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倒産と再起の流れVOL26 倒産の際になるべく取引業者や従業員、第三者保証人に迷惑をかけない方法

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

倒産と再起の流れVOL26 倒産の際になるべく取引業者や従業員、第三者保証人に迷惑をかけない方法

この記事でわかること

  • 倒産の際にどの債務を支払っておくかがわかる
  • 会社に対する債権者の種類がわかる
  • 優先的に支払いをすべき相手がわかる

事業の継続が難しくなって会社を倒産させる場合、すべての債権者は平等に取り扱われて最終的な処理が行われます。

しかし、倒産が避けられないような状況になる前で、かつ裁判所での手続きが始まる前であれば、倒産した後に事業を再起する際に力となってくれそうな人に対して先に支払いを済ませておくことができます。

ここでは、そのような支払先について考えてみたいと思います。

倒産する前にどの債務を支払っておくのかを考えておく

会社の倒産をするためには、裁判所に破産手続の申し立てを行います。

ただ、その前段階として弁護士に破産手続きを依頼すると、その弁護士から債権者に対して受任通知が送付されます。

この受任通知は、会社の倒産を予定している債務者の代理人に弁護士が就任したことを伝えるだけでなく、近いうちに裁判所に破産手続きの申し立てを行う予定であることも伝えるものです。

また、債権者から債務者に対して直接連絡を取ったり、債務を取り立てたりすることのないようにお願いをするものでもあります。

受任通知で債権者からの取り立てがストップするのは不思議に思うかもしれませんが、法律上の規定に基づいており、違反した債権者は懲役刑あるいは罰金刑に課される可能性があります。

受任通知の送付により債権者から債務者への取り立てはストップします

また、これと同時に債務者から債権者に対して、債務代金の弁済を行うこともできなくなります

したがって、特定の債権者に対してのみ返済を行うのであれば、倒産に関するすべての手続きを始める前に行っておかなければなりません。

倒産するかどうかの判断をするために弁護士に相談をするのが普通ですが、その前に特定の債権者に対する債務を返済しておく必要があるのです。

会社に対する債権者の種類とは

通常、会社に対して債権を有する者には①借入をしている金融機関、②仕入を行った取引業者、③車両やコピー機などのリースを行っているリース会社、④個人的にお金を借りている場合のその相手方(代表者本人やその家族・親族、友人や知り合い)などがあります。

また、毎月発生する費用や従業員の給料については、その相手先や従業員が債権者ということになります。

会社の経営が苦しくなると、債務の額が大きくなることや現金が足りなくなることでその支払いが遅れがちになってしまうため、どの相手に対する債務を先に支払うか考えることとなるのです。

金融機関からの借入金の返済は後回しにすべき理由

資金繰りに問題がなければ、いずれの債権者に対する債務も期日を迎えるまでに支払うことができるのですが、お金が足りなくなってくるとどの債務を先に支払うべきかで頭を悩ませることとなります。

この場合、誰に対する支払いを優先させるといいのでしょうか。

金融機関に対する支払いを優先して支払うべきと考える人がいるかもしれません。

その理由はおそらく、期限に遅れてしまうと、先方からしつこく催促があること、そして金融機関に対して支払いをしておかないと、今の会社を倒産させた後、新しい会社を興しても融資を受けることができないと考えるからだと思います。

しかし残念なことに、金融機関の借入を完済していたとしても、経営していた会社を倒産させたという事実がある以上、倒産した後しばらくの間は、金融機関から融資を受けることはできなくなります

そのため、金融機関に対する返済を優先すべきとする考え方は正しいとはいえません。

さらにいえば、金融機関からの借入金を完済できなかったからといって、その金融機関や担当者に恨まれるということはありません。

金融機関はあくまでビジネスとしてお金を貸しているのであって、貸し倒れとなるリスクも想定していますし、そのために貸倒引当金として費用も計上しています。

もちろん、貸し倒れになってしまったことを喜ぶわけではありませんが、かといって個人的な感情によってその後の取引関係に影響が出るような相手ではないのです。

倒産後に再起して、金融機関がもう一度取引したいと思うような状況になれば、金融機関との取引を再開することができます。

また、倒産した会社が倒産などきちんとした法的な手続きを行えば、その回収できなかった貸付金の額は貸倒損失となって、金融機関の損金となります。

損金となれば、その半分近くの金額に相当する法人税等の税額を減少させることができるため、金融機関としては、実質的に半分を回収したのと同じ効果があるのです。

一方、債務者として絶対に避けなければならないのは、債務の整理をせず夜逃げや雲隠れといった形で会社も残したまま姿を消してしまうことです。

この場合、金融機関は直ちに損金処理することができないので、債務者の行方を捜すこととなるでしょう。

当然他の債権者も黙ってはいないはずです。

倒産もせずに逃げてしまうことは、火に油を注ぐ結果になるということを覚えておくべきなのです。

優先的に支払いをすべき相手⑴仕入や外注などの取引業者

資金繰りが苦しく、債務の返済に行き詰まった時、数ある債権者の中から、まずは仕入を行っていた取引業者に対する支払いを行うようにしましょう

これは業種によって相手先の呼び方も変わります。

小売業や飲食業を行っていたような会社であれば、その相手先は仕入先となるでしょう。

建設業や製造業のような職種であれば、仕入先といわずに材料屋ということもあるかもしれません。

また、外注業者・協力会社に仕事を依頼することで成り立つ会社も多くあることから、そのような外注に対する支払いもこの取引業者に含めて考えるべきです。

取引業者との関係は簡単には修復できない

なぜ取引業者に対する支払いを優先するべきなのでしょうか。

それは、今の会社が倒産した後に再起を図るのであれば、このような取引業者との関係が今以上に重要になるためです。

一度会社を倒産させた人が、もう一度同じ取引業者と取引をしてもらうのは大変なことです。

普通の取引業者であれば、取引をしてもらうのは無理かもしれません。

しかし、倒産する前に可能な限りの返済を行っていたのであれば、多少は評価が変わる可能性があります。

これまでのように月末締めの翌月払いというような掛けでの取引をしてくれる業者はいないかもしれませんが、現金であれば取引をしてくれる業者が現れる可能性があります。

また、新たに事業を開始した際には従業員もなく自分一人ですべてを行わなければならないことから、外注業者や協力会社の助けがなければ商売をすることはできません。

しかし、事業を始めたばかりでお金がない状態ですから、外注業者や協力会社に対して前払して仕事を依頼することもできません。

当然、後からお金を払うつもりであったとしても、以前に倒産をして債務を返済できなかった経験がある相手ですから、よほど理解のある業者でなければ仕事を依頼しても受けてはもらえません。

あるいは、受けた仕事を安く済ませようと手抜きしてしまうかもしれません。

倒産させてしまったという事実はどのように対処しても変わりませんが、債務の返済の進め方によって、倒産後に再起を目指す際に違いが出てくるのです。

取引業者が取引をしてくれなければ仕事をすることはできないため、非常に重要な存在であることを理解しておきましょう。

優先的に支払いをすべき相手⑵従業員

従業員に対して支払う給料は、毎月決まった時期に支払のタイミングがやってきます。

そのため、資金繰りの苦しい会社にとっては大きな負担となってしまいます。

多少支払いが遅れたとしてもうまく説明すれば従業員からの不満もそれほど大きなものにならないと考えて、その支払いが徐々に遅れてしまうこともあるでしょう。

もちろん、給料の遅配は会社としてやってはいけないことですから、避けなければなりません。

しかし、これ以上にやってはいけないのは、給料自体の支払をしないことです。

従業員に対して給料を支払わなくて得をすることはない

従業員に対して給料を支払わないと、どうなるのでしょうか。

最悪なケースは、従業員が労働基準監督署に訴え出ることと考えるかもしれませんが、実はそうではありません。

もちろん、従業員が労働基準監督署に訴えれば、会社は必ず負けます。

しかし、会社としては「ない袖は振れない」ため、訴えられても失うものは何もない状態になっているのです。

もっとも、従業員も会社が資金繰りに苦労し支払が遅れがちなのは分かっています。

経理などの仕事をしていなくても、これまで見なかったような業者が頻繁に出入りするようになり、リース会社によって会社の資産が差し押さえられて持っていかれるようなことが起これば、会社が何かおかしなことになっていると気づかないはずはないのです。

そのような会社の窮状が分かっている従業員が、労働基準監督署に訴え出るということもまずありません。

だからといって、会社が従業員の給料を支払わないまま倒産していいことにはなりません。

それは従業員に対する保障であると同時に、今後新たな事業を開始する時のためでもあるのです。

倒産する際に従業員に対して最後まで誠意を尽くした経営者であれば、新しい会社が軌道に乗った時に従業員を集めやすくなります。

もしかしたら、以前の会社の従業員がもう一度来てくれるかもしれません。

また、倒産する際に給料を払わなかったという噂は業界内に広まり、その後の取引関係に影響が出てしまう可能性もあります。

従業員を大切にしない経営者というレッテルが貼られてしまった場合、その評判を挽回するのは難しいかもしれません。

会社としても苦しいところではありますが、最終月の給料に加えて退職金、解雇予告手当まで支払うことができるのが一番です

もしそこまでできないのであれば、最終月の給料までは支払うようにしましょう。

そこまですれば、従業員から恨みを買うようなことはないはずです。

優先的に支払いをすべき相手⑶第三者保証人付きの借入金や親族など

金融機関から借入をする際に多くの場合、返済できなくなった時のために保証を付けています。

経営者自身が保証人となっている場合もありますが、それだけでなく第三者が保証人となっている場合もあります。

このような借り入れを残して倒産してしまうと、保証人となってくれていた第三者に対して多大な迷惑をかけてしまうことになるのです。

また、親族や第三者から直接お金を借りていることも少なくありません。

このような場合にも、できるだけ返済をしておくようにしましょう。

第三者保証人をお願いしている借入金はできるだけ返済しておく

どのような関係の人であれ、第三者の立場で会社の借入金の保証人になってくれる人というのは、よほどの理解者であるといえます。

また、会社にお金を貸してくれている人についても同じことが言えます。

それなのに、第三者に保証人をお願いしている債務の返済を後回しにしてしまうことは、会社やその経営者に対する理解者を失う結果となってしまいます

親族や第三者からの借入金については、返済が遅れても厳しい取り立てがあるわけではありません。

そのため、つい返済が遅れがちになってしまうのですが、そもそもどうしてそのような人がお金を貸してくれたのか、あるいはどうして保証人になってくれたのかについて考えてみましょう。

また、第三者保証人付きの借入金の返済を優先しても、全額を返済することは難しいかもしれません。

その時は、保証人となってくれた人の自己破産など必要な手続きを行うために協力をしなければなりません。

弁護士の紹介など力になれることがいくらでもあるはずです。

また、破産手続きを終えて支払義務が完全に消滅した後も、保証人や親族に対しては少しずつ返済していくようにしましょう。

破産を検討している人が気をつけるべきこと

ここからは破産を検討している人が、気をつけるべきことを紹介します。

破産について従業員・取引先に話さない

破産について検討していることを、従業員・取引先に話してはいけません。

なぜなら取引先に破産検討の事実を知られるだけで、取引をストップされたり、会社の信用度が下がる可能性があるからです。

外部からの資金調達・融資などを考えている場合にも、破産を検討しているという事実はマイナスの影響を与えるかもしれません。

また従業員が破産について知ってしまうと、日常業務に支障をきたす可能性があります。

スムーズな破産手続きを行うためにも、「破産を検討している」という事実をまわりに知られないようにしましょう。

事業を普段通りに継続する

破産を検討しているときに、事業や経営に身が入らないかもしれません。

しかし、事業や経営は普段通りに継続していきましょう。

なぜなら破産手続きに入って、会社の事業停止するまで、会社の事業は続いているからです。

破産手続きには申立〜完了まで、1年ぐらいかかることが一般的です。

「もう破産をすることは決定だから」と思っても、事業停止までは事業を続けなればいけません。

破産を検討することで、会社事業へのモチベーションは下がるかもしれませんが、経営者として最後まで事業を継続させましょう。

破産の準備・検討などは行いつつ、同時に普段の事業・業務は継続しておきましょう。

早い段階で弁護士に相談する

破産を検討しているなら、早い段階での弁護士依頼がおすすめです。

なぜなら会社経営状態が悪くなる前に、スムーズな破産手続きができるからです。

少しでも会社に余裕がある状態で、破産手続きの準備を進めた方が安全です。

また破産は裁判所で申立をして手続きを行うため、経営者であったとしても自分だけで手続きを進めるのは難しいでしょう。

最初から弁護士に任せることで、無駄のない手続きができます。

また破産関連の作業を弁護士に依頼しておけば、自分は取引先・従業員対応といった会社のことに専念できるでしょう。

まずは無料の弁護士相談を利用

「弁護士に依頼したいけど費用が気になる」という人もいるでしょう。

費用が気になるなら、無料の弁護士相談がおすすめです。

多くの弁護士事務所では、初回の相談を無料で受け付けています。

無料相談で会社の状態を話してみて、アドバイスをもらいましょう。

実際に話すことで「この弁護士に依頼したい」と思えば、その時点で依頼すればいいでしょう。

無料の範囲内であれば、キャンセルしても費用はかからないため、まずは気軽に無料相談から利用するのがおすすめです。

まとめ

いったん会社の倒産手続きを始めると、会社に対するすべての債権者は平等に扱われなければならず、一部の債権者について融通をきかせるようなことは認められません。

しかし、倒産の手続きを始める前であれば特定の債権者に対して支払いを早めることができます。

ただし、倒産が避けられないような状況になってから一部の債権者に対する支払いを優先してしまうと、後からその支払いが取り消される可能性があります。

このような事態を避けるためには、とにかく早めに行動することが大事なのです。

会社の経営が苦しくなって、債務の返済が順調に進まなくなった場合には、会社を倒産することも選択肢の1つとして、債務弁済の優先順位を意識するようにしましょう

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