東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
経営者であれば誰も経験したくない倒産。
支払が厳しくなったという段階から徐々に、そして時には一気にこの日がやってくるのかもしれません。
ですが、その流れを知っていたら、自分の取るべき行動は自ずとわかりますし、再起に向けて次の行動が見えてくるかもしれません。
ここでは、倒産のXデーを迎えた時に取るべき行動について見ていきましょう。
Xデー当日を迎えたある社長を主人公として、物語調に展開しています。
その日は普段と変わらない月曜日の朝でした。
会社に出社すると社員達がそれぞれの持ち場で仕事の準備を始めていました。
パソコンを起動してメールをチェックする者、伝票整理をする者、今日訪問する先を確認する者、みな朝礼の前に自分なりにウォーミングアップを図っているのが見て取れました。
それは、毎日のありふれた日常の1コマでした。
唯一いつもと違うのは自分がこれから彼ら彼女らにある一言を切り出さなければならないことです。
社員が揃う朝礼の前に自分は震えていました。
社長である私と一部の者しか知らないあることを公にする日、Xデーとなる朝のことです。
繊維業界のとある会社の社長に就任して早や10年。
3代にわたってこの仕事を続けてきました。
昭和30年代や40年代は業績も良く、工場もフル稼働の状態だったようです。
ですが徐々に売上は下がり続けていきました。
平成も中頃になると業界では生産拠点を海外に移すなど大きな変化が起こってきましたが、自分の所は依然として国内に止まり、地道に従来どおりの仕事を続けていました。
その結果、高コスト体質となり、安い海外勢からの商品にも押され気味となり、年を追うごとに経営環境は厳しさを増しました。
そして先月、大きな得意先が倒産して会社の血流となる金銭面での不安が現実のものとなります。
銀行への支払いが難しくなり、今までなかった手形のジャンプも何度か行いました。
銀行にリスケを申し込みに行くと追加担保を迫られ、どこで情報を仕入れたのか高金利の商工ローン業者の営業電話が頻繁にかかってくるようになりました。
今度満期日が来る手形を落とせない、もはやこれまでという思いに至りました。
いよいよ朝礼の時間です。
眠い目をこすって社員達が整列し横一列に並びました。
私は中央に立ち、皆の前で勇気を出して振り絞るような声で言いました。
「当社は本日をもって倒産します。
したがって、あなた方を雇用することはできず解雇します。
力およばず申し訳ありませんでした」
その言葉に一瞬で皆がざわつきました。
うろたえて「子どもが大学に行ったんだ、どうしてくれるんだ!」と詰め寄ってくるベテラン社員、事情が呑み込めず周りを見てうろたえる中堅社員、そして「ワーッ」と泣き崩れる女性社員。
その後、自分がこの朝礼でどう対応したのかは、よく覚えていません。
心配になって後から駆けつけてくれた弁護士が、その場を収拾したのはわかっています。
それは、雇っていた者達が従業員から会社債権者の立場に変わった瞬間でありました。
と同時にXデーに自分自身で行った悲しく辛い行動の全てであります。
業績が思わしくない、支払が厳しくなったとしても、Xデーはある日突然やってくるものではありません。
もちろんそういう場合もあるでしょうが、大抵はその予兆のようなものがあり、それが日を追うごとに顕在化していくのです。
どうもこのままでは立ち行かなくなる、会社が倒産しそうだと感じたのであれば、早い段階で弁護士に相談すべきです。
逆に不渡りを出したりしてから弁護士に相談する場合は、下手をすると取り付け騒ぎが起こるなどして収拾に時間がかかるなど、対応が遅くなりかねません。
これでは遅きに失した感があります。
ですので、先を見越して相談して、今後の対応を事前に準備しておくようにしましょう。
それではXデーを迎えた日に社長が取るべき行動と弁護士が取るべき行動はどのようなものがあるのでしょうか?ここでは、その点について見ていきます。
まず社長が取る必要な行動を紹介します。
先ほどの社長がXデーに従業員に伝えた言葉が一番勇気のいる、辛い行動でしょう。
これは社長自身が行うべきであり、避けて通れないものです。
また「当社は倒産したので、今後の対応は弁護士が行う」旨を記載した紙を事務所の前に貼りだします。
そして、残務整理は弁護士がいるときに行うべきです。
もし弁護士がいない時に債権者が来て、込み入った話になってしまうと、その後の話がややこしくなる可能性があります。
また、場合によっては債権者が自宅に押しかけてくることもありますので、会社の近くのホテルに数日間泊まる場合が出てくるかもしれません。
次に、弁護士が行う行動について紹介します。
倒産という場面は弁護士には日常的でも経営者には非日常です。
どういう流れをたどるのかを伝え、社長の不安を和らげることが大切になります。
具体的にはXデーを迎えた後は淡々と事務処理ができるようにしていきます。
債権者への連絡やその対応、事務所の前に張り出す紙の文面を考える等々です。
倒産のXデーには、ともすればいろいろなことが起こる、そう想像するかもしれません。
詐欺破産のような場合は、当然取り付け騒ぎのような事態が起こりえますが、事前に準備をきっちりして弁護士と綿密に協議したうえで倒産した場合は静かにその時がやってきて終わります。
勇気のいる局面でもありますが、しっかりとその流れを押さえてこの日を乗り越えて欲しいものです。