東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
毎年多くの交通死亡事故が起きています。
自分が当事者になるとは考えたくもありませんが、車大国日本、その可能性も否定できません。
あなたが事故の当事者となってしまった場合に備えるため、交通死亡事故の被害者側と加害者側で、それぞれ行動すべきことなどをまとめてみました。
ぜひ参考になさってください。
交通事故を起こしてしまったら、加害者はとても動揺してしまいますが、しなくてはならないことはたくさんあります。
何とか気持ちを落ち着けて、迅速に行動に移りましょう。
事故後の一瞬の行動を誤ると、自分の立場を悪くすることにつながります。
運転手は事故の被害を最小限にとどめることに全力を尽くしましょう。
「交通事故の加害者になってしまったらやってはいけない3つのこと」こちらもあわせてご確認ください。
まず事故を起こしたらすぐ車を停めましょう。
道路交通法では道路の左に寄せて停車する決まりとなっています。
停車したら、すぐ現場に向かい、被害の状況や被害者の容態を確認しましょう。
負傷者がいる場合は、負傷者の救護を行いましょう。
まず被害者のもとへ駆け寄り、負傷しているかどうか確認し、負傷している場合は自力で病院等に行けるか確認し、自力で病院に行くのが困難な場合は、救急車を呼ぶなどの対応をしましょう。
この救護義務は道路交通法に規定があるので、これをしないと道路交通法義務違反になってしまいます。
よくあるケースで、相手がケガをしていたのに「大丈夫、何でもない」と言っていたのでそのまま帰ったところ、後になって症状が悪化して治療が必要となり、救護義務違反と判定されることもあるので、相手が大丈夫そうでも病院に行くよう勧めたほうが安全です。
交通事故を起こした場合、警察への通報義務があります。
警察への報告義務も、道路交通法に規定されており、これを怠ると報告義務違反となるだけでなく、保険が適用されなくなる可能性もあるので、必ず報告は行うようにしましょう。
警察に通報する事柄としては、以下があります。
事故当時は、相手もケガしておらず物損の度合いも大したことが無かったので、警察に届けなかったところ、相手方が「腰が痛い」と言い出し、報告義務違反となるのを恐れて、相手に対し治療費として多額の慰謝料を払ってしまったというケースも見受けられます。
このように、報告義務違反だけでなく、後々トラブルに発展するケースも多いですから、必ず警察に通報するようにしましょう。
対物事故だと、車の窓ガラスの破片が飛び散ったりして、車の通行の妨げとなる場合があります。
被害者の救護義務を果たしたら、こうした危険物を取り除きましょう。
上記の事故を起こした際に加害者が取る行動(「車を停車させる」「被害者を救護する」「路上における危険防止の措置」「警察に通報する」)は、道路交通法で定められた義務です。
したがってこれらの措置を怠った者は、道路交通法違反で以下の刑罰を受けます。
〈停車、被害状況の確認、被害者の救護を怠った場合〉
・3年以下の懲役、または10万円以下の罰金(道路交通法27条)
〈警察への報告義務を怠った場合〉
・3ヵ月以下の懲役または3万円以下の罰金
後の損害賠償のために、被害者には誠意を尽くして対応しましょう。
損害賠償は示談による解決が図られることが多いです。
示談を有利に進めるために、事故発生時から被害者に誠意を尽くしておくことは大切です。
誠意を尽くす行動としては、例えば以下のような行動があります。
〈被害者が負傷している場合〉
〈死亡した場合〉
普通、加害者は被害者が生きている間は毎日病院に行き、亡くなってしまったら自宅に詫びに行くのが暗黙の了解です。
親族の怒りと悲しみに耐えるのは大変ですが、これをやらないと後の示談交渉が上手くいかなくなってしまいます。
事故を起こしたのが自分だからといって、何も一人で病院に行く必要はありません。
会社の上司や父親と行くケースが多いです。
ただし、加害者の性格も色々あり、遺族に対しひたすら謝罪する者から、何も言わず押し黙っている者までその対応はさまざまです。
遺族に無視されてしまったとしても、「じゃあどうすればいいんだ」と怒りをあらわにするのは絶対に避けてください。
交通事故の加害者がすべき事柄については述べてきましたが、その逆に加害者がしてはいけない行動というのもあります。
実際、交通事故の現場ではパニックになって、被害者に言われるがままにしてしまいがちですが、してはいけない行動もありますので注意しましょう。
事故現場では、被害者とお互いの住所と氏名、連絡先の確認等を行うでしょう。
この時に「信号は赤でしたよね」「一時停止はしましたよ」など口論となり、示談の話に発展しがちになってしまいます。
しかし、交通事故直後の現場で示談の話をするのは望ましくありません。
なぜなら事故の損害賠償額は、さまざまな調査を経てから確認すべきものだからです。
事故当時の状況で判断してしまうと、後になって自分に有利な証拠が出てきても、訂正するのが難しくなってしまいます。
示談書で書面として残していなければ大丈夫だろうと思われるかもしれませんが、契約は口頭でも成立しますから、口約束でもうかつにおこなってはいけません。
もちろん、謝罪する程度なら問題ありません。
事故の原因が自分にあるのが明らかなのに、謝罪もしないのは人間的に問題がある行動です。
被害者側の印象が悪くなり、後の交渉でマイナス要素となってしまいます。
しかし、相手が「治療費や修理代は間違いなく全額払ってくれるんだろうな」と言ってきた場合は、「事故後の対応は、保険会社を通じて誠意をもってきちんと対応します」程度の発言に留めましょう。
間違ってもこのとき、申し訳ない気持ちから「はい、お支払いします」などとは言ってはいけません。
事故の原因や過失割合についての話も控えたほうが賢明です。
「「示談」ってなに?交通事故発生から示談までの流れをチェックしよう」こちらの記事もあわせてご参照ください。
事故現場で相手方と示談に関する話をしないのは先に述べたとおりです。
しかし、事故現場で被害者側と一切会話すらせず、保険会社に連絡して事故現場の対応すら、保険会社にまかせてしまう人もいますが、そのような対応を取ってしまうと相手方の感情を害してしまう可能性があります。
特に、自分の側の過失が大きい場合や相手が負傷している時にそのような態度を取ってしまうと、そのことが原因で相手の態度が硬化してしまい、賠償金減額の交渉に応じてもらいにくくなります。
また、交通事故で相手を負傷させてしまった場合、加害者には過失運転致傷罪が成立し、警察や検察での取り調べを受けたあと、起訴されるかどうか判断されることになります。
その際に相手方の被害感情が大きいことはマイナスに働いてしまうことがあります。
すなわち、罪が重くなる可能性があるのです。
このように、被害者への対応を全て保険会社任せにしてしまうと、民事上の責任、刑事上の責任双方において悪影響が生じます。
ですから、示談の話は避けるべきですが、相手方への謝罪や病院へのお見舞いなどは自ら行うようにしましょう。
相手方から叱責の言葉を受けたり、無視されたりと酷い対応を受けることもありますが、事故を起こし被害を与えたのはこちらなのですから、その部分は我慢し、相手方に誠意を尽くすことを第一に考えましょう。
一人の人間として、誠意ある行動をとるのが大切です。
交通事故により、被害者の人生はもちろん、加害者の人生も大きく変わってしまいます。
特に被害者が重傷を負った場合や、死亡させてしまった場合はそれが顕著です。
損害賠償等、民事上の責任だけならまだしも、相手を負傷(死亡)させたことによる刑事上の責任を負うことになると話は大事になります。
場合によっては逮捕され身柄を拘束されたり、裁判の結果、刑務所に服役しなければいけません。
服役を免れたとしても有罪判決を受けると、前科がつくこととなってしまうので注意が必要です。
交通事故の原因が飲酒運転やスピード違反など悪質なものの場合は、勤務先を解雇されてしまうことがあります。
このように、交通事故は加害者の人生にもかなりの影響を与えます。
飲酒運転やスピード違反等は本人の心掛け次第で防ぐことはできますが、交通違反していなくても、過失で交通事故を起こす可能性もあるので注意が必要です。
このように車を運転する限り、誰でも加害者になる可能性があることを念頭に置いて、車を運転しましょう。
事故が発生したら、被害者の自宅へ警察や病院から「ご家族の〇〇さんが事故に遭いました。
今、〇〇病院で治療を受けていますので、至急来ていただきますが?」と連絡が入ります。
病院で被害者に付き添うことになりますが、そのあとの大まかな流れは以下の通りです。
事故発生後は警察が現場を確認し、このときに「実況見分調書」を作成します。実況見分調書は後の過失割合の資料となります。
交通事故死の場合、警察官は遺族に対し、遺族調書を取ります。
遺族調書は事故原因が犯罪や自殺と関係ないか確認するために行われ、被害者の事故当時の行動目的や家庭環境、入っていた保険などが調べられます。
調査のためだから仕方ないですが、家族の死でパニックとなっているところ、込み入ったことを根掘り葉掘り聞かれるので、遺族は不愉快に感じます。
遺族調書の作成が終わると、そのあと警察からは連絡が無く、加害者の処分がどうなったのか知らされません。
被害者は、加害者に対して損害賠償請求ができます。
損害賠償請求のために、下記の項目を調査しておきましょう。
確認方法は、車検証や自賠責保険証の提示を求めましょう。
被害者が自動車保険に加入している場合は、契約保険会社や代理店に事故の通知を行います。
通知する内容としては、事故発生の日時、場所、事故の概要などです。
交通事故による死亡の場合、医師による検視が行われます。
また、ひき逃げなど死亡原因が不明の場合、司法解剖も行われます。
解剖が終わると、遺族は死体検案書とともに遺体を引き取ります。
病院からの遺体搬送は葬儀会社に依頼することが多いです。
即死ではなく、病院に入院後、治療のかいなく死亡した場合も、医師による検視は行われます。
入院費や治療費は、損害賠償の対象となるので、費用明細や領収書は保存しておきましょう。
死亡してしまった被害者の遺族は、葬儀の準備などで忙しいです。
加害者が菓子折りを持って謝罪に来ることがありますが、憎しみのあまり追い返してしまうこともあります。
このように、事故直後の被害者遺族は、気持ちの整理が付かず精神的に非常にストレスがかかります。
日本の職場では忌引きという制度があり、概ね一週間程度休めますが、一週間程度では心の傷が回復しない場合も多いです。
日本では悲しみをあらわにしてはいけず、感情を表に出さずひたむきに頑張るのが美徳だとされていますが、泣きたい時は思いっきり泣きましょう。
最新の研究によると、強い悲しみを受けたときに悲しみをこらえてしまうとトラウマになってしまう確率が高まるという研究結果が出ています。
そのため、できることなら悲しみが癒えるまでお休みをいただいたほうがいいでしょう。
葬儀が終わってもこれで一段落するわけではなく、損害賠償時の示談交渉が待っています。
これもなかなか根気が必要とされるので、示談交渉のために体力や精神力を回復させておきましょう。
葬儀も済み事故から時間が経過し、家族を失ったことに対する悲しみが癒えてきたら、加害者への損害賠償請求を考えましょう。
損害賠償の額を決めるために加害者側と示談を行います。
示談は基本的には話し合いで進んでいきます。
ここでは遺族が行う損害賠償請求のポイントを述べていきます。
「【弁護士監修】事故で死亡した場合 生命保険金と示談金は両方支払われる?」こちらの記事も参照ください。
自動車の交通事故に関係する保険としては、自動車損害賠償責任保険〈自賠責保険〉と任意保険があります。
自賠責保険は道路交通法で全てのドライバーの加入が義務付けられている保険で、人身事故の被害者の救済のために設けられています。
そのため人身事故により、被害者がケガや死亡したときのみ保険金が支払われます。
自損事故による自身のケガや物損事故には支払われないのです。
自賠責保険で補償される金額は、被害者が死亡した場合3,000万円が限度額です。
これは法律により定められています。
また負傷であれば120万円が限度額です。
自賠責保険の範囲内では損害が補いきれない場合に備えて、多くの人が任意保険を契約しています。
そして示談交渉の相手方は、加害者が加入している任意保険会社となります。
また、自賠責保険は任意保険とは異なり、「被害者請求」を認めています。
交通事故で死亡したり怪我の場合は、被害者側が加害者の自賠責保険会社に直接請求できます。
このため、示談交渉が長引いて損害賠償金額が確定しなくても、被害者は請求できます。
ただ請求できると言っても、損害額の算定に時間がかかり、実際に支払いを受けるまでは時間がかかってしまうこともあります。
損害賠償金のなかでも重要な項目のひとつに「死亡慰謝料」というのがあります。
まず慰謝料とは交通事故により受けた精神的損害を補償するために設けられていますが、交通事故にかかる慰謝料には「障害慰謝料」「後遺症慰謝料」「死亡慰謝料」の3つがあります。
死亡慰謝料は、その名の通り、被害者が死亡したことにより被った精神的損害を補償するもので、被害者が置かれている状況によって、金額が異なります。
被害者が一家の支柱だった場合は2,800万円、母親や配偶者だった場合は2,500万円、その他の方は2,000~2,500万円が相場です。
ご家族を支える人がいなくなった場合の保障のため、一家の支柱の方の場合の補償額のほうが高くなっています。
この死亡慰謝料以外にも損害賠償金の項目にはさまざまな種類があり、被害者が死亡した場合に受け取れる項目は大きく分けると以下の4つです。
死亡逸失利益とは、被害者が生きていれば得られたはずの利益です。
例えば被害者が働いて得ていた給与収入などです。
弁護士費用は、被害者の遺族が弁護士に示談交渉を依頼したり裁判になったりするとかかる費用です。
仮に弁護士に依頼して裁判を起こした場合、請求額全体の10%程度が弁護士費用となります。
弁護士費用は実際に弁護士に支払った金額が補償されるわけではないので注意してください。
他にも治療後に被害者が死亡した場合は、「治療費」「通院交通費」などの実費を請求することができます。
死亡の場合は通常ですと、被害者の四十九日が終わった頃に、加害者側の保険会社から賠償金額の提示が行われますが、すぐに受け入れてはいけません。
刑事裁判と示談交渉が同時に進んでいる場合、刑事罰が確定する前に示談を成立させてしまうと、その後の裁判で加害者の刑罰が軽くなってしまう場合があるのです。
これは示談を成立させると、金銭的な損害への補てんはされたので、一定の損失補償は満たされたと判断されてしまうからです。
特に自賠責保険の被害者請求の際は気を付けてください。
早くお金が欲しいからといって刑事裁判で量刑が確定する前に自賠責保険に請求して慰謝料などを受けとってしまうと加害者の量刑が軽くなるケースがあります。
これはご遺族からしたら絶対に許すことのできない事態だと思いますので、示談の成立は裁判の進捗具合も確認しながら、慎重に進めてください。
損害賠償請求をするのは遺族ですが、遺族の誰でもできるわけではありません。
加害者に損害賠償を行えるのは、相続人だけです。家族の中の誰でも行えるというわけではないのです。
大切なのは、ご遺族間で揉めないようにすることです。
相続人が複数いる場合、代表者を決めて、その代表者が相手側の任意保険会社と交渉をおこなうほうが効率的だからです。
賠償金の分担など色々主張したいことはあるでしょうが、被害者側は一致団結してすべての相続人が合意した上で代表者をきめ、交渉に挑みましょう。
遺族間の慰謝料をめぐる争いは良くある話ですが、自分の家族がそんな状態になるとは考えたくもないでしょうから、ここは各々が自分を抑えて代表者に一任しましょう。
交通死亡事故で加害者がすべきこと、被害者遺族がすべきこと、遺族がおこなう損害賠償請求のポイントについてまとめてきました。
事故で家族を失うと、被害者遺族の精神的苦痛は計り知れません。
しかし、遺族側でやらなければいけないことは多くあり、悲しみに暮れる間もないくらい忙しいです。
「なんで自分がこんな目に」と心が折れてしまいそうになるでしょうが、そういう時は無理せず回復するまで休んでください。
損害賠償金が得られますが、その請求にあたってもいくつかポイントはありました。
できる限り高額の賠償金を得るために、上記のポイントを押さえ、示談交渉に挑みましょう。
「交通事故示談交渉を有利に進めるための対保険会社対応マニュアル」こちらの記事も参照ください。