東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
目次
治療費の打ち切りとは、加害者側の任意保険会社が治療費の支払いを停止することをいいます。
けがの治療費は加害者が加入する任意保険会社が病院へ直接支払ってくれるケースが多く、被害者は病院の窓口でお金を支払うことなく治療を受けられます。
しかし、治療開始から一定期間が経過すると、加害者側の任意保険会社が治療費の打ち切りを告げてくることがあります。被害者に支払う治療費を少しでも少なくするために、さまざまな理由をつけて治療費を打ち切ろうとしてくるのです。
打ち切りの理由はさまざまですが、「治療が途中で中断しているので、そこで完治しているはずだ」「一般的なけがの治療期間を過ぎている」「整骨院や接骨院での治療はけがの治癒に必要とは言えない」などと主張してくるケースが多いです。
けがが完治する前に治療を中断すると、次のようなデメリットがあります。
治療費の打ち切りを理由に通院をやめてしまうと、けがの治療を十分に受けられません。完治が長引き日常生活に支障を来たす恐れがあるでしょう。
また、十分な治療期間がない場合、適切な後遺障害等級に認定されない恐れもあります。外傷のない痛みや痺れなどは、レントゲンやCTなどの画像検査だけでなく治療期間も重要視されます。とくにむちうちの場合には症状が客観的にわかりにくいので、少なくとも週に2〜3回程度の通院を6カ月程度継続しないと、後遺障害等級非該当になる可能性もあります。
さらに、通院期間が短いと通院することへの精神的苦痛は小さいと判断されて、入通院慰謝料が減額される恐れもあります。
交通事故で治療費の打ち切りを告げられるタイミングは、保険会社によって異なります。
明確な基準はありませんが、次のタイミングで打ち切りを告げられるケースが多いです。
自己判断で治療を中断した場合、それ以上の治療は必要ないとみなされ治療費の打ち切りを告げられる恐れがあります。自己判断で治療を中断するケースには、仕事が忙しくて通院する時間が取れなかったり、ある程度回復したため自己判断で自宅療養に切り替えるパターンが挙げられるでしょう。
1度でも通院を中断すると、その後痛みが出てきて通院を再開しても「交通事故とは関係のないことが原因で起きている痛みだ」と主張され、治療費を支払ってくれない恐れがあります。
けがの治療期間にはある程度の目安があります。一般的に言われている治療期間を過ぎると、保険会社から治療費の打ち切りを告げられる場合があります。
けがの種類 | 治療費打ち切りのタイミング |
---|---|
打撲 | 1カ月程度 |
症状の軽いむちうち | 3カ月程度 |
症状の重いむちうち | 6カ月程度 |
骨折 | 3カ月〜1年程度 |
保険会社は、実際のけがの状況や治療の進捗状況等を考慮せずに打ち切りを告げてきます。そのため、比較的症状の重いむちうちでも3カ月程度で治療の打ち切りを宣告してくるケースも十分に考えられるのです。
保険会社は病院側と連絡を取り合い、被害者の治療状況をおおむね把握しています。そのため、けが完治したタイミングや医師が症状固定を診断した場合、その時点で治療費の支払い終了を告げられるでしょう。
症状固定後でも、症状の悪化を防ぐために必要だった場合や治療する必要性を医師が認めている場合には、その後の治療費も請求できる場合があります。
ただし、治療費の支払いはあくまでも「けがの完治もしくは症状固定まで」が原則です。それ以降の治療費は原則として自己負担になるので、注意してください。
交通事故の被害者として十分な補償を受けるためには、治療費を打ち切られないような対策をしっかり施しておくことが重要です。
ここでは、治療費の打ち切りを避けるための方法を5つご紹介していきます。
治療費の打ち切りを避けるための方法5選
通院を継続すべきかどうかの判断は、必ず医師の判断を仰いでください。自己判断で通院を中断すると、中断以降の治療費が打ち切られる可能性が高くなります。
中断期間が長引けば長引くほど、保険会社に「再開後の治療は、事故が原因のけがではないのではないか」と主張されるリスクが高まります。また、病院側も事故扱いでの治療を一旦終了させてしまう可能性もあるでしょう。
完治しているのに無理に通院すべきではないですが、通院を終了させるかどうか判断は必ず医師の指示に従うようにしましょう。
症状の程度や治療の進行状況に応じて、適切な回数で通院することを心がけてください。治療費や入通院慰謝料を多く取ろうと通院頻度を増やしていると、逆に治療費の減額を主張される恐れがあります。
例えば、むちうちであれば週2〜3回の頻度で通院するのが望ましいとされています。これ以上の回数で通院すると「治療費の上乗せのためにわざと通院頻度を増やしているのではないか」などと疑われる恐れがあります。また通院頻度が少なすぎると、「軽い症状に違いないのでその分、入通院慰謝料を減額する」などと主張される恐れがあるでしょう。
多忙でなかなか通院できない場合もありますが、少なくとも2週間に1回程度は通院するよう心がけてください。
担当の医師に自身の症状をしっかり伝えておけば、治療費を打ち切られる可能性を下げることができます。症状が出ている箇所や症状の内容、治療によって症状が改善している箇所や悪化している箇所など、詳細をしっかり伝えておきましょう。
相手方の保険会社は、治療費の打ち切りを判断するにあたって担当医に医療照会をかける場合があります。医師に具体的な症状を伝えておけば、照会の際に治療継続の必要性を訴えることができるので、打ち切りのタイミングを伸ばせる可能性があります。
また、医師に症状をしっかり伝えておけば、適切な後遺障害等級を認定してもらうために十分な「後遺障害診断書」を作成してもらうことも可能です。
けがの治療費は、病院でかかった費用に対して支払われるのが原則です。そのため、整骨院や接骨院などの治療費については、「けがの治療」とみなされない恐れがあります。
整骨院や接骨院での治療を医師が指示したのであれば、その分の治療費が認められる場合もあるでしょう。ただし、基本的には病院での治療にかかる費用以外の請求は認められません。
ほかにも、整体や針治療、温泉治療やマッサージ治療などについても、治療の必要性・相当性が認められない可能性が高いです。
専門的な治療を行うために転院する場合など、けがの治療をするうえで必要性が認められる転院であれば問題ありません。しかし、「担当医と気が合わない」などの理由で転院を繰り返していると、治療継続の必要性について疑問を持たれてしまい、治療費の打ち切りを宣告されやすくなります。
また、同じ種類の治療を複数の病院で同時に受診していると、けがの治療には必要のない受診と判断されて全額の治療費を支払ってもらえない恐れがあります。
もしどうしても転院の必要がある場合には、担当医に転院の必要性について一筆書面に書いてもらうのがおすすめです。
治療費を打ち切られてしまい病院への支払いが自己負担になると、治療の継続を諦めてしまう人も多いでしょう。しかし、けがが完治もしくは症状固定に至っていない以上、治療を継続すべきだといえます。
ここでは、保険会社に治療費を打ち切られた場合の対処法を解説していきます。
保険会社が一般的なけがの治療期間を理由に治療費の打ち切りを宣告してきたら、担当医師に治療継続に関する意見書を書いてもらい、診断書と合わせて保険会社に提出してみましょう。医師が治療継続の必要性を主張してくれれば、保険会社も治療費の支払いを継続してくれる可能性が高いです。
また症状固定の判断ができるのは、医療の専門家である医師だけです。保険会社に症状固定を判断することはできないので、医師の意見書があれば保険会社による症状固定の主張に対しても、適切に反論できるでしょう。
ただし、交通事故に精通している医師ではない場合、意見書などの作成に協力してくれないケースもあります。被害者自身での対応が難しければ、交通事故に精通している弁護士に1度相談してみることをおすすめします。
治療費を打ち切られてしまっても、けがが完治もしくは症状固定と診断されていない以上治療は継続すべきです。治療を中断すると、その分、入通院慰謝料を減額されたり、後遺障害等級の認定に悪影響が出る恐れがあるからです。
打ち切り後の治療費は自己負担になりますが、その分の治療費は後日保険会社に請求できます。素直に支払ってもらうためにも、担当医に治療継続の必要性に関する意見書や診断書を作成してもらっておきましょう。
治療費の支払いを打ち切られた場合、自分の健康保険に切り替えて治療を続ける方法もあります。けがまだ完治していないなど引き続き治療する必要があるときは、健康保険への切り替えを病院側と相談してみましょう。
健康保険を使えば、治療費の負担は1~3割になるため、よほど高額な治療費にならない限り自費で通院を継続できます。
また、治療継続の必要性が認められれば、自己負担分の治療費を加害者側に請求できる場合もあります。
自分の健康保険を使っても治療費の負担が難しいときは、被害者自身が加入する自動車保険の人身傷害保険特約や、自賠責保険の仮渡金制度を利用してみましょう。
自動車保険に人身傷害保険特約が付帯していれば、加害者側の保険会社と示談がまとまる前でも保険金を受け取れます。そのため、治療費を自己負担せずに支払えます。
また自賠責保険には「仮渡金」と呼ばれる制度があり、けがの状況に応じて5万~40万円(死亡の場合は290万円)の一時金を受け取れます。経済的に余裕がないときは、仮渡金制度を利用して医療費を捻出しましょう。
業務中の交通事故でけがを負った場合、保険会社が治療費の支払いを打ち切っても、労災保険に治療費を支払ってもらえるケースがあります。労災保険なら治療費の打ち切りがないので、完治するまで費用の心配をすることなく治療に専念できるでしょう。
以下のような交通事故であれば、基本的に労災認定されるでしょう。
労災認定の判断が難しいときは、交通事故専門の弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故専門の弁護士に依頼すれば、保険会社との治療費支払い継続交渉を任せられます。被害者自らが交渉する場合と比べて、治療費の支払いを引き延ばしてもらえる確率が高まるでしょう。
また、治療費の打ち切り交渉だけではなく、弁護士は以下のような問題も解決してくれます。
➡︎慰謝料を含む賠償金の増額
不慣れな手続きや示談交渉を自分1人でおこなっていると、ストレスで日常生活に悪影響を及ぼしてしまう恐れがあります。けがの治療に専念し、少しでも多くの賠償金をいち早く受け取りたい場合には、交通事故に強い弁護士に対応を任せることをおすすめします。
加害者側の保険会社から治療費の打ち切りを告げられても、けがが完治していないのであれば治療を継続してください。
途中で治療を断念した場合、十分に回復を見込める後遺症でも、痛みやしびれなどの障害がそのまま残ってしまう可能性があります。
また、治療費を中断することで入通院慰謝料を減額されたり、後遺障害等級認定に悪影響をおよぼす恐れがあります。
ただし、自分で保険会社と交渉しても治療費の支払いを引き延ばしてくれる確率は低いので、困ったときは弁護士に相談してください。
弁護士費用特約を使えばタダで弁護士に依頼できるケースも多いので、1度自分や家族の保険に弁護士費用特約が付帯しているか確認してみるとよいでしょう。