東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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交通事故で加害者の不誠実な態度により、被害者や遺族の精神的苦痛が増大した場合、慰謝料の増額が認められる場合があります。
単に謝罪に来なかった場合や見舞いに来なかっただけでは、慰謝料の増額は認められない場合がほとんどです。
一方で、慰謝料の増額要素の1つに加害者の不誠実な態度を挙げている裁判例も多数存在するため、具体的な状況によっては、不誠実な態度を理由に慰謝料を増額できるケースもあるといえます。
この記事では、交通事故で慰謝料を増額できる不誠実な態度の具体例や、どうしても許せない加害者に対して刑事罰を与えるポイントなどについて、裁判例を交えながらわかりやすく解説していきます。
目次
交通事故の加害者が誠意のない対応をした場合、それを理由に慰謝料を増額できる場合があります。
慰謝料とは、被害者本人や遺族の精神的苦痛を賠償するために支払われるお金です。
この慰謝料は、慰謝料の3つの算定基準に基づいて相場が決まっていますが、具体的な金額は保険会社との示談交渉によって決まります。加害者が不誠実な態度をとった場合、そのことが原因で被害者や遺族の精神的苦痛が増大する可能性があるので、相場以上の慰謝料が認められる場合があるのです。
ただし、慰謝料の増額が認められるのは、もともと慰謝料算定の際に考慮されている被害者や遺族の精神的苦痛の程度を上回る場合に限られます。そのため、単に謝罪しなかった場合や見舞いに来なかっただけでは、慰謝料の増額は認められないのが原則です。
加害者に「事故を発生させる故意」や「重大な過失」が認められる場合、もしくは「著しく不誠実な態度」があった場合には、慰謝料の増額が認められる可能性があります。
慰謝料増額が認められる「重大な過失」
ここでは、慰謝料増額の可能性がある「加害者側の不誠実な態度」をいくつかご紹介します。
事故のあと、加害者が自分の不利になる証拠の隠滅を図った場合、慰謝料の増額が認められる場合があります。
慰謝料の増額が認められやすい「証拠の隠滅」
裁判例では、著しい前方不注意で事故を起こしたにもかかわらず、救護義務を放棄して事故現場から逃走したこと、破損したナンバープレートを捨てるなどの証拠隠滅行為をおこなったこと、実刑判決で服役後も損害賠償の支払いに応じない姿勢を見せるなどの悪質な程度が考慮され、2,900万円の死亡慰謝料(このケースにおける死亡慰謝料の相場は2,000~2,500万円程度)が認められています(名古屋地判平成22.2.5)。
また、常習的に飲酒運転をおこなっており、ひき逃げをしただけではなく、事故後に車を修理するなどの証拠隠滅工作をおこなったことが悪質だと判断され、795万円の後遺障害慰謝料(このケースにおける後遺障害慰謝料の相場は550万円程度)が認められたケースもあります(大阪地判平成21.1.30)。
単に被害者や遺族に対して謝罪がないだけでは、慰謝料の増額は認められないのが原則です。ただし、具体的な事情によっては、加害者の不誠実な態度が被害者もしくは遺族の精神的苦痛を増大させたとして、慰謝料の増額が認められる場合があります。
裁判例では、中学3年生(女性・15歳)が被害にあったケースで、事故直後に救護義務および警察への報告をせず車を修理に出した際に事故が発覚したこと、運転免許取り消し後に運転をおこない逮捕追起訴されたこと、被告人質問中にあくびをしたり検察官による遺族への謝罪の求めに応じなかったことなどが考慮され、3,120万円の死亡慰謝料(このケースにおける死亡慰謝料の相場は2,000~2,500万円程度)ものがあります(東京地判令3.12.17)。
また、居眠り運転という事故態様の悪質性、加害者およびその親族の態度により遺族の被害感情を強めたことなどを考慮して、3,240万円の死亡慰謝料(このケースにおける死亡慰謝料の相場は2,500万円程度)が認められたケースがあります(東京地判平成24.8.27)。
加害者が嘘の証言を繰り返したり、証言を二転三転させている場合にも、慰謝料の増額が認められる場合があります。
捜査段階、示談交渉、裁判の場面などで加害者の証言に矛盾が生じる場合、捜査をいたずらに混乱させ、被害者の精神的苦痛を増大させることに繋がるからです。
裁判例では、長時間の飲酒で酩酊状態で起こした事故において、同乗者が、加害者および同乗者自身の刑事裁判で矛盾する不合理な弁解に終始したことを理由に、8,000万円の死亡慰謝料(このケースにおける死亡慰謝料の相場は5,600万円程度)が認められています(東京地判平成24.3.27)。
また、被害者が後遺障害等級1級に該当する後遺障害を負いながら、事故後302日後に死亡したケースでは、被害者を救護せずに逃走したこと、刑事裁判でも事故を起こしたことを否認していたこと、飛んできた段ボール箱にぶつかったなどと被害者を冒涜するような不合理な弁解をして反省の態度が一切見られないこと、被害者は任意保険会社からの賠償を受けられていないことなどが考慮され、3,200万円の後遺障害慰謝料(このケースにおける後遺障害慰謝料の相場は2,800万円程度)が認められています(さいたま地判平成30.10.11)。
加害者の過失により事故を引き起こしたにもかかわらず、事故の原因が被害者にあるかのように主張してきた場合、慰謝料の増額が認められる場合があります。このケースでも、被害者や遺族の精神的苦痛を増大させるといえるからです。
裁判例では、酒酔い運転で事故を起こしたにもかかわらず、事故後に電話をかけたり、小便やタバコを吸うなどして被害者の救護を一切しなかったこと、捜査段階で罪を免れるために「被害者がセンターラインを先にオーバーしてきた」などと供述したことが考慮され、3,600万円の死亡慰謝料(このケースにおける死亡慰謝料の相場は2,800万円程度)が認められました(東京地判平成16.2.25)。
また、無免許運転かつ飲酒運転で事故を起こしたケースでは、同乗者の制止を無視して赤信号で交差点に侵入するという事故態様の悪質性、衝突後、大量の血を流して倒れている被害者(男性・17歳)に対して、「危ないじゃないか」などと怒鳴りつけ、持ち上げて揺すり、投げ捨てるように元に戻したことなどが考慮され、3,900万円の死亡慰謝料(このケースにおける死亡慰謝料の相場は2,000~2,500万円程度)が認められています(大阪地判平成18.2.16)。
そのほか、具体的な事情を考慮して、加害者の不誠実な態度が被害者や遺族の精神的苦痛を増大させたと認められる場合には、慰謝料の増額が認められる場合があります。
裁判例では、被害者が後遺障害等級9級相当の後遺症を負ったケースで、通院3か月経過後から病状照会を繰り返したり、債務不存在確認を求める調停の申立てなどをおこなったことが、精神的病状を生じていた被害者に深刻な影響を与えた可能性があるとして、850万円の後遺障害慰謝料(このケースにおける後遺障害慰謝料の相場は690万円程度)が認められました(神戸地判平成12.3.30)。
また、後遺障害等級9級相当(併合8級)の後遺障害を負ったケースでは、刑事裁判において判決後も見舞いに訪れると述べておきながらい一度も見舞いに訪れず、刑事裁判の最中に自身に有利な判決を得られるよう物損部分の示談を成立させ、その後、物損と人損部分の損益相殺につき被害者に損害の立証を求めるなどの不誠実な態度が考慮され、相場以上の入通院慰謝料が認められました(大阪地判平成18.8.30)。
ほかにも、加害者が被害者に対して「当たり屋だな」などと繰り返し述べたことなどが考慮要素の1つとされ、入通院慰謝料が20万円ほど増額されたケースがあります(名古屋地判令3.7.21)。
加害者に不誠実な態度があったことを理由に慰謝料を増額させるためには、次の2つのポイントを意識する必要があります。
以下、それぞれわかりやすく解説していきます。
加害者が不誠実な対応をしてきたからといって、感情的になって加害者側に詰め寄るのは避けてください。
怒りに身を任せて加害者と接触したり、示談交渉で大幅な増額を主張すると、交渉がスムーズに進まなくなり、問題を解決するまでに時間がかかってしまう場合があります。
また、間違った手段をとると、反対に加害者から訴えられてしまうこともあり、トラブルがより複雑化するおそれもあるでしょう。
加害者側に不誠実な態度があったら、その事情をもって慰謝料の増額を主張してみてください。
加害者が任意保険に加入している場合、基本的に示談交渉は保険会社とおこなうことになりますが、残念ながら被害者や遺族が直接保険会社と交渉しても、慰謝料の増額を認めてもらえるケースはほとんどありません。
それどころか、保険会社から慰謝料増額の根拠を求められたり、心ない言葉を投げかけられたりすることで、精神的に大きな負担になってしまうおそれがあります。
この記事でもいくつか裁判例をご紹介していますが、死亡事故や重度の後遺障害が残るようなケースでは、慰謝料を含む賠償金額が高額になるケースも多いです。
弁護士に依頼すれば、数百万円単位で慰謝料を増額できるケースもあるので、加害者側の不誠実な対応を理由に慰謝料の増額を希望する場合には、弁護士に対応を依頼することをおすすめします。
交通事故の加害者は、損害賠償などの民事上の責任だけでなく、免許の停止・取り消しなどの行政罰、懲役や禁錮などの刑事罰を受けることになります。
行政罰について被害者が関与することは難しいですが、一定の方法をとることで、被害者が刑事罰に関与することは可能です。
ここでは、加害者の不誠実な態度がどうしても許せない場合に、刑事罰について関与する方法や刑事罰を受けさせるポイントをご紹介します。
まずは、警察から事情聴取を受けた際に、加害者の不誠実な態度に関する具体的な指摘をしたうえで、処罰感情が強いことを明確に伝えてください。供述調書(警察や検察が作成するもの)に残してもらう事も証拠作りの観点から重要です。
事情聴取で話した内容は、加害者の起訴・不起訴を判断する際や刑事処分の内容を判断する際に参考にされます。
もちろん、起訴・不起訴を決めるのはあくまでも検察官であり、処罰感情の強さを主張したからといって必ずしも起訴されるとは限りません。
しかし、検察官に厳重な処罰を望むことを伝えておけば、少なくとも起訴・不起訴が微妙なケースにおいては、起訴の可能性を高めることができるでしょう。
なお、加害者を処罰したいあまり誇張した内容を伝えると、被害者の供述に信用性がなくなってしまうので、注意してください。
加害者に厳重な処罰を求めるのであれば、起訴もしくは刑事裁判の前で刑事面での示談を成立させるのは避けてください。
すでに当事者間で示談が成立している場合、それ以上刑事罰を与える必要がないと判断されて、不起訴になったり減刑されるおそれがあります。
身体拘束を免れる目的や刑罰を軽くする目的で、加害者の弁護人や親族などが示談を申し入れてくる場合もあるので、くれぐれも安易に示談を成立させないよう注意してください。
厳罰を望むのであれば、加害者から送られる見舞金は受け取らないようにしてください。
見舞金を受け取ったからといって、加害者に寛大な処罰を望む意思を見せたことにはなりませんが、加害者の謝罪の意思を受け取ったことで、受け取らなかった場合よりも処罰感情が弱まったとみなされてしまうおそれがあります。
捜査の結果、不起訴処分となり加害者に刑事罰を与えられなくなったことに不満があるのであれば、検察審査会に対する審査申立ても視野に入れましょう。
検察審査会に対する審査申立てとは、検察官の不起訴処分に対して不服を申し立てる制度であり、1度不起訴となった事件につき、再度、起訴・不起訴の判断をしてもらうことができます。
審査会議では、捜査記録や申立人が提出した資料などを総合的に判断して、当該不起訴処分が正しかったのかどうかを検討します。
審査の結果、起訴相当と判断された場合には、検察官が再度捜査をおこない、あらためて起訴・不起訴の判断をすることになります。
被害者参加制度を利用すれば、刑事裁判に参加して被告人質問をしたり、被害者としての意見を述べることができます。
被害者参加制度とは、交通事故における過失運転致死傷罪などの一定の重大犯罪について、裁判所の許可を得て、被害者や遺族等が「被害者参加人」として刑事裁判に参加できる制度です。
被害者参加制度を利用して刑事裁判に参加すると、次のことをすることが認められます。
とくに、死亡事故や高次脳機能障害などの重度の障害を負ったケースでは、被害者本人が事故状況や被害者の対応について意見を述べることができないため、加害者に有利な調書が作成されてしまうおそれがあります。
事実を曲げて不当な刑事処分が下されないようにするためには、被害者参加制度を利用して刑事裁判に参加するメリットは大きいといえるのです。
交通事故の賠償金は、それぞれの具体的なケースにおける個別事情を総合的に考慮したうえで決定されます。そのため、加害者の不誠実な態度が、被害者や遺族の精神的苦痛を増大させた場合には、慰謝料の増額が認められる場合があります。
もし、加害者の態度がどうしても許せないのであれば、過去の裁判例を引用しながら、慰謝料の増額交渉をすることになるでしょう。
ただし、被害者や遺族だけで交渉しても慰謝料の増額は望めないので、そもそも増額できる可能性があるのかも含めて、対応は弁護士に任せることをおすすめします。