東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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交通事故の被害者となり、ケガをしてしまい入院や通院が必要となった場合、交通事故被害者は加害者側に対して、交通事故慰謝料を請求することができます。
交通事故慰謝料は、交通事故被害者が相手方である加害者に支払われるべき賠償金の項目です。
交通事故被害者は慰謝料の請求が可能ですので、相手方から適正な慰謝料を受け取れるように、慰謝料の算定方法を把握することをお勧めします。
この記事では、交通事故によって8ヵ月通院した場合を事例に挙げて、交通事故慰謝料の算定方法をご説明いたします。
交通事故被害者が加害者側へ請求できる賠償金の項目には、次のようなものがあります。
治療費や通院交通費、休業損害の他に、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料といった3種類の慰謝料が含まれています。
慰謝料とは、被害者の財産以外に生じた損害のための賠償のことを指し、精神的・肉体的苦痛を金銭に換算したものです。
入通院慰謝料は、交通事故によりケガをした被害者が、ケガの治療のために入院・通院をした場合に、その入通院による被害者の精神的・肉体的苦痛に対して、相手方である加害者から支払われる慰謝料のことです。
後遺障害慰謝料は、交通事故によりケガをした場合、治療を続けても完治せずに、神経症状や運動障害、機能障害等が後遺症として残ってしまい、その後遺症が後遺障害として認定された場合に支払われる慰謝料のことです。
死亡慰謝料は、交通事故被害者が死亡した場合に、死亡させられたことについて被害者の精神的・肉体的苦痛に対して支払われる慰謝料のことです。
また、死亡慰謝料については、被害者自身のみならず被害者遺族の精神的苦痛に対する慰謝料も認められています。
慰謝料の計算は、次の3つの基準の計算方法が用いられます。
そして、どの基準を用いて計算するかによって、金額は大きく変わります。
自賠責基準 | 国から補償される最低限の賠償基準 |
---|---|
任意保険基準 | 各保険会社によって異なる賠償基準 |
弁護士基準 | 弁護士が用いることのできる裁判例に基づいた賠償基準 |
自賠責基準は、交通事故被害者の損害を最低限補償するための基準です。
車を運転する人が強制的に加入する自賠責保険によって定められています。
自賠責基準は慰謝料基準の3つの基準の中で最も低い賠償額となります。
任意保険に加入していなければ、この自賠責基準が適用されます。
自賠責基準での補償金の限度額は以下のとおりで、賠償額がこの限度額を超える場合には、任意保険に加入していなければすべて自己負担となります。
ケガをした場合 | ケガによる治療費等の補償金は最大120万円 |
---|---|
後遺症がもたらされた場合 | 後遺障害に対する補償金は最大4000万円 |
死亡した場合 | 死亡に対する補償金は最大3000万円 |
自賠責保険での慰謝料は、1日4200円と規定されています。
そして、「実際に入通院した日数(入通院実日数)を2倍にした値」、もしくは「治療期間(通院開始から終了までの全期間)のうち、少ない方に4200円をかけた額」が、自賠責基準での計算方法です。
例えば、交通事故により1ヶ月通院し、そのうち通院実日数は5日の場合の通院慰謝料は、次のとおりになります。
上記①と②を比べると、①10日の方が少ないので、10日に4200円をかけて計算します。
したがって、この場合の通院慰謝料は10日×4200円=42,000円です。
交通事故で後遺症がもたらされ、後遺障害が認められた場合には、後遺障害等級によって金額が異なります。
後遺障害等級は1級から14級まであり、あらかじめ等級ごとの慰謝料の金額が決められています。
また、後遺障害慰謝料は、入通院慰謝料とはまったく別物と考えますので、入通院慰謝料の120万円の範囲には含まれないことになります。
後遺障害等級に応じた後遺障害慰謝料は次のとおりです。
1級 | 1100万円 |
---|---|
2級 | 958万円 |
3級 | 829万円 |
4級 | 712万円 |
5級 | 599万円 |
6級 | 498万円 |
7級 | 409万円 |
8級 | 324万円 |
9級 | 245万円 |
10級 | 187万円 |
11級 | 135万円 |
12級 | 93万円 |
13級 | 57万円 |
14級 | 32万円 |
死亡慰謝料には、交通事故被害者が死亡した場合に、亡くなった被害者本人と被害者遺族に支払われる慰謝料の2つがあります。
そのうち、亡くなった被害者本人の死亡慰謝料は、自賠責基準で一律350万円とされています。
また、自賠責基準での死亡した被害者の遺族へ支払われる慰謝料は、その慰謝料の請求人数によって金額が変わります。
請求する遺族(家族)は、被害者の親・配偶者・子供と決められています。
被害者遺族に支払われる慰謝料は、請求者が家族1人の場合には550万円、2人の場合には650万円、3人の場合には750万円となり、3人以上の場合は750万円に1人あたり200万円ずつ上乗せされることになります。
任意保険基準は、交通事故加害者が任意保険(自動車保険)に加入している場合に適用される基準です。
賠償額は保険会社によって異なり、各保険会社がそれぞれ賠償額を設定されています。
任意保険基準は自賠責基準の範囲を超えた部分を補償するための基準です。
交通事故の被害者となった場合、事故の相手方である加害者が任意保険に加入していたら、その任意保険会社と交渉することになり、保険会社から提示される慰謝料の金額は、この任意保険基準によって計算されたものになります。
任意保険基準は、保険会社ごとに賠償額が設定されているため、詳細な金額については異なりますが、次のような相場があります。
任意保険基準の通院慰謝料は、自賠責基準とあまり変わらない金額となります。
(月) | 入院 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 25.2 | 50.4 | 78.6 | 95.8 | 113.4 | 128.6 | 141.2 | 152.4 | 162.6 | 170.2 | |
1 | 12.6 | 37.8 | 63 | 85.6 | 104.7 | 120.9 | 134.9 | 147.4 | 157.6 | 167.6 | 173.9 |
2 | 25.2 | 50.4 | 73 | 94.6 | 112.2 | 127.2 | 141.2 | 152.5 | 162.6 | 171.4 | 176.4 |
3 | 37.8 | 60.4 | 82 | 102 | 118.5 | 133.5 | 146.3 | 157.6 | 166.4 | 173.9 | 178.9 |
4 | 47.8 | 69.4 | 89.4 | 108.4 | 124.8 | 138.6 | 151.3 | 161.3 | 168.9 | 176.4 | 181.4 |
5 | 56.8 | 76.8 | 95.8 | 114.6 | 129.9 | 143.6 | 155.1 | 163.8 | 171.4 | 178.9 | 183.9 |
6 | 64.2 | 83.2 | 102 | 119.8 | 134.9 | 147.4 | 157.6 | 166.3 | 173.9 | 181.4 | 185.4 |
7 | 70.6 | 89.4 | 112.2 | 128.6 | 141.2 | 152.4 | 162.6 | 171.3 | 178.9 | 186.4 | 191.4 |
8 | 76.8 | 94.6 | 112.2 | 128.6 | 141.2 | 152.4 | 162.6 | 171.3 | 178.9 | 186.4 | 191.4 |
9 | 82 | 99.6 | 116 | 131.1 | 143.7 | 154.9 | 165.1 | 173.8 | 181.4 | 188.9 | 193.9 |
10 | 87 | 103.4 | 118.5 | 133.6 | 146.2 | 157.4 | 167.6 | 176.3 | 183.9 | 191.4 | 196.4 |
単位(万円)
任意保険基準においても、後遺障害慰謝料は後遺障害等級に応じて設定されています。
1級 | 1600万円 |
---|---|
2級 | 1300万円 |
3級 | 1100万円 |
4級 | 900万円 |
5級 | 750万円 |
6級 | 600万円 |
7級 | 500万円 |
8級 | 400万円 |
9級 | 300万円 |
10級 | 200万円 |
11級 | 150万円 |
12級 | 100万円 |
13級 | 60万円 |
14級 | 40万円 |
交通事故で亡くなった被害者の家庭における地位によって、被害者本人の死亡慰謝料金額は異なります。
死亡慰謝料として被害者の家庭における地位に関わらず一律350万円の自賠責基準と比較すれば、任意保険基準の死亡慰謝料は高額になります。
一家の支柱 | 1500万~2000万円程度 |
---|---|
配偶者または母親 | 1300万~1600万円程度 |
子供 | 1200万~1500万円程度 |
高齢者 | 1100万円~1400万円程度 |
弁護士基準は、過去の裁判例をもとにした慰謝料算定基準で、裁判基準とも呼ばれます。
自賠責基準・任意保険基準と比べて一番高額な慰謝料を計算することができます。
最も低額な自賠責基準と比較すると2倍程度大きい金額となります。
日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称 赤本)に、過去の裁判例や弁護士基準の賠償額の計算方法が記載されています。
この赤本に記載されている、骨折等の比較的重いケガの場合に用いられる弁護士基準の慰謝料算定基準表(別表Ⅰ)は次のとおりです。
月 | 入院 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | |
1 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 |
2 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 |
3 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 |
4 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 326 | 323 |
5 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 |
6 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 |
7 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 301 | 316 | 324 | 329 |
8 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 |
9 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 |
10 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 |
単位(万円)
また、同じく赤本に記載されている、むち打ちのような他覚的所見のないケガの場合に用いられる弁護士基準の慰謝料算定基準表(別表Ⅱ)は次のとおりです。
月 | 入院 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | |
1 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 |
2 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 171 | 182 | 190 | 199 |
3 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 201 |
4 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 |
5 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 |
6 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 |
7 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 |
8 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 |
9 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 |
10 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 |
単位(万円)
以上の弁護士基準の慰謝料算定基準表からわかるように、弁護士基準による慰謝料は他の2つの基準と比べて最も高い賠償額となります。
例えば、骨折によって3ヶ月通院すれば、73万円、むち打ちによって6ヶ月通院すれば、89万円の通院慰謝料となります。
弁護士基準においても、自賠責基準や任意保険基準と同じく、後遺障害等級に応じて後遺障害慰謝料の相場が定められています。
1級 | 2800万円 |
---|---|
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
弁護士基準の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級14級なら110万円となりますので、同じく後遺障害等級14級なら、任意保険基準での後遺障害慰謝料40万円と比較しても3倍近く増額することになります。
弁護士基準での死亡慰謝料の相場は、その事案に応じて裁判所が決定したり、弁護士が交渉したりして決めることになりますが、大体の相場は次のとおりです。
一家の支柱 | 2800万円程度 |
---|---|
配偶者または母親 | 2500万円程度 |
その他 | 2200万円程度 |
交通事故によって8ヵ月通院した場合の慰謝料の金額はどのようになるのでしょうか。
通院期間が8ヵ月(240日)、通院実日数が100日であった場合、通院期間240日と通院実日数100日を2倍にした200日を比べ、少ない方の200日を慰謝料算定日数とします。
したがって、200日×4200円=84万円が通院慰謝料となります。
次に、通院期間が8ヵ月(240日)、通院実日数が130日であった場合、通院期間240日と通院実日数130日を2倍にした260日を比べ、少ない方の240日を慰謝料算定日数とします。
したがって、240日×4200円=108万円が通院慰謝料となります。
また、後遺障害等級が認定されればその等級に応じて自賠責基準で定められた後遺障害慰謝料が認められます。
任意保険基準では、保険会社ごとに基準が異なりますが、相場としては通院8ヵ月の場合の通院慰謝料は76万8000円となります。
さらに、後遺障害等級が認定されればその等級に応じて自賠責基準で定められた後遺障害慰謝料が認められます。
弁護士基準の場合、ケガの内容が骨折等の比較的重傷の場合には、8ヵ月通院した時の慰謝料は132万円となり、ケガの内容がむち打ち等の比較的軽傷の場合には、8ヵ月通院した時の慰謝料は103万円となります。
また、後遺障害等級が認定されればその等級に応じて自賠責基準で定められた後遺障害慰謝料が認められます。
14級の場合で110万円、13級の場合で180万円となります。
いかがでしょうか。
今回は交通事故の慰謝料の種類と慰謝料算定基準3つについての説明、そして、8ヵ月通院した場合の慰謝料について解説しました。
交通事故の被害者となってしまった場合、どのように慰謝料を算定するかわからないという方が多いと思います。
場合によっては、相手方保険会社が提示する賠償額にそのまま同意してしまい、本来もっと受け取れたはずの金額を下回る賠償額しか受け取れなかったというパターンも考えられます。
そうならないように、慰謝料算定基準をしっかり把握し、できるだけ弁護士に相談して弁護士基準によって慰謝料の請求をするようにしましょう。