示談交渉でもめる理由は人それぞれですが、主な理由は次の9つです。
交通事故の示談交渉でもめる理由
加害者が「自賠責保険」や「任意保険」に加入していない場合、加害者との直接交渉により交渉が長引く恐れがあります。
自賠責保険は、運転者であれば加入が義務付けられている強制加入保険です。交通事故の被害者は、事故による損害を一定額まで自賠責保険に補償してもらえます。
一方、任意保険の加入は任意です。自賠責保険ではカバーしきれない部分の賠償をしてもらえるので、上乗せ保険とも言われています。実務上は、任意保険会社が自賠責補保険会社の賠償分も支払ってくれる「一括対応」をしてくれるケースが多いです。
もし加害者が任意保険未加入だった場合、自賠責保険の補償上限額を超える部分については加害者に直接請求する必要があります。また、自賠責保険にすら加入していなかったら賠償金全額を加害者に請求しなくてはなりません。
しかし、高額な賠償金を素直に支払ってくれるケースはそう多くありません。連絡を無視される場合もありますし、資力がない場合には後払いや分割払いを要求される可能性もあります。
加害者・加害者の家族・加害者側の保険会社などに不誠実な態度を取られると、心理的に交渉に応じにくくなります。
たとえば、次のような態度を取られるケースがあります。
加害者側に不誠実な態度をとられると、許せない気持ちが強くなって交渉に応じにくくなるでしょう。
また、誠意がない対応で精神的苦痛が増すこともあるでしょう。
保険会社は、日々さまざまな案件を抱えています。そのため、こちらがすぐに対応しても保険会社の対応に時間がかかる場合があります。対応が遅れる理由はさまざまですが、単純に仕事で手一杯になり後回しにされるケースもあるでしょう。
保険会社の対応が遅いと、誠意のない対応だとして「こちらに有利な条件でなければ示談しない」などと感情的になってしまう場合があります。
また、加害者に直接請求する場合そもそも連絡すら返してくれない可能性もあるので、スムーズに交渉が進むケースは少ないでしょう。
事故の被害者が賠償請求できる治療費は、事故と因果関係のあるけがだけです。つまり、事故以外の原因で負ったけがの治療費は保険会社に支払ってもらうことはできません。
事故から数週間経ってから病院を受診した場合、「痛みの原因は事故とは関係がない」とみなされて治療費の支払いを拒否される可能性があるでしょう。被害者としては事故が原因の痛みに違いないと思っていても、それを証明する証拠や事故後すぐに受診しなかったことにつきやむを得ない理由がない限り、保険会社は支払いを認めてくれない可能性が高いのです。
けがの治療費は、加害者側の保険会社が直接病院に支払いをしてくれるケースが多いです。これにより被害者は窓口負担なく治療を受けられますが、一定の期間が経過すると治療費の打ち切りを打診してくる場合があります。たとえば、むちうちなら3カ月程度経過した時点で治療費の打ち切られるケースが多いです。
けがの完治や症状固定は医師が判断すべきなので、治療中であれば治療費を打ち切られても通院を継続すべきです。しかし、打ち切られた治療費を後日保険会社に請求した場合、保険会社と支払いすべきかどうかについてもめてしまう可能性があるのです。
事故の責任割合である過失割合は、保険会社ともめやすいポイントの1つです。過失割合で被害者の過失が1割違うだけで、賠償金額が大幅に変わるからです。
過失割合による賠償金額の違い
過失割合は保険会社との話し合いで決めますが、示談金を少しでも減らしたい保険会社は過失割合を加害者に有利に認定する傾向にあります。とくにドライブレコーダーや防犯カメラなど事故当時の状況を示す証拠がない場合には、お互いの主張が食い違う可能性が高いです。
交通事故で賠償金を計算する主な基準は次の3つです。
自賠責基準 | 主に自賠責保険会社が使う基準 3つの算定基準でもっとも低額になりやすい |
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任意保険基準 | 各任意保険会社が独自に設定している基準 自賠責基準と同程度か、若干上乗せされた金額になる |
弁護士基準 (裁判基準) | 弁護士や裁判所が用いる算定基準 3つの算定基準の中でもっとも高額になりやすい |
裁判でも用いられる弁護士基準で算定される金額が、被害者が本来受け取るべき金額です。被害者が保険会社に弁護士基準を主張しても、保険会社が交渉に応じてくれるケースは少ないでしょう。
示談交渉でもめて話が進まない場合、保険会社に賠償金を請求する権利が時効で消滅してしまう可能性があります。保険会社は、時効が迫っていることを利用してより強気な態度で交渉してくる可能性があるでしょう。
なお、交通事故で適用される時効は以下のとおりです。
人身事故 ※ 後遺障害なし | 事故日の翌日から5年 |
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人身事故 ※ 後遺障害あり | 症状固定日の翌日から5年 |
死亡事故 | 死亡日の翌日から5年 |
物損事故 | 事故日の翌日から3年 |
加害者が判明しない場合 | 事故日の翌日から20年 |
後日加害者が判明した場合 | 以下のうちいずれか早い方 ・加害者を知った日の翌日から5年 ・事故日の翌日から20年 |
示談が成立したあとに身体に痛みや痺れなどの症状が出た場合、その治療費については賠償請求できないのが原則です。一般的に、示談書には「もうこれ以上の賠償はしない」旨の精算条項が記載されているからです。
一方で、示談時に予想できない後遺症が発生した場合には、たとえ示談書を取り交わしていたとしても治療費や後遺障害に関する賠償請求が認められる場合があります。
裁判例
「示談によって被害者が放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのもののみと解すべきであつて、その当時予想できなかった不測の再手術や後遺症がその後発生した場合、その損害についてまで賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。」と判断しています(最判昭和43年3月15日・民集22巻3号587頁)
ただし、保険会社としては賠償金の支払いを拒んでくる可能性が高いです。トラブルを回避するためには、「示談時に予想できなかった損害が発覚したら、その損害については賠償請求できる」とする留保条項を示談書に記載しておくのが有効になるでしょう。
保険会社との示談交渉がもめやすい理由は、次の2つです。
交通事故の示談交渉がもめやすい理由
保険会社は自社の利益を追求する営利団体です。示談交渉では、被害者に支払う賠償金を少しでも少なくしようと考えます。そのため、自社に有利な任意保険基準を適用したり、加害者の話を疑わずに加害者に有利な過失割合を主張したりしてきます。
「少しでも多くの賠償金をもらいたい被害者」と「少しでも支払う賠償金を減らしたい保険会社」でお互いの立場が違うところに、示談交渉がもめやすい理由があるといえるのです。
被害者自身が加入している保険会社に示談交渉を代行してもらえるサービスもありますが、被害者に過失が全く認められない事故の場合、示談代行サービスを利用できません。
この場合、弁護士に依頼しない場合には被害者自身で保険会社と交渉することになりますが、保険会社は知識もなく交渉にも慣れていない被害者を対等な立場としては見ていません。「納得できないなら裁判で決着をつけましょう」などと強気に交渉されると、交渉がまとまりにくくなるのです。
示談交渉でもめて交渉が長引くと、次のようなリスクがあります。
示談交渉が長引いた場合のリスク
示談交渉でもめた場合、保険会社を説得できるだけの知識や証拠がないともらえる示談金が減ってしまう可能性があります。
交渉が長引くことは被害者に有利には働きません。裁判例や医学的知識、事故状況を示す証拠などを基に説得的な主張ができなければ、保険会社が示談金の増額に応じてくれることはないでしょう。
示談金を受け取れるのは、基本的に示談交渉がまとまったあとです。示談交渉でもめればもめるほど、示談金の受け取りまでに時間がかかることになります。
交渉が決裂し裁判にまで発展した場合には、示談金の受け取りまでに1年以上かかるケースも珍しくありません。重いけがの場合には治療期間にも相当な時間がかかるので、さらに示談金の受け取りが遅くなります。
事故後しばらく経ってから賠償請求する場合や保険会社が提示してきた金額に納得できず対応を放置していた場合、時効が成立して賠償請求できなくなる恐れがあります。時効が迫ると保険会社も強気の交渉をしてくる可能性が高いので、交渉を長引かせるのは被害者にとってデメリットが大きいといえるでしょう。
保険会社と示談交渉でもめてしまった場合には、次の対処法を検討してみましょう。
交通事故の示談でもめた場合の対処法
早く示談金を受け取りたいからといって、保険会社の提示された金額で交渉をまとめるのは避けた方がよいです。任意保険基準で算定された慰謝料額は低額で、過失割合も加害者に有利に認定されている場合が多いからです。
もし加害者側の主張に納得できないのであれば、裁判例や各種検査結果、診断書やドライブレコーダーなどの客観的な証拠を基に論理的に相手を説得する必要があります。
1度示談書を取り交わすと基本的にやり直しはできません。示談をまとめる際は、本当にこの金額で示談していいのかどうかを事前に確認しておく必要があるでしょう。
自分1人での対応が難しいと感じたら、裁判外紛争解決手続き(ADR)を利用するのもおすすめです。
「裁判外紛争解決手続き(ADR)」とは、交通事故紛争処理センターなどが間に入り話し合いでもめ事を解決するための手続きです。裁判所をとおさない手続きなので、解決までの期間が短く費用も抑えられる可能性が高いです。ADR管轄団体の審査会などに過失割合を決めてもらうことも可能です。
ただし、ADRはあくまで話し合いでの解決を目指す手続きになります。当事者が合意できない場合には、手続き不成立となり改めて裁判での解決を目指すことになります。
また、ADR機関は公正中立な立場なので、必ずしも被害者にとって有利な条件になるよう動いてくれない点にも注意が必要です。
交通事故でもめた場合には、交通事故に強い弁護士に依頼するのがおすすめです。専門的知識と卓越した交渉術を持つ弁護士であれば、交渉を優位に進められる可能性が高いです。
弁護士に依頼すれば、示談交渉でもめやすいケースでも適切に対応できます。
示談交渉でもめやすいケース | 弁護士の対応 |
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加害者が保険に加入していない | 加害者が対応してくれない場合には裁判を起こし、場合によっては財産の差し押さえの手続きを取れる |
加害者側の対応に誠意がない | 誠意がないことを理由に慰謝料の増額交渉ができる |
加害者側の対応が遅い | 裁判をちらつかせながら、保険会社に対応を急がせることができる |
事故とけがの因果関係を疑われる | 事故状況、診断書、治療の経過、裁判例などから総合的に判断して、事故とけがの因果関係を論理的に主張できる |
治療費を打ち切られる | 医師の意見書や診断書を基に治療継続の必要性を主張できる。もし治療費を打ち切られても、示談交渉の際に治療費を請求できる(被害者請求の代理も可) |
過失割合でもめる | 裁判例を基に個別具体的な過失割合を主張できる |
賠償金の計算方法で意見が合わない | 弁護士基準に基づいた賠償金額を保険会社に認めさせることができる |
時効が迫っている | 時効が完成する前に被害者に有利な条件で示談交渉をまとめられる可能性が高い。また、裁判を起こして時効の完成を止めることができる |
示談成立後に別の症状が出る | 示談時に予想できない後遺障害であり、示談成立後も請求可能であることを論理的に主張できる |
弁護士が交渉に出てくると、保険会社も示談に応じてくれやすくなります。スムーズに手続きが進めばその分示談金も早く受け取れるので、弁護士を入れるメリットは大きいといえるでしょう。
交通事故の示談交渉は、加害者側保険会社との立場の違いによってもめやすくなっています。とくに死亡事故や重大な後遺障害が残る事故の場合、賠償金額が高額になりやすいことから示談交渉も難航する可能性が高くなります。
示談交渉が長引いても示談金を増額できるわけではありませんし、示談金の受け取りも遅くなります。保険会社が高圧的な態度だった場合には、精神的なストレスも大きな負担になるでしょう。
もし示談交渉でもめたら、早めに交通事故に強い弁護士に相談しましょう。弁護士費用特約を使えば弁護士費用もかからないことがほとんどなので、手間のかかる手続きを弁護士に一任できます。
弁護士選びに迷ったら、交通事故被害者専門の弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所にぜひお気軽にご相談ください。