東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
目次
交通事故には、物損事故と人身事故の2つの種類があります。
物損事故とは、交通事故が発生した場合の損害が車やガードレールなどの物に対してのみ生じた事故のことです。
物損事故を起こしてしまった場合、道路交通法第72条1項の規定によって警察に届け出る必要はありますが、処分上は事故扱いにはならないのが特徴です。
免許の違反点数の加点や、反則金などの処分が科せられることはありません。
もっとも、交通事故によって他人の物や公共の物を壊してしまった場合は、民事上の損害賠償責任は発生します。
また、物損事故でもいわゆる当て逃げをしてしまった場合には、処分や罰則、反則金の対象になります。
詳しく知りたい方は、下記記事を参照してください。
人身事故とは、交通事故によって発生した被害について、被害者が怪我をした場合や、亡くなってしまった事故のことです。
人身事故を起こしてしまった場合、加害者は状況によって様々な処分を受けることになります。
免許の違反点数の加点や、反則金などの対象にもなります。
物損事故は基本的に違反点数の加点や反則金などの対象にはなりません。
そのため、物損事故を起こしてしまった場合にも、無事故無違反扱いになります。
免許においては無事故無違反ということで、ゴールド免許を取得することも可能です。
人身事故を起こした場合に科される処分には、行政処分、刑事処分、民事処分の3種類があります。
3つの処分はそれぞれ独立して科されるのが特徴で、科される目的も異なります。
交通事故における行政処分は、道路交通に関する治安の維持や安全の確保を目的とするものです。
行政処分の内容としては、運転免許に関連する処分が科され、交通事故の内容に応じて運転免許に違反点数が加算されます。
加算された点数が一定以上になると、更に免許停止や免許取り消しなどの処分の対象になります。
交通事故における刑事処分とは、加害者が起こした人身事故が法に抵触し、何らかの犯罪を構成する場合にその責任を問うものです。
刑事処分が科される法律としては、刑法、自動車運転死傷行為処罰法、道路交通法などがあります。
人身事故の場合は、罰金、禁固、懲役などが科せられます。
民事処分とは、民法などの規定に基づいて、事故の加害者が被害者に与えた損害について、賠償金を支払う義務が発生することです。
交通事故の損害には、怪我や死亡などによる人身損害と、車などの物を損壊させたことによる物的損害があります。
加害者は、怪我の治療費や車の修理費、事故への精神的苦痛などに対して賠償金を支払います。
人身事故の行政処分では、事故の状況に応じて違反点数が科されます。
違反点数の仕組みと免許停止と免許取り消しの違いについてみていきましょう。
人身事故で加算される違反点数は、基礎点数と付加点数の合計で決まります。
基礎点数とは、交通違反に対して科される違反点数のことで、危険性の低い交通違反である一般違反行為と、危険性の高い悪質な違反である特定違反行為の2つに分けられます。
また、人身事故を起こした場合に科される違反点数については、交通事故が発生した日から起算して、過去3年間分の違反点数が計算されます。
例えば、平成30年10月に起こした事故の違反点数だけでは免許停止にならない場合でも、過去3年以内に該当する平成29年6月に科された違反点数と合計すると免許停止になる場合は、2つが合算されて免許停止になるという仕組みです。
一般違反行為は点数が1点から25点まであり、違反内容によって加算される点数が決まります。
一般違反行為の例としては、信号無視、速度超過、免許条件違反などがあります。
一般違反行為の中で加算される点数が最も重いのは25点で、例としては0.25mg以上のアルコールが検出された酒気帯び運転や、過労や病気などで正常な運転ができないおそれがある状態で車を運転する過労運転などがあります。
特定違反行為とは、違反行為の中でも特に悪質とされる行為を集めたものです。
自動車を凶器として使用して故意に人を殺傷する場合や、危険な運転行為によって人を死傷させてしまう危険運転致死傷、いわゆるひき逃げである救護義務違反などがあります。
特定違反行為の違反点数は最低でも35点なので、一発で確実に免許取り消しになる重いものです。
また、免許取り消しに付属して科される欠格期間が、一般違反行為の場合よりも長期になるのが特徴です。
追加点数とは、人身事故の被害者の負傷の程度によって加算される違反点数です。
被害者の死亡、後遺障害が伴う傷害、治療期間が30日以上3か月未満の傷害の場合、などがあります。
追加点数は、人身事故が発生した状況によって、被害者の状態が同じでも加算される点数が異なるのが特徴です。
被害者の負傷程度 | 専ら加害者の不注意により事故が発生した場合 | 相手にも非がある場合 |
---|---|---|
死亡 | 20点 | 13点 |
治療期間が3か月以上、または後遺障害が伴う場合 | 13点 | 9点 |
治療期間が30日以上3ヶ月未満 | 9点 | 6点 |
治療期間が15日以上30日未満 | 6点 | 4点 |
治療期間が15日未満、または建造物の損壊がある場合 | 3点 | 2点 |
一般に「免停」と呼ばれる免許停止とは、免許の効力が一時的に停止される処分のことです。
一次的な処分なので、免許が停止される期間が経過すれば、免許の効力が復活して再び運転ができるようになります。
免許取り消しとは、一度取得したはずの免許の効力が取り消されてしまう行政処分です。
免許停止との大きな違いは、免許停止は一定の期間が過ぎれば免許の効力が復活するのに対し、免許取り消しは効力が復活しないことです。
免許取り消しになった場合、再び免許を取得したい場合は再度試験を受ける必要があります。
加えて、免許取り消しの処分を受けてしまうと、一定期間は免許を再取得することができない欠格期間も設定されます。
詳しく知りたい方は、下記記事を参照してください。
人身事故の刑事処分では、事故状況に応じて刑事罰と罰金が科されます。
刑事処分における罰則の種類と刑事処分の流れについてみていきます。
人身事故に関する刑事処分においては、事故の態様や被害者の負傷の程度などによって、罰金、禁固、懲役などが科せられます。
罰金 | 加害者から強制的に金銭を取り立てる刑罰 人身事故の刑事処分としては一番軽い刑 |
---|---|
禁固 | 加害者を施設に拘置されるする刑罰 |
懲役 | 加害者を施設に拘置され、施設内で所定の作業を科せられる刑罰 |
刑事罰は、事故の経緯や被害者の負傷の具合によって刑罰が変わります。
仮に罰金刑だけだったとしても、前科が残ることは忘れないでください。
負傷の程度 | 刑罰 |
---|---|
死亡 | 懲役刑7年以下 もしくは禁錮刑 |
治療期間が3か月以上または後遺障害がある場合 | 懲役刑・禁錮刑 罰金刑50万 |
治療期間が30日以上3か月未満 | 罰金刑30万~50万円 |
治療期間が15日以上30日未満 | 罰金刑20万~30万円 |
治療期間が15日未満または建造物の損壊がある場合 | 罰金刑12万~30万円 |
人身事故を起こしたからといって、必ず犯罪になるわけではありません。
罰金刑で済むことも多く、正式な刑事裁判にならなければ法廷に出廷することもありません。
ただ、人身事故では刑事罰に問われる可能性も十分にあります。
交通事故の種別や被害の程度により、刑事罰が科されることがあります。
治療期間がこれより短い場合は、基本的にすべて罰金刑となります。
なお、罰金刑も前科となり、その記録は亡くなるまで生涯消えることはありません。
人身事故を起こした場合、どのような流れで刑事処分を受けることになるかをみていきます。
刑事処分の流れ
人身事故は、よほど悪質な場合でなければ、逮捕されて身柄を拘束されることはありません。
人身事故の場合は、在宅捜査で取り調べを受けるケースが多いです。
在宅捜査では、通常の社会生活を送りながら取り調べを受けます。
また、必要に応じて警察や検察に呼び出され、取り調べを受けることもあります。
検察庁は取り調べの内容などを考慮し、起訴・不起訴を決定します。
起訴された場合は裁判によって判決が下され、罰金刑や禁固刑などの刑罰が決まります。
交通事故の多くは略式裁判の形式となり、事務手続きによって裁判を進めますが、100万円以下の罰金刑などが想定される事故のみを対象としています。
交通事故のほとんどは不起訴処分となりますが、死亡事故やドライバーに重過失がある場合は、起訴される確率が高くなるでしょう。
なお、飲酒運転や無免許運転、一般道における30キロ以上の速度オーバーなどが重過失にあたります。
不起訴処分とは、検察が加害者を起訴するかどうかを判断した結果、起訴しないという決定をすることです。
不起訴処分になると、刑事裁判にかけられず、それまで身体を拘束されていた場合も解放されます。
そのため、不起訴処分は、無罪が認められて放免されることとほぼ同じ効果を得ることになります。
人身事故について検察官が起訴した場合、刑事裁判が行われることになります。
100万円以下の罰金程度の比較的軽い事件の場合は、略式裁判という形で行われるケースが多くなっています。
略式裁判とは、正式な裁判よりも簡易な方法によるもので、検察官が提出した書面に基づいて裁判官が審査をする手続きです。
略式裁判が終了すると、略式命令という形で罰金の納付が命じられます。
略式命令を受けた加害者は、罰金を納付して手続きを終わらせるか、不服がある場合には、正式な裁判を申し立てることもできます。
通常の裁判という形になった場合は、公判で裁判を行うことになります。
証人尋問や証拠調べなどの手続きを経て、判決が下ります。
刑事裁判で有罪になった場合でも、執行猶予がつくことがあります。
執行猶予とは、有罪の判決が下った場合でも一定期間の間に刑の執行を猶予することで、その期間を無事に過ごせば刑の執行を免除する制度です。
有罪であるという点で無罪とは異なりますが、猶予の期間を無事に過ごせば社会復帰することができます。
注意点としては、執行猶予の期間中に人身事故を含む他の犯罪を行って有罪になってしまうと、執行猶予が取り消されてしまう点です。
その場合、以前の執行猶予の判決の期間に加えて、猶予中の犯罪の期間も加算されるので、場合によっては長期間懲役や禁固に処される場合があります。
そのため、執行猶予の期間中は注意して生活をすることが大切です。
民事処分では、民法などの規定に基づいて、加害者が被害者に与えた損害に対して賠償金を支払います。
民事処分で加害者が支払う賠償金としては、怪我の治療費、車の修理費、事故がなければ得られたはずの収入、事故を原因とする精神的苦痛に対する慰謝料などがあります。
賠償金は加害者が加入している自賠責保険や任意保険によって支払われ、不足分は加害者が自己負担することになります。
人身事故を起こしてしまった場合に加害者がしなければならないことは、次の通りです。
それでは、1つずつ見ていきましょう。
交通事故の加害者になってしまった場合、まず第一にしなければならないことは負傷者の保護です。
負傷者がいる場合は救護し、怪我の有無や程度を確認し、必要があれば救急車を手配する必要があります。
救護のための措置をとらずに現場から立ち去ってしまうと救護義務違反となり、いわゆるひき逃げとして処罰の対象になります。
注意点としては、負傷者がいることに気づかずに現場を去った場合でも、救護義務違反として処罰の対象になる可能性があることです。
事故を起こした場合には、必ず負傷者がいないかを確認することが大切です。
人身事故が発生した場合には、二次災害を防ぐことが大切です。
交通事故における二次災害とは、最初の事故を原因として二つ以上の事故が発生することです。
二次災害の例としては、最初の事故で道路に投げ出された負傷者が別の車に轢かれてしまうなどがあります。
二次災害を防ぐためには、事故現場の危険の除去や安全の確保などが重要です。
負傷者や車を安全な場所に移動したり、周囲の車に事故が発生したことを知らせるなどの対策をとって二次災害を防ぎましょう。
負傷者の救護や二次災害の防止など、緊急の作業が終わったら、事故の発生を警察に報告が必要です。
事故現場を管轄する最寄りの警察署、駐在所、交番などに事故の報告をすることになります。
報告する項目としては、事故が発生した場所と時間、負傷者や死傷者の人数や程度、損壊した物と程度、事故発生後にとった措置などがあります。
現場での処理が終わった後に加害者が行うべきことは、被害者への謝罪です。
加害者からの謝罪の有無によって被害者の精神的な苦痛や心情が変わるだけでなく、後の裁判や処分にも影響することになります。
加害者の謝罪は、被害者にとっても加害者にとっても重要な行為になります。
また、刑事裁判で起訴されるかどうかなど、後の裁判や処分においては、被害者への謝罪だけでなく、賠償能力が十分にあるかも重要な判断材料になります。
詳しく知りたい方は、下記記事を参照してください。
人身事故を起こした場合に加害者に科される処分には、行政処分、刑事処分、民事処分があります。
人身事故で罰金刑となった場合は、12万円~100万円の罰金を支払う必要があります。
また、罰金の他にも被害者に損害賠償金を支払わなければいけないため、多額のお金がかかります。
今回ご紹介した情報を活用していただきまして、もしもの時に備えていただければと存じます。