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倒産と再起の流れVOL17 会社を倒産させる前にまずは試すべきあらゆる方法

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

倒産と再起の流れVOL17 会社を倒産させる前にまずは試すあらゆる方法

事業がうまくいかず会社の倒産が目前に迫ってきた時、経営者は辛い気持ちの中で、具体的な倒産までのステップ、倒産後の未来について頭の中で構想を練り始めるでしょう。

その前に、一度考えてみてほしいことがあります。

「改善できる方法は、本当にもう残されていないのか?」ということです。

倒産の前に、経営改善を検討できる余地がある項目はいくつもあります。

それらの検討項目にまだ十分に目を向けられていないのであれば、一度じっくり見つめ直す必要があるでしょう。

この記事では、改善を図るべきポイントと方法、避けたい注意点など、会社を倒産させる前に試すべきあらゆる方法について解説していきます。

可能な限りの改善策を検討する

倒産が目前に迫っている中ででも、可能な限りでの改善策を検討しましょう。

いま会社が置かれている状況を人間に例えるならば、命に関わる病気にかかって死期が近い状態と言えるでしょうか。

そうなれば、手術をして病気の原因を取り除くことが必要になります。

その原因と向き合わずに、いくら健康なフリをしていても何も治ることはありません。

死期を早めていくだけでしょう。

どのような要因が経営状況を切迫しているのか、その原因を特定することから始めます。

特定できたら、どのようにして「取り除く」もしくは「改善する」ことができるかを検討します。

債務を処理する方法を検討する

倒産を迫られる一番大きな要因と言えば、やはり超過した債務の問題でしょう。

まず、この債務問題を解決することが求められます。

以下のような視点で解決を試みてみましょう。

債務超過の原因を特定する。

損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を準備して、なぜ債務超過が発生したのか、その原因を明確にしましょう。

  • 資金繰りの方法が問題
  • 利益が思うように出せていないことが問題

主にこの二つの答えにたどり着くことが多いのではないでしょうか。

債務完済までの段取りをリスケジュールする

資金繰りが一番の問題であれば、金融機関からの追加の融資やファンドからの出資などの資金調達をまず検討します。

会社の損益は現金の動きに直結しないので、キャッシュフローを詳細に計画せずに会社を運営していたのでは、いずれ資金がショートしてしまうことは必然です。

会社の運営に必要な運転資金を適正に算出しましょう。

そのうえで、追加融資・出資を受けることを検討し、完済までのスケジュールを改めて立ててみることです。

債権放棄のお願いをする

債権者に対し事情を説明して、債権放棄のお願いが出来そうな余地があれば、交渉をしてみる必要はあるでしょう。

事業を仕分けする

利益が出ていない、赤字体質である場合は、取り組んでいる事業についてさらに深堀りが必要です。

会社内の各事業を「採算が取れる事業」「採算が取れない事業」に分けていきます。

新会社をつくることを検討する

「採算が取れる事業」「採算が取れない事業」に分けた後、新しい会社をつくって「採算が取れる事業」を新会社に移し、元の会社を清算してしまうという方法があります。

第二会社方式と呼ばれる方法
です。

この方法を採択する場合「中小企業事業承継再生計画」を作成して経済産業局に申請して認定を受けることで、以下のような各支援を受けられるようになります。

①営業許認可を承継できる

現在の会社において営業に際しての許認可が必要な事業を行っている場合、新会社に事業を移行する際には、通常であれば新会社で新たに許認可を取得する必要があります。

この許認可取得の手続きにかかる期間や費用の負担を軽減するために、現在の会社の許認可を新会社にそのまま承継させることができるようになります。

②税負担を軽減できる

新会社を設立する際にかかる税金の負担を軽減することができます。

  • ・資本金にかかる登録免許税
  • ・不動産の所有権を移転させる際の登録免許税、不動産取得税

などが軽減の対象となります。

③金融支援を受けられる

新会社への事業承継をはじめとして資金調達の必要が生じた場合に、以下のような金融支援を受けられるようになります。

  • ・日本政策金融公庫から特別融資を受けられる
  • ・中小企業信用保険法の特例を適用できる
  • ・中小企業投資育成株式会社法の特例を適用できる

それぞれ審査に受かる必要はありますが、金利が安くなったり、融資・出資の別枠での適用など多くのメリットがあります

プロの手を借りる

これらの改善事項を検討していく際には、プロのパートナーと共に進めていくことをおすすめします。

  • ・コンサルタント
  • ・弁護士
  • ・中小企業再生支援協議会
  • ・企業再生支援機構

などが力になってくれるでしょう。

特に、各都道府県に設置された公的機関である中小企業再生支援協議会は信頼性も高く、作成した計画の実現性も高いのでおすすめです。

ただし、どのパートナーを選んだとしても「債務が無くなり利益が出せる事業になれば、その後の経営が軌道に乗る見込みがある」ことをまず自分で証明せねばなりません。

可能性がない事業にはいくらプロでも手を貸してはくれないからです。

中小企業再生支援協議会への支援依頼をする際にも、はじめから「おまかせ」で臨むのではなく、具体的な事業計画をコンサルタントや弁護士と一緒に作成することを検討してみましょう。

その計画書をもって依頼しに行くようにすれば、経営改善の可能性をより感じてもらえるようになります。

既存事業のテコ入れを検討する

「採算が取れる事業」を前提とした改善方法を述べてきましたが、そもそも「採算が取れない事業」しかない場合は、事業自体へのテコ入れを検討することになります。

具体的な方法は二つで、

  • ・事業の改善を図るか
  • ・別の事業に切り替えるか

しかありません。

しかし、倒産を目前にした状況では、別の事業を始めるような時間と費用に余裕がないことは明らかなので、事業の改善を図るという一択
になるのが現実です。

既存の「採算が取れない事業」を「採算が取れる事業」へと改善させることに注力します。

やり方を変えることが一番のハードル

既存事業の改善を図るとは、つまり「やり方を変える」ということになるのですが、これが最もハードルが高い行為です。

やり方というのは、人の感情が入り込みやすいからです。

  • ・今までのやり方に思い入れがある
  • ・変わるのを面倒に感じる
  • ・変わってしまうことを恥ずかしく感じる

など、経営者・従業員の感情が如実に現れる領域になります。

裏を返せば、この感情こそ今まで変われずに、採算を取れない事業を生み出すことになった元凶であるとも言えます。

この感情的な考え方を取っ払ってしまわない限りは、改善など図れるはずがありません。

外部から新しく社長を迎え入れると途端にうまく回り始めたりするのは、このような感情的な考え方にとらわれないからだと言えるでしょう。

「やり方を変えるために、どれだけ本気になれるのか」この段階で今一度思い直してみる必要があるでしょう。

事業をイチから見直す

既存事業へのテコ入れをする覚悟が決まったら、いよいよ見直しを図っていきます。

事業モデルをイチから検証するうえで、押さえておきたい基本的な項目は以下の5点です。

商品・サービス

この事業が提供する商品やサービスは、市場にマッチしているのかというマーケティングをしっかりと実施します。

特に、SWOT分析で市場における価値を分析することは欠かせません。

SWOTとは以下の4要素です。

  • ・強み (Strengths)
  • ・弱み (Weaknesses)
  • ・機会 (Opportunities)
  • ・脅威 (Threats)

所属する市場において、自社の商品・サービスはどのような立場にいるでしょうか。

このSWOTの4要素に当てはまる項目を書き出してみましょう。

同業他社の商品・サービスも同様にSWOT分析をしてみます。

その各分析を見比べれば、競合他社と競い合える魅力はあるかどうかが明確になります。

自社商品・サービスに新たに加えていける要素はないか、削れる要素はないか、競合できるモデルにブラッシュアップしていきます。

広告

提供する商品・サービスは、市場に向けてどのようにPRされているでしょうか。

どのような広告の手段を現在使っているのか、新しい方法を採用するのであればどのような方法が考えられるかを検討します。

営業

広告を通じて自社の商品・サービスを知った顧客に対して、どんなアプローチ・セールスをしているでしょうか。

顧客の心理をとらえた効果的な方法は採用されているでしょうか。

人間の心理が経済にどう結びついているかを研究した行動経済学的な視点も必要になります。

提供

商品・サービスをどのように顧客に届けているでしょうか。

商品を直送する、訪問してサービスする、店舗を構える、などいろんなスタイルが考えられます。

現在採用している形態は、市場とマッチングしていると言えるでしょうか。

インターネットを筆頭にした技術革新が進む中で、新しい提供スタイルは日々登場しています。

アンテナを張り巡らせて、自社の商品・サービスにはどのスタイルが望ましいのか検討しましょう。

採算

収支計画を作成し、現行の収支状況と比較して採算が取れる事業になっているかを検証します。

いくら事業モデルを検討しても採算が取れないようであれば、「仕入れの値下げを交渉する」「固定費を削る」などのコストダウンを含めて手段を検討しましょう。

売れる・儲かるとはどういうことか

ビジネスモデルの具体的な検証方法を述べましたが、そもそも「売れる」「儲かる」というのはどういうことなのでしょうか。

  • ・顧客に喜んでもらうこと
  • ・応援してくれる人がいること

端的に言えばこの2点です。

売れないというのは、喜んでもらえていないということです。

自社の商品・サービスは誰にどんな風に喜んでもらえているでしょうか。

SWOT分析の強みと直結しているでしょうか。

儲からないというのは、応援してくれる人が十分にいないということです。

商品・サービスを支持して、購入することで応援してくれる顧客は付いているでしょうか。

そして、従業員は自社の商品・サービスを購入しているでしょうか。

パート・アルバイトまで含めて、自社の商品・サービスを支持してくれているでしょうか。

自分の家族や周囲の人たちに、自信を持って勧められるでしょうか。

そんな視点で事業モデル・会社全体を見つめ直してみましょう。

目指すべき方向性はその先にあるものです。

改善を検討する際の注意点

新規事業ではなく、今ある事業のやり方を見つめ直して検討する方法を述べましたが、やれることはなんでも挑戦したほうがいいというわけではありません。

たとえば、事業モデルの検討の際にコンサルタントに依頼して一緒に考えてもらうケースもあるでしょう。

ここで気を付けたいのが、「売上アップにだけ特化したコンサルタントもいる」ということです。

広告費をかけてPR活動に注力して、売上アップにつながった―しかし、蓋を開けてみると事業モデルの全体での見直しが甘く、実は収益につながっていなかったということも珍しくありません。

売上は上がったのに、広告費・コンサルタント費用などのコストが過剰にかかり、結果的に利益が残らないとなっては本末転倒です。

やれることはなんでも挑戦すればいいわけではないことに、くれぐれも注意が必要です。

優先順位を付けること

それでは、倒産が迫っている状況においては、何に挑戦すればよいのでしょうか。

「優先順位を付けること」が何よりも大事になります。

たとえば、赤字が原因で資金がショートしそうな状況なのであれば、「費用がかからずに、明日から現金が入ってくること」を優先する必要があります。

事業モデルの見直しで見つかった改善点の中で、置かれている状況に見合った方法をピックアップして優先的に取り組むのです。

倒産が近い段階ですから何よりも、少しでも現金が出ていかない、少しでも現金が入ってくるような取り組みをまずは試みましょう。

長所は変えてはいけない

改善を試みる際は、くれぐれも会社の長所は変えないようにしなければなりません。

事業モデル分析のSWOTで、強み (Strengths)に書き出した部分はもちろんのこと、会社全体での長所は変えないようにしましょう。

経営がうまくいっていなくても、会社の良いところは必ずあるものです。

従業員や顧客や取引先は、会社のどんな点を支持してくれているでしょうか。

真摯に耳を傾け、その長所を変えてしまわない事業改善となるよう注意しましょう。

まとめ

会社を倒産させることを考えねばならなくなった段階でも、まずは試してみるべきことが多数あります。

債務の処理と資金繰り、伸ばす事業と改善する事業、あらゆる視点で会社全体にテコ入れをすることになり、経営難の状況を乗り越えた際には、より強く成長した会社の姿がそこにはあるでしょう。

ギリギリの状況の今だからこそ見えてくる会社の体質をしっかりと分析し、逆境を力に変える経営を志してみましょう。

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