東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
会社再起のために手を尽くしても、万策尽きたという状況になることがあります。
在庫一掃セールをしたり、債権回収率を改善したり、会社の資産売却なども行った。
弁護士や税理士、会社コンサルタントなどにも相談した。
経営会議を開き、業務や契約状況を見直した。
それでも会社の状況が改善しない場合は、存続か倒産かの決断を下さなければいけません。
せっかく育てた会社です。
「策が尽きたから、倒産しよう」と簡単に決めてしまうのは、もったいないのではないでしょうか。
存続か倒産かを判断するときに「最低でもしておきたいこと」と、判断材料になる「財務状況の計算や危険度」について解説します。
Contents
会社の存続や倒産は、会社の経営責任者(社長など)が判断します。
会社の経営状況が悪く、在庫一掃セールや経営会議などの手を尽くしていた場合、経営者は「もう手がない。
倒産するべきか」という判断に心が傾くかもしれません。
「本当にそれでいいのか」と問われれば、経営者はもちろん「否」と答えることでしょう。
せっかく育てた会社を倒産させたい経営者などいないはずです。
会社の倒産は、経営者のみならず、多くの人の人生に影響が出ます。
社員は仕事を失い、会社の製品を愛してくれていたファンも失意に陥ることでしょう。
「倒産しよう」という決断は、最低でも次の3つのことを行ってからでも遅くはありません。
重大な決断だからこそ、3つのことをしながら、「本当に倒産という決断を下すべきなのか」を慎重に考えてみましょう。
真っ先に行いたいのは、会社の状況の把握です。
会社が苦境に立たされているからこそ、倒産という判断へと心が傾くのです。
しかし、その「苦境」とは一体どのような状況でしょうか。
会社によって苦境の意味合いはさまざまです。
会社の商品が売れずに苦境に立たされていることもあれば、仕入先が倒産してあおりを受けてしまったケースもあります。
取引先から材料を仕入れることが難しくなり、安定した商品の供給ができず大きな会社から契約を切られてしまったというケースもあるかもしれません。
銀行融資の返済に行き詰っている会社もあることでしょう。
ただ「苦しい状況だ」と把握するのではなく「なぜ苦しい状況に立たされているのか」「苦境の原因は何か」という状況把握が重要です。
体調が悪い時は、根本原因を治療しなければ、回復しません。
回復のためには、原因である病気にあった薬の処方や、適切な治療が必要です。
しかし、薬の処方や適切な治療のためには、原因になっている病気を突き止めなければいけません。
これは会社も同じです。
会社は体調を崩している状態なのですから、病名を突き止めるつもりで、しっかりと状況確認をしてみましょう。
苦境の種類によっては、弁護士や税理士、経営コンサルタントなどの処置やアドバイスで快癒に向かう可能性があります。
後悔しない判断を下すためにも、状況の把握が第一になります。
次にしておきたいことは、情報の整理です。
情報は3つのポイントで整理してみてください。
3つのポイントとは「得た情報」「自分の情報」「目に見えない情報」のことです。
得た情報とは、インターネットや本、専門家やコンサルタントから得た情報のことです。
自社の評価や状況打開策案、使える制度や融資などが、この「得た情報」にあたります。
自分の情報や目に見えない情報と混同しないように、取得した情報を個別にまとめるようにしましょう。
情報をまとめたら、自社に必要かどうか精査と取捨選択も必要です。
特に重要そうな情報にはチェックを入れ、状況を打開できそうな融資や制度については、さらに情報収集するように努めます。
会社を続ける熱意の有無を考える必要があります。
要するに、自分の気持ちは「会社の継続」にあるか、「会社を畳むこと」にあるかです。
中小企業の場合、特に経営者の熱意や気持ち、将来への見通しは重要になります。
自分の本心も1つの情報として整理しておきましょう。
会社を存続させるか否かの判断を下す前に、目に見えない情報をまとめて分析することも重要です。
目に見えない情報とは、周囲の協力や家族の想い、従業員の熱意、取引先の協力や応援、会社のファンの応援などになります。
会社を存続させた場合に家族や取引先、従業員たちの協力を得られそうか。
会社が倒産したら、嘆くファンはいるか。
このような目に見えない情報をまとめることも重要です。
倒産するか否かの判断の前には、会社の財務状況も計算し、確認しておくことが重要になります。
財務状況は数字です。客観的な状況把握に役立ちます。
財務状況の計算方法には、いろいろな方法があります。
自分で計算できる方法がほとんどなので、まずは電卓を叩き、数字を大まかに把握してみてください。
借入額が年商の半分を超えると、財務状況的には危険ラインだと言われています。
「借入金対月商倍率」を求めることで、自社の財務状況のラインを把握することが可能です。
借入金対月商倍率=借入金÷月商
製造業や小売業の場合は3.0ほどが望ましいラインだと言われています。
ほかの業種の場合は、6.0がひとつの数字的なラインです。
6.0という数字は借入額が年商の半分を超えている数字になります。
借入金対月商倍率を算出し、自社の財務状況を確認してみましょう。
倒産の危険性を示す数字の1つが「流動比率」です。
流動比率は一般的に200%以上欲しいと言われており、100%以下だとリスクが高いと言われています。
流動比率はリスクをはかる指標として、一般的によく使われる数字です。
流動比率の算出は、次の計算式によります。
流動比率=流動資産÷流動負債×100%
「自己資本比率」も、自社を客観的に判断できる数字の1つになります。
会社の倒産のリスクや安全性をチェックするために使われるのは自己資本比率です。
自己資本比率は、40%以上が望ましいと言われています。
自己資本比率は、次の式によって算出可能です。
自己資本比率={(総資本-他人資本)÷総資産}×100%
「SAF2002モデル」という計算方法もあります。
SAF2002モデルは、投資家が企業分析のリスク判断や格付けに用いる計算です。
投資家は投資先となる企業の倒産リスクなどを厳しい目で見ます。
会社の財務状況の判断に使うことで、「内部の贔屓目」を除いた冷静な判断に活用することが可能です。
計算方法はやや難しめですが、下記にくわしく説明します。
計算を始める前の準備として、決算書類を準備します。
決算書類は2期分、手元に準備してください。
準備が終わったら、メモ帳などでいいので、6つの数字を書き出します。
6つの数字とは「利益剰余金」「負債・純資産合計」「税引前当期利益」「棚卸資産」「売上高」「支払利息」のことです。
書き出した6つの数字を下記の4つの計算式にあてはめて計算します。
算出したA~Dの数字をさらに計算式にあてはめて、数字を求めてください。
A=①÷②×100
B=③÷②×100
C=④×12÷⑤
D=⑥÷⑤×100
求めた数字が1.44以上であれば状況は優良であると判断できます。
0.9~1.44までの間は安全圏と判断可能です。
0.7~0.9の場合は注意が必要な状況で、0.7未満の数字が出た場合は倒産リスクが高い状況だと判断できます。
0.7未満 倒産リスクが高い
0.7~0.9 要注意
0.9~1.44 安全圏
1.44以上 優良
中小企業基盤整備機構が提供するネット上の「経営自己診断システム」を利用して、会社の状況を診断することも可能です。
経営自己診断システムは利用料無料で、誰でも利用できます。
同業他社との比較もでき、資金繰りについても分析可能です。
経営者が自社の分析をするときは、積極的に使いたいサービスになります。
倒産するか存続させるか。
これは、経営者のみならず、経営者の家族や会社員、取引先や会社のファンにとっても、とても重要な分岐点になります。
経営者は慎重な判断を求められるのです。
判断の前に、まずは状況把握や情報の整理などをしっかり行うこと。
それから、計算式などを用い、客観的な数字も判断材料にすることが重要です。
税理士や弁護士などの意見も参考に、後悔しない決断を下しましょう。