26 | 14.3752 | 48 | 18.0772 |
4 | 3.546 | 27 | 14.643 | 49 | 18.1687 |
5 | 4.3295 | 28 | 14.8981 | 50 | 18.2559 |
6 | 5.0757 | 29 | 15.1411 | 51 | 18.339 |
7 | 5.7864 | 30 | 15.3725 | 52 | 18.4181 |
8 | 6.4632 | 31 | 15.5928 | 53 | 18.4934 |
9 | 7.1078 | 32 | 15.8027 | 54 | 18.5651 |
10 | 7.7217 | 33 | 16.0025 | 55 | 18.6335 |
11 | 8.3064 | 34 | 16.1929 | 56 | 18.6985 |
12 | 8.8633 | 35 | 16.3742 | 57 | 18.7605 |
13 | 9.3936 | 36 | 16.5469 | 58 | 18.8195 |
14 | 9.8986 | 37 | 16.7113 | 59 | 18.8758 |
15 | 10.3797 | 38 | 16.8679 | 60 | 18.9293 |
16 | 10.8378 | 39 | 17.017 | 61 | 18.9803 |
17 | 11.2741 | 40 | 17.1591 | 62 | 19.0288 |
18 | 11.6896 | 41 | 17.2944 | 63 | 19.0751 |
19 | 12.0853 | 42 | 17.4232 | 64 | 19.1191 |
20 | 12.4622 | 43 | 17.5459 | 65 | 19.1611 |
21 | 12.8212 | 44 | 17.6628 | 66 | 19.201 |
22 | 13.163 | 45 | 17.7741 | 67 | 19.2391 |
23 | 13.4886 |
これまでご紹介してきました項目と計算方法をもとにして、後遺症による逸失利益の金額を計算する具体例を見ていきます。
例えば、年収700万円の給与所得者が交通事故の被害者となり、症状固定した時の年齢が41歳で後遺障害の等級が第7級に該当した場合の逸失利益を計算してみます。
計算式は、「基礎収入 x 労働能力喪失率 x 中間利息控除係数 = 後遺症による逸失利益」です。
基礎収入は事故前に現に得ていた収入である500万円を基準にします。後遺障害の等級が第7級の場合、労働能力喪失率は56%になります。
中間利息控除係数については、まずは労働能力喪失期間を算定します。症状固定した時の年齢が41歳なので、67歳-41歳=26年間が労働能力喪失期間です。
労働能力喪失期間が26年間の場合のライプニッツ係数は14.3752です。
最終的な計算式としては、700万円(基礎収入) x 56%(労働能力喪失率) x 14.3752(中間利息控除係数) = 56350784(後遺症による逸失利益)になります。
よって、この場合の後遺症による逸失利益は5635万784円になります。
交通事故が原因で後遺症が残ってしまった場合、後遺症が原因で労働能力を喪失して事故以前と同じようには働けなくなった場合は、本来得られたはずの収入分を後遺症による逸失利益として加害者に請求することができます。
後遺症による逸失利益の計算式としては、「基礎収入 x 労働能力喪失率 x 中間利息控除係数 = 後遺症による逸失利益」として計算することが可能です。年齢や収入などをもとに実際に逸失利益を計算してみると参考になります。