東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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交通事故の加害者は、被害者に対して慰謝料を含む賠償金を支払う必要があります。
運転者の9割弱が任意保険に加入しているため、ほとんどの人は保険会社が賠償金の支払いを肩代わりしてくれます。
一方で、任意保険は自賠責保険のように強制加入の保険ではないことから、未加入のままで運転している人もいるでしょう。この場合、高額な賠償金を自分で支払わなくてはいけません。
もし、請求された賠償金を支払えなかった場合、どうなってしまうのでしょうか。
この記事では、交通事故で慰謝料を含む賠償金を支払えなかった場合のリスクや対処法について解説していきます。
目次
交通事故における慰謝料とは、被害者本人や被害者遺族の精神的苦痛を賠償するために支払われるお金です。この慰謝料の支払い義務を負うのは、基本的に加害者本人です。
もっとも、運転者が任意保険に加入している場合には、慰謝料の支払いを保険会社が代わりにおこなってくれます。
加害者が任意保険に加入していなかった場合、加害者本人が慰謝料を支払うことになるのが原則ですが、実務上は、被害者が加入している人身傷害保険や労災保険、加害者側の自賠責保険などから賠償してもらったうえで、不足分を加害者に請求してくるケースが多いです。
交通事故で被害者が請求できる慰謝料は、次の3つです。
入通院慰謝料 | 交通事故で入院や通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛を賠償するお金 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 交通事故で後遺障害を負ってしまったことによる精神的苦痛を賠償するお金 |
死亡慰謝料 | 死亡事故における被害者や遺族の精神的苦痛を賠償するお金 |
これらの慰謝料は、それぞれ請求できる場面は異なりますが、重ねて請求することも可能です。たとえば、事故で負ったけがを治療していたものの、後遺障害が身体に残ってしまった場合であれば、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2つを請求できます。
ここで、それぞれの慰謝料の相場を確認してみましょう。
このように、重い後遺障害を負ってしまった場合や被害者が亡くなってしまった場合には、慰謝料額が大きくなります。
交通事故の被害者は、加害者に対してさまざまな賠償金を請求できます。
賠償金の項目 | 内容 |
---|---|
慰謝料 | 精神的な苦痛に対して支払われる |
治療費・入院費 | 治療にかかる費用、入院雑費なども含まれる |
通院交通費 | 通院にかかった交通費 |
通信費 | 交通事故によりかかった通話代など |
修理費 | 車両の修理にかかった費用(レッカー代・代車の費用も含む) |
付き添い看護費 | 入通院で付き添いが必要になった際に認められる費用 |
器具等購入費 | 治療や後遺症が残った際にかかる必要(車椅子・松葉杖など) |
家具等改造費 | 後遺症が残ることによってかかる自宅のバリアフリー化などの費用 |
物損費用 | 交通事故が原因で破損したものの費用 |
葬儀関係費 | 葬儀に関する費用 |
休業損害 | 休まずに働いていれば得られた現在の収入減少に対する損害賠償 |
逸失利益 | 交通事故がなければ将来得られたであろう経済利益 |
具体的にどの程度まで請求できるかは、事故ごとに個別に判断されます。
慰謝料の相場を見てもわかるように、死亡事故の場合、賠償金の総額が高額になります。
死亡慰謝料の相場は、被害者が一家の支柱であれば2,800万円程度ですが、精神的苦痛を増大させるような事情があれば、相場以上の慰謝料が認められることもあります。
また、死亡事故の場合、被害者が亡くなっていなければ将来的に得られたであろう収入や利益を、事故による損害として請求できます。この死亡逸失利益は高額になるケースが多く、裁判例では、死亡逸失利益も含めて5億円以上の損害が認められたケースもあります(横浜地判平成23.11.1 自保ジ1870)。
被害者がまだ若かったり、高収入だった場合には、認められる賠償額が1億円を超えるケースも珍しくありません。
もし、加害者が任意保険に入っていなかった場合には、自賠責保険からの賠償額を差し引いても、残りの賠償額全額を個人で支払うのは難しい可能性が高いと考えられます。
交通事故で、加害者自身が慰謝料を支払う必要があるケースは次の2つです。
以下、それぞれ解説していきます。
任意保険に加入していない状態で事故を起こした場合、自賠責保険の補償上限額を超える部分を支払う必要があります。
自賠責保険は、交通事故の被害者に対する最低限の補償を目的とする保険です。そのため、補償額には一定の上限が定められています。
損害項目 | 補填内容 | 限度額 |
---|---|---|
傷害による損害 | 治療関係費 文書料 休業損害 入通院慰謝料 など | (被害者1人につき)120万円 |
後遺障害による損害 | 後遺障害逸失利益 後遺障害慰謝料 など | ① 神経系統の機能や精神・胸腹部臓器への著しい障害で、介護を要する障害 (被害者1人につき) 常時介護を要する場合(第1級):4,000万円 随時介護を要する場合(第2級):3,000万円 ② 上記①以外の後遺障害 |
死亡による損害 | 葬儀関係費 死亡逸失利益 死亡慰謝料 など | (被害者1人につき)3,000万円 |
参照:限度額と補償内容|自賠責保険・共済ポータルサイト 国土交通省
死亡事故や重い後遺障害を負うような重大な事故の場合、全体の賠償額が高額になることが多く、自賠責保険だけでは賄いきれない可能性が高いです。
任意保険に加入していたとしても、上限金額が定められている保険だった場合、それを超える部分については加害者自身が支払う必要があります。
任意保険の場合、対人賠償・対物賠償を無制限に設定しているケースが多いですが、なかには保険料を安くするために、補償上限額を定めて契約している場合があります。
もし、対人・対物無制限の保険ではない場合には、上限金額を超える部分について、任意保険会社から賠償を受けることができません。
なお、任意保険の補償上限額を超える部分について、別途、自賠責保険に請求することはできないことに、注意が必要です。
交通事故の慰謝料を支払えなかった場合の主なリスクは、次の3つです。
以下、それぞれ解説していきます。
賠償金が払えないからといって被害者の慰謝料の請求を無視していると、加害者の不誠実な態度により精神的苦痛が増大したとして、死亡慰謝料の増額を主張される可能性があります。
裁判では、次のようなケースで慰謝料の増額が認められています。
支払いを数回拒んだだけでは死亡慰謝料の増額は認められない可能性もありますが、少なくとも交渉の段階では、被害者側から慰謝料の増額を主張される可能性は否定できません。
また、交通事故の被害者は、「交通事故発生日」から「賠償金が支払われる日まで」の期間において、遅延損害金を請求できます。
いつまでも支払いを拒んでいると、遅延損害金が膨らんでしまうため注意が必要です。
交通事故の慰謝料やその他の賠償金を支払わずに連絡を無視し続けると、裁判を起こされ対応に手間がかかります。
被害者が裁判を起こしてくるということは、慰謝料を含む賠償金の回収に本気になっている証拠です。
裁判所から届いた書面を無視し、反論をしないでいると、相手の主張通りの判決が出てしまいます。
交通事故の場合、過失割合などの主張次第で賠償額を減額できるケースもあるので、裁判所からの手紙は無視せず、対応方法を弁護士に相談してみることをおすすめします。
裁判で賠償金の支払いを命ずる判決が出た場合、被害者はすぐにでも加害者の財産を差し押さえられる状態になります。
差し押さえの対象となる財産は多岐に渡りますが、預金口座や給与そのものが差し押さえられる可能性が高いです。
預金口座の場合、賠償額を限度として預金口座の全額が、給与の場合、毎月の給与から税金や社会保険料を控除した手取り額の4分の1が、強制的に差し押さえられてしまいます。
この強制執行は、裁判所をとおした公的な手続きです。したがって、被害者が取り下げてくれない限り、基本的に差し押さえを止めることはできません。
給与を差し押さえられると、会社にも慰謝料を支払っていないことがバレてしまうため、仕事がしにくくなってしまう可能性もあります。
財産が差し押さえられるのを避けるためにも、慰謝料を含む賠償金の支払い義務を負ったら、誠実に対応するようにしましょう。
交通事故で慰謝料を払えない場合の主な対処法は、次の3つです。
なお、自己破産した場合、交通事故の賠償金の支払い義務も免除されますが、次に該当する場合には、免責の対象外となります。
「重大な過失」がどの程度であるかは、具体的なケースごとに個別判断がなされます。たとえば、飲酒運転や無免許運転、50キロ以上の速度超過などの場合には重大な過失が認められ、自己破産しても賠償金の支払いを免責されない可能性が高いでしょう。
交通事故の賠償金をどうしても支払えない場合には、分割払いや支払い期限を延ばしてもらえないか相談してみましょう。
支払えないからといって被害者からの請求を無視していると、裁判を起こされ解決までに時間がかかります。
また、支払いを命ずる判決が出てしまうと、最終的に財産を強制的に差し押さえられてしまうおそれもあるでしょう。
事故について真摯に謝罪し、自身の経済状況を正確に伝えることで、分割払いや支払い期限を伸ばしてもらえる可能性があります。
なお、相談する際には、「毎月の具体的な支払い金額」や「支払いできる具体的な期限」を明確に相手に伝えるようにしましょう。
生活が苦しいものの、なんとか示談金を被害者に支払った場合には、加害者自身が加入している自賠責保険に賠償金の返金を請求しましょう。
強制加入である自賠責保険は、上限額の範囲内で事故の損害を賠償してくれます。もし、被害者が、加害者の加入する自賠責保険に請求せずに、加害者に直接慰謝料を請求してきた場合には、本来自賠責保険が支払う部分について、返金を請求できます。
被害者と直接示談交渉をおこなう際には、まず自賠責保険に請求しているかを確認してみるのが良いでしょう。
無保険で事故を起こしてしまった場合には、交通事故に精通している弁護士に依頼し、慰謝料を含む賠償金を減額してもらうことを検討してください。
弁護士であれば、交通事故の態様や過去の裁判例などから、適切な賠償金額を算定することができます。
もし、入通院日数や過失割合などで揉めるようなことがあれば、加害者に有利な方向で交渉をまとめることができるでしょう。
請求金額が相場と比べて妥当な金額なのか、請求項目があっているのかなどは、専門的な知識がないと判断できない可能性も多いです。
取り返しがつかなくなる前に、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
無保険で交通事故を起こしてしまった場合や、任意保険に補償上限額があった場合には、加害者自身が賠償金を支払う必要があります。
支払いを免れようと被害者からの請求を無視していると、裁判を起こされ財産を差し押さえられる可能性があります。
差し押さえの段階までいってしまうと、被害者が差し押さえの取り上げに応じてくれない限り、強制的に財産を差し押さえられます。
分割交渉などをおこなうのがベストですが、事故の当事者である以上お互いに感情的になってしまう可能性があります。
交通事故の対応は、専門家である弁護士に任せるのが良いでしょう。