

東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

目次
過失運転致傷罪とは、自動車の運転中に注意を怠った結果、人にけがを負わせた場合に問われる犯罪です。わざとではなく、不注意や確認不足によって事故を起こしてしまったときに成立します。たとえば脇見運転、信号の見落とし、一時停止無視、スピードの出し過ぎなどが典型的な例です。
この罪で問題となるのは、運転者が「予測できたのに注意しなかった」と判断されるケースです。事故を起こした本人に悪意がなくても、結果的に人を負傷させた以上、刑事責任を負うことになります。また、被害者が死亡した場合は「過失運転致死罪」としてより重く処罰されることもあります。
事故の内容や被害の程度、示談の有無によって刑の重さが変わるため、初犯であっても安心はできません。交通事故は誰にでも起こりうるため、この罪の内容を正しく理解しておくことが大切です。
過失運転致傷罪とよく混同されるのが「危険運転致傷罪」です。どちらも人にけがを負わせた場合に適用される犯罪ですが、最大の違いは「運転行為の悪質さ」にあります。
危険運転致傷罪は、飲酒や薬物の影響で正常な運転ができない状態で走行したり、信号無視や極端なスピード超過など、明らかに危険な運転をした結果、他人にけがを負わせた場合に適用されます。社会的非難が強く、致傷で15年以下、致死では1年以上20年以下の拘禁刑という非常に重い刑罰が定められています。
一方、過失運転致傷罪は、不注意や確認不足などの過失によって事故を起こした場合に問われるもので、悪質な意思や危険な行動があったわけではありません。刑の重さも、7年以下の拘禁刑または罰金刑にとどまります。
つまり、危険運転致傷罪は「危険な行為を自ら選んだ場合」、過失運転致傷罪は「注意を怠った結果、事故になった場合」と整理できます。どちらに該当するかで刑事責任の重さは大きく異なります。
過失運転致傷罪は、運転中の不注意や確認不足によって人にけがを負わせた場合に成立します。代表的な該当行為は次のとおりです。
これらはすべて「安全運転義務」を怠ったと評価される行為です。たとえ悪意がなくても、結果的に人をけがさせれば過失運転致傷罪が成立する可能性があります。
また、被害者が軽傷でも処罰対象となる場合があり、事故の内容や過失の程度によっては重い刑が科されることもあります。運転時には常に周囲の安全を確認し、無理のない運転を心がけることが重要です。
過失運転致傷罪の罰則は、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。ただし、その傷害が軽いときは、情状によりその刑を免除することができると規定されています。
刑の重さは、被害者のけがの程度や事故の悪質性、示談の有無などによって大きく変わります。軽傷で示談が成立していれば罰金刑にとどまる場合もありますが、重傷や重大事故では拘禁刑(実刑)となることもあります。
過失運転致傷罪に該当すると、刑事処分とは別に行政処分として運転免許の違反点数が加算されます。具体的な加算点数は、「基礎点数」と「付加点数」の合計となります。具体的な点数は警視庁の公式サイトを参照にしてください。
過失運転致傷罪の量刑は、事故態様の悪質性や過失の程度、被害者との示談状況によって大きく異なります。被害者のけがが重く、示談が成立していない場合は、罰金刑ではなく拘禁刑が科される傾向があります。
一方、軽傷事故で誠実な謝罪や弁償が行われた場合には、罰金刑や執行猶予が認められるケースも少なくありません。
過失運転致傷罪に関する主な裁判例を見てみましょう。
運転中にスマートフォンのゲーム画面に気を取られ、85歳の歩行者をはねて死亡させた事案です。裁判所は、単なる一時的な脇見を超える危険な行為であると認定し、初犯ながら禁錮1年4か月(実刑)を言い渡しました。
アクセルとブレーキを誤って踏み込み、時速約86kmで病院のラウンジに突入し、3名が死亡、7名が負傷した事案です。裁判所は、運転者としての基本的注意義務に違反し、過失が極めて重大と判断。結果の重大性も踏まえ、初犯ながら禁錮5年6か月(実刑)としました。
このように、被害が重い場合や危険な行為が原因の場合は、初犯でも実刑を免れないことがあります。過失運転致傷罪では、事故後の対応や反省の態度が量刑に大きく影響します。
過失運転致傷罪は、初犯であっても人をけがさせた場合は刑事責任を問われますが、罪の性質が比較的軽い場合には不起訴(起訴猶予)となることもあります。実際、統計上では過失運転致傷罪の多くが不起訴処分であり、起訴される場合でも大半が略式起訴による罰金刑にとどまっています。
一方で、重傷や死亡事故など重大な結果を伴う場合には正式起訴となり、拘禁刑が科されるケースも存在します。特に、飲酒運転や信号無視などの悪質な要因があった場合は、初犯でも実刑となる可能性があります。
執行猶予を得るには、誠実な謝罪や被害弁償、再発防止の姿勢を早期に示すことが重要です。弁護士に相談し、的確な弁護活動を行うことで軽減につながる可能性があります。
過失運転致傷罪に該当し得る事故で不起訴を得るためには、事故後の誠実な対応が非常に重要です。被害者への謝罪や治療費の補償、示談交渉の進展などが検察官の判断に大きく影響します。以下では、起訴されやすい典型的なケースを具体的に見ていきましょう。
被害者が長期の治療を要するような重傷を負った場合や後遺障害が残るようなけがをした場合には、初犯でも起訴される可能性が高くなります。
検察官は、被害の程度が社会的に与える影響を重視し、再発防止の観点から処罰の必要性を検討します。被害者が重傷であれば悪質な事故だと判断されやすくなり、処罰の必要性が高くなると考えられます。
同様の観点から、飲酒運転や著しいスピード超過など、危険性の高い運転を行っていた場合は起訴される可能性が高くなります。これらの行為は「単なる不注意」ではなく、交通法規や安全運転義務を著しく無視した悪質性の高い行為と評価されます。
被害者との示談が成立していない場合、起訴される可能性が高まる傾向にあります。示談の有無は起訴・不起訴の判断において非常に重視される要素です。被害者の損害が補償され、謝罪を受け入れている場合は不起訴や執行猶予の可能性が上がります。
一方で、被害者が謝罪を拒否し「厳罰を望む」と明確に意思を示している場合には、情状酌量の余地が少なく、正式起訴に進むケースも見られます。
過失運転致傷罪で事故を起こした場合、事件の内容や被害の程度に応じて、警察・検察による捜査や刑事裁判が行われます。逮捕されるケースもあれば、身柄を拘束されない「在宅捜査」で進む場合もあります。
ここでは、事件発生から刑の確定までの一般的な流れを確認しておきましょう。
事故直後は、警察による実況見分や事情聴取が行われます。飲酒運転やひき逃げなど悪質なケースでは逮捕・勾留されることがありますが、多くは身柄を拘束しない「在宅捜査」で進みます。逮捕された場合は最大72時間の身柄拘束が可能で、その後、検察官が勾留を請求すれば最長20日間拘束されることもあります。
警察の捜査が終了すると、事件は検察官に送致されます。検察官は、証拠や供述内容、被害者との示談状況などを総合的に判断し、起訴するか、不起訴(または起訴猶予)とするかを決定します。軽微な事故や示談済みのケースでは不起訴となることが多く、統計的にも約8割が不起訴処分となっています。
参照:最高検、高検及び地検管内別 自動車による過失致死傷等被疑事件の受理、既済及び未済の人員|e-Stat 政府統計の総合窓口
起訴された場合でも、被害が軽く示談が成立しているときは、簡易裁判所での「略式起訴」となることが多いです。略式起訴では、公開の法廷で裁判が開かれず、書面審理のみで罰金刑が科されます。罰金刑であっても前科には残るため、記録上の影響には注意が必要です。
被害が重大な場合や過失の程度が大きいと判断された場合は、正式起訴となり、公開の刑事裁判で審理されます。裁判では、被告人の過失の有無や程度、反省の有無、示談状況などを踏まえて刑が決定されます。初犯で反省が見られる場合は執行猶予がつくこともありますが、重傷・死亡事故では実刑となる可能性もあります。
一審の判決に納得できない場合は、控訴や上告で争うこともできます。控訴や上告には期間の制限があり、判決の言い渡しから14日以内に申し立てる必要があります。刑の軽減や無罪を主張する場合には、弁護士と相談のうえ慎重に判断することが重要です。
控訴・上告を行わず、または上級審でも判決が維持された場合には、刑が確定します。罰金刑であれば納付をもって終了しますが、拘禁刑の場合は刑務所での服役が行われます。執行猶予が付いている場合は一定期間、再犯なく過ごせば刑の執行は免除されます。刑が確定すると前科として記録が残り、一定期間は就職や免許更新に影響することもあります。
過失運転致傷罪では、被害の程度や事故後の対応によって処分の重さが大きく変わります。ここでは、厳しい処分を避けるために取るべき行動を5つの観点から解説します。
被害者への誠実な謝罪と示談の成立は、量刑を左右する最も重要な要素の一つです。示談が成立すれば、検察官は「被害回復が図られている」と判断し、不起訴や執行猶予が認められる可能性が高まります。
逆に、被害者が謝罪を受け入れず「厳罰を望む」としている場合は、起訴・実刑となるリスクが上がります。早期に弁護士を通じて示談交渉を進めることが、処分の軽減につながります。
厳罰を避けるために重要なのは「同じ過ちを繰り返さない」という姿勢を示すことです。たとえば、安全運転講習への参加や通勤経路の見直しなど、再発防止に向けた具体的な行動を取ることで、反省の意思が明確になります。
これらの取り組みは、裁判や検察官の判断において情状酌量の材料となり、執行猶予を得やすくする効果があります。
運転免許を自主返納する、または社会奉仕活動を行うなど、自発的な反省の行動も評価されます。免許返納は「運転を控える」という強い反省の意思の表れとして受け止められ、特に高齢者や再発リスクが懸念される場合に有効です。
また、地域清掃や交通安全活動への参加といった社会的償いの姿勢も、情状面でのプラス要素として考慮されます。
交通事故は、必ずしもすべてが運転者の一方的な過失とは限りません。被害者の不注意や、道路環境・天候の影響など、過失を軽減できる要素が存在する場合もあります。
事故の映像記録や現場写真を基に、客観的に状況を分析し、有利な事情を主張することで、処分や量刑が軽減される可能性があります。弁護士と連携し、証拠を正確に整理しておくことが大切です。
交通事故は、事故直後の対応によって結果が大きく変わります。弁護士に早期に相談することで、示談交渉の進め方や供述の仕方、再発防止策の提示方法など、最善の対応を取ることができます。
特に、被害者対応や検察とのやり取りは慎重さが求められるため、専門知識を持つ弁護士のサポートを受けることが、厳罰を避ける最も確実な方法といえます。
たとえ被害者が「大丈夫」と話していたとしても、法律上は事故によってけがを負わせた時点で過失運転致傷罪が成立する可能性があります。ただし、けがが軽微で示談が成立していれば、不起訴や起訴猶予となる可能性は高くなります。
自動車やバイクの運転中に自転車や歩行者へけがを負わせた場合も、過失運転致傷罪の対象となります。ただし、事故の内容が軽微で、誠実な補償や謝罪が行われた場合には、罰金刑や不起訴で終わるケースも多く見られます。
弁護士に依頼する最大のメリットは、早期に示談交渉を進め、不起訴や執行猶予を目指せる点にあります。また、供述内容の整理や警察・検察への対応を適切に行うことで、不利な判断を避けることができます。将来への影響を最小限にするためにも、交通事故に詳しい弁護士に早めに相談することが重要です。
自首は量刑を決めるうえで有利な情状として考慮されます。事故を起こして逃げずに自ら出頭し、誠実に事実を説明した場合、検察官は反省の意思が強いと判断します。その結果、不起訴や執行猶予付き判決など、処分が軽くなる可能性があります。
過失運転致傷罪は、ちょっとした不注意から誰にでも起こりうる犯罪です。不起訴になるケースも多いですが、被害者のけがの程度や事故後の対応によっては、初犯でも起訴・実刑となる場合があります。
一方で、誠実な謝罪や示談の成立、再発防止への取り組みなどが認められれば、不起訴や執行猶予がつく可能性も十分にあります。事故直後の対応がその後の処分を大きく左右するため、早い段階で弁護士に相談することが何より重要です。
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