東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
前方をよく確認しなかった、信号無視をしたなど、自動車の運転の際に不注意により人身事故をおこすと、過失運転致傷罪が成立する可能性があります。
過失運転致傷罪は、自動車を運転する以上は誰もが起こす可能性のある犯罪ですが、不注意による事故でも罪になるのか疑問に思う方も多いでしょう。
そこで本記事では、過失運転致傷罪について、危険運転致傷罪との違いに触れながら詳しく解説します。
目次
過失運転致傷罪とは、自動車やバイクの運転中に不注意やミスが原因で人を負傷させた場合に成立する犯罪です。
過失運転致傷罪は、元々は刑法の自動車運転過失致死傷罪(刑法第211条の2)に規定されていましたが、自動車事故の厳罰化のために、自動車運転処罰法で規定されるようになりました。
過失運転致傷罪は人身事故で負傷者が生じた場合に、事故の運転者を罰することを目的とした規定で、保護の対象となる人とは、事故の相手方のみならず自分の同乗者を怪我させた場合にも成立します。
では、前方不注意や信号無視などで交通事故に遭い、人に怪我を負わせるとどうなるのでしょうか?
過失運転致傷罪は、過失によって成立する犯罪です。
過失とは、注意義務に違反する行為をいい、自動車運転中の注意義務には以下のようなものがあります。
こうした義務に違反する行為はすべて過失と認定され、過失致傷罪が成立する可能性があり、重い刑罰をうけることになります。
たとえば、前方不注意や信号無視、居眠り運転や携帯をいじりながら事故を起こした場合はすべて過失にあたり、これら過失によって相手が怪我をしたのであれば、過失運転致傷罪に問われます。
過失運転致傷罪を起こしてしまった場合は、現行犯で逮捕・処罰される可能性があります。
負傷の程度が軽ければ逮捕や処罰に至らない可能性がありますが、怪我が重症である、また不注意の度合いが重大であるような場合は、逮捕・勾留され、その後、検察官に起訴され裁判で有罪判決を受けることになるでしょう。
この他にも、過失運転致傷罪を起こすと、後述する免許の取り消しなどの行政処分や民事上の損害賠償責任などが生じます。
過失運転致傷罪の刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金です(自動車運転処罰法第5条)。
懲役刑とは労務作業のある刑罰をいい、禁固刑とは労務作業のない刑罰をいいます。
一度でも人身事故を起こして過失運転致傷罪で逮捕起訴されてしまうと、懲役もしくは禁固刑に問われ刑務所に収監される可能性があるため注意が必要です。
ただし、軽症の場合は情状により刑の免除が認められるため、特に運転中に重大な過失がなければ無罪となる可能性もあります(自動車運転処罰法第5条)。
過失にあたる行為の中でも、ある一定の危険な状況で起こしてしまった行為を危険運転致傷といいます。
危険運転致傷罪は、飲酒運転などの悪質で危険な交通事故の多発から、これらの行為を厳罰化するために2013年に成立 しました。
ある一定の危険な行為とは以下のとおりです。
自動車運転処罰法では、飲酒運転の厳罰化や死亡事故減少のために、以下の行為を危険行為として処罰しています。
危険運転致傷罪は、自分の運転行為が危険であると自ら認識しているという故意がある場合に限り成立します。
危険であると認識しながらそれでも運転している点が特に悪質であるため、過失運転致傷罪よりも重い刑罰が科されています。
過失運転致傷罪と危険運転致傷罪は、以下の点で異なります。
過失運転致傷罪の刑罰は、7年以下の懲役もしくは禁固、または100万円の罰金です。
それに対して、危険運転致傷罪の刑罰は15年以下の懲役です。
過失運転致傷罪では、懲役の他に禁固や罰金などの罰則があるのに対して、危険運転致傷罪では労務作業を強いられる懲役のみで罰則が重くなっています。
さらに、死亡事故になってしまった場合、過失運転致傷罪の刑罰は変わりませんが、危険運転致死罪では1年以上の有期懲役(1か月以上20年以下の懲役)と非常に重い罰則が定められています。
過失運転致傷罪では、人身事故により相手が負傷した場合に処罰されるのが原則ですが、負傷の程度が軽傷である場合は、刑罰が免除される可能性があります。
また、過失がないことを立証できれば過失運転致傷罪は成立しないため、人身事故を起こしても無罪となった裁判例もあります。
これに対し、危険運転致傷罪では相手の負傷が軽度であっても免除されることはありませんし、危険運転により死亡事故を起こした場合に無罪となることは極めて難しいものといえるでしょう。
過失運転致傷を起こした加害者の責任は、刑事上の責任、行政上の責任、および民事上の責任を負います。
それぞれの責任は、目的や内容が以下のように異なります。
責任の種類 | 目的 | 責任の内容 |
---|---|---|
刑事上の責任 | 社会生活上の法秩序の維持のため | 懲役刑、禁固刑、罰金刑などの刑事罰 |
行政上の処分 | 道路交通上の安全の確保のため | 免許取消など運転免許の処分 |
民事上の責任 | 交通事故による被害者の損害を金銭で賠償し原状回復を図るため | 治療費、入通院交通費、各種慰謝料、逸失利益などの賠償責任 |
まず過失運転致傷を起こした加害者には、7年以下の懲役、禁固刑、または100万円以下の罰金刑という刑事上の責任が問われます。
刑事上の責任は、社会生活上の法秩序を維持することを目的としています。
また、無免許運転では10年以下の懲役刑という重い刑罰が科せられます。
飲酒運転などの過失が認められる場合には、上記の他にも道路交通法上の責任が問われることにもなります。
次に過失運転致傷を起こした加害者には、道路交通法および道路交通法施行令で規定されている行政上の処分が課せられます。
行政上の処分は、道路交通上の安全を確保することを目的としており、過失により交通事故を起こした場合には免許者に対して相応の処分が下されます。
行政上の処分には違反点数が基準とされ、免許取消歴や前歴の回数により違反点数が累積加点されて処分の期間が決まります。
具体的には、過失運転致傷を起こした場合には、運転免許の停止や取消などの処分が科されるでしょう。
さらに過失運転致傷を起こした者には、上記の他に民事上の責任も問われることになります。
具体的には、民法上の不法行為責任(民法第709条)や自動車損害賠償保障法に基づいて、被害者が交通事故により被った肉体的精神的損害を金銭評価し、それを賠償することで原状回復を図ります。
損害賠償には、以下の項目の適用が考えられます。
過失運転致傷罪は過失による犯罪であるため、故意がなくても不注意やミスで人身事故を起こした場合に成立する可能性が高くなります。
過失運転致傷罪が成立すると、懲役、禁固、罰金などの刑事罰に加え、免許の取消や停止などの行政罰の他、民事上の損害賠償責任まで問われることになります。
さらに、危険運転致傷罪で人を負傷させると15年以下の懲役と刑事上の責任がさらに重くなります。
人身事故を起こした場合には、まずは交通事故専門の弁護士に相談することをおすすめします。