東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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目次
交通事故で請求できる死亡慰謝料とは、事故で被害者が亡くなってしまった場合に、その精神的苦痛を賠償するために支払われるお金のことです。
死亡事故は、被害者本人の未来が突然奪われてしまうだけでなく、遺族にとっても、何の準備もできないまま大切な人を失うことになります。もし、被害者が一家の経済的な支柱だった場合、収入が急に失くなることで、遺族が通常の日常生活を送ることすら困難になるおそれがあります。
死亡慰謝料は、遺族の悲しみを少しでも癒すために支払われるものですが、それと同時に、遺族に対する経済的援助の側面を持っている賠償金です。
なお、交通事故で請求できる慰謝料には、「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3つの種類があり、それぞれ支払われる目的が異なります。これらの慰謝料は重複して請求できるので、たとえば、事故で入院したものの、数日後に亡くなってしまった場合には、入通院慰謝料と死亡慰謝料を請求できることになります。
死亡慰謝料は、大きく次の2つに分けることができます。
「亡くなった被害者本人に対する死亡慰謝料」とは、交通事故で死亡させられたことによる、被害者本人の精神的苦痛を賠償するための慰謝料です。本人はすでに亡くなっているため、被害者の遺族が、本人に代わって慰謝料を請求することになります。
一方、「被害者遺族固有の慰謝料(近親者慰謝料)」とは、大切な家族を亡くしてしまったことによる、遺族の精神的苦痛を賠償する目的で支払われる慰謝料です。
これら2つの意味における死亡慰謝料は、示談交渉の際に合計額を一括で請求し、受け取った金額を遺族間で分配するケースが多いです。
なお、遺族固有の慰謝料を請求できる近親者は、民法上で次のように定められています。
(近親者に対する損害の賠償)
第711条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
ただし、被害者の兄弟・姉妹・祖父母・婚姻関係にない内縁の夫や妻であっても、次のようなケースであれば固有の慰謝料が認められる可能性があります。
法律上の「近親者」以外の者が死亡慰謝料を請求できるケース
裁判例では、事実上の夫婦として約9年間同居していた内縁の配偶者や(大阪地判平9.3.25)、同居している妹や生後まもなく引き取り父親代わりとして育ててきた姪に固有の死亡慰謝料を認めたものがあります(大阪地判平14.3.15)。
死亡慰謝料が認められるかは、それぞれの家庭の具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。そのため、示談交渉や裁判において、近親者と同視できるだけの親密な関係性を証明できるかどうかが、近親者以外に固有の慰謝料が認められるためのポイントになるでしょう。
死亡慰謝料の金額を決める基準は、主に3つあります。
算定基準 | 内容 |
---|---|
自賠責基準 | 主に自賠責保険会社が用いる基準で、3つの基準でもっとも低額になる可能性が高い |
任意保険基準 | 各任意保険会社が用いる基準で、自賠責基準と弁護士基準の間くらいの金額になる可能性が高い |
弁護士基準 (裁判基準) | 弁護士や裁判所が用いる基準で、3つの基準でもっとも高額になる可能性が高い |
死亡慰謝料は、交通事故で請求できる賠償金の中でも高額になる可能性が高い項目であり、適用する算定基準次第では、慰謝料額が1,000万円単位で低くなる可能性もあります。
死亡事故で、被害者や遺族の損害額を適切に算定できる基準は、過去の裁判に基づいて定められている弁護士基準です。
相手方の保険会社は、少しでも賠償額を少なくするために、任意保険基準で算定する金額を提示してきます。示談交渉で損をしないためにも、安易に示談交渉をまとめないことが重要です。
なお、死亡慰謝料の相場については、こちらの記事もご覧ください。
→交通事故の死亡慰謝料の相場はいくら?損害賠償金の種類や計算方法
→交通事故の死亡慰謝料はいくら?|慰謝料計算シミュレーション付き
自賠責基準では、次のように死亡慰謝料を計算します。
被害者本人の死亡慰謝料 | 400万円 |
---|
慰謝料請求権者が1名 | 550万円 |
---|---|
慰謝料請求権者が2名 | 650万円 |
慰謝料請求権者が3名以上 | 750万円 |
被害者に被扶養者がいるとき | 上記に加えて200万円 |
自賠責基準では、慰謝料請求権者の人数や被扶養者の有無に応じて、死亡慰謝料の金額を計算します。
たとえば、亡くなった被害者に未成年の子どもが2人いる4人家族だった場合、死亡慰謝料は次のように計算します。
なお、自賠責保険から支払われる死亡による損害については、被害者1名につき3,000万円までという上限があります。そのため、死亡逸失利益や葬儀関係費などで死亡による損害部分が3,000万円を超える場合には、その超える部分につき自賠責保険から賠償を受けることはできません。
任意保険基準は非公表の場合が多いため、具体的な算定基準はわかりません。
ただし、過去に全ての保険会社が共通で使用していた慰謝料算定基準(旧任意保険基準)が存在していたことから、おおまかな慰謝料額を推測することは可能です。
旧任意保険基準で算定される慰謝料相場は、以下のとおりです。
被害者の立場 | 慰謝料の金額 |
---|---|
一家の支柱 | 1,500万円~2,000万円程度 |
母親・配偶者 | 1,500万円~2,000万円程度 |
その他 | 1,200万円~1,500万円程度 |
旧任意保険基準では、亡くなってしまった被害者の家庭内での立場によって、支払われる慰謝料額が変わります。
「一家の支柱」とは、世帯の生計を主として維持している立場を指します。たとえば、子どもが2人いる4人家族で、被害者が会社員、妻が専業主婦であれば、主として生計を維持しているのは被害者だということになります。
「その他」とは、被害者が一家の支柱でもなく、母親もしくは配偶者にあたらない場合のことを指します。たとえば、家族の中で子どもだけが亡くなってしまった場合には、その子どもは「その他」に当たります。
弁護士基準で死亡慰謝料を計算する場合、旧任意保険基準と同様の計算方法を用いて金額を算定しますが、慰謝料額は旧任意保険基準の場合よりも高い金額が設定されています。
被害者の立場 | 慰謝料の金額 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親・配偶者 | 2,500万円 |
その他 | 2,000万円~2,500万円 |
たとえば、扶養している子どもが1人いる3人家族で、一家の支柱である夫が事故で亡くなってしまった場合を想定してみましょう。
このケースで、各算定基準に基づき死亡慰謝料額を計算すると、次の金額となります。
自賠責基準 | 1,250万円 |
任意保険基準 | 1,500万円~2,000万円程度 |
弁護士基準 | 2,800万円 |
このように、死亡慰謝料を計算する場合、弁護士基準で算定しないと大幅にもらえる慰謝料額が減ってしまうことがわかります。
もちろん、この算定表に記載された金額はあくまでも相場であり、具体的な慰謝料額は、事故ごとの個別の事情を加味したうえで決定されます。
しかし、自賠責基準では算定表以上に増額できる余地はなく、被害者遺族の交渉では、任意保険会社が弁護士基準と同程度の慰謝料額を支払ってくれるケースはほとんどありません。
死亡事故で慰謝料額を増額させたいのであれば、専門家である弁護士に対応を依頼するのが良いでしょう。
死亡事故の被害者遺族は、死亡慰謝料以外にもさまざまな賠償金を加害者に対して請求できます。
ここでは、死亡事故で請求できる賠償金を一覧で確認してみましょう。
入通院慰謝料 | 事故で入院や通院を余儀なくされた場合の精神的苦痛を賠償するお金 |
死亡逸失利益 | 事故がなければ、被害者が将来的に得られるはずだった収入や利益 |
葬儀関係費 | 葬儀代や仏壇・仏具の購入費など、被害者を弔うためにかかった費用 |
治療費関係 | 被害者の治療や処置などにかかった費用 |
付き添い看護費 | 被害者の介護・介助が必要な場合にかかる費用 |
交通費 | 病院に通院する際にかかる交通費 |
請求できる項目は多岐に渡りますが、請求漏れがあると適切な補償をしてもらえません。あらかじめ、請求できる項目をしっかり確認しておくようにしましょう。
なお、賠償金それぞれの項目については、リンク先のページでくわしく解説しています。
死亡事故が発生してから、実際に示談金を受け取るまでの流れは次のとおりです。
死亡事故で慰謝料を受け取るまでの流れ
死亡事故の場合、葬儀が終わるまでは最終的な損害額が確定しないため、示談交渉を始めることができません。したがって、多くの場合、四十九日法要が過ぎたあとに、保険会社と示談交渉を始めることになります。
双方が示談内容に合意すれば、示談書を取り交わすことで示談が成立します。示談交渉が成立しておおよそ 2週間程度経過すると、死亡慰謝料を含む示談金が振り込まれます。
もし、過失割合や死亡慰謝料の金額で折り合いがつかない場合には、裁判を起こして保険会社と争うことを検討します。この場合、慰謝料の受け取りまでに時間がかかることも頭に入れておきましょう。
交通事故で大切な家族を亡くしてしまったら、弁護士に依頼することをおすすめします。
事故の直後は、家族を亡くした悲しみや肉体的疲労で、保険会社との交渉に時間をかける余裕はありません。
また、いざ示談交渉を開始しても、弁護士基準で計算された慰謝料額を認めてもらえるケースはほとんどなく、場合によっては、心無い言葉を遺族に投げかけてくるケースもあるでしょう。
その点、交通事故に精通した弁護士なら、保険会社に弁護士基準で算定された慰謝料額を認めさせられる可能性が高いです。法律や過去の裁判例を引用することで、保険会社の反論に対しても適切に対応できるでしょう。
死亡事故では、慰謝料を含む賠償金額が数千万円になるため、被害者個人で対応するよりも、弁護士に依頼するメリットが大きいです。
「弁護士費用特約」が付帯している保険に加入していれば、実質無料で弁護士に依頼できます。
弁護士費用特約とは、加入している保険会社が一定額の弁護士費用を払ってくれる制度です。
特約を使ったからといって、保険の等級が下がってしまったり、翌年の保険料が上がることもないので、安心して利用できます。
被害者本人が加入していた保険はもちろん、遺族が加入している保険でも使えることがあるので、弁護士への依頼を検討している場合は、1度保険会社に特約の有無について確認してみることをおすすめします。
生命保険を受け取ったからといって、死亡慰謝料を含む賠償金額が減らされることはありません。
生命保険は、亡くなった被害者が今まで支払ってきた保険料の対価としての性質を持っており、慰謝料やそのほかの賠償金とは性質が異なります。
したがって、賠償金を受け取っていても、生命保険全額を受け取れることになります。
亡くなった被害者が高齢だったとしても、通常と同じように死亡慰謝料を請求できます。被害者本人や遺族が精神的苦痛を負うことは、被害者の年齢によって変わらないからです。
ただし、相手方の保険会社は、被害者に支払う賠償金を少しでも減らすため、さまざまな理由をつけて死亡慰謝料の減額を主張してくる可能性があります。
たとえば、「高齢である被害者がいなくても家計は維持できるはずなので、その分、死亡慰謝料を減額する」などと主張してくるケースです。
保険会社に死亡慰謝料の減額を強く主張されても、くれぐれもその場で返事をしないようにしてください。
死亡慰謝料を請求する権利には時効があり、事故発生から一定の期間が経過すると、死亡慰謝料を請求できなくなります。
死亡慰謝料の時効は、次のとおりです。
損害の種類 | 時効期間 |
---|---|
死亡慰謝料 | 死亡した日の翌日から5年 |
加害者不明の損害 | 事故発生日の翌日から20年※ |
時効が完成すると、加害者側に死亡慰謝料を請求できなくなりますが、時効が完成する前に、時効の完成を猶予してもらう手続きをとることは可能です。
事故から時間が経過しているのであれば、早急に弁護士に相談することをおすすめします。
なお、保険会社に保険金を請求する場合の時効は3年です。自身の保険会社に保険金を請求する場合には、慰謝料を請求する際に適用される時効とは期間が違うことを、頭に入れておきましょう。
死亡慰謝料には「被害者本人に対する慰謝料」と「遺族に対する慰謝料」の2種類があり、遺族はどちらの慰謝料も加害者に請求できます。
死亡慰謝料の相場は、被害者の家庭内での立場によって変わります。たとえば、一家の支柱である方が亡くなった場合、相場は2,800万円となります。
死亡慰謝料は、交通事故で請求できる賠償金の中でもっとも高額になる項目の1つであり、計算方法や相場を正しく理解しておかないと、適切な補償を受けられないおそれがあります。
保険会社との交渉をスムーズに進め、最大限の賠償金を受け取るためにも、死亡事故の対応は弁護士に任せることをおすすめします。