東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
交通事故で被害者が亡くなってしまった場合、被害者が今後得られるはずだった収入や利益を「逸失利益」として加害者に請求できます。
適切な逸失利益を獲得するためには、正しい計算方法をしっかり把握しておくことが大切です。
この記事では、死亡事故における逸失利益の計算方法や、職業別に見た逸失利益の相場などについてわかりやすく解説していきます。
目次
死亡逸失利益とは、事故で亡くなった被害者が本来得られるはずだった収入や利益のことです。遺族は、失ってしまった収入や利益を事故による損害として加害者に請求できます。
たとえば、専業主婦である妻と、子ども1人がいる3人家族で、一家の大黒柱である夫が亡くなってしまった場合、急に夫の収入が無くなり経済的に困窮してしまう可能性があります。そのため、遺族の今後の生活を補償する意味で、逸失利益の請求が認められているのです。
死亡逸失利益の計算方法は、以下のとおりです。
死亡逸失利益の計算方法 |
---|
1年あたりの基礎収入 ×(1 − 生活控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
基礎となる収入に、今後働けるはずだった期間をかけて、そこから生活費に使うであろう金額を差し引くことで、具体的な損害額を算出します。
以下、それぞれの用語についてわかりやすく解説していきます。
1年あたりの「基礎収入」とは、逸失利益を算出するための基礎となる収入のことです。この基礎収入を基に、被害者が将来的にどれくらい収入や利益を得られるはずだったのかを算出します。
この基礎収入は、給与明細や源泉徴収票、確定申告書などから客観的に判断するのが原則です。ただし、性別や職業、年齢などの被害者個人の属性によっては、「賃金センサス(※)」というデータを基にして基礎収入を決定する場合があります(詳しくは後述)。
※ 賃金センサスとは、個人の職業や年齢別の平均賃金をまとめた公的なデータのことを指します。
参照:令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況|厚生労働省
生活費控除率とは、被害者の収入のうちで、生活費全般が占める割合のことを指します。
亡くなった被害者が事故に遭わずに生活していた場合、得られた収入から生活費を捻出していたことが想定されます。損害額の公平な分担を実現するためには、賠償の対象となる収入から生活費を差し引くことで、実際に失ってしまった利益を算出する必要があるのです。
この生活費控除率は、被害者の性別や家庭内での立場・役割に応じて変わります。
性別・家庭内での役割 | 生活費控除率 |
---|---|
一家の支柱だった場合(※) | 被扶養者が1名:40% 被扶養者が2名以上:30% |
女性(既婚・独身・幼児等を含む) | 30~45% |
男性(既婚・独身・幼児等を含む) | 50% |
被扶養者が多い方が、被害者が亡くなったあとの遺族の負担が大きくなるため、生活費控除率が低めに設定されています。したがって、逸失利益を請求する遺族が被害者の兄弟・姉妹だった場合には、生活を補償する目的が薄れることから、生活控除率も高くなる傾向にあります。
また、生活費控除率は、男女間の収入格差から来る賠償金額の不均衡を是正する機能も持っているため、女性より男性の方が生活費控除率が高く設定されています。裁判例では、男性と同程度の高額な収入がある被害女性につき、女性の平均よりも高い50%の生活費控除率が認められたケースがあります(東京地判平成17.6.21)。
ほかにも、被害者が一家の支柱として母親1人を扶養していたものの、事故に遭う前年までは父親も生存していたことなどが考慮され、生活費控除率が平均よりも低い30%で認められたケースもあります(神戸地判平成11.9.22)。
用語を正しく理解するために、「就労可能年数」および「ライプニッツ係数」に分けて解説していきます。
就労可能年数とは、事故がなければ被害者が働けるはずだった期間のことです。
基本的に死亡日から67歳までの期間を指しますが、被害者が67歳以上もしくは67歳までの期間が短い場合には、「死亡日から67歳までの期間」と「簡易生命表における平均余命の2分の1」を比べて、より長い方が就労可能年数として認定される傾向にあります。
原則 | 死亡日から67歳までの期間 |
---|---|
例外 ・被害者が67歳以上 ・死亡日から67歳までの期間が短い場合 | 次の2つを比べて長い方 ・死亡日から67歳までの期間 ・簡易生命表における平均余命の2分の1 |
たとえば、被害者が57歳・男性だった場合、原則どおりであれば就労可能年数は10年となります。一方、簡易生命表によると、被害者の属性に合わせた平均余命は26.28年なので、これを2分の1にすると13.14年となります。この場合、長い年数である13.14年が就労可能年数として計算されることになります。
ただし、具体的な就労可能年数は、それぞれのケースごとに個別に判断されることになります。裁判例では、弁護士や医師など、67歳以降も働く可能性のある職業については、労働能力喪失期間が長く認めているケースも多いです。
ライプニッツ係数とは、事故がなければ将来的に得られるはずであった収入から、それらの収入を前もって得ることができる被害者の利益を「中間利息」として差し引くための係数のことです。中間利息を差し引いて計算することから、「中間利息控除」とも呼ばれます。
逸失利益は、本来なら少しずつ得るはずだった収入や利益を前倒しで、かつ一括で受け取れますが、このお金を効率良く運用することで、本来獲得できなかったはずの利益を得ることが可能になります。
しかし、損害の公平な分担を実現するには、実際の損害額以上の賠償を認めるべきではありません。そこで、賠償金を運用することで得られる利益を差し引き、実際の損害額をできる限り正確に計算する必要があるのです。
中間利息を控除するために使われる「ライプニッツ係数」の早見表は、以下のとおりです。
年齢 | 就労可能年数 | 係数(改正前) | 係数(改正後) |
---|---|---|---|
18 | 49 | 18.169 | 25.502 |
19 | 48 | 18.077 | 25.267 |
20 | 47 | 17.981 | 25.025 |
21 | 46 | 17.880 | 24.775 |
22 | 45 | 17.774 | 24.519 |
23 | 44 | 17.663 | 24.254 |
24 | 43 | 17.546 | 23.982 |
25 | 42 | 17.423 | 23.701 |
26 | 41 | 17.294 | 23.412 |
27 | 40 | 17.159 | 23.115 |
28 | 39 | 17.017 | 22.808 |
29 | 38 | 16.868 | 22.492 |
30 | 37 | 16.711 | 22.167 |
31 | 36 | 16.547 | 21.832 |
32 | 35 | 16.374 | 20.389 |
33 | 34 | 16.193 | 21.132 |
34 | 33 | 16.003 | 20.766 |
35 | 32 | 15.803 | 20.389 |
36 | 31 | 15.593 | 21.832 |
37 | 30 | 15.372 | 19.6 |
38 | 29 | 15.141 | 19.188 |
39 | 28 | 14.898 | 18.764 |
40 | 27 | 14.643 | 18.327 |
41 | 26 | 14.375 | 17.877 |
42 | 25 | 14.094 | 17.413 |
43 | 24 | 13.799 | 16.936 |
44 | 23 | 13.489 | 16.444 |
45 | 22 | 13.163 | 15.937 |
46 | 21 | 12.821 | 15.415 |
47 | 20 | 12.462 | 14.877 |
48 | 19 | 12.085 | 14.324 |
49 | 18 | 11.690 | 13.754 |
50 | 17 | 11.274 | 13.166 |
51 | 16 | 10.838 | 12.561 |
52 | 16 | 10.380 | 12.561 |
53 | 15 | 9.899 | 11.938 |
54 | 15 | 9.899 | 11.938 |
55 | 14 | 9.899 | 11.296 |
56 | 14 | 9.394 | 11.296 |
57 | 14 | 9.394 | 11.296 |
58 | 13 | 8.863 | 10.635 |
59 | 13 | 8.863 | 10.635 |
60 | 12 | 8.863 | 9.954 |
61 | 12 | 8.306 | 9.954 |
62 | 11 | 8.306 | 9.253 |
63 | 11 | 7.722 | 9.253 |
64 | 11 | 7.722 | 9.253 |
65 | 10 | 7.722 | 8.53 |
66 | 10 | 7.108 | 8.53 |
67 | 9 | 6.463 | 7.786 |
68 | 9 | 6.463 | 7.786 |
69 | 9 | 6.463 | 7.786 |
70 | 8 | 6.463 | 7.02 |
71 | 8 | 5.786 | 7.02 |
72 | 8 | 5.786 | 7.02 |
73 | 7 | 5.786 | 6.23 |
74 | 7 | 5.076 | 6.23 |
75 | 7 | 5.076 | 6.23 |
76 | 6 | 5.076 | 5.417 |
77 | 6 | 4.329 | 5.417 |
78 | 6 | 4.329 | 5.417 |
79 | 5 | 4.329 | 4.58 |
80 | 5 | 4.329 | 4.58 |
81 | 5 | 3.546 | 4.58 |
82 | 4 | 3.546 | 3.717 |
83 | 4 | 3.546 | 3.717 |
84 | 4 | 3.546 | 3.717 |
85 | 4 | 2.723 | 3.717 |
86 | 3 | 2.723 | 2.829 |
87 | 3 | 2.723 | 2.829 |
88 | 3 | 2.723 | 2.829 |
89 | 3 | 2.723 | 2.829 |
90 | 3 | 2.723 | 2.829 |
91 | 2 | 1.859 | 1.913 |
92 | 2 | 1.859 | 1.913 |
93 | 2 | 1.859 | 1.913 |
94 | 2 | 1.859 | 1.913 |
95 | 2 | 1.859 | 1.913 |
96 | 2 | 1.859 | 1.913 |
97 | 2 | 1.859 | 1.913 |
98 | 2 | 1.859 | 1.913 |
99 | 2 | 1.859 | 1.913 |
100 | 2 | 1.859 | 1.913 |
101 | 2 | 0.952 | 1.913 |
102〜 | 1 | 0.952 | 0.971 |
年齢 | 幼児・学生・十分働く意思と能力を有している無職者 | ||
---|---|---|---|
就労可能年数 | 係数(改正前) | 係数(改正後) | |
0 | 49 | 7.549 | 14.98 |
1 | 49 | 7.927 | 15.429 |
2 | 49 | 8.323 | 15.892 |
3 | 49 | 8.739 | 16.369 |
4 | 49 | 9.176 | 16.86 |
5 | 49 | 9.635 | 17.365 |
6 | 49 | 10.117 | 17.886 |
7 | 49 | 10.623 | 18.423 |
8 | 49 | 11.154 | 18.976 |
9 | 49 | 11.712 | 19.545 |
10 | 49 | 12.297 | 20.131 |
11 | 49 | 12.912 | 20.735 |
12 | 49 | 13.558 | 21.357 |
13 | 49 | 14.236 | 21.998 |
14 | 49 | 14.947 | 22.658 |
15 | 49 | 15.695 | 23.338 |
16 | 49 | 16.48 | 24.038 |
17 | 49 | 17.304 | 24.759 |
年齢 | 有識者・家事従事者 | ||
---|---|---|---|
就労可能年数 | 係数(改正前) | 係数(改正後) | |
0 | 67 | 19.239 | 28.733 |
1 | 66 | 19.201 | 28.595 |
2 | 65 | 19.161 | 28.453 |
3 | 64 | 19.119 | 28.306 |
4 | 63 | 19.075 | 28.156 |
5 | 62 | 19.029 | 28 |
6 | 61 | 18.98 | 27.84 |
7 | 60 | 18.929 | 27.676 |
8 | 59 | 18.876 | 27.506 |
9 | 58 | 18.82 | 27.331 |
10 | 57 | 18.761 | 27.151 |
11 | 56 | 18.669 | 26.965 |
12 | 55 | 18.633 | 26.774 |
13 | 54 | 18.565 | 26.578 |
14 | 53 | 18.493 | 26.375 |
15 | 52 | 18.418 | 26.166 |
16 | 51 | 18.339 | 25.951 |
17 | 50 | 18.256 | 25.73 |
なお、中間利息を控除するための方式には、「ライプニッツ方式」だけではなく「ホフマン方式」と呼ばれるものもありますが、現在ではライプニッツ方式を使って逸失利益を算出するのが原則です。
ここでは、職業別にみる死亡逸失利益の具体的な金額を確認していきます。
職業 | 基礎収入 |
---|---|
給与所得者(会社員) | 事故前の実際の年収(各種の手当やボーナス含む) |
事業所得者(自営業)・フリーランス | 事故前の実際の年収(確定申告額 − 経費) |
会社役員 | 労務提供の対価としての性質を持つ部分の役員報酬 |
家事従業者(専業主婦) | 賃金センサスにおける女性の全年齢平均賃金 |
兼業主婦 | 「事故前年の年収」および「賃金センサスにおける女性の全年齢平均賃金のうち、いずれか高額な方 |
子ども(学生・幼児) | 賃金センサスにおける男女別の全年齢平均賃金 ・男児の場合:男性の平均賃金 ・女児の場合:男女の平均賃金 |
無職・失業者 | 失業前の収入 ※ 失業前の収入が賃金センサスにおける平均賃金を下回る場合、男女別の平均賃金を基準にする場合がある |
高齢者 | 賃金センサスにおける年齢別の平均賃金 |
死亡逸失利益の計算方法 |
---|
1年あたりの基礎収入 ×(1 − 生活控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
給与所得者(会社員)の場合、事故前の実際の年収を基礎収入として逸失利益を算定します。この「実際の年収」には、基本給だけでなく、各種の手当やボーナスも含まれます。
一方、被害者が30歳未満の若年層の場合、事故に遭わずに通常通り働いていれば、今よりももっと収入を得られたであろうと推測されます。そのため、実際の年収が賃金センサスの平均賃金額を下回り、かつ今後平均賃金を得られる可能性が高い場合には、実際の年収ではなく賃金センサスを基に基礎収入を算定するケースがあります。
【計算例】
350万円(基礎収入)×(1− 40%(生活費控除率))× 22.167(ライプニッツ係数)
⬇︎
4,665万700円
裁判例では、被害者(女性・36歳)の年収が295万円程度だったものの、将来昇進の見込みがあったことなどから、賃金センサスにおける女性の大卒年齢別平均である約475万円が基礎収入として認められたケースがあります(大阪地判平成28.7.14)。将来の昇進の見込みについては、勤務年数や勤務状況、昇給規定の有無や同僚の昇給率などを考慮して決定することになるでしょう。
なお、ホステスのような高齢まで働くことが難しいとされる職業については、ある一定の時期まではホステスとしての現実に得ていた年収で計算し、それ以降は平均賃金を基にして計算されることが多い傾向にあります。
自営業者、商工業者、農林業者、水産業者、自由業者(フリーランス)などの事業所得者は、確定申告書や課税証明書などからわかる、事故前の実際の年収を基に基礎収入を決定するのが原則です。
事業所得者の場合、確定申告額から経費を差し引いた金額が基礎収入となります。この「経費」には、職場の賃料や人件費などの固定費は含まれません。
なお、事故前年の確定申告額が賃金センサスにおける平均賃金を下回っていた場合や、年間を通して赤字だった場合には、現在の仕事の状況や職歴、今後の収入見込みなどを考慮したうえで、賃金センサスの平均賃金を基礎収入とする場合があります。
また、無申告や過少申告、確定申告額よりも現在の収入の方が大きい場合には、帳簿・領収書・銀行の取引明細書などの証拠を提出することで、大きい方の金額を基礎収入として認めてもらえる場合があります。
ただし、被害者が自営業者である家族の手伝いをしているような場合には、被害者が実際に関与した分の収入のみが基礎収入となるため、注意が必要です。
【計算例】
800万円(基礎収入)×(1− 50%(生活費控除率))× 18.327(ライプニッツ係数)
⬇︎
7,330万8,000円
裁判例では、専門学校中退の内装工を営んでいた被害者(男性・27歳)につき、申告所得額は約346万円だったものの、実際の振込金額が年間700万円を超えていたことなどから、将来的にも平均賃金以上の収入を得る可能性が高いとされ、賃金センサスにおける男性の学計全年齢平均である約547万円が基礎収入として認められたケースがあります(大阪地判平成18.6.16)
また、そば屋を経営している父の息子が被害者になったケースでは、実際の営業は被害者およびその妻が主体となって事業をおこなっていたことから、事故前年の事業所得のうち、その半分を基礎収入として認めたものがあります(東京地判昭和52.8.25)。
会社役員の場合、給与所得ではなく役員報酬を基に逸失利益を算定することになります。裁判例では、労務提供の対価としての性質を持つ部分の報酬については基礎収入とされる傾向にありますが、利益配当の実質を持つ部分については基礎収入としてみなされない傾向にあります。
たとえば、建設業者A社(役員報酬:1,200万円)および工場建物賃貸業者B社(役員報酬:2,760万円)の代表取締役である被害者(男性・81歳)につき、労務提供の対価部分は、それぞれの役員報酬における7割(A社)と2割(B社)だと認定したケースがあります(横浜地判平成28.3.3)。
専業主婦が被害者の場合、賃金センサスにおける女性の全年齢平均賃金を基礎収入として逸失利益を算定します。
事故当時、労働収入がない以上、逸失利益が認められないようにも思いますが、日常的におこなっている家事労働を外部に委託した場合、相当程度の対価を支払う必要があります。そのため、家事労働にも金銭的な価値が認められることになります。
なお、専業主夫の場合であっても、「女性」の全年齢平均賃金を基礎収入とすることになるため、注意が必要です。
【計算例】
399万6,500円(基礎収入 ※)×(1− 30%(生活費控除率))× 13.166(ライプニッツ係数)
⬇︎
3,683万2,543円
※ 令和5年度における女性の全年齢平均賃金は、399万6,500円となります。
裁判例では、家事労働のほかに障害者である長女の介護もしていた被害者(女性・55歳)につき、賃金センサスに基づき約488万円の基礎収入が認められたケース(大阪地判平成18.10.18)や、認知症の初期・中期の状態にある被害者(女性・69歳)につき、ある程度の家事労働はできるとして、賃金センサスにおける女性の全年齢平均賃金の50%である176万1,200円が基礎収入として認められたケースなどがあります(大阪地判平成18.1.31)。
兼業主婦の場合、以下のいずれか高額な方を基礎収入として逸失利益を計算します。
・事故前年の年収
・賃金センサスにおける女性の全年齢平均賃金
なお、労働収入と家事労働分の平均賃金を加算して計算するわけではないので、注意してください。
【計算例】
399万6,500円(基礎収入)×(1− 30%(生活費控除率))× 22.167(ライプニッツ係数)
⬇︎
6,201万3,291円
裁判例では、認知症の夫の介護や身の回りの世話をしながら、夫の経営する店を代わりに経営するなどしていた被害者(女性・79歳)につき、賃金センサスに基づき約354万円の基礎収入を認めたケースや(前橋地判平成28.6.17)、家事労働のほかに監査役としての業務に従事(事故前年の年収:240万円)していた被害者(女性・79歳)につき、賃金センサスに基づき約317万円の基礎収入を認めたケースなどがあります(福岡地判令3.2.4)。
被害者が学生や幼児等の子どもの場合、賃金センサスにおける男女別の全年齢平均賃金を参考に基礎収入を決定するのが原則です。
一方、大学在学中の場合やすでに大学受験に合格していた場合など、大学進学が確実であった場合には、平均賃金がより高額な「大卒者の平均賃金」を基にした基礎収入が認められる場合もあります。ただし、大卒賃金センサスによる場合、就労開始時期が遅れることから、全体的な逸失利益の額が減ってしまう可能性があることに注意が必要です。
また、被害者が幼児だった場合の基礎収入は、男児の場合には男性の平均賃金を基にして決定されますが、女児の場合、「男女」の平均賃金を基にして基礎収入を計算するのが一般的です。
これは、被害者が幼児の場合、逸失利益を計算する期間が長く、かつ男女の平均賃金には差があることから、従来通り性別による平均賃金で計算してしまうと、男女間で合理的とはいえないくらい金額に差が出てきてしまうことを考慮したことによります
【計算例】
506万9,400円(基礎収入 ※)×(1− 30%(生活費控除率))× 20.131(ライプニッツ係数)
⬇︎
7,143万6,464円
※ 令和5年度における男女の全年齢平均賃金は、506万9,400円となります。
裁判例では、高校生2人(男性・15歳および16歳)につき、男性の平均賃金を基に約524万円の基礎収入を認めたケース(東京地判平成28.7.19)や、14歳の被害者(女性)につき、男女の全年齢平均賃金である約495万円を認めたケースなどがあります(最二小決平成14.5.31)。
事故時点で無職または失業中であったとしても、ハローワークで求職活動をしていたり、すでに企業から内定をもらっていたりするなど、働く意欲と働ける能力があり、かつ将来収入を得る可能性が高いといえるような場合には、逸失利益が認められる場合があります。
この場合、失業前の収入を参考にして基礎収入を決定しますが、失業前の収入が賃金センサスにおける平均賃金を下回る場合、将来的に平均賃金を得られる蓋然性が高い場合であれば、男女別の平均賃金が基礎収入として認められる可能性があります。
裁判例では、独身である被害者(男性・53歳)につき、過去に仕事をしていてかつ妻帯者だったこともあり、今後無職のままである可能性は低く、むしろ何らかの収入を得る蓋然性を否定できないことを理由として、賃金センサスにおける男性の年齢別平均収入である約536万円が基礎収入として認められたケースなどがあります(福岡地飯塚支部判昭和63.8.30)。
高齢者(おおむね65歳以上)であっても就労の蓋然性が認められれば、賃金センサスにおける年齢別の平均賃金を基礎収入として、逸失利益が認められる場合があります。
なお、亡くなった被害者が受給していた年金については、個別的な事情ごとに逸失利益として認めるかどうかが判断されます。
裁判例では、国民年金(老齢年金)や農業者年金、公務員の退職年金などについて逸失利益性を認めていますが、障害年金の加給分や遺族年金などについては、逸失利益性を否定しています。
死亡逸失利益を増額するためには、逸失利益の計算方法を正しく理解することと、保険会社との交渉の際に、不利な条件で示談をまとめないことが重要です。
逸失利益の計算方法は複雑で、職業ごとに基礎収入の算定方法が異なります。正しい計算方法を把握しておかないと、知らない間に不利な条件で示談をまとめてしまうことにもなりかねません。
とくに、労働収入のない専業主婦や収入の安定しないフリーランスの場合、保険会社との示談交渉で揉める可能性が高いです。保険会社との交渉を優位に進めるためには、法律や裁判例などの専門知識を有しているだけでなく、裁判まで見越した交渉術を駆使できなければ厳しいでしょう。
大切な家族を失い、精神的にも肉体的にも疲弊している遺族が、保険会社との交渉を優位に進めるのは困難であることも多いです。死亡事故で請求できる賠償金は多岐に渡るので、請求漏れを起こさないためにも、対応は専門家である弁護士に任せることをおすすめします。
交通死亡事故で遺族が受け取れる賠償金には、基本的に税金はかかりません。
逸失利益を含む賠償金は、事故がなければ負うことのなかった負担を賠償してもらう性質を有しているため、被害者救済の観点から、非課税とされているのです。
参照:所得税法9条1項18号|e-GoV法令検索
ただし、一定の場合には所得税や贈与税、相続税などの課税対象となる場合があるので注意が必要です。
くわしくは、こちらの記事をご覧ください。
→交通事故の慰謝料に税金はかかる?いくらまで非課税?ケースごとに解説
死亡逸失利益を受け取れる遺族は、事故で亡くなった被害者の相続人です。
たとえば、配偶者と子どもが相続人となり逸失利益を請求した場合、被害者の両親や兄弟姉妹は逸失利益を請求することはできません。
また、内縁の配偶者は相続人にはなれないのが原則ですが、被害者に扶養されていた場合には、「将来の扶養利益」の喪失を事故による損害として請求できる場合があります。
裁判例では、内縁関係にあった夫が亡くなったケースにつき、10年以上に渡り内縁関係にあったことや、夫婦が扶養関係にあったことを考慮して、死亡逸失利益の50%を扶養利益として認めたものがあります(東京地判平成12.9.13)。
不動産収入や遺族年金などは、死亡逸失利益の対象にはなりません。被害者が働かなくても減少することない収入や、受給権である被害者自身の生活を補償する目的の給付金については、労働できなくなることによる収入の減少とはいえないからです。
ここで、死亡逸失利益の対象とは認められない所得をいくつかご紹介します。
死亡逸失利益は、慰謝料や葬儀関係費などと合わせて加害者側に請求することになりますが、計算方法が少し複雑なので、専門的な知識が無い状態で正しく算定するのは難しいでしょう。
具体的には、「1年あたりの基礎収入 ×(1 − 生活控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数
」という計算式を用いることになりますが、被害者の職業によって基礎収入の算定方法が異なるので、間違った計算をしないよう注意が必要です。
死亡事故における逸失利益は、交通事故で請求できる賠償金の中でも高額になりやすい項目なので、損をしないためにも、できれば対応は弁護士に任せることをおすすめします。
交通事故の賠償金について計算方法はわかったものの、いざ計算しようと思ったらどうやって計算すればいいかわからない・・・そんな時は、交通事故慰謝料の自動計算ソフトを使ってみてはいかがでしょうか?
個人情報の入力もなく、30秒程度で簡単に慰謝料を計算できます。お困りの方はぜひ以下のページをクリックしてみてください。