東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
目次
交通事故でおこなわれる実況見分とは、事故関係者立ち会いのもと、警察官が事故現場の状況確認や証拠保全をおこなう任意捜査のことを指します。主に、加害者・被害者・目撃者などが立ち会います。
実況見分の結果は、「実況見分調書」と呼ばれる書面にまとめられます。実況見分調書に記載される主な事項は、以下のとおりです。
なお、物損事故では基本的に実況見分はおこなわれません。聞き取り捜査のみがおこなわれ、事故内容が簡単に記載された「物件事故報告書」が作成されます。
実況見分は、裁判官の令状が必要ない任意捜査です。そのため、立ち会いに参加するかどうかは任意であることに特徴があります。
一方で、現場検証は裁判官の令状が必要になる強制捜査です。全ての人身事故で現場検証がおこなわれるわけではなく、ひき逃げや飲酒運転など事件性のある事故の場合におこなわれます。
実況見分では、事故状況をくわしく把握するために必要な質問をされます。たとえば、相手を認識したタイミングやブレーキをかけ始めた位置などについてです。
実況見分調書に記載される事項につき、証言の裏付けを取るために質問されることもあります。
実況見分調書は、事故状況を客観的に示す有力な証拠となります。事故当時の記憶が薄れていたり、被害者・加害者で証言が噛み合わない場合でも、実況見分調書があれば事故状況につき認識の統一を図れます。
とくに、ドライブレコーダーや防犯カメラなどの客観的証拠がない場合には、過失割合でもめた際の有力な証拠となるでしょう。
実況見分の基本的な流れは、以下のとおりです。
実況見聞にかかる時間は、数十分から2〜3時間程度です。ただし、聞き取り捜査のために警察署に移動する時間や各書面の内容確認などを考えると、手続き全体としてはもう少し時間がかかるでしょう。
交通事故が発生したら、負傷者の救護活動や道路上の安全確保と同時に、警察に通報してください。
警察への報告は法律上の義務です。報告を怠ると「3カ月以下の懲役」または「5万円以下の罰金」が科される可能性があります。
警察が事故現場に到着すると、事故状況の確認がおこなわれます。記憶に基づき事実を正確に話してください。
不明点があれば、わからないとの回答で問題ありません。警察官の質問に真摯に回答することを心がけましょう。
ドライブレコーダーが搭載されている場合には、データを提出しておくと正確な事故状況を伝えることができます。
事故現場での実況見分がおわったら、警察署に移動して聞き取り捜査がおこなわれます。
改めて事故状況について聞かれたり、相手に対する処罰感情などについて質問されます。証言内容に矛盾が生じないよう、記憶に基づき誠実に話しましょう。
聞き取り捜査が終わると、最終的な確認と供述調書の内容確認がおこなわれます。内容に問題なければ、各種調書に署名押印をして手続きは終了となります。
実況見分調書は後日警察官により作成され、刑事事件の資料として用いられます。
もし内容に納得できない箇所があるなら、その場で訂正を申し入れてください。内容に不備があるまま署名押印してしまうと、その内容が事実として認定されてしまい示談交渉で不利になる可能性があります。
実況見分の主な注意点は、以下の4つです。
実況見分は、現場検証とは違い任意捜査です。立ち会いを拒否することも可能ですが、基本的に参加することを心がけてください。
警察官は事故の当事者ではありません。事故現場の状況や車両の損傷具合だけでは、事故状況を適切に示した実況見分調書を作成することは難しいでしょう。
また、加害者のみが実況見分に参加した場合、被害者の主張が一切考慮されない実況見分調書が作成されてしまう恐れもあります。
証言をコロコロ変えていると、「この人は嘘をついているのではないか」と疑われてしまいます。
信用性が下がると、適切な実況見分調書が作成されない恐れがあります。また、刑事裁判にかけられた際に不利な事情として働く場合もあるでしょう。
事故のショックで証言が二転三転してしまうこともありますが、わからないことを事実かのように話すことは避けてください。
事故のけがで搬送された場合など、事故状況次第では加害者のみが先に実況見分に立ち会うケースがあります。
「事故後すぐに実況見分をした加害者の方が信用性が高い」と判断されないためには、以下のような工夫をしておくことが重要になります。
自分の記憶通りに話しても、警察官から「こうでなければつじつまが合わない」などと状況の再確認を求められる場合があります。警察官の質問には誠実に対応すべきですが、記憶と違うことを証言する必要はありません。
当事者の意見が食い違う場合、警察官は複数枚の実況見分調書を作成する手間がかかります。その手間を省くために主張の変更を求めてくるケースがあるのです。
誤った内容が実況見分調書に記載されてしまうと、示談交渉の際に不利になる恐れがあります。警察官の誘導には従わず、自分の記憶に従って証言してください。
実況見分は事故直後におこなわれるのが原則ですが、以下のケースでは後日おこなわる場合があります。
けがをして救急搬送されてしまった場合など、事故当日の実況見分に立会えなかったケースです。この場合、搬送されていない当事者のみが実況見分に立ち会います。
救急搬送された当事者については、治療が落ち着いた段階で警察から呼び出しがきます。治療の経過によってもタイミングは異なりますが、おおむね事故から1カ月以内には連絡がくるケースが多いです。
外傷がなく物損事故で処理したものの、あとから痛みが出てくるケースもあるでしょう。物損事故から人身事故への切り替えをおこなった場合には、切り替え後に実況見分がおこなわれます。
物損事故では、基本的に実況見分はおこなわれません。切り替えのタイミングでは記憶があいまいかもしれませんが、できる限り正確に事故状況を伝えましょう。
実況見分での主張の信用性を高めるためにも、たとえ物損事故でも事故現場の状況などをスマホで撮影しておくことをおすすめします。
実況見分調書を取り寄せる方法は、加害者の刑事捜査の段階によって異なります。
捜査段階 | 取り寄せ方法 |
---|---|
捜査中 | 取り寄せ不可 |
不起訴処分 |
|
公判中 | 被害者・遺族・弁護士による裁判所への閲覧謄写申請 |
判決確定後 |
|
実況見分調書についてより詳しく知りたい方は、関連記事をご参照ください。
実況見分は、事故現場や事故関係者の証言を基に、事故状況を正確に把握するための捜査です。そのため、加害者だけでなく被害者も参加するのが原則です。
ただし、任意捜査である実況見分は、立ち会いの拒否が可能です。また、けがで救急搬送されてしまった場合には、後日実況見分がおこなわれる場合もあります。
実況見分をおこなう際の服装は何でもOKです。スーツやジャケットでなくとも問題ありません。
ただし、警察官からの印象を悪くしないためにも、あまりにも派手すぎる服装は避けた方が無難です。
警察官に相談すれば、離れた場所で事情聴取をしてくれたり、聞き取り時間をずらしてもらえる場合があります。
ただし、必ずしも全てのケースで配慮してもらえるとは限りません。もし加害者に不誠実な態度を取られたら、精神的苦痛の増大を理由に慰謝料の増額を主張しましょう。
事故当日の実況見分に弁護士に来てもらうことは難しいかもしれませんが、後日の実況見分であれば、それまでに弁護士に相談・依頼して付き添いをしてもらうことも可能です。
弁護士に付き添ってもらえば、不適切な実況見分調書が作成されることを防ぐことができます。また、今後の流れや不明点をいつでも質問できるので、精神的な支えにもなってくれるでしょう。
実況見分調書と供述調書の主な違いは、以下のとおりです。
実況見分調書 | 供述調書 | |
---|---|---|
形式 | 「客観的な事実」を記録した書面 警察官による事故現場の確認や立会人の説明などを基に作成される | 「供述人の記憶」を書面化したもの 聞き取り捜査の際に供述人が述べた内容を、一人称で語る形式で記述される書面 |
内容確認・署名押印 | なし | あり |
作成枚数 |
| 供述者の人数分 |
交通事故にあったら、警察官による実況見分がおこなわれます。
実況見分より作成される調書は、過失割合などでもめた際に有力な証拠として使用できます。自身に不利な調書が作成されないよう、事故状況を正確に伝えることを心がけましょう。
救急搬送などで実況見分に立ち会えなかった場合には、後日実施されるケースもあります。不安であれば、交通事故に強い弁護士に立ち会ってもらい、適切な対応を取りましょう。