東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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厚生労働省が公表した令和2年度の労働災害発生状況によると、休業4日以上の労働者死傷病報告のうち約5%、死亡者に限定すると約20%が交通事故を原因とするものでした。
交通事故が労働災害にあたると認められる場合、労働者災害補償保険(労災保険)から様々な補償が受けられますが、加害者が加入している自賠責保険や任意保険などから支払われる賠償金との関係で考慮しなければならない「損益相殺」というものがあり、被害者が受け取れる補償金や賠償金などに大きな影響を与えます。
この記事では、「損益相殺」の意味や具体的に相殺の対象となるものなどについて説明していきます。
損益相殺とは、被害者が事故によって何らかの利益を得た場合、この利益が損害の補填であると明らかに認められるときには、被害者の損害から差し引く(控除する)ことです。
たとえば、仕事中に交通事故に遭った被害者は、治療費について自賠責保険から保険金を受け取ることができますが、労災保険から重ねて治療費の給付を受けることはできません。
これは、被害者による「利益の二重取り」を防いで、当事者間の公平を図るために認められているものです。
労災にあたる交通事故の被害者は、下記の補償を労災保険から受け取ることができます。
労災にあたる交通事故とは、以下のようなものが該当し、どちらも労働基準監督署々長が労災であると認定したものに限られます。
ここでは、交通事故の賠償金との関係で損益相殺の対象となる主なものを説明していきます。
被害者が労災保険から治療費・休業損害・障害年金などを受取っていた場合、既に被害者の損害を補填するという保険制度の目的が達成しているので、被害者が加害者へ請求して「利益の二重取り」をしてしまわないように相殺の対象となります。
被害者が自賠責保険からの保険金や政府保障事業からのてん補金などを受取っていた場合、被害者の損害の填補がなされているので、相殺の対象となります。
政府保障事業のてん補金とは、加害者不明や加害者が自賠責未加入などで被害者が自賠責保険を受けられないときに政府が加害者の賠償金を立替払いされた賠償金のことで、補償を受けられる損害の範囲や限度額は自賠責保険と違いはありません。
被害者が治療を受けるときに健康保険を利用した場合、治療費のうち自己負担額を超える部分については、健康保険から保険金の給付を受けていることになるので、相殺の対象となります。
ただし、自己負担をした額については加害者に対して損害賠償として請求することは可能です。
これらの年金は、それぞれの根拠法によって「政府が被害者へ支払った額について、政府が加害者へ請求できる」とする「第3者(加害者)へ損害賠償請求権を代位取得する」規定があり、被害者が加害者へ請求してしまわないように相殺の対象となります。
被害者が加入している任意保険で、以下のものは被害者の損害が補填されたとして相殺の対象となります。
ここからは、交通事故の賠償金との関係で損益相殺の対象とならない主なものを説明していきます。
労災保険の給付金では、損益相殺の対象とはならない特別支給金と呼ばれるものが多くあります。
これらは災害補償を目的とする療養や休業補償などの給付金と異なり、社会復帰促進のための労働者福祉事業の一環として給付されるもの、被害者へ直接支払われる必要性があるもので、「第3者(加害者)へ損害賠償請求権を代位取得する」規定が認められていないことからも相殺の対象となりません。
生命保険金は、被害者が支払った保険料の対価として、交通事故とは関係なく「被害者(被保険者)の死亡」について支払われるものであることから、損益相殺の対象となりません
交通事故の怪我が原因で働けなくなって失業した場合、被害者が受けとった失業保険金は、失業者の生活の安定を目的とする社会保険制度であり、損害の補填を目的としていないので相殺の対象となりません。
被害者が加害者から香典や見舞金を受け取っていた場合、その金額が一般的、社会的な儀礼として適切な範囲を超えていなければ相殺の対象とはなりません。
ただし、30万円の香典が適切な範囲を超えた額として損益相殺を認めた下級審の裁判例があります。
被害者の同乗者が受取っていた搭乗者傷害保険金は、被害者(被保険者)が被った損害を補填する性質のものではなく、定額の保険金を給付することで搭乗者を保護する目的のものとして相殺の対象としていません。
加害者から損害賠償として治療費・慰謝料・逸失利益・休業損害などを受け取った場合、人身の損害に対して支払われた賠償金について非課税とされ所得税、住民税などがかかりません。
これは、交通事故の賠償金が損害の補填、現状を事故前の状態に戻す性質のものであるから、賠償金として受け取った金銭が利得にあたらないとされているからです。
また、被害者の損害額を算定するときに税金額を差し引かないとされているので相殺の対象となりません。
労災の認定を受けた交通事故の被害者は、人身事故の保険(自賠責保険、任意保険)、健康保険、労災保険などで補償を受けられますが、この時、健康保険を使わずに自賠責保険または労災保険を使うのか、被害者の過失割合が大きいときにはどうするかなど、いずれかの保険を使うと補償が最も高額となるのか慎重に検討することが大切です。
そして、いくつかの保険、補償などからいずれかを選択しなければならなくなった時には、交通事故と労働災害に精通した弁護士に頼ってみることをおすすめします。
最後になりますが、被害者の損害と苦痛が少しでも和らぐように適切な賠償がなされることが何よりも重要なことですので、この記事が問題解決の一助になれば幸いです。