東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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目次
減収がない場合の交通事故の逸失利益請求はできるのか
交通事故に遭った被害者に後遺障害が生じた場合、そのことが原因となって、将来にわたって受け取ることのできる収入が減る場合があります。
交通事故によって収入が減った場合、被害者はその減収分を逸失利益として請求することができます。
このことからすると、被害者に減収分が認められなければ、そもそも逸失利益は発生しないことになり、その結果、逸失利益を請求することもできないように思えます。
そこで今回は、交通事故の被害者に減収が認められない場合に、逸失利益を請求することができるのか、ということについて、わかりやすく解説していきたいと思います。
「逸失利益」とは、交通事故に遭っていなければ、得られたであろう収入のことをいいます。交通事故によって後遺障害が残った被害者は、程度に差はあるものの労働能力を失うことが一般的です。
そのため、被害者は、労働能力の喪失による減収分を逸失利益として、加害者に対して、損害賠償を請求することができます。
たとえば、交通事故により歩行が困難となり車椅子での生活を余儀なくされた場合には、交通事故に遭う前と同じように働くことができなくなるのが通常です。
そのため、事故前と比べ、収入が減るものと考えられます。
このような場合に、将来にわたって継続して発生すると考えられる減収分を逸失利益として請求することができるのです。
逸失利益の算出は、下記の3つを使います。
この3つをかけ合わせて、金額を決めます。
年収は事故前の収入額を基準とします。
会社員の場合は、給与だけでなく、手当や賞与も含みます。
自営業の場合は、納税証明書の金額を元に算出します。
専業主婦や学生など仕事をしてない人なら、賃金センサスがベースになります。
賃金センサスとは、政府が発表している平均収入をまとめた資料で、年齢・性別・学歴に応じて、平均収入が記載されています。
労働能力喪失率は、事故の後遺症によって、どのぐらい仕事の悪影響が出るか数字化したものです。
後遺症の重さは「等級」と呼ばれるレベル分けで決まりますが、等級が上がるほど、労働能力喪失率も高くなります。
例えば一番低い第14級だと労働能力喪失率は5%、第1級だと労働能力喪失率は100%になります。
労働能力喪失期間とは、後遺症になってから定年の67歳を迎えるまでの年数になります。
もし37歳で後遺症になれば、30年間が労働能力喪失期間になります。
次にライプニッツ係数とは、生涯稼ぐはずだったお金を現在の価値に直すための係数です。
例えば事故に遭わずに67歳まで働いた場合、2億円の生涯年収があったとします。
この2億円を事故に遭った後に、一括でもらうと2億円を元に、投資ができる可能性もあります。
もし逸失利益として受け取った2億円を運用して、5,000万円の利益が出てしまうと、定年まで働いた場合よりも5,000万円得しています。
事故被害に遭って逸失利益をもらうことで、元々の生涯年収よりも大きな稼ぎが出てしまっています。
このような自体を避けるためには、ライプニッツ係数を使って、将来の利息分を差し引いて、逸失利益を算出します。
下記のような会社員が事故に遭ったら、どのような逸失利益になるのでしょうか。
「500万円×27%×19.6=2,646万円」という式になり、逸失利益は2,646万円もらえます。
後遺症の重さによって、労働能力喪失率が大きく異なります。
少しでも逸失利益を多く請求したいのであれば、弁護士に依頼して適切な等級認定を行うことが重要でしょう。
逸失利益が発生するのは、原則として、後遺障害等級の認定を受けるなどして、現に減収が発生しているようなケースです。
このようなケースでは、将来にわたって減収の状態が続くものと考えられるため、特に問題なく逸失利益が認められます。
しかし、職種などによっては、たとえ後遺障害が生じたとしても、収入に影響しない場合もあります。
たとえば、交通事故により車椅子での生活を余儀なくされた場合であっても、デスクワークを主な業務としているような人にとっては、業務自体にはさほどの影響はありません。
このように、後遺障害は残ったものの、実際に減収はされていないような場合は、保険会社においても逸失利益を認めない傾向にあり、その結果、逸失利益の有無について紛争に発展し、裁判になることも少なくありません。
この点について裁判所は、後遺障害がなければ得られたであろうと予想される収入から、後遺障害がある状態で実際に得られた収入を差し引いた金額が損害賠償の対象になるとしており、減収が実際に発生していない場合には、そこに「特段の事情」が認められないかぎり逸失利益を請求することはできないとしています。
裁判所の考え方では、実際に減収が発生していない場合であっても、そこに「特段の事情」が認められれば、逸失利益を請求することができるということになります。
「特段の事情」があるかどうかについては、以下のような事情を考慮し、総合的に判断することとされています。
裁判では、以上に挙げたような事情を主張立証し、これを受けて裁判所が「特段の事情」の有無を判断することになります。
過去の裁判では、上で挙げた①と②にある事情を比較的緩やかな基準で認定し、その結果、実際に減収が発生していない場合であっても、そこには「特段の事情」があったものとして、加害者に対し逸失利益の賠償を命じる傾向にあります。
具体的には、後遺障害の程度が重度であるにもかかわらず、減収が発生せずに従前の収入を維持しているのは本人の努力によるものであるということを事実上推定することで、逸失利益の賠償を認めています。
つまり、被害者から積極的にこの点について立証しなくとも、①後遺障害の程度が重度であること、そして、②減収が発生していないこと、という2つの事情が被害者に存在していれば、裁判所はこれを「本人の努力によるものである」と推定してくれるわけです。
そのため、加害者側は、本人の努力によるものでないということの反証に成功しなければ、被害者に「特段の事情」があったと判断されることになります。
数多くある職種の中でも、特に減収が発生しにくいとされているのが「公務員」です。
公務員の収入や昇給などといった勤務条件は、給与規定や昇給基準などにより確立されていることがほとんどであり、減給される・昇給がない、という場合も限られています。
そのため、①や②の事情が認められにくいという側面があります。
しかし、近時においては、交通事故の被害者が公務員であって、減収が認められない場合であっても、後遺障害の程度や実際の執務内容などから逸失利益を認める裁判例も出てきています。
このような裁判例が出てきている背景には、被害者を保護しようとする裁判所の考えがあるものと考えられます。
交通事故の被害者に後遺障害が残ったような場合、被害者は、逸失利益を請求することができますが、これはあくまで、交通事故が原因となって減収が発生している場合です。
このように、逸失利益を請求するには、原則として、それに見合う減収分が現に発生していることが必要です。しかし、減収が発生していなくとも、そこに「特段の事情」があることが認められれば、逸失利益を請求することはできます。それでも、保険会社との間では、逸失利益の有無について紛争となり、裁判にまで発展することも少なくありません。
「特段の事情」があるかどうかの判断は、簡単ではないうえ、裁判にまで発展する可能性もあることを考えると、弁護士などの専門家に一度相談した方がよいといえるでしょう。