東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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目次
被害者請求(ひがいしゃせいきゅう)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
交通事故の被害者が請求できる慰謝料には、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料がありますが、後遺障害慰謝料は、自賠責事務所という審査期間に後遺障害の存在と交通事故との因果関係を示す書類を提出し、等級認定してもらわない限り、もらうことができません。
自賠責事務所への申請方法としては、加害者の任意保険会社に手続きをまかせる事前認定という方法と、被害者自らが申請をする被害者申請の二つがあり、それぞれの特徴があるのです。
この記事では、上記の手続きのうち、被害者申請手続きについてご説明します。
交通事故で負傷した場合、怪我の治療をしてもなお残存してしまう後遺症が残ってしまうことがあります。たとえば、追突事故などで頚椎部分を損傷したことにより、神経にダメージを受けて、耳鳴りや頭痛がつづくなどのいわゆるむち打ち症が残るようなことがあります。
こうした場合、主治医がこれ以上治療を続けても大きく症状が改善も改悪もされないと判断したタイミングで症状固定という診断をします。症状固定がなされると、これまで保険会社から支払われていた入院通院費などの障害慰謝料の支払いが打ち切られることになります。しかし、被害者としてはその後の長い時間、後遺症と付き合っていかなければいけません。梅雨時には具合が悪くなるというようにクオリティオブライフが大きく下がってしまうので、金銭的保障を求めたいところです。
後遺症のなかで、所定の要件に当てはまる後遺症であり、事故との因果関係があるものについては、自賠責事務所という審査機関に後遺障害等級申請をすることにより、後遺障害慰謝料を受け取ることができるのです。
詳しく知りたい方は、「交通事故で加害者に請求できる後遺症慰謝料(後遺障害慰謝料)について解説」を参照してください。
後遺障害慰謝料を求めるための後遺障害等級認定申請手続きは、実は加害者の保険会社に手続きを代行してもらう事前認定のほうが、多く利用されています。なぜ、加害者の保険会社が被害者のためにそのような手続きを代行してくれるのかというと、任意保険会社は、法律上の強制保険である自賠責の上乗せとして保険料を払うという立場なので、自賠責保険と任意保険とを合算した金額を、自賠責保険会社の分を立て替えて一旦支払います。支払った後は、任意保険会社が自賠責保険に求償するということになりますので、任意保険会社としては自賠責保険会社から支払われる金額をあらかじめ知っておく必要があるのです。
事前申請のメリットとしては、煩雑な申請手続きを保険会社が代行してくれるので、被害者としては負担が軽くなります。怪我の治療で身体的にも精神的にも負担が大きい被害者ですので、事務作業をかわってもらえることにはメリットがあるのです。
上述のように、事前申請が一般的なのですが。被害者が希望する場合は、申請手続きを被害者自身で進めることも可能です。これを被害者申請と言います。
被害者申請の根拠としては、自賠責法16条に定めがあります。
(保険会社に対する損害賠償額の請求)
第十六条 第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
それでは、加害者の保険会社が手続きを代行してくれるのにもかかわらず、あえて被害者申請を行うメリットは何でしょうか?
まずは、加害者が任意保険に加入していない場合、代行してくれる保険会社が存在しませんので、被害者申請を利用せざるを得ません。
もう一つの大きなメリットとして、被害者請求をしたほうが、後遺障害等級認定が高いものとなり高額な慰謝料をもらえることが多いということがあります。こうしたことを考えて、事務負担は増えたとしても、戦略的に被害者請求を利用する人もいます。
なぜ被害者申請の方が、認定結果が良くなるのでしょうか。加害者側の保険会社は、後遺障害慰謝料が増えてもそれは自社の利益になるわけではありませんので、事務的に淡々と申請手続きをします。会社という営利組織ですので、当然自社の利益にならないような事項に時間や人員をさくわけにはいきません。申請に必要最低限の書類の容易には協力してくれますが、積極的なスタンスで臨むことは期待できないでしょう。
こうした事務的な対応は、レントゲンやMRIなどにうつらないむち打ち症などの場合には、被害者が望む結果に繋がりにくいことが多いです。骨折や部位の欠損などの場合は、一見して映像などにうつるので、自賠責事務所の方でも判断が分かれる可能性は低くなりますが、自覚症状しかないものの場合は、被害者のコメント、後遺障害診断書の記載のほか、追加テストなどをしたほうが、希望する適切な後遺障害等級が獲得できる可能性が高いです。
一方、被害者請求をえらぶと、被害者自身が自分の症状の存在や事故との因果関係の証明に必要だと思われる資料を工夫して、自由に提出することができます。
自賠責事務所による後遺障害等級認定申請は、書面主義といって提出された書類のみで結果が判断されます。労災の後遺障害等級認定の際は、被害者への聞き取り面接なども行われるので、不足や不明があれば、面談の際に補足することができますが、交通事故の後遺障害等級認定の際はそうもいきません。
また、被害者に有利な情報があっても、書類に記載がなければそもそも審査されないのです。そのため、後遺障害等級認定については提出書類が非常に重要なのです。
上述のように、加害者の任意保険会社は、事前申請の場合は、任意保険会社の支払い部分と自賠責支払い部分を合算して支払います。そのため、慰謝料は全ての示談交渉成立後に払われることとなります。もっとも、治療費や休業損害など傷害慰謝料は、保険会社によっては前倒しで支払われることも多いですが、ある程度まとまった金額を早めに欲しいという場合もあるでしょう。
そうした場合は、被害者申請で、任意保険会社との示談交渉と切り離して先に自賠責保険の請求をするという手はあります。自賠責保険は法律上、交通事故の被害者に対する最低限の保障を行うものですので、任意保険会社との示談交渉の状況によらず、先に請求することができるのです。
後遺症が残ってしまっている場合は心理的にも追い詰められていることが多いですので、
一時金が入ることで気持ちの余裕がでるでしょう。まとまった金額をもらうことで、余裕を持って示談交渉にじっくり望むことができます。
交通事故の原因は加害者にのみ過失があることもありますが、速いスピードですれ違う車同士がぶつかるなど、どちらにも過失があることも少なくありません。そうした場合、過失割合といって、過失の程度がより大きいほうが加害者、少ないほうが被害者として示談金の支払いがなされるものの、被害者の過失相当部分は損害賠償請求額から控除されます。
場合によっては、被害者の過失割合もかなり大きく、過失分を控除すると任意保険会社に対する請求がほとんどできないという場合もあります。こうした場合には、任意保険会社をとおさず、被害者自らが自賠責保険に請求したほうがよいということもあります。
自賠責法の趣旨は、交通事故の被害者を浅く広く救済するということですので、原則過失割合が控除されずに保険金が降りることが多いのです。そのため、任意保険会社に請求するよりも、自賠責保険に被害者請求する方が、もらえる保険金の額が高くなるということもあります。
被害者請求のデメリットとしては、申請書類を全て被害者が準備するため、手間がかかるという点です。
被害者申請に必要な書類は、主治医からもらう後遺障害診断書のほか、自覚症状がメインの後遺症である場合は、たとえば事故による耳鳴りの場合などは聴こえについてのテストを実施してもらい診断書を追加でとるということも必要です。また、事故状況を示すために、警察か実況検分書類を取り寄せたり、会社に対して休業関係の書類を取り寄せることも必要です。事故後体調が思わしくない場合には、こうした準備作業は負担が大きいことがあります。また、症状の証明のための補足書類も、提出自由度が高い反面、自分で何が必要か判断する必要があるなど、判断に迷うこともあるでしょう。
判断に迷う場合は、交通事故の取り扱い実績が多い弁護士などの専門家の力を借りるという手もあります。専門家であれば、過去の経験からどういった書類を出せば認定に有利に働くかというようなノウハウがありますので、準備がスムーズにストレスなく進む可能性があります。
被害者請求で自賠責保険会社から、任意保険会社との示談交渉とは別に受け取ることができる金額は、以下の通りとなります。繰り返しになりますが、最低限の被害者救済が趣旨のため、支払われる保険金には上限があり、自賠責でカバーしきれなかった損害は引き続き任意保険会社との示談交渉により補償を受けることになります。なお、自賠責から受け取った金額について任意保険会社から二重に受け取ることはできないので、超過した損害分についてのみ任意保険会社に請求していくこととなります。
被害者請求で請求できる慰謝料としては、傷害による損害として120万円までの請求ができます。この慰謝料には、怪我の入院通院などの治療費や交通費、治療のためにやすまなければならなかった分の休業損害などが含まれます。
参照:「休業損害」の職業別計算方法と抑えるべきポイントを一挙解説!
また、怪我をすると苦痛から精神的ダメージを受けますので、入通院慰謝料も含まれます。なお、自賠責で賄われる費用には個室ベッド代などは含まれません。
そのほか、細かい費用も請求できますので、忘れずに領収書をとっていきましょう。痛みの緩和のために受ける整体、あんま・マッサージ代金、足の損傷をした場合の義肢費用や松葉杖、車椅子など必要な装備のための費用なども請求できます。
被害者申請の必要書類として、主治医から後遺障害診断書を発行してもらいますが、これについても数千円かかりますので、作成代も請求しましょう。
後遺障害についての保障は、自賠責事務所から認定を受けた等級によって支払われる金額が変わりますが、75〜4,000万円といった幅になります。
この金額には、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益が含まれています。
等級には1級から14級まであり、数字が若いほど重篤な後遺症という意味になり、受け取る金額もあがります。自賠責の後遺障害慰謝料についての各等級の限度額は、以下のとおりとなります。
なお、最も重い1級には完全に植物人間状態となるようなケースも含まれます。このように後遺障害により、いきていくために常に他人の介護を必要とするような状態になった時は上限がひきあげららるため、最高4,000万円まで請求が可能です。次に重い第2級で、つきっきりではなくても随時介護が必要な場合の上限は、最高3,000万円までとなります。。
被害者が交通事故によりなくなった場合は、死亡慰謝料や死亡逸失利益として3,000万円まで請求することができます。なお、被害者が即死ではなく、病院に収容されてしばらくしてから亡くなった場合は、合わせて上述の傷害慰謝料である120万円を請求できます。
死亡保険金には、死亡慰謝料として、被害者本人の精神的苦痛と愛する近親者を失った遺族の精神的苦痛に対する慰謝料が含まれます。被害者本人はなくなっていてもはや慰謝料請求はできませんが、死に至るまでの極限の精神的苦痛が発生したことについての慰謝料請求権は遺族に相続されます。また、両親、配偶者、子供などごく近しい親族は、愛する家族を失ったことにより多大な苦痛を味わいますので、固有の慰謝料請求権が発生します。
そのほかには、死亡逸失利益として、被害者が生きていれば働いて稼げていたはずの収入補填分も含まれています。
被害者請求には、まだ怪我の治療が終わっていなくて、傷害慰謝料や後遺障害慰謝料の被害総額が確定していなくても、先に一定額の保険金の前払いを受けられる仮私金制度があります。特に、一家の大黒柱が怪我をした場合など、すぐに現金が必要な場合には、請求するメリットがあります。いう制度があります。手続きも簡易で、仮払金の申請をしてからすぐ支払ってもらうことができますので、事故後すぐに少しでも現金が必要という場合は申請してみましょう。
死亡事故の場合は290万円、怪我の場合は軽症のときには5万円、中程度の場合は20万円、重症の場合は40万円請求することができます。
被害者請求をする場合に自賠責事務所に提出が必要になる書類には、以下のものがあります。なお、提出前に、交通事故案件の取り扱い件数が豊富な弁護士などに、提出書類をチェックしてもらえれば、安心です。自賠責事務所への請求にあたっては、診断書や医学的検査結果などが、適切な後遺障害等級認定をしてもらうために極めて重要なのですが、主治医は医療のプロフェッショナルであっても、被害者請求などの手続きに詳しいとは限りません。また、腕のいい医師であれば、診察に追われて時間がないので、あまり書類作成に割く時間がとれないこともあります。
そのため、主治医が作成した診断書が、必ずしも後遺障害等級認定申請のために必要十分な内容をカバーしているとは限りません。交通事故に詳しい弁護士などにみてもらうことにより、診断書の過不足がわかるため、主治医にお願いして適切な内容に書き直してもらうことができます。事実、弁護士の指摘による診断書等の不足で、何度か主治医に書き直してもらった書類により、適切な後遺障害等級認定を得ることができたケースも多くあるようです。
必要書類を以下に述べます。
保険金(共済金)・損害賠償額・仮渡金支払請求書
交通事故証明書(人身事故)
事故発生状況報告書
主治医が作成した診断書または死体検案書(死亡診断書)
診療報酬明細書
通院交通費の領収書や明細書
付添看護自認書または看護料領収書
会社員の場合、勤務先の休業損害証明書と源泉徴収票
自営業の場合、納税証明書、確定申告書等
請求者の印鑑証明書
被害者が未成年の場合は、未成年者の住民票または戸籍謄本
被害者の戸籍謄本
後遺障害診断書
レントゲン写真や医学的テストの結果など
被害者請求の流れを、時間軸で説明すると以下のようになります。
交通事故の怪我の完治または症状固定の診断による治療の終了後、上述の必要書類を一つずつ用意していきます。書類が揃ったら、可能な限り弁護士等の事前チェックを受けます。
その後、提出された書類を、自賠責損害調査事務所により審査がされ、結果が通知されます。
その後、保険金の振込があります。
被害者申請は、被害者にも過失がある場合や、加害者が任意保険会社に加入していない場合のほか、むちうちなど他覚所見がないような症状について、被害者側で納得がいくまで証明資料を用意することで、適切な後遺障害等級認定が得られるなど、被害者にメリットがあることをご説明しました。
とはいえ、事前申請とは違い、証明書類や手続きを事故後の被害者が全てやるのは大変ですし、書類の準備は複雑なので専門知識も必要です。
そのため、被害者申請を交通事故の取り扱い実績の多い弁護士に依頼するということも一つの方法です。弁護士であれば、申請のノウハウもありますし、その後の保険会社との示談交渉も続けて頼むことができるので、何かと心強いものです。
弁護士を選ぶ際には、被害者も任意保険に入っていて弁護士特約を付けている場合などは保険会社から紹介を受けることもできますし、インターネットや法テラスなどで、交通事故の取り扱い実績が多い事務所を自分で選んで依頼することもできます。弁護士とクライアントには信頼関係も重要ですので、可能であれば複数の弁護士と会ってみて、以来前にご自身との相性を確認してみるとよいでしょう。被害者申請にあたっては、診断書や既往症などの情報を弁護士に知らせた上で手続きを行ってもらいますので、センシティブな情報を渡しても安心して相談ができる人というのが一番です。
弁護士費用について心配な場合は、いくつかの事務所から見積もりを取ってみて比べてみましょう。弁護士特約という特約を、被害者が任意保険会社に申し込んでいる場合は、弁護士費用が最大300万円まで保障されます。交通事故案件の弁護士費用は300万円以内におさまることがほとんどですので、実質無料で専門家のアドバイスを受けることができる場合もあります。また、慰謝料を受け取った後の成功報酬で支払えばよい部分も多いので、弁護士に相談してみましょう。
交通事故の被害者の方が被害者申請を通して適切な補償を受け、一日も早く笑顔を取り戻されることをお祈り申し上げます。
詳しく知りたい方は、「弁護士に交通事故を依頼するメリット・デメリットとは?」を参照してください。