東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
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目次
交通事故により被害を受けた場合、被害者は自分が受けた被害を賠償させるために加害者に対して損害賠償を請求することができます。
もっとも、被害者が加害者に対して請求できる損害賠償の金額は、過失割合によって大きく変わります。
「過失割合」とは、交通事故の原因に対し、それぞれが負うべき責任を割合にしたものをいいます。
自分の過失割合が大きければ大きいほど、受け取れる損害賠償金は減額されることになるため、交通事故のケースでは、被害者と加害者の間で争いとなることが少なくありません。
そこで今回は、交通事故における加害者と被害者の過失割合が9対1の場合の損害賠償の金額について、その計算方法などをわかりやすく解説していきたいと思います。
交通事故において、どちらか一方が全面的に悪いということは稀であり、程度に差はあるものの他方にも過失が認められることがほとんどです。
当事者の双方に過失が認められる交通事故のケースでは、被害者が加害者に対して請求できる損害の総額から、加害者が被害者に請求できる損害賠償の額を差し引いた金額が被害者に支払われることになります。
このような処理の仕方を「過失相殺」といいます。
たとえば、加害者と被害者の過失割合が9対1のケースについて、どのように過失相殺が行われるかを以下で見ていきたいと思います。
過失割合 | 損害額 | 請求額 | 受け取れる金額 | |
---|---|---|---|---|
加害者 | 9 | 100万円 | 100万円×0.1=10万円 | 0円 |
被害者 | 1 | 1,000万円 | 1,000万円×0.9=900万円 | 900万円-10万円=890万円 |
過失割合が9対1のケースでは、被害者に1割の過失が認められるため、被害者が加害者に対して請求できる金額は、本来被害者が加害者に対して請求できる損害額1,000万円から過失分の100万円(1割に相当する金額)を差し引いた900万円(1,000万円×0.9)になります。
他方で、加害者が被害者に請求できる金額は、加害者が受けた損害の総額である100万円から、過失分の90万円(9割に相当する金額)を差し引いた10万円(100万円×0.1)になります。
以上のように、被害者が加害者に請求できる損害賠償の金額は、過失割合に応じて過失相殺が行われ減額されることになるため、過失割合は被害者が受け取れる金額に大きく影響を及ぼす要素であるといえます。
先にみたように、被害者の過失がゼロであることは稀であるため、過失割合が高くなればなるほど、受け取れる金額も減額されることになります。
もっとも、以下のように、過失相殺をせずに処理することも可能です。
その場合、被害者は加害者に対して10万円を支払う必要がありますが、この支払いについては、自身が加入する保険を使って支払うことも可能です。
被害者と加害者がともに保険を使えば、被害者は900万円の支払いを受けることができ、加害者は10万円の支払いを受けることができます。
このような支払い方法を、「クロス払い」といいます。
なお、自賠責保険基準によれば、被害者の過失割合が7割未満であると、過失相殺によっては処理されないことになっており、被害者の過失割合が7割以上であっても、怪我などの傷害については、一律で2割、後遺障害や死亡については、2割~5割に相当する金額が減額されるだけにとどまります。
交通事故には、自動車同士や自動車と自転車、自動車・自転車と歩行者などのように、さまざまなケースがあります。
以下では、想定される交通事故の態様において、加害者と被害者の過失割合が9対1となるケースについて見ていきたいと思います。
自動車と自動車との間に起きた交通事故で、加害者と被害者の過失割合が9対1となるのは、たとえば、以下のようなケースです。
①一時停止の規制がある交差点において、一時停止の規制を受けない道路を直進していた甲と、一時停止の規制を受ける道路を直進していた乙が衝突した交通事故で、甲は減速しながら直進していたものの、乙が減速せずに交差点に進入したケース。
このケースにおいて、乙(加害者)と甲(被害者)の過失割合は9対1になります。
②一方が優先道路となっている交差点において、優先道路を直進していた甲と、優先道路ではない道路を直進していた乙が衝突した交通事故(乙が右折車または左折車のケース、T字型の交差点(一方が優先道路)の場合も同じです)。
このケースにおいて、乙(加害者)と甲(被害者)の過失割合は9対1になります。
③信号機のある交差点において、交差点に赤信号で進入した甲と、交差点に青信号で進入したものの、右折する際には赤信号になっており、対向方向から右折してきた乙が衝突した交通事故。
このケースにおいて、甲(加害者)と乙(被害者)の過失割合は9対1になります。
④追い越しが禁止されている交差点において、右折車乙と、乙の後続車で道路の中央を越えて乙を追い越そうとした甲が衝突した交通事故。
このケースにおいて、甲(加害者)と乙(被害者)の過失割合は9対1になります。
⑤道路の外に出るために右折をしようとした乙と、対向車線を直進していた甲が衝突した交通事故。
このケースにおいて、乙(加害者)と甲(被害者)の過失割合は9対1になります。
⑥追い越しを禁止されていない道路において、直進車甲と、甲を追い越そうとした後続車の乙が衝突した交通事故。
このケースにおいて、乙(加害者)と甲(被害者)の過失割合は9対1になります。
自動車とバイクとの間に起きた交通事故で、過失割合が9対1となるのは、たとえば、以下のようなケースです。なお、以下のケースでの過失割合は、いずれも「9(自動車)対1(バイク)」となります。
①信号機がある交差点で、交差点に黄色信号で入ったバイクと、交差点に赤信号で入った自動車(交差する道路を進行)が衝突した交通事故。
②道路の一方の幅が広い交差点で、幅が広い道路を走るバイクと、幅が狭い道路を走る自動車が衝突した交通事故において、減速しないまま交差点に入った自動車にくらべ、バイクが減速していたケース。
③一時停止の規制を受ける交差点で、一時停止の規制を受けない道路を走るバイクと、一時停止の規制を受ける道路を走る自動車が衝突した交通事故において、減速しないまま交差点に入った自動車にくらべ、バイクが減速していたケース。
④一方が優先道路である交差点で、優先道路を走るバイクと、優先道路でない道路を走る自動車が衝突した交通事故(自動車が右折車であった場合も同じです)。
⑤一方通行の規制を受ける交差点で、一方通行に違反して走る自動車と、一方通行の規制を受けない道路を走るバイクが衝突した交通事故。
⑥信号機のある交差点で、交差点に赤信号で入り、直進する自動車と、交差点に青信号で入ったものの、右折時には赤信号になっていた場合に、対向方向から右折しようとするバイクとが衝突した交通事故。
⑦一時停止の規制を受ける交差点で、一時停止の規制を受けない道路を走るバイクと、一時停止の規制を受ける道路から右折しようとした自動車が衝突した交通事故。
⑧信号機がない交差点で、直進するバイクと、バイクを追い越して左折しようとした後続車が衝突した交通事故。
⑨道路の外から道路に入ろうとした自動車と、道路を走るバイクが衝突した交通事故。
⑩理由もなく急ブレーキをかけたバイクと、後続車が衝突した交通事故。
⑪対向車線に転回しようとする自動車と、後続のバイク(対向車線を走るバイクを含む)が衝突した交通事故。
⑫停車中の自動車がドアを開けたタイミングで、自動車のドアに後続のバイクが衝突した交通事故。
自動車と自転車の間に起きた交通事故で、過失割合が9対1となるのは、たとえば、以下のようなケースです。なお、以下のケースでの過失割合は、いずれも「9(自動車)対1(自転車)」となります。
①信号機がある交差点で、交差点に赤信号で入り直進する自動車と、交差点に右折の青矢印で入り対向方向から右折しようとした自転車が衝突した交通事故(自転車は、自動車やバイクとは違い、右折の青矢印で右折することはできません)。
②信号機がない交差点で、直進する自転車と、対向方向から右折しようとした自動車が衝突した交通事故。
③道路の一方の幅が広い交差点で、幅が広い道路を走る自転車と、幅が狭い道路から右折しようとした自動車が衝突した交通事故(右折しようとした自転車と直進していた自動車が衝突した場合も同じです)。
④一時停止の規制を受ける交差点で、一時停止の規制を受けない道路を走る自転車と、一時停止の規制を受ける道路を走る自動車が衝突した交通事故(自動車・自転車が右折車であった場合や自転車が右折しようとする際に、自動車が直進方向に右折しようとした場合も同じです)。
⑤一方が優先道路である交差点で、優先道路を走る自転車と、優先道路でない道路を走る自動車が衝突した交通事故(自動車・自転車が右折車であった場合や自転車が右折しようとする際に、自動車が直進方向に右折しようとした場合も同じです)。
⑥信号機がない交差点で、左折しようとした自動車と、直進してきた後続の自転車が衝突した交通事故。
⑦信号機がない交差点で、渋滞の中にいる自動車の間を通り、対向方向から右折しようとした自動車(交差する道路を走る自動車を含む)と、渋滞の中にいる自動車を追い越しながら走る自転車が衝突した交通事故。
⑧道路の外から道路に入ろうとした自動車と、道路を走る自転車が衝突した交通事故。
⑨道路の外に出ようと、右折した自動車と、対向車線を走る自転車が衝突した交通事故。
⑩左側を走るべき自転車が右側を走っていたため、対向車線を走る自動車と衝突した交通事故。
⑪進路を変更した自動車に、後続の自動車が衝突した交通事故。「進路変更」とは、進行方向を変えずに、右斜め前や左斜め前に向きを変えて進行することをいい、車線変更を含みます。
⑫障害物が前方にあったため進路を変更した自転車と、後続の自動車が衝突した交通事故。
⑬対向車線へ転回しようとする自動車と、後続の自転車(対向車線を走る自転車を含む)が衝突した交通事故。
自動車と歩行者の間に起きた交通事故で、過失割合が9対1となるのは、たとえば、以下のようなケースです。なお、以下のケースでの過失割合は、いずれも「9(自動車)対1(歩行者)」となります。
①道路の一方の幅が広い(道路の一方が幹線道路である場合を含む)交差点または交差点の付近で、幅が狭い道路(幹線道路でない道路を含む)から右左折しようとした自動車と、幅が広い道路(幹線道路を含む)を横断しようとする歩行者が衝突した交通事故。
ここでいう「幹線道路」とは、車道と歩道の区別があり、車道の幅が広く通行量の多い道路のことをいいます。
②道路の一方の幅が広い(道路の一方が幹線道路である場合を含む)交差点または交差点の付近で、幅が狭い道路(幹線道路でない道路を含む)から走ってきた自動車と、幅が狭い道路(幹線道路でない道路を含む)を横断しようとする歩行者が衝突した交通事故(幹線道路を含む、幅が広い道路から自動車が右左折しようとした場合も同じです。)。
③工事中などで通行できずに、車道の側端を通行していた歩行者と、車道を走る自動車が衝突した交通事故。
④車道と歩道が区別されていない道路で、右側・左側・道路の幅が8m以上である道路の中央部分を除く道路を通行していた歩行者と、道路を走る自動車が衝突した交通事故。
自転車と歩行者の間に起きた交通事故で、過失割合が9対1となるのは、たとえば、以下のようなケースです。なお、以下のケースでの過失割合は、いずれも「9(自転車)対1(歩行者)」となります。
①信号機がある交差点で、青信号で歩行者が道路を渡ろうとし、右左折しようとした自転車が交差点に青信号で入り、横断歩道を通過した後に歩行者と衝突した交通事故。
②信号機がある交差点で、青信号で歩行者が道路を渡ろうとし、交差する道路を走ってきた自転車が交差点に赤信号で入ろうとした際に、横断歩道の手前で歩行者と自転車が衝突した交通事故。
③工事中などで通行できずに、車道の側端を通行していた歩行者と、車道を走る自転車が衝突した交通事故。
④車道と歩道が区別されていない道路で、道路の側端部分を除く道路を通行していた歩行者と、道路を走る自転車が衝突した交通事故。
交通事故において、加害者と被害者の過失割合が9対1となる場合、被害者が加害者に対して請求できる損害賠償の金額は、以下のように、まず始めに、被害者が受けた損害の総額を計算し、そのうえで過失相殺をすることになります。
交通事故により被害者が受けた損害につき、その総額を計算します。
この点、交通事故で被害者が受ける損害には、さまざまな費目があります。
たとえば、治療費や入通院交通費、慰謝料や休業損害、逸失利益などはすべて被害者が受けた損害にあたります。
そのため、これらの損害をすべて合計した金額が、被害者が受けた損害の総額ということになります。
被害者が受けた損害の総額を計算したら、次に、その損害の総額から被害者の過失分を差し引き、過失相殺を行います。
たとえば、被害者が受けた損害の総額が1,500万円で、加害者と被害者の過失割合が9対1であった場合、被害者が加害者に対して請求できる損害賠償の金額は、以下の計算式によって算出され、1,350万円ということになります。
1,500万円×0.9(被害者の過失分)=1,350万円
もっとも、加害者にも損害が発生している場合には、以上の考え方が同じようにあてはまり、加害者が受けた損害の総額から過失分を差し引いた金額を被害者に請求することができます。
この場合は、先に見たように、直接支払いを受ける方法(クロス払い)と被害者が加害者に対して請求できる損害賠償額から差し引いてもらう方法(相殺払い)のいずれかによることとなります。
「既払金」とは、被害者が既に加害者側の保険会社から支払いを受けている金銭のことをいいます。
治療費は、任意保険会社が医療機関に対し、一括で立て替えて支払ってくれることが一般的です。
このほかにも、任意保険会社がその都度支払いをしてくれる損害費目がある場合、また、自賠責保険から既に支払いを受けているケースもあります。
このような既払金は、過失相殺により算出された損害賠償額からさらに差し引くことになります。
その結果算出された金額が、被害者が受け取ることのできる最終的な損害賠償の金額ということになります。
過失割合は、一般的に、保険会社同士の示談交渉によって決められることになりますが、あくまで話し合いによるものであるため、必ずしもその判断が正しいわけではありません。
過失割合は、交通事故の態様によって、個別のケースに応じて修正されることが少なくありません。
そのため、保険会社同士の示談交渉により最終的に決められた過失割合に不満が残る場合には、被害者側の過失割合を下げてもらうために、加害者側の保険会社と交渉をしなければなりません。
もっとも、相手は示談交渉のプロともいえる保険会社であり、交通事故に関する知識や経験も豊富であるため、被害者が本人で対応をしようとしても、思うようにはいかないことがほとんどでしょう。
このような場合には、弁護士に示談交渉を依頼することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、ドライブレコーダーや警察により作成された実況見分調書、被害者に有利になりうるような資料を代わりに収集してくれ、過失割合を認定し直してもらえる可能性が高くなります。
交通事故では、そのほとんどが加害者と被害者の双方に過失が認められるため、それぞれの過失割合に応じて、最終的な損害賠償の金額が決まります。
このように、過失割合は、被害者が加害者に対して請求できる損害賠償の金額に大きく影響を及ぼします。
被害者の過失割合が高くなればなるほど、被害者が受け取れる損害賠償額も大きく減額されることになるため、被害者にとって、過失割合がどのように認定されるかという点は、大変重要な問題です。
また、過失割合は、交通事故の態様によっても、変わる可能性があります。
保険会社同士の示談交渉で決められた過失割合について不満が残るような場合には、すぐに諦めるのではなく、妥当性のある過失割合を認定してもらうためにも、弁護士に一度相談すべきでしょう。
弁護士に依頼したくても、弁護士費用が心配で躊躇してしまう方も少なくないでしょう。
そのような場合に、活用できる制度として「弁護士費用特約」があります。
「弁護士費用特約」とは、被害者側の保険会社が、独自に設定している上限額までの間で弁護士費用を負担してくれる制度のことをいいます。
自身が加入する任意保険で弁護士費用特約に加入している場合には、その点も念頭に置いて、弁護士への依頼を検討しましょう。
交通事故において、損害を受けた被害者は加害者に対して、損害賠償を請求することができます。
もっとも、交通事故では、被害者側にも一定の過失が認められることがほとんどです。
そのため、実際に被害者が加害者に対して請求できる損害賠償の金額は、被害者の過失分が差し引かれた金額ということになり、被害者の過失割合が高くなればなるほど、差し引かれる金額も大きくなります。
今回は、加害者と被害者の過失割合が9対1となるケースを中心に見てきましたが、交通事故には自動車同士だけでなく、自動車と自転車、自転車と歩行者などといったように、さまざまなケースがあります。
交通事故における過失割合は、相手から受け取れる損害賠償の金額に大きく影響を及ぼすことになるため、一度認定された過失割合であっても、その割合に不満がある場合には、弁護士に相談するなどして、妥当な過失割合の認定を受け直したうえで、適正な損害賠償額を受け取るようにしましょう。