東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
交通事故の加害者が任意保険に加入していた場合、基本的に被害者との示談交渉は保険会社がおこなってくれます。そのため、加害者自身で直接謝罪したほうがいいのか、迷うケースも多いのではないでしょうか。
謝罪したら罪が重くなるのではないかという不安もあるかと思いますが、加害者側に明らかに過失が認められる場合には、真摯に謝罪しておくのが良いと考えられます。
この記事では、交通事故における謝罪の重要性や謝罪の仕方、タイミングやマナーなどについてわかりやすく解説していきます。
目次
交通事故の加害者が謝罪すべきかどうかは、事故状況によって異なります。
事故状況からみて明らかに加害者側に過失が認められる場合には、真摯に謝罪をすべきだといえます。
たとえば、信号待ちをしている車にうしろから突っ込んだ衝突事故や、加害者の信号無視による衝突事故の場合には、過失割合10:0のケースとして真摯に謝罪すべきでしょう。また、加害者側の過失割合が大きい場合にも、同様に謝罪すべきです。なお、過失割合の点について、安易に認めるのはやめ、過失割合はさておき、事故によって迷惑をかけたという点について謝罪するのがよいでしょう。
このような事故の場合、被害者側も当然謝罪されるべきだと考えていることが多いため、謝罪しないと不誠実な対応をされたとして、示談交渉がスムーズに進まなくなる恐れがあります。
なお、被害者が入院した場合や重度の後遺障害を負った場合、もしくは被害者が亡くなってしまった場合には、過失割合にかかわらず真摯に謝罪するようにしましょう。
事故状況からみて過失割合が明確ではない場合でも、被害者に対しては真摯に対応することを心がけてください。
事故直後に被害者を救助するのはもちろん、事故後の交渉でも被害者の身体を気遣うことで、被害者の感情を逆撫でしないようにするのが良いでしょう。
ただし、事故状況によっては安易に謝罪しない方がいいケースもあります。こちらとしては、単に被害者を気遣う発言だったとしても、被害者にとってみれば、事故の責任を全面的に認めたと受け取ってしまう可能性もあるからです。
謝罪したことを理由に慰謝料の増額を要求されたり、過失割合で加害者に不利な主張をされるケースもあるので、謝罪するかどうかは慎重に判断してください。
加害者が任意保険に加入している場合、保険会社から被害者との接触を控えるよう言われる場合があります。この場合でも、状況に応じて被害者へ直接謝罪するようにしましょう。
保険会社は、無用なトラブルを避けるために接触を止めてきますが、あくまでも控えるように言われるだけで、直接の謝罪が禁じられているわけではありません。
たとえば、ソニー損保の場合、加害者の過失が大きい場合には、被害者への謝罪や見舞いを推奨しています。
交通事故を起こしてしまった過失が認められる以上、対応を保険会社に任せっきりにせず、自身の言葉で真摯に謝罪することを心がけてください。
なお、保険会社によっては、謝罪に担当員が同行してくれる場合があるので、謝罪する場合にはあらかじめ保険会社に連絡しておくのが良いでしょう。
交通事故の加害者が被害者に謝罪する場合、基本的には電話だけでなく、入院先や自宅を訪問して直接謝罪することをおすすめします。
ただし、被害者が明確に謝罪を拒否している場合など、状況によっては、電話や謝罪文などで対応する場合もあります。状況に応じて適切な謝罪方法を選択するようにしましょう。
ここでは、被害者に謝罪やお詫びをするタイミングや注意点について解説していきます。
まず、事故を起こしてから3日以内を目処に、被害者に電話で謝罪をしてください。
謝罪は早ければ早い方が効果的で、謝罪までに時間がかかると、「弁護士や保険会社から言われただけで本当は反省して無いのではないか?」などと不信感を持たれてしまう恐れがあります。
3日はあくまでも目安となる期間なので、自分や被害者の状況を考慮して、適切なタイミングで謝罪の電話をしてください。
なお、事故後に謝罪するために、事故直後に被害者の氏名や連絡先を聞いておくとスムーズです。もし、連絡先を聞き忘れてしまったら、事故後に発行される「交通事故証明書」で被害者の連絡先を確認することも可能です。
電話で被害者に謝罪したら、訪問して直接謝罪したい旨を伝え、日程のアポイントメントを取ってください。
アポを取らずにいきなり訪ねると相手に迷惑になりますし、不在だった場合、2度手間になってしまう恐れもあります。
被害者がもう加害者に会いたくないと考えている場合、電話をした際に訪問を断られる可能性もあります。その場合、しつこくならない程度に反省の姿勢を見せることで、こちらの気持ちを伝えるようにしてください。
被害者に直接謝罪しにいく際は、お詫びの品として5,000円〜1万円程度の菓子折りを準備しておきましょう。被害者が入院している場合であれば、お花や果物などを持っていく場合も多いです。
菓子折りの金額はあくまでも目安であり、決まった金額があるわけではありません。ただし、価格が安すぎると相手に不快感を与える恐れがあり、逆に、高すぎると物で誤魔化そうとしてると取られる可能性もあります。
菓子折りについては、のし紙をつけないよう注意してください。のし紙はお祝い事の際に使用されることも多く、受け取る相手によっては、「バカにしている」と取られてしまう可能性もゼロではありません。
また、菓子折りと合わせて謝罪文も添えておくと、相手により誠意が伝わりやすくなります。
謝罪当日は、できれば車ではなく、電車やタクシーなどを使って移動するのが良いでしょう。
駐車場探しに時間がかかると、約束の時間に遅れてしまう可能性があります。反省してないと思われる可能性をできる限り下げるためにも、当日の移動手段は公共交通機関がおすすめです。
また、被害者の自宅前に目立つ車を駐車したり、事故直後にもかかわらずバイクに乗って行くと、被害者としてもよく思わない可能性が高いです。
もし、どうしても車を使う場合には、訪問先から離れた駐車場をあらかじめリサーチしておき、時間に遅れないよう余裕を持って行動するようにしましょう。
移動手段だけでなく、当日の服装にも十分気をつけてください。
男性であれば、黒やグレーの無地のスーツ、女性であれば、派手な装飾品やアクセサリーは外し、地味な色のワンピースなどが無難です。バッグについても、ブランド品ではなく、なるべく目立たないものを選択してください。
あくまでも謝罪をしに行くために訪問するので、くれぐれも失礼のないような服装を心がけましょう。
後々のトラブルを避けるためにも、お金に関する話は避けた方が無難です。
賠償金に関する話し合いは、基本的に保険会社がおこなってくれます。その場でお金に関する話し合いをしてしまうと、示談交渉の際に金額に関する部分で揉めてしまう可能性があるのです。
もし、被害者から賠償金について質問された場合には、「のちほど保険会社から連絡させていただきます」などと回答しておきましょう。
すでに述べたように、交通事故の示談交渉は基本的に保険会社がおこなってくれるため、わざわざ被害者に謝罪しなくても、示談交渉は勝手に進みます。
それでも、加害者自身が直接被害者に謝罪するメリットとしては、次の2つが挙げられます。
本格的な示談交渉が始まる前に直接謝罪しておけば、示談交渉において被害者側がこちらの提案に応じてくれる可能性が高まります。
もちろん、謝罪したからといって示談交渉がスムーズに進む保証はありませんし、場合によっては直接加害者の顔を見る事で、許せない気持ちが増してしまう可能性もないとはいえません。
しかし、心から反省している事を真摯に伝えておけば、少なくとも、加害者の不誠実な態度をもって、慰謝料の増額を主張される可能性を下げることができます。
交渉が長引けば、その分裁判まで進む可能性が高くなり、加害者の精神的負担も大きくなります。
示談交渉を迅速かつ円滑に進めるためにも、なるべく早めに謝罪をすることをおすすめします。
加害者の刑事事件が進む前に謝罪をしておくことで、不起訴処分になる可能性や減刑される可能性を高めることができます。
交通事故の加害者は、損害賠償などの「民事処分」、免許の停止・取り消しなどの「行政処分」のほかに、懲役や罰金などの「刑事処分」を受ける可能性があります。
被害者は、事情聴取の際に、「加害者に対する処罰感情が強く厳罰を望んでいる事」を伝えることができます。もし、謝罪によって被害者が寛大な処分を希望するよう検察官に伝えてくれたら、不起訴処分になる可能性を高めることができるでしょう。
また、心から反省している事を裁判官に認めてもらえれば、減刑を検討してもらえる可能性もあります。
近年、悪質な運転による過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪などについては、厳罰化傾向にあるのは間違いありません。
事故を起こした事実は変えられないので、今後の影響を少しでも減らすためにも、真摯な謝罪を忘れないようにしましょう。
心から反省していて、謝罪したいことを被害者に伝えても、事故状況によっては謝罪を断られてしまう可能性もあります。
もし、謝罪の申し出を断られてしまったら、次の2つの方法を検討してください。
電話した際に謝罪の申し出を断られてしまった場合には、日を改めてから再度謝罪を申し出てみましょう。
事故直後は、被害に遭ったことから感情的になり、加害者とは顔も合わせたくないと考える被害者が多いです。どうしても謝罪を受け入れてもらえない場合には、被害者の状況が少し落ちついてから謝罪するのが良いでしょう。
ただし、あまりにしつこく謝罪を申し出ると、それが原因で被害者の精神的苦痛が増してしまい、慰謝料の増額を主張される可能性があります。再度の申し出は1回にしておき、そこでも断られてしまったら、後述する謝罪文にて対応することをおすすめします。
日を改めても謝罪を受け入れてもらえない場合には、弁護士を通して謝罪文を送ることを検討しましょう。
弁護士なら、被害者の感情を逆撫でしないよう適切な対応を取ることが可能です。反省している事を最大限に伝える謝罪文を作成できるのも、弁護士に依頼する大きなメリットです。
謝罪文を作成する際は、以下のポイントを意識してください。
謝罪文を作成する際は、細かなところで被害者に悪い印象を与えないよう、細心の注意を払って作成してください。
謝罪文の例文をご紹介しますので、参考にしてください。
この度は私の不注意で多大なるご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした。
乙野様に怪我を負わせてしまったことはもちろん、お車にも傷をつけてしまったことや肉体的にも精神的にも非常に大きなご負担をおかけしてしまったことを、心より深くお詫び申し上げます。
お電話や直接お会いした際にも謝罪をさせていただきましたが、改めて謝罪をさせていただきたいと考え、このような手紙を書かせていただきました。ご迷惑でしたら申し訳ございません。
今回の事故の原因が、私の前方不注意にあることは明らかです。私が運転者として当然の注意を払っていれば、今回の事故は防げたはずです。今更ながら、自分が犯してしまった罪の重さを痛感し、深く反省しております。
何よりも、お怪我を負わせてしまった乙野様のお身体の具合が心配です。怪我のせいで色々ご不便をおかけしてしまっていることを考えると、大変申し訳ない気持ちでいっぱいです。
もちろん、治療費や慰謝料等については、誠心誠意の賠償をさせていただきたいと考えております。
今後につきましては、二度と同じ事故を起こさないよう、運転する責任の重さを感じながらハンドルを握る所存です。第三者の人生を大きく変えてしまうことがないよう、最大限の注意を払うことを誓います。
改めまして、この度は私の不注意で乙野様に多大なるご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした。
令和6年9月1日 甲野 太郎 印
実際に作成する際は、あくまでも参考程度にとどめ、これまでの会話の流れや具体的な事故状況などの個別事情を盛り込みながら、オリジナルの文書になるよう作成してください。
過失割合で揉めそうな事故の場合、謝罪するかどうかは迷う部分があるかと思いますが、明らかに加害者側の過失が大きい場合には、なるべく早めに謝罪をしておくのが良いでしょう。
謝罪する際は、電話だけではなく直接出向いて謝罪することをおすすめします。もし、被害者に謝罪を断られてしまった場合には、謝罪文を相手に送ることも検討しましょう。
事故後すぐに謝罪をしておくことで、示談交渉がスムーズに進んだり、不起訴処分もしくは減刑される可能性もゼロではありません。
事故の加害者になってしまったら、なるべく早めに謝罪するよう心がけましょう。