

東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

目次
危険運転致死傷罪とは、自動車の運転において、極めて危険な状態で走行し、人を死傷させた場合に成立する犯罪です。飲酒や薬物の影響、過度なスピード超過、無免許など、通常の注意義務を大きく逸脱した運転が対象になります。
この罪の本質は、「不注意による事故」ではなく、自分の運転行為が危険であることを認識しながら運転した結果、人を傷つけたという点にあります。そのため、単なる過失(ミス)ではなく、危険を理解していながら運転を続けた場合にその責任を問われます。
また、危険運転致死傷罪は事故の結果が「死亡」か「傷害」かにかかわらず、運転行為そのものの危険性を重視して判断されます。たとえ被害者が軽傷でも、運転の態様が極めて危険であれば適用される可能性があります。
両者の違いは、危険を自覚していたかどうかです。危険運転致死傷罪は悪質・故意性の高い運転に対して、過失運転致死傷罪は注意義務を怠った過失行為に対して、それぞれ適用されます。
危険運転致死傷罪は、飲酒や薬物の影響、極端なスピード超過など、自分の運転が危険であることを認識しながら走行し、人を死傷させた場合に成立します。
一方、過失運転致死傷罪は、不注意や判断ミスにより人を死傷させた場合に適用されます。わき見運転や信号の見落としなど、危険を意図していなかったケースが典型です。
危険運転致死傷罪は、自動車運転死傷処罰法第2条に定められた6つの行為のいずれかに該当し、人を死傷させた場合に成立します。
以下で、それぞれの類型を具体的に確認していきます。
アルコールや薬物の影響により、まっすぐ走れない、信号を見落とすなど、運転操作に支障が出る状態で走行した場合に危険運転致死傷罪が成立します。
判断の基準は「呼気中アルコール濃度」ではなく、運転能力がどの程度低下していたかです。たとえ酒気帯び基準(0.15mg/L)を下回っていても、ふらつきや反応の遅れが見られれば「正常な運転が困難」とされることがあります。
薬物の場合も、幻覚や意識の混濁によって安全運転ができない状態であれば同様に処罰対象です。
車の性能や道路状況に照らして、ハンドル操作やブレーキで制御できないほどの速度で走行し、人を死傷させた場合は危険運転致死傷罪が成立します。具体的には、市街地で時速100kmを超えるような極端なスピードや、制限速度を大幅に超えてカーブへ突入する行為などが典型です。
法律で明確な速度基準は定められていませんが、重要なのは「制御不能な速度であることを自覚していたか」です。つまり、速度の数値よりも、危険を理解しながら運転していたかどうかが判断の中心になります。
自分に必要な運転技術がないことを理解しながら車を運転し、人を死傷させた場合も危険運転致死傷罪に該当します。典型的なのは、無免許で公道を運転したり、操作方法を理解しないまま車を動かしたりするケースです。
また、極端に運転経験が少なく、車の特性を把握していない状態で高速道路などを走行する場合も対象となることがあります。
重要なのは、単なる運転ミスではなく、自分に運転する技能がないとわかっていながら運転したかどうかです。つまり、未熟さを自覚していたのにハンドルを握った点が、この類型の核心といえます。
ほかの車や歩行者の通行を妨害する意図をもって運転した場合も、危険運転致死傷罪の対象になります。たとえば、車間を極端に詰めて威圧したり、進路を塞ぐように蛇行したり、急ブレーキを繰り返す行為などが典型です。いわゆるあおり運転がこの類型にあたります。
単なる追い越しや運転マナーの悪さとは異なり、明確な威嚇や嫌がらせの意図があった場合にのみ、危険運転致死傷罪として扱われます。
信号が赤に変わっているのを認識しながら、高い速度で交差点に進入し、人を死傷させた場合には危険運転致死傷罪が成立します。単なる信号無視ではなく、危険な速度で走行した結果、重大な事故を招くおそれがあるケースに限られる点が特徴です。
この類型の判断では、「信号が赤であることを理解していたか」が重要になります。危険を認識しながら交差点に進入し事故を起こした場合、結果が軽傷であっても厳しく処罰される可能性があります。
通行止めや車両進入禁止など、立ち入りが禁止されている道路を危険な速度で走行し、人を死傷させた場合にも危険運転致死傷罪が成立します。
この行為のポイントは、単に標識を見落として進入したのではなく、禁止されていると知りながらあえて進入したかどうかです。たとえば、歩行者専用道路や一方通行の逆走路に高速で突入し、通行人にけがを負わせたような場合が典型です。
誤って進入した場合は過失運転として扱われますが、禁止を理解しながら故意に進入し、危険な速度で走行したときは、悪質な行為として厳しく処罰されます。
自動車運転死傷処罰法第3条では、アルコールや薬物、または特定の病気によって正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、人を死傷させた場合についても危険運転致死傷罪として処罰しています。
第2条よりも刑事罰が軽く規定されているのが特徴です。
飲酒や薬物摂取により、正常な運転ができないおそれがあることを自覚しながら運転を開始し、人を死傷させた場合に適用されます。第2条では「すでに正常な運転が困難な状態」で走行していた場合が対象でしたが、第3条はその前段階、すなわち危険を認識しながらも運転を始めた行為を処罰するものです。
たとえば、「少し酔っているが運転できる」と判断して車を動かし、事故を起こしたケースなどが該当します。このような行為は、実際に制御が困難であったかどうかにかかわらず、危険性を理解して運転を始めた点に悪質性があるとみなされます。
薬物の場合も同様で、幻覚や意識の混濁などが起きる可能性を知りながら運転したときには、危険運転致死傷罪として扱われます。
てんかん、統合失調症、低血糖症など、発作や意識障害を起こすおそれのある病気を抱えながら、その危険性を認識して運転し、人を死傷させた場合も危険運転致死傷罪に該当します。
この類型のポイントは、「病気の存在そのもの」ではなく、発作などで正常な運転ができないおそれを自覚していたかどうかです。たとえば、過去に発作を起こした経験がありながら医師の指示に反して運転を続けた結果、意識を失って事故を起こした場合などが典型です。
一方で、自分の症状を正確に認識していなかった場合には、本罪の適用は難しいとされています。また、特定の病気にかかっていても、病気とは別の原因で人を死傷させた場合には成立しません。
危険運転致死傷罪の刑罰は非常に重く、罰金刑はありません。処罰の内容は、自動車運転死傷処罰法の第2条と第3条で異なります。
第2条に該当する行為を行い、人を負傷させた場合は15年以下の拘禁刑、死亡させた場合は1年以上20年以下の有期拘禁刑が科されます。
また、第3条に該当する行為を行い、人を負傷させた場合は12年以下の拘禁刑、死亡させた場合は15年以下の拘禁刑が科されます。
危険運転致死傷罪は悪質性が高いと判断されることが多く、不起訴になるケースは非常にまれです。しかし、捜査の結果、危険運転致死傷罪としての要件を満たさないと判断された場合には、より軽い「過失運転致死傷罪」などに切り替えられることがあります。
不起訴となる要因としては、以下のような事情が挙げられます。
とはいえ、危険運転致死傷罪は社会的影響が大きく、基本的には起訴される方向で検察が判断するのが一般的です。そのため、不起訴や軽い罪への切り替えを目指すには、早い段階で弁護士が介入し、証拠の精査や被害者との示談交渉を丁寧に進めることが重要です。
危険運転致死傷罪は実刑が下されやすい犯罪ですが、状況によっては執行猶予が認められることもあります。特に、被害者が軽傷にとどまる場合や、初犯で反省の意思が強い場合には、裁判所が情状を考慮して執行猶予を付けるケースがあります。
執行猶予を得るための主なポイントは次のとおりです。
最終的な判断は裁判所によりますが、弁護士が情状証拠を丁寧に整理し、反省と更生の意思を示すことで、刑の軽減や執行猶予の可能性を高めることができます。
事例:共犯による危険運転致死傷罪
AとBが互いにスピードを競って危険運転を行い、赤信号を無視して交差点に進入し、歩行者を死亡させた事例です。
Aは危険運転致死傷罪が適用されましたが、Bも「Aと共同して罪を犯した」とされ、危険運転致死傷罪の共同正犯が成立しています。
事例:あおり運転による危険運転致死傷罪(横浜地判平成30.12.14)
あおり運転が原因となり、東名高速道路で死傷事故が発生した事例です。
加害者は、被害者一家が運転する車に急減速や幅寄せなどの危険運転を繰り返し、車道に停車させました。その結果、被害者の車に大型トレーラーが追突しています。
事故によって被害者夫婦は死亡、娘2人も負傷したことから、被告人(加害者)は危険運転致死傷罪で起訴されています。
なお、この事件では懲役18年の判決が下されていますが、判決を不服として控訴・上告が行われています。
事例:酩酊運転により歩行者2人を死亡させた
被告人は事件当日に同僚と酒を飲み、酩酊状態だったにも関わらず車を運転し、歩行者3人をはねて2人を死亡させています。
1人は軽傷でしたが、被告人は救護を行わずに現場から逃走しており、悪質性の高い運転であったことから、危険運転致死傷罪として懲役7年の判決が下されました。
危険運転致死傷罪で逮捕された場合、一般的な交通違反とは異なり、重大事件として厳格な刑事手続きが進められます。ここでは、逮捕から起訴までの主な流れを説明します。
判決では、行為の悪質性や被害の程度、被告人の反省状況、被害者との示談状況などを踏まえ、拘禁刑の期間や執行猶予の有無が決定されます。
危険運転致死傷罪は、刑罰が重く社会的影響も大きいため、早期に弁護士へ相談することが極めて重要です。以下では、具体的な4つのメリットを紹介します。
弁護士は、事故の経緯や運転状況を詳細に検証し、危険運転の要件を満たさないことを主張したり、より軽い過失運転致死傷罪への切り替えを目指したりします。
また、飲酒の影響が軽度であったことや、運転者がすぐに救護措置をとった事実など、被告人に有利な事情を整理して裁判で主張します。
さらに、反省文の提出や再発防止策の提示など、裁判官に誠意を伝える弁護活動を行うことで、刑の軽減や執行猶予の獲得につながる可能性が高まります。
危険運転致死傷罪では、被害者や遺族の処罰感情が量刑に大きく影響します。弁護士が介入することで、加害者本人に代わって誠実な謝罪と損害賠償の提案を行い、示談成立に向けて交渉を進めます。
被害者との直接交渉は感情的な衝突を招くおそれがありますが、弁護士が間に入ることで冷静かつ法的に適切な対応が可能になります。示談が成立すれば、被害者の処罰感情が和らぎ、不起訴や執行猶予の判断に有利に働くこともあります。
危険運転致死傷罪は社会的注目が高く、逮捕や起訴の報道によって社会的信用の失墜が生じるおそれがあります。弁護士は、記者会見や報道対応に関する助言を行い、必要以上に個人情報が広がらないよう調整します。
また、SNS上で誤った情報や誹謗中傷が拡散している場合には、削除請求や発信者情報開示などの法的措置を検討します。早期に適切な対応を取ることで、社会復帰後の生活や職場復帰に与える影響を最小限に抑えることが可能です。
刑事手続きが進む中でも、弁護士は社会復帰を見据えたサポートを行います。たとえば、再発防止のためのカウンセリング受講やアルコール依存治療の紹介、家族との連携支援などを通じて更生の意思を示すことができます。
また、有罪判決後も再就職や資格回復に向けたアドバイスを受けることで、生活再建の見通しを立てやすくなります。弁護士は単に刑を軽くするだけでなく、「事件後の人生を立て直す」ための支援者としても重要な役割を担います。
危険運転致死傷罪は、行為の悪質性が非常に高く、初犯でも実刑となる可能性が高い犯罪です。特に人を死亡させた場合は、社会的影響も大きく、執行猶予がつくケースはまれです。
ただし、被害者が軽傷で済んだ場合や、早期に示談が成立している場合、反省や再発防止の姿勢が認められれば、情状を考慮して執行猶予が付与される可能性もあります。最終的な判断は、運転の危険性、被害の程度、反省の有無などを総合的に見て裁判所が決めます。
スマホを長時間注視して前方をほとんど見ていなかったなど、極めて危険な状況を自覚していた場合には、危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。一瞬のわき見であれば過失事故とされることもありますが、意図的に前方を見ない運転が続いた場合は、悪質性が高いと評価されます。
危険運転致死傷罪には、罰金刑の規定はありません。これは、危険運転致死傷罪が単なる不注意による事故ではなく、「危険を認識しながら運転した」悪質な犯罪とみなされるためです。軽微な事故の場合でも、危険運転に該当すれば厳しい処分が下されることを理解しておく必要があります。
危険運転致死傷罪は、飲酒・薬物・スピード超過など、危険を自覚しながら運転した場合に成立する極めて重い犯罪です。一度適用されると、初犯でも実刑となる可能性があり、社会的信用の回復にも長い時間がかかります。
しかし、すべての事故が直ちに危険運転致死傷罪に該当するわけではなく、証拠や状況によっては過失運転致死傷罪など、より軽い罪にとどまる場合もあります。交通事故で重大な結果を招いたときこそ、一人で抱え込まず、早期に弁護士へ相談し、最善の解決策を見つけましょう。
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