東京弁護士会所属。
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目次
交通事故に巻き込まれ受傷をした結果、後遺障害が残るということはよくあることで、交通事故の態様によって様々な箇所に後遺障害が発生します。
頭部の中でも、目・耳・鼻・口という器官についての後遺障害についてお伝えします。
まず目の後遺障害としてはどのようなものがあるでしょうか。
目の後遺障害としては、
といったものがあります。
目は眼球で取得した光の情報を、視神経を通して中枢神経系で処理をして視覚を生じるという役割を持っています。
交通事故で眼球そのものにダメージを受けた場合や、視神経にダメージを受けた場合には、視力そのものが低下したり、失明をすることになります。
視力を失った場合に関する後遺障害の等級は次の通りになっています。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
---|---|
第1級1号 | 両眼が失明したもの |
第2級2号 | 1眼が失明し,他眼の視力が0.02以下になったもの |
第2級2号 | 両眼の視力が0.02以下になったもの |
第3級1号 | 1眼が失明し,他眼の視力が0.06以下になったもの |
第4級1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの |
第5級1号 | 1眼が失明し,他眼の視力が0.1以下になったもの |
第6級1号 | 両眼の視力が0.1以下になったもの |
第7級1号 | 1眼が失明し,他眼の視力が0.6以下になったもの |
第8級1号 | 1眼が失明し,又は1目の視力が0.02以下になったもの |
第9級1号 | 両眼の視力が0.6以下になったもの |
第9級2号 | 1眼の視力が0.06以下になったもの |
第10級1号 | 1眼の視力が0.1以下になったもの |
第13級1号 | 1眼の視力が0.6以下になったもの |
失明をしたといえる場合は、眼球を失ってしまったような場合はもちろん、明暗が判断できない場合や、明暗が判別できる場合でも、「光覚弁」「手動弁」「指数弁」といった能力を消失している場合も含まれます。
視力については、万国式試視力表によって判断されます。
万国式試視力表はいわゆる「視力検査」といわれるもので、「ランドルト環」といわれるCの字のようなものの切れ目の方向を言い当てるものです。
なお、一般には視力検査は裸眼で行いますが、後遺障害における視力はメガネ・コンタクトレンズで矯正した後の視力で検査することになっています。
視力は上述したとおり、眼球自体にダメージを受けた場合と、視神経にダメージをうけた場合のどちらでも発生します。
眼球の外傷で眼球の機能に問題がないかを判断するには、前眼部スリット検査、直像鏡によって検査を行います。
前眼部スリット検査とは、前眼部と中間透光体の異常を検査するために行うもので、細隙灯という光を眼球に照らして、結膜,角膜,前房,虹彩,瞳孔,水晶体,硝子体などの眼の各組織を顕微鏡を用いて拡大して直接観察し,異常がないかを検査するものです。
直像鏡検査とは眼底検査とも言われ、目のうち眼底部を検査するもので、直像鏡という装置を使いて行います。
また、ケースによっては、白内障などの検査に利用する、網膜電図(ERG)などを利用して眼の網膜に関する検査を行うこともあります。
視神経の損傷を調べるためには、視覚誘発電位検査(VEP)を利用します。
視神経は網膜から後頭葉に至る器官で情報の伝達を行っています。
視覚誘発電位検査は視覚的な刺激を外部から与え、これによって誘発される脳波を計測して、正常なのか異常なのかを検査するものです。
視力の低下に関する交通事故実務の問題としては、視力の低下が頸椎捻挫が原因で起こる場合もある場合があるということです。
敬通捻挫を発症した場合に、頚部交換神経に異常が発生し、視力が低下する現象があります。
この場合上記の視力に関する検査では異常な初見がみつからず、交通事故に起因するものなのかどうかの立証をするのが非常に難しいケースがあります。
目の障害であるという主張をするのではなく、頸椎捻挫に起因する神経障害であると主張をして、12級14級といった後遺障害の取得を目指すことになるので注意が必要です。
目は見ようとしている物の距離に応じてピントを調節して合わせるようになっています。
目の器官の中でいうと、水晶体という部位がこれを担っており、遠くの物をみるときには水晶体が縮小、逆に近くおものを見る場合には膨張する仕組みになっています。
水晶体を失ったような場合やダメージを受けることによって目のピントの調節機能を失ったり低下することになると、ピントが合わずにぼやけて見えることになります。
そのような場合には後遺障害として認められる余地があり、実際には下記の等級に該当する可能性があります。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第11級1号 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの |
第12級1号 | 1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの |
何をもって「著しい調節機能障害」というかについては実務上、調節機能が正常な場合と比較をして2分の1位かになった状態を言うとされています。
目のピントの調節機能を調べるには、眼調節機能測定装置(アコモドポリレコーダー)というものを利用して行います。
目のピントの調節機能の後遺障害認定については、交通事故との因果関係が認められるかが問題になることがあります。
というのも、目のピントの調節機能については加齢など他の要因によっても低下することが知られており、55歳を超えるような場合には通常は下がっていることがほとんどです。
そのため、被害者が高齢者であるような場合にはピントの調節機能の後遺障害認定は認められづらいといえるので注意が必要です。
眼球は、3対の外眼筋を利用して正常な位置を保ち、水平・垂直・回旋といった運動を行うことによって視野を確保しています。
交通事故により、外眼筋そのものを損傷したり、これらの運動をするための神経を損傷したような場合には眼球の動きが制限される結果、視野が狭くなるといった障害が生じます。
そこで眼球の運動機能に障害を受けた場合には、後遺障害の認定の問題が発生します。
当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第10級2号 | 正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
第11級1号 | 両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
第12級1号 | 1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
第13級2号 | 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
「著しい運動障害」というのは、眼球の運動のみによって直視できる範囲が2分の1以下になっていまった場合をいいます。
複視というのは、目を支える筋肉のバランスが崩れた結果、物が二重に見える症状のことをいいます。
複視の症状を残しているといえるためには
が必要とされているので、後述するヘススクリーンテストをするなどが必要になります。
眼球の運動機能がどうなっているかはどうやって検査をするのでしょうか。
眼球運動障害の有無についてはヘススクリーンテストというものをつかった眼球運動検査によります。
「眼前の一点を見つめているときに、同時に見ることができる外界の広さ」のことを視野といいます。
眼でみたことによって集まった情報は、網膜から後頭葉の視中枢を通じて脳に伝えられることになりますが、視神経を障害するなどして伝達経路に何らかの損傷を受けることによって視野に関する障害が出ることがあります。
視野の失い方によって次のような言い方をします。
注視点を境に右半分や左半分の視野を失っていることを半盲症といいます。
視野が通常より狭くなってしまっているような場合を視野狭窄と呼んでおり、視野狭窄については「求心性狭窄」と「不規則狭窄」に分かれます。
「求心性狭窄」というのは、周辺部分から中心に向かって視野が失われている場合で、「不規則狭窄」というのは視野の狭窄が不規則に発生している場合をいいます。
視野の一部が欠けていたり暗点が生じて視野の一部が見えない状態のことを「視野変状」と呼んでいます。
視野に関する障害の等級は次のとおりになります。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第9級3号 | 両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの |
第13級3号 | 1眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの |
まぶたを欠損した場合には次のような等級の認定がされる可能性があります。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第9級4号 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
第11級3号 | 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
第13級4号 | 両眼のまぶたの一部に欠損を残し,又はまつげはげを残すもの |
第14級1号 | 1眼のまぶたの一部に欠損を残し,又はまつげはげを残すもの |
「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは、まぶたを閉じたときに、角膜を完全に覆えない程度のものをいいます。
「まぶたの一部に欠損を残すもの」とは、まぶたを閉じたときに、角膜を完全に覆うことができても、白眼が露出している程度のものをいいます。
「まつげはげを残すもの」とは、まつげの生えている周縁の2分の1異常にわたってまつげのはげを残すものをいいます。
なお、まぶたの欠損とともに、顔や首などにも痕が残ってしまっているような場合には「外貌醜状」という別の後遺障害に認定される可能性があります。
外貌醜状とは、見た目に外観に醜い状態が残ってしまうことで、交通事故との関係でいうと、頭・顔・首という人目につくような部分に、瘢痕(火傷の痕)・線状痕(線状の傷跡)、組織陥没等の傷跡(醜状)が残ってしまうことをいいます。
外貌醜状は一番重い状態になると、第7級12号の認定がされることになり、その場合には重い等級の認定がされることになります。
まぶたは眼球を保護したり光量の調節をするなどの役割を持っており、閉じる・開ける・瞬きをするといった動きをするものです。
この運動が交通事故などの怪我で障害された場合には、後遺障害として認定されることになります。
まぶたの運動に関する障害の等級は次のようになっています。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第11級2号 | 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
第12級2号 | 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、まぶたを閉じても角膜を完全に覆えない・まぶたを開けてもまぶたがが瞳孔を完全に覆ってしまう状態などをいいます。
交通事故で耳を怪我したような場合には、耳を失ったり、聴覚障害や、耳鳴りなどの症状が残ってしまう場合や、耳の中には三半器官や耳石といった平衡感覚に関する器官もあることから平衡感覚に障害が生じる場合があります。
一般的に「耳」と呼ばれる部分は、耳殻(耳介)という呼び方をします。
音を集めるためにあるため貝殻状の形をしていることからこのような呼ばれ方をするのですが、交通事故で耳を欠損したような場合には後遺障害になりえます。
耳殻の欠損を生じた場合の後遺障害の等級は次のようになっています。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第12級4号 | 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの |
ここに「大部分の欠損」というのは、耳殻の軟骨の部分の2分の1以上の欠損をいいます。
耳殻の欠損を生じるほどの交通事故に巻き込まれているときには、顔や首に広範囲に痕が残るような怪我をしている可能性があります。
そのような場合には「外貌醜状」の後遺障害に該当する場合もあります。
両方の要件を満たす場合には、上位の後遺障害での認定をすることになります。
また、仮に耳殻の大部分の欠損が生じていないと評価される場合でも、怪我をした部分が全体で外貌醜状の要件を満たすような場合には、外貌醜状で認定されることになります。
交通事故で頭部打撲などで耳の聴力に関する器官を損傷することがあり、これが原因で聴力を喪失したり、聴力が低下するようなことがあります。
このような場合に後遺障害となることがあります。
聴力に関する後遺障害等級は、聴力障害が生じたのが両耳なのか片耳なのかによって次のような形で等級分けがされています。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第4級3号 | 両耳の聴力を全く失ったもの 両耳の平均純音聴力レベルが90dB以上,または両耳の平均純音聴力レベル80dB以上で,かつ最高明瞭度が30%以下のものをいいます。 |
第6級3号 | 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 両耳の平均純音聴力レベルが80dB以上,または両耳の平均純音聴力レベルが50dB~80dB未満で,かつ最高明瞭度が30%以下のものをいいます。 |
第6級4号 | 1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 1耳の平均純音聴力レベルが90dB以上,かつ他耳の平均純音聴力レベルが70dB以上のものをいいます。 |
第7級2号 | 両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 両耳の平均純音聴力レベルが70dB以上,または両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上で,かつ最高明瞭度が50%以下のものをいいます。 |
第7級3号 | 1耳の聴力を全く失い,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することができない程度になったもの 1耳の平均純音聴力レベルが90dB以上,かつ他耳の平均純音聴力レベルが60dB以上のものをいいます。 |
第9級7号 | 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することができない程度になったもの 両耳の平均純音聴力レベルが両耳60dB以上,または両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上で,かつ最高明瞭度が70%以下のものをいいます。 |
第9級8号 | 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することが困難である程度になったもの 1耳の平均純音聴力レベルが80dB以上で,かつ他耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のものをいいます。 |
10級5号 | 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話し声を解することが困難である程度になったもの 両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上,または両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上で,かつ最高明瞭度が70%以下のものをいいます。 |
第11級5号 | 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上のものをいいます。 |
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第9級9号 | 1耳の聴力を全く失ったもの 1耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のものをいいます。 |
第10級6号 | 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 平均純音聴力レベルが80dB~90dB未満のものをいいます。 |
第11級6号 | 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 平均純音聴力レベルが70dB~80dB未満,または50dB以上で,かつ最高明瞭度が50%以下のものをいいます。 |
第14級3号 | 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 平均純音聴力レベルが40dB~70dB未満のものをいいます。 |
それぞれ後遺障害等級の自賠責施行令の文言と、実際の運用ではどうなっているかを確認しておくようにしましょう。
上記の通り、聴力に関する後遺障害等級については聴力のレベルがどこまで落ちているかを客観的な数字で測ることになるので、聴力検査も主に「純音聴力検査」と「語音聴力検査」で判定をすることになります。
「純音聴力検査」とは、オージオメータという検査機器を用いて音が聞こえるかどうかを検査するもので、聴力レベルはデシベル(dB)という単位で計測され、3回以上検査を行ってその平均で判断されることになります。
「語音聴力検査」とは、「ア」「イ」などの言葉をヘッドホンで聞き取って聞こえるかを回答してもらい、聞き取りやすさを検査するものになります。
なお、これらの検査は交通事故の被害者の返答が必要になる点で、事故の調査を行う人が結果に対して不審を感じることがあります。
その場合には、
なおこの検査は以後の聴力の基準を示すために行うので、症状固定後に行うことになります。ABR・聴性脳幹反応とSR・あぶみ骨筋反射というような被害者の返答を必要としない検査を、調査者の求めに応じて行うことがあります。
体調等によって聴力が一定とはいいきれないことから、3回以上検査を行い、その平均の値がどのようになっている
検査はすくなくとも7日程度を開けて行うことになっています。
聴覚に関する機能のほかに、交通事故で耳にダメージを受けた際には、耳鳴りが止まない状態が続く場合もあります。
耳鳴りとは、周囲で音がしていないにもかかわらず、音が鳴っているように感じる症状をいい、内耳の感覚細胞に障害がおきることによって引き起こされることが多いものです。
これが続くような場合には日常生活に支障が出ることから、後遺障害に認定される可能性があります。
耳鳴りは後遺障害の等級の表に規定はないものの、認定の基準を満たしていると、それに対応する等級と相当するとして認定されることになっています。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第12級相当 | 耳鳴に係る検査により難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるもの |
第14級相当 | 難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるもの |
聴力障害の項目難聴といえるためには40dB以上の難聴をいうとしてきましたが、耳鳴りの場合の「難聴を伴い」というのは、「耳鳴りを生じている高さの聴力が、他と比較して低下していること」というとされ、30dB以上の難聴を伴っている場合をいいます。
耳鳴りの後遺障害を認定するためには、ピッチマッチ検査・ラウドネスバランス検査・遮蔽検査というものを利用します。
ピッチマッチ検査とは低周波から高周波まで異なる音を聞いて、耳鳴りとして自覚している音の周波数を特定する検査です。
ラウドネスバランス検査とは、耳鳴りとして自覚する音の大きさをデシベル(dB)として評価するための検査です。
遮蔽検査とは、ピッチマッチ検査で判明した周波数のバンドノイズを用いて耳鳴りを遮蔽することで、最小の耳鳴り遮蔽レベルを割り出すことで、耳鳴の大きさを評価するものです。
耳の中には分泌液がありますが、交通事故で鼓膜に穴が開いてしまうなどで、その分泌液が外に漏れだす症状があり、これを耳漏と呼んでいます。
耳漏がある場合には聴力の低下を伴うことがあり、そのような場合には後遺障害認定がされます。
耳漏が後遺障害と認定されるのは次のような場合です。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第12級相当 | 30dB以上の難聴で,常時耳漏を残すもの |
第14級相当 | 30dB以上の難聴で,耳漏を残すもの |
聴力の状態を確認するためにオージオメーターで聴力検査をします。
耳の中には三半規管などの器官が存在しており、これらは平衡感覚をつかさどっています。
耳の障害によりこの平衡機能に障害を受けたときには、平衡感覚がおかしくなる、めまい等の症状に悩まされるため、後遺障害として認定されることがあります。
平衡機能等の後遺障害には次のようなものが該当することになります。
等級 | 後遺障害 |
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3級3号 | 生命の維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが、高度の失調または平衡機能障害のために終身労務に就くことができないもの |
5級2号 | 著しい失調又は平衡機能障害のために、労働能力が極めて低下し一般平均人の4分の1程度しか残されていないもの |
7級4号 | 中程度の失調又は平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の2分の1以下程度に明らかに低下しているもの |
9級10号 | 一般的な労働能力は残存しているが、眩暈の自覚症状が強く、かつ、他覚的に眼振その他平衡機能検査の結果に明らかな異常所見が認められるもの |
12級13号 | 労働には通常差し支えがないが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの |
14級9号 | 眩暈の自覚症状はあるが、他覚的には眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないもので、単なる故意の誇張でないと医学的に推定されるもの |
平衡障害があるかどうかの検査は、大きくわけて立直り反射検査と偏倚検査といわれるものがあります。
立直り反射検査にはロンベルグテスト・マンテスト・ゴニオメーターテスト(斜面台テスト)といったものがあり、偏倚検査には指示テスト遮眼書字テストといったものが利用されます。
次に交通事故で鼻にダメージを受けた場合にはどのような後遺障害が問題になるかを見てみましょう。
鼻を欠損した場合とは、鼻軟骨部の全部または大部分を欠損した場合をいいます。
鼻には、呼吸器としての機能・嗅覚に関する機能があります。
これらの機能を障害した結果鼻呼吸困難といえる場合・嗅覚がなくなってしまった場合(嗅覚脱失)・嗅覚減退が認められる場合には後遺障害として認定されることになります。
嗅覚の機能の検査は、T&Tオルファクトメータを利用して行います。
平均嗅力損失値の認知域値が5.6以上の場合には嗅覚脱失・平均嗅力損失値の認知域値が2.6~5.5の場合には嗅覚減退として認定されることになっています。
鼻の欠損・機能障害は次のような障害等級に認定されることになります。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第9級5号 | 鼻を欠損し,その機能に著しい障害を残すもの |
第12級相当 | 嗅覚脱失または鼻呼吸困難 |
第14級相当 | 嗅覚減退 |
9級の「その機能に著しい障害を残すもの」というのは嗅覚脱失・鼻呼吸困難のどちらかがあることを指します。
鼻を欠損するほどの交通事故を起こしているような場合には、同時に顔・首に同時に相当程度のケガをしている場合が考えられます。
そのような場合には同時に外貌醜状の認定がされることがあります。
この場合外貌醜状とは等級が併合されることはなく、どちらか等級の高いものを採用することになっています。
鼻の欠損をしているような場合には第9級5号の認定をされることになるのですが、外貌醜状で第7級の認定ができるような場合には、第7級の認定のみながされるということになります。
仮に鼻のケガが、第9級5号の「鼻の欠損」と評価できる場合できず、鼻に関する後遺障害の認定ができない場合でも、外貌醜状の一部として認定できる場合はあります。
口には、咀嚼・言語機能・味覚に関する機能があります。
交通事故で口にダメージを受けた場合には、(1)咀嚼・言語の機能に関する障害、(2)味覚に関する障害、(3)歯を失った場合、に後遺障害として等級認定されることになります。
咀嚼とは、消化を助けるために、食べ物をかみ砕く機能です。
言語の機能とは、言葉を発生するための機能のことをいいます。
当然ですがこれらが障害されることによって日常生活に重大な支障をきたすことになります。
咀嚼に障害があるかは、上下のかみ合わせ・歯の配列の状態・下あごの開閉運動を総合的に意思が診療をして行います。
言語の機能に障害があるかは、言語を発するために発生する4つの音の種類(口唇音、歯舌音、口蓋音、咽頭音)のうちいくつ発音ができなくなったかを判断して行います。
そのため次のような障害等級が定められています。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第1級2号 | 咀嚼及び言語の機能を廃したもの |
第3級2号 | 咀嚼又は言語の機能を廃したもの |
第4級2号 | 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの |
第6級2号 | 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの |
第9級6号 | 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの |
第10級3号 | 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの |
「咀嚼の機能を廃したもの」というのは、流動食以外は食べられなくなったことをいいます。
「咀嚼の機能に著しい障害を残すもの」とは、粥食又はこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないものをいいます。
「咀嚼の機能に障害を残すもの」とは、ある程度固形食は摂取できるが、これに制限があって、咀嚼が十分でないものをいいます。例えば、ごはんや、煮魚、ハム等の咀嚼できるが、たくあん、ビーナッツ等の固さのある食物だと咀嚼ができない、あるいは十分咀嚼できないものがある、というような場合をいいます。
「言語の機能を廃した」とは、口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音の4種のうち、3種以上の発音ができなくなった場合をいいます。
「言語の機能に著しい障害を残すもの」とは、4種の語音ののうち、2種の発音不能のもの又は綴音機能に障害があるため、言語のみを用いては意思を疎通することができない場合をいいます。
「言語の機能に障害を残すもの」とは、4種の語音のうち1種の発音ができなくなった場合をいいます。
交通事後によって頭部外傷を負うなどして、舌・顎の組織にダメージをうけることにより味覚に関する障害が発生する場合があります。
自賠責施行令に定める後遺障害等級表には味覚に関する障害が発生した場合については記載されていませんが、実務的には下記のように等級が設定されています。
味覚の後遺障害は次のように認定されます。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第12級相当 | 味覚を脱失したもの |
第14級相当 | 味覚を減退したもの |
「味覚を逸脱した」といえるためには、甘味・塩見・酸味・苦味の4つの基本の味のすべてがわからなくなっている場合をいいます。
「味覚を減退した」といえるためには、甘味・塩見・酸味・苦味の4つの基本の味のうち、ひとつ以上の味がわからなくなっている場合をいいます。
上記の「味がわからなくなっている」といえるかどうかはどのように検査をするのでしょうか。
一つは「ろ紙ディスク法」といい、それぞれの味を認識する部位に4つの味の溶液を浸した小さなろ紙を置き、どの味であるかを答えることで検査をします。
もう一つは「電気味覚検査」といって、舌に電流を流して刺激を与え、どれくらいの強さの刺激で味を感じるかを測定して、味覚障害の程度を調べます。
味覚の検査に関する後遺障害が発生した場合には、料理に関する仕事をしているような場合に労働能力喪失の認定ができる場合があります。
過去の判例では寿司職人に自賠責と同一の労働能力喪失率を認めたものがあります。
交通事故で口にダメージを負った場合には、歯を失うことが考えられます。
歯に関しては何本失ったかによって後遺障害等級認定をされることになります。
該当する等級(自賠責施行令 別表第二) | 認定基準 |
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第10級4号 | 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
第11級4号 | 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
第12級3号 | 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
第13級5号 | 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
第14級2号 | 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
「歯科補綴を加えたもの」現実に喪失または著しく欠損した歯に対する補綴をいいます。
目、耳、鼻、口の後遺障害についてお伝えしてきました。
頭部に集まっているこれらの器官は日常生活に密接に関連する器官で、失ったり障害を受けた場合には相当の苦痛を受けるものです。
交通事故の損害賠償を相手方(およびその保険会社)から受け取るにあたってはどのような後遺障害が発生しているかの認定は重要で、そのベースとなるのがこの後遺障害等級の認定です。
交通事故に詳しい弁護士は、こういった等級認定のみならず、相手方保険会社との交渉を通じて法律的・精神的援護をしてくれるので、交通事故の被害にあったときには非常に心強い味方になります。
小さいことから相談をして有利に後遺障害の損害賠償の請求をするようにしましょう。
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。