東京弁護士会所属。
交通事故の被害者にとって、弁護士は、妥当な慰謝料をもらうための強い味方になります。
特に、加害者の保険会社との示談交渉がうまくいかず悩まれていたり、後遺症が残ってしまい後遺障害慰謝料請求を考えていたりする方は、 ぜひ検討してみてください。
交通事故で怪我をしたら、その治療費や入通院期間中の慰謝料などを加害者へ請求することができます。
怪我の治療をしても完治せず、後遺症が残ってしまった場合はその後遺症に関する慰謝料や逸失利益も請求できます。
しかし、単に「後遺症が残った」というだけで後遺障害に関する損害を賠償してもらえるわけではありません。
後遺症に関する慰謝料や逸失利益を請求するためには、「後遺障害認定」を受けなければなりません。
後遺障害認定を受ける方法には「事前認定」と「被害者請求」という2つの方法がありますが、どちらで申請するかによって結果が異なる場合もあります。
今回は、後遺障害認定を受けるまでの流れや期間についてご説明し、事前認定と被害者請求の違いについても解説していきます。
目次
後遺障害とは、交通事故による怪我が完治せずに残ってしまった後遺症について、加害者から適切な賠償を受けるために正式な認定を受けたもののことです。
ひと口に後遺症といっても、症状や程度は千差万別です。
後遺症が残った被害者一人ひとりに対して個別に損害額を計算したのでは非効率的ですし、同じような交通事故でも賠償額が人によって異なり、不公平な結果が生じてしまいます。
そこで、実務では後遺障害について統一的な認定基準と賠償基準を設け、個別の被害者の認定内容に応じて一律の賠償額を支給することとされています。
後遺障害には1級から14級までの14段階があり、1級が最も重く、14級が最も軽くなっています。
賠償額も、等級が重いほど高額となります。
以下で、主な後遺障害の内容をご紹介します。
「むちうち」とは、交通事故の衝撃によって首がむちのようにしなって過伸展したために、頚部を損傷するものです。
症状としては、首や肩、背中、腕の痛みやしびれの他、頭痛や吐き気、めまい、耳鳴りなどを伴うこともあります。
むちうちが完治せずに後遺障害として認定される場合は、12級または14級となります。
ただし、症状が残った原因が医学的に説明不可能な場合は、非該当として後遺障害とは認められないこともあります。
「低髄液圧症候群」とは、脳脊髄腔に穴が開いて脳脊髄液が漏れ出すことにより、さまざまな症状を引き起こすものです。
交通事故の衝撃によっても脳脊髄腔に穴が開き、脳脊髄液が漏れ出すことがあります。
症状としては、頭痛や首の痛み、めまいや吐き気、倦怠感、耳鳴りなどがあり、むちうちの症状とよく似ています。
しかし、低髄液圧症候群の場合は、起き上がったときに強い頭痛が起こるのが特徴的です。
低髄液圧症候群で後遺障害に認定される場合は、9級、12級、14級のいずれかになります。
「高次脳機能障害」とは、脳が損傷することによって知的活動に支障をきたすものです。
交通事故の衝撃によって脳が損傷した場合は、後遺障害の対象となります。
高次脳機能障害の主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
高次脳機能障害で後遺障害に認定される場合は、1~3級、5級、7級、9級のいずれかになります。
「外貌醜状」とは、交通事故によって頭部や顔面、頸部など日常的に露出する部分を負傷し、傷跡が残ってしまった場合の後遺障害のことをいいます。
身体の運動機能に支障がなくても、頭部や顔面、頸部などに傷跡が残ると、職種や性別などによっては仕事に支障が出ることから、後遺障害の対象とされています。
外貌醜状で後遺障害に認定される場合は、7級、9級、12級のいずれかになります。
「上肢機能障害」とは、肩・肘・手首といった上肢の三大関節が動かなくなったか、動きにくくなることをいいます。
上肢機能障害で後遺障害に認定される場合は、1級、5級、6級、8級、10級、12級のいずれかになります。
「下肢機能障害」とは、股・ひざ・足首といった下肢の三大関節が動かなくなったか、動きにくくなることをいいます。
下肢機能障害で後遺障害に認定される場合は、1級、5級、6級、8級、10級、12級のいずれかになります。
後遺障害認定は交通事故に遭った後、すぐに申請できるわけではありません。
後遺障害が残ることが医学的に確定した後、申請することになります。
では、具体的にいつ、どこに、どのように申請すればいいのでしょうか。
後遺障害認定を申請するのは、交通事故による怪我の治療をある程度続けて、主治医から「症状固定」と判断された後になります。
症状固定とは、それ以上治療を続けても、症状が良くも悪くも変化しないと認められる状態になることをいいます。
主治医が症状固定と判断すれば、「後遺障害診断書」を発行してもらい、後遺障害認定をすることになります。
病院に入通院して治療を続けていると、加害者側の任意保険会社の担当者から治療打ち切りの打診を受けることがあります。
「そろそろ保険会社からの治療費の支払いを打ち切ります。
まだ治っていない場合は症状固定としてください」などと言われます。
むちうちの場合、治療を開始してからおおよそ3か月が経過すると、多くのケースでこのような打診があります。
しかし、症状固定に至ったかどうかを判断するのは医師です。
保険会社に言われるままに治療を打ち切ってしまうと、治療効果も十分に上がりませんし、入通院慰謝料も少なくなってしまいます。
まだ症状が動く可能性もあるので、後遺障害認定を適切に受けられないおそれもあります。
保険会社から打診を受けたら主治医とよく相談のうえ、本当に症状固定となるまで治療を続けるようにしましょう。
後遺障害認定の申請先は、加害者側の自賠責保険会社です。
後遺障害の認定そのものは自賠責保険の「損害保険料率算出機構」という中立公平な機関で行われます。
しかし、後遺障害認定を申請するときは自賠責保険会社へ保険金を請求する形を取るので、直接の申請先は加害者側の自賠責保険会社になります。
自賠責保険会社へ必要書類や資料を送付すれば、損害保険料率算出機構へ回されて調査の上、後遺障害の認定が行われます。
申請をするには、「保険金請求書」に後遺障害診断書その他必要書類や参考となる資料を提出します。
損害保険料率算出機構の調査は、書類・資料でのみ行われます。
基本的に対象者と面談することはありません。
必要書類などの詳細については、次項で詳しくご説明します。
後遺障害認定を申請してから認定まで、何をどのような手順で進める必要があるのでしょうか。
ここでは、申請の前提となる症状固定の段階から、手順を追ってご説明します。
先ほどもご説明しましたが、主治医が症状固定の診断を出すまでは治療に専念しましょう。
加害者側の任意保険会社から治療費打ち切りの打診があっても、主治医から医学的な見解に基づいて治療期間の見込みを伝えれば、ある程度は治療費の支払いが継続されるはずです。
それでも強引に治療費を打ち切られたら、弁護士に相談することをおすすめします。
症状によっては、手術を受けるかどうかで迷う場合もあるでしょう。
手術を受けなければそれ以上の改善は見込めない状態で、手術をすれば改善する可能性もあるもののリスクも存在する場合などです。
このような場合は、第一にはご自分の今後の生活や仕事にとってどちらが望ましいかを考えて判断すべきです。
しかし、手術を受けるかどうかで後遺障害認定の結果が大きく変わる可能性もあります。
迷う場合は、主治医とよく話し合うことはもちろん、弁護士に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。
症状固定に至ったら、主治医に後遺障害診断書を発行してもらいましょう。
後遺障害認定を申請するためには、後遺障害診断書を取得することが必要不可欠です。
後遺障害診断書には、自覚症状や他覚所見など症状の内容や検査結果、治療経過や予後の見込みなどが記載されます。
損害保険料率算出機構の調査では、後遺障害診断書の記載内容が最も重視されます。
そのため、後遺障害診断書の記載は非常に重要です。
後遺障害診断書の記載内容が重要だからといって、医師が虚偽の内容を記載することは法律で禁止されています。
また、患者が希望する内容を医師が記載するわけでもありません。
後遺障害診断書の記載内容を充実させるために患者ができることは、症状を可能な限り正確に説明することです。
具体的に詳しく説明し、主治医に理解してもらわなければ主治医が正確に症状を記載することはできません。
この点、交通事故に関するトラブルに巻き込まれることをおそれたり、あるいは経験がないために適切な内容の後遺障害診断書を作成できない医師もいます。
交通事故による患者を積極的に診療していて、後遺障害診断書の作成経験が豊富な医師であれば、適切に後遺障害診断書を作成することができます。
経験豊富な医師を探してある程度の期間治療を受けて、後遺障害診断書の作成を依頼するのもひとつの方法です。
弁護士に依頼して、症状固定の診断に同席してもらうのも有効です。
主治医が要領を得ていない場合でも、弁護士から後遺障害診断書の記載方法や記載する際の注意点を説明してもらうことができます。
必要な検査が不足していると考えられるときは、弁護士から追加の検査を主治医に依頼することもできます。
これ以降は、「事前認定」の場合と「被害者請求」の場合で流れが異なってきます。
後遺障害等級認定の申請手続きには、
①事前認定:加害者側の保険会社が手続きを行う
②被害者請求:被害者が自ら手続きを行う
の2通りがあります。
それぞれの手続きについてみていきましょう。
後遺障害認定の申請手続きを加害者側の任意保険会社に任せる申請方法のことを「事前認定」といいます。
まずは、事前認定の手続きから見ていきましょう。
事前認定の場合、被害者が行うのは取得した後遺障害診断書を加害者側の任意保険会社の担当者へ提出することだけです。
あとは、担当者が必要書類や資料を揃えて損害保険料率算出機構へ後遺障害認定を申請します。
後遺障害診断書を提出したら、認定結果が届くのを待つだけです。
認定結果は、損害保険料率算出機構から任意保険会社へ通知されます。
被害者に対しては、通知を受けた任意保険会社から連絡があるので、それを待ちましょう。
後遺障害認定の申請を加害者側の任意保険会社に任せるのではなく、被害者が自分で手続きを行う申請方法のことを「被害者請求」といいます。
ここでは、被害者請求の手順をご説明します。
被害者請求の場合は、申請に必要な書類や資料を自分で揃える必要があります。
必要な書類・資料は以下のとおりです。
・保険金請求書
自賠責保険会社に対して保険金の支払いを請求する書類です。
加害者側の自賠責保険に連絡して送ってもらいましょう。
加害者側の自賠責保険会社は、「交通事故証明書」に記載してあります。
・事故発生状況報告書
交通事故の発生状況を図入りで説明する書類です。
自賠責の書式を使用して、被害者が記載します。
・交通事故証明書
自動車安全運転センターで発行してもらいましょう。
・診断書、診療報酬明細書
事故後の治療経過を証明するために提出します。
治療を受けた医療機関で取得しますが、通常は加害者側の任意保険会社が既に取得しているものを入手します。
・通院交通費明細書
通院に要した費用の明細を記載して提出します。
後遺障害の認定には直接関係ありませんが、自賠責保険金の請求のために必要となります。
・休業損害証明書
怪我の治療のために仕事を休み、収入が減った場合は勤務先に作成してもらって提出します。
この書類も、自賠責保険金の請求のために必要となるものです。
・検査結果に関する資料
レントゲンやCT、MRIなどの写真、画像データその他、検査結果に関する資料を提出します。
検査結果は、後遺障害認定のために非常に重要です。
・その他、有効な資料
後遺障害認定申請のために提出できる書類・資料に制限はありません。
後遺障害の症状や程度の証明に役立つ書類・資料は積極的に提出しましょう。
具体的には、主治医の意見書、事故当事者や家族の陳述書などが主です。
他にも、状況に応じて有効な資料があるでしょう。
どのような資料が有効となるかは弁護士に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。
必要書類・資料が揃ったら、加害者側の自賠責保険会社へ送付しましょう。
あとは損害保険料率算出機構で調査が行われ、認定結果の通知が来るのを待つだけです。
損害保険料率算出機構で認定結果が出たら、自賠責保険会社から結果が通知されます。
後遺障害等級が認定された場合も非該当となった場合も、理由が記載された書面で通知が送られてきます。
後遺障害認定を申請する方法について、事前認定と被害者請求という2つの方法をご紹介しました。
この2つの方法は、どちらがよりメリットがあるのでしょうか。
まず、事前認定のメリットとデメリットをご説明します。
事前認定には、申請の手間がかからないというメリットがあります。
後遺障害診断書を加害者側の任意保険会社の担当者へ提出するだけで、あとは何もする必要はありません。
申請の手続きを任意保険会社に任せると、どのような書類・資料を提出されるかが不明となります。
基本的に必要な書類や資料は提出してもらえますが、被害者に有利な書類や資料をあえて取得して提出してもらえるわけではありません。
場合によっては、被害者に不利な書類や資料を提出されてしまうこともあります。
デメリットは、「相手の保険会社が、被害者の障害等級認定がなされるような努力はしてくれないだろう」ということです。
考えてもみてください。後遺障害慰謝料を支払うのは相手の保険会社です。いってみれば、被害者とは「利益相反の関係」なのです。
次に、被害者請求のメリットとデメリットをご説明します。
被害者請求を行って障害等級認定を受けることができれば、その等級に応じた損害賠償額を受け取ることができます。
もし被害者請求を行わなければ、最終的な示談交渉が終わるまでまとまったお金を受け取ることはできないので、これは大きなメリットといえます。
保険会社が提示してきた慰謝料に納得がいかずに弁護士を立てる場合、ここで得た損害賠償を弁護士費用に充てることが可能になります。
加害者側に「お任せ」の事前認定と異なり、被害者請求の場合、自分の主治医に障害認定を受けるのに有利になるような後遺障害診断書や意見書を書いてもらうことができます。そのため、障害認定を受けられる可能性が高くなります。
保険会社によっては慰謝料を自賠責保険の範囲内ですませようと、示談を迫ってくることがあります。
しかし被害者請求で先に自賠責保険から損害賠償額を受け取っておけば、保険会社も「すでに自賠責保険からお金をもらっているので、もういいでしょう?」とは言いづらくなります。
その結果、自賠責保険を上回る後遺障害慰謝料を提示してくる可能性が高くなります。
被害者請求の手続きには、手間がかかります。
保険金請求書や事故発生状況報告書の記載は慣れていないと難しいかもしれませんし、必要書類を一つひとつ取得するのにも手間を要します。
さらに、自分に有利な書類や資料を入手するのに苦労することもあるでしょう。
以上のように、後遺障害認定で有利な結果を得られやすいのは、間違いなく被害者請求の方です。
後悔したくなければ、被害者請求をした方がいいでしょう。
手間をかけたくない場合は、弁護士に依頼して代行してもらうこともできます。
ただ、後遺障害の認定結果が明らかに予測できる場合は、わざわざ手間をかけなくても事前認定によってもかまわないかもしれません。
その場合でも、事前に弁護士に相談して認定結果の見通しは確認しておいた方がよいでしょう。
申請してから後遺障害認定の結果が出るまでの期間は、1か月半~2か月程度のことが多いですが、長い場合は3~4か月かかることもあります。
症状が難しい場合や、症状と事故との因果関係に疑いがあるようなケースでは長期間の調査を要する傾向にあります。
結果を早く得るためには、申請手続きを速やかに行う他ありません。
事前認定の場合は任意保険会社の担当者が手間取ることによって時間を要する場合があります。
被害者請求の場合も、自分が準備に手間取ってしまうと時間を要してしまいます。
被害者請求の手続きを弁護士に依頼すれば、スムーズな申請が期待できます。
後遺障害等級認定の結果に納得できない場合は、「異議申し立て」をすることができます。
異議申し立てはいつまでにしなければならないという期間の制限はなく、回数の制限もありません。
ただし、単に異議を申し立てて前回と同じ書類・資料を見てもらうだけでは、結果は変わりません。
従前の認定結果を覆すためには、新たに有効な書類や資料を提出する必要があります。
あるいは、従前に提出した書類や資料の重要部分を損害保険料率算出機構が見落としていると考えられる場合は、説明を補足することで結果が覆る可能性もなくはありません。
従前の申請を事前認定で行った場合でも、異議申し立ては被害者請求で行うこともできます。
異議申し立てによっても結果を覆すのは容易なことではないので、弁護士に依頼するのがおすすめです。
異議申し立てをしてもなお正しい後遺障害等級の認定を受けられなかった場合はどうすればよいでしょうか。
自賠責保険・共済紛争処理機構に「調停」を申し出ることで結果を覆せる可能性があります。
それでも結果を覆せなかった場合は、訴訟(裁判)を提起することも考えられます。
後遺障害の等級認定は、損害保険料率算出機構の判断が絶対というわけではありません。
最終的には、裁判所がさまざまな事情を総合的に考慮して判断するものです。
実際に、損害保険料率算出機構では非該当とされた事例で、裁判では後遺障害等級が認められたケースもあります。
ただ、訴訟で結果を覆すのも容易なことではないので、弁護士に依頼すべきと考えられます。
事前認定による後遺障害等級の認定結果に納得できなかった場合でも、弁護士に依頼して異議申し立てをすることにより結果が覆ったケースは多くあります。
損害保険料率算出機構の出した認定結果に納得できない場合、諦めずに弁護士に相談した方がよいでしょう。