東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
交通事故では多くの場合、加害者だけでなく被害者にも何割かの過失があるものです。
どちらに何割の過失があるかを示した数値のことを「過失割合」といいます。
過失割合によって自分が受け取れる損害賠償金や支払わなければならない損害賠償金の額が異なってきます。
そのため、示談する際には過失割合についても相手方と話し合って合意することが必要です。
しかし、なかには「自分に過失はない」、「過失があるのは認めるが、自分の方が被害者だ」などと主張する当事者もいて、示談がまとまらないこともあります。
このように過失割合でもめてしまうのはなぜなのでしょうか。
今回は、過失割合でもめる理由やもめるパターン、もめたときの解決方法について解説していきます。
目次
まずは、そもそも過失割合とは何か、なぜ交通事故の示談では過失割合を決めなければならないのかを確認しておきましょう。
過失割合とは、発生した交通事故の当事者のどちらに何割の過失があるのかを割合で示した数値のことです。
もし当事者の一方に100%の過失がある交通事故ばかりなら、どちらが「加害者」でどちらが「被害者」であるかを判断するだけですみます。
しかし、多くのケースでは当事者の双方に何割かずつの過失があるものです。
どちらに何割の過失があったのかを判断し、それを「80:20」、「70:30」、「50:50」というように割合で示したものが過失割合です。
過失割合「80:20」といえば、加害者に80%、被害者に20%の過失があるということを意味します。
もちろん、当事者のどちらかの一方的な過失で交通事故が発生する場合もあります。
その場合は、過失割合「100:0」となります。
なぜ交通事故の示談で過失割合を決める必要があるのかというと、過失割合によって損害賠償額が異なってくるためです。
過失で人に損害を与えた場合は、相手に発生した損害を賠償する義務を負います。
しかし、被害者にも過失があるのに加害者に100%の損害賠償義務を負わせるのは不公平です。
例えば、過失割合「80:20」の場合は被害者にも20%の過失があります。
この場合、加害者が負担する損害賠償義務は20%軽減されます。
被害者は実際に発生した損害の80%に相当する損害賠償金を受け取ることになります。
このように過失割合に応じて損害賠償額を軽減することを「過失相殺」といいます。
過失相殺は慰謝料だけでなく、全ての損害項目を含めた合計の損害賠償額に対して一括で計算されます。
加害者が負担する賠償額も被害者が受け取る賠償額も過失相殺によって大きく左右されるため、過失相殺をどのように決めるかは非常に重要です。
実際に発生した交通事故でどちらに何割の過失があったのか、客観的な真実は一つのはずです。
しかし、示談交渉では過失割合でもめることが多くあります。
なぜ過失割合でもめてしまうのでしょうか。
その理由をご説明します。
先ほどご説明したように、交通事故の損害賠償金を計算する際には過失割合に応じて過失相殺が行われます。
例えば、被害者に500万円の損害が発生し場合、過失割合100:0なら被害者は500万円の損害賠償金を受け取れます。
しかし、過失割合が80:20と判断されてしまうと、80%に相当する400万円しか受け取ることはできません。
被害者は少しでも多くの賠償金を受け取りたいと考えますし、加害者は少しでも賠償金の負担を少なくしたいと考えるものです。
このように過失割合はお金の問題に直結するため、当事者双方がお互いの言い分を主張して譲らないことがよくあります。
交通事故の示談交渉ではお金の問題とは別に、感情的な問題で対立することもよくあります。
一つの交通事故でも、立場が違えば感じ方が異なるものです。
当事者双方がお互いに「相手の方が悪い」と言い合っている場合、お金の問題のためにごねているケースもあります。
しかし、本当に双方が「相手が悪い」と思っているケースも少なくないのです。
自分の正当性を認めてほしい、相手の責任を認めてほしいという感情的な対立によって過失割合でもめる場合も多いのです。
お金の問題や感情的な問題でお互いの意見が対立しやすいとはいっても、過失割合が誰の目から見ても明らかであれば、もめようがありません。
どのような場合に過失割合でもめるのでしょうか。
主に、次の3つのパターンが挙げられます。
交通事故がどのようにして発生したのかを証明できる客観的な証拠が残っていれば、その証拠を検証することによって明確に過失割合を判断することができます。
例えば、ドライブレコーダーや防犯カメラに事故の様子がはっきりと映し出されていれば、客観的に過失割合が決まります。
そのような客観的な証拠が残っていない場合は、当事者や目撃者の記憶を頼りに事故の状況を再現するしかありません。
しかし、人間の記憶は正確とは限りません。
また、そもそも当事者が事故の瞬間を正確に認識していないことも少なくありません。
交差点内で発生した交通事故で、実際には相手の方が先に交差点内に進入していたのに、自分が先に進入して相手が飛び出してきたように感じることは実際によくあることです。
目撃者も、交通事故が起こることを予測して注視していたわけではありません。
そのため、事故の状況を正確に認識しているとは限りませんし、記憶も時が経つにつれて変化することが多いものです。
決め手となる客観的な証拠がなければ、当事者や目撃者の記憶や認識のみに基づいて話し合いが平行線となってしまいがちです。
事故の状況を正確に再現できたとしても、どちらがどの程度悪いのかという判断が難しい場合もあります。
例えば、同一方向に走行していた車同士が同時に車線変更しようとして衝突した場合、どちらが悪いかについて判断しがたいところです。
双方が悪い場合は過失割合50:50で話し合いがまとまればよいのですが、お金の問題や感情的な対立によって話し合いがまとまらないことが少なくありません。
お互いが少しでも自分の責任を少なくしたい、多くの賠償金を受け取りたいと考えて主張を譲らなければ、こちらも話し合いが平行線となってしまいます。
交通事故による損害額が高額に上る場合は、低額で済んだ場合よりも過失割合でもめることが多い傾向にあります。
損害額が数万円に過ぎない場合は、過失相殺による影響も少額にとどまります。
この場合、延々と過失割合でもめるよりは、多少は自分の主張が通らなくても早期に示談を成立させやすいものです。
しかし、重大な後遺障害が残る事故や死亡事故などの場合は、過失割合が10%異なるだけで賠償額が数百万円から数千万円も異なってくることがあります。
このような場合、当事者や被害者の遺族は過失割合のわずかな違いにもシビアになるため、もめやすくなります。
早く損害賠償金を受け取りたいと思っても、過失割合が決まらない限り、いつまでも受け取ることができません。
それでは、過失割合でもめてしまったときはどのようにして解決すればよいのでしょうか。
主な解決方法を4つご紹介します。
交通事故の相手が任意保険に加入している場合、通常は相手の保険会社の担当者と過失割合の話し合いをすることになります。
保険会社の担当者は示談交渉のプロなので、過失割合に関する知識も豊富で交渉術にも長けています。
そんな担当者がこちらの無知に乗じて、相手の主張する過失割合を半ば強引に押し付けてくるようなこともあります。
そんなときは、その保険会社の本部などに苦情を申し入れることによって事態を改善できることがあります。
保険会社に苦情を申し入れるのが億劫な場合は、「そんぽADRセンター」に相談するとよいでしょう。
そんぽADRセンターとは、交通事故や損害保険に関する相談を受け付けている紛争解決機関です。
損害保険会社とのトラブルにも無料で対応していて、和解案の提示なども行ってもらうことができます。
「交通事故ADR」とは、交通事故の示談交渉が円満に進まないときに、裁判外で紛争を解決する手続きのことです。
ADR機関へ紛争解決を申し立てると、中立公平な立場で和解のあっせんや賠償額の裁定などを行ってもらうことができます。
さまざまなADR機関があり、先ほどご紹介した「そんぽADRセンター」もそのうちの一つです。
他に交通事故の紛争解決のために利用できるADR機関として、次の2つが有名です。
いずれのADR機関も無料で利用できます。
保険会社はADR機関の裁定を尊重しなければならないとされているため、裁判をしなくても公平な和解による解決が期待できます。
しかし、あくまでも中立公平な手続きであるため、自分の主張が通るとは限りません。
申立人はADR機関の出した和解案や裁定に拘束されないため、納得できない場合は他の解決方法を利用することもできます。
相手との話し合いがまとまらない場合は、民事裁判を起こすことで強制的に問題を解決することができます。
民事裁判では、訴えた側(原告)と訴えられた側(被告)の双方が提出する主張と証拠に基づいて、裁判所が損害賠償について判断を下します。
過失割合については、過去の類似の裁判例に基づいて中立公平に判断されます。
判決が確定すると強制力があるので、損害賠償に関するトラブルを終局的に解決することができます。
ただし、納得のいく解決を図るためには裁判で自分の言い分を的確に主張し、主張する事実を証明できる証拠を提出する必要があります。
十分な証拠がない場合は、相手に有利な判決が下されて確定するおそれがあるので、民事裁判を起こすのが得策かどうかは慎重に考えなければなりません。
過失割合でもめて示談がまとまらない場合は、弁護士に相談してみるのがおすすめです。
専門知識に基づいて、過失割合やどの解決方法が適しているかについてアドバイスを受けることができます。
弁護士に解決を依頼すれば自分に代わって示談交渉を行ってもらえるので、より有利な内容で示談できることが期待できます。
民事裁判が必要な場合も全ての手続きを代行してもらえます。
弁護士に依頼するには費用がかかりますが、ご自分が加入している任意保険に弁護士費用特約が付いている場合は保険会社の費用負担で依頼することができます。
弁護士費用特約を使っても保険等級には影響ないので、特約が付いている場合は積極的に利用するとよいでしょう。
過失割合の問題は重要ですが、「自分に過失はない」などと感情的に主張しても認められるものではありません。
示談交渉や民事裁判を有利に進めるためには、過失割合について誰がいつどのように決めるのかを知っておくことが大切です。
民事裁判を起こした場合は、裁判所が過失割合を決めます。
しかし、過失割合でもめた場合でも民事裁判に至るケースは一握りです。
通常は、事故後に加害者側の任意保険会社の担当者が被害者に対して過失割合を提示します。
大多数のケースでは、そのまま示談が成立します。
過失割合で多少はもめたとしても、ほとんどの場合は被害者が折れる形で示談に至ります。
しかし、保険会社が提示する過失割合は必ずしも公平な内容だとは限りません。
保険会社は利益を確保する必要がありますし、顧客である加害者の言い分もある程度は尊重しなければなりません。
そのため、加害者に有利な過失割合を提示している場合が多く、被害者に有利な過失割合を提示することはまずありません。
したがって、ほとんどのケースでは加害者側の保険会社が過失割合を決めているといえるのです。
いつ過失割合が決まるのかというと、被害者の損害額が確定した後です。
被害者が負傷した場合は、治療が終了するまで治療費や慰謝料が確定しません。
後遺症が残った場合は、後遺障害等級の認定を受けるまでは後遺障害慰謝料や逸失利益が確定しません。
ただし、過失割合に関する証拠は早期に確保しておく必要があります。
実際に過失割合について話し合うのが損害額の確定後だとしても、そのときに初めて証拠を集めようと思っても難しいものです。
過失割合でもめそうなときは、すぐに証拠を確保しておくことが大切です。
交通事故の過失割合は、「どちらがどの程度悪い」ということを感覚的に決めるものではありません。
事故の発生状況に応じて、類似の事案に関する過去の裁判例を参考にして過失割合が決められます。
『民事交通訴訟における過失相殺率等の認定基準(別冊判例タイムズNo.38)』という本に、交通事故の類型ごとに過失割合の基準がまとめられています。
保険会社だけでなく、弁護士も裁判所も、この本の中から該当する事故類型を探し、個別の事情に基づいて修正を加えた上で過失割合を判断しています。
加害者側の任意保険会社が提示する過失割合に納得できない場合は、反論をする必要があります。
しかし、感情的に反論をしても示談交渉は進みません。
過失割合の交渉を適切に進めるには、以下のような方法があります。
保険会社の主張の正当性を検証するためには、その主張の根拠を知る必要があります。
そこでまずは、保険会社に対して過失割合の主張の根拠を具体的に説明することを求めましょう。
多くの場合は、先ほどご説明した『民事交通訴訟における過失相殺率等の認定基準(別冊判例タイムズNo.38)』に掲載されている「第〇図」の基準に従って判断したという回答が返ってきます。
しかし、その図に掲載されている過失割合に修正が加えられている場合も多いですし、事案によっては別の図を適用すべき場合もあります。
そのため、どのような根拠でどのような修正を加えたのか、なぜその図が該当すると判断したのかといったことまで具体的に説明を求めるべきです。
説明は専門的な内容になりますし、言った・言わないの問題を避けるためにも書面による回答を求めましょう。
過失割合を判断するために最も重要なのは、事故状況です。
人身事故の場合は警察が捜査を実施し、実況見分調書や供述調書などに事故状況をまとめてあります。
それらの捜査記録を取り寄せて事故状況を確認し、保険会社の説明が事故状況と合致しているかどうかを検証しましょう。
事故状況を最も客観的に正確に証明できるのは、事故の瞬間を撮影した映像です。
最近はドライブレコーダーを車に搭載している人も増えています。
ご自分の車に搭載したドライブレコーダーに事故の瞬間が明確に撮影されている場合は、その映像に基づいて過失割合の主張をすることができます。
ご自分の車にドライブレコーダーを搭載していなくても、相手の車に搭載されている場合はその映像の提供を求めましょう。
また、防犯カメラに事故の瞬間が撮影されていることもあります。
事故現場の近くに防犯カメラが設置されている場合は、所有者に映像の提供を求めましょう。
所有者が提供を渋る場合は、弁護士に依頼してその映像を取得することもできます。
防犯カメラの映像は上書きされるため、短期間で消えてしまうのが一般的です。
したがって、防犯カメラに事故の瞬間が記録されていると思われるときは、すぐに映像を確保することが大切です。
過失割合について当事者双方の言い分が食い違うときは、目撃者に証言してもらうことが有効です。
交通事故に利害関係のない第三者の目撃証言は、信憑性が高いと考えられるからです。
ただし、事故から時間が経つと、目撃者を探すのも難しくなります。
事故直後に現場の周囲に目撃者がいた場合は、証言を依頼しておくことが大切です。
事故から時間が経過してしまった場合でも、警察が保管している捜査記録の中に目撃者の供述調書などが存在することもよくあります。
したがって、警察の捜査記録を取り寄せて確認することは重要です。
専門的な知識のない被害者が、加害者側の任意保険会社の担当者と対等に交渉するのは困難です。
保険会社が提示する過失割合が不公平な内容だと気づいても、一般の方が的確に反論するのは難しいものです。
被害者の無知に乗じて、保険会社にとって有利な過失割合を押し付けようとする担当者もいます。
そんなときは、弁護士に依頼するのが得策です。
依頼を受けた弁護士は、警察の捜査記録など重要な証拠を確保した上で、専門的な見地から保険会社と示談交渉を行います。
被害者に代わって弁護士が代理人として示談交渉を代行してくれるので、自分で交渉しなくてよいというメリットもあります。
交通事故に遭ったことはやむを得ないとしても、過失割合でもめるのは誰しも避けたいことでしょう。
言い分の食い違う相手と示談交渉をすることは、精神的にも時間的にも大きな負担のかかることです。
しかし、納得できない過失割合で示談をしてしまうと、損害賠償金の額で損をしてしまいます。
適切な損害賠償を受けるためには、弁護士に依頼するなどして過失割合の交渉を的確に進めることが大切です。