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交通死亡事故発生時に家族がやるべきこと

弁護士 山谷千洋

この記事の執筆者 弁護士 山谷千洋

東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/yamatani/

大切なご家族を交通事故で亡くされてしまった方は、非常に深い悲しみにつつまれていることと存じます。

長い患いの末に亡くなるというような場合と違い、交通事故による死亡は、遺族は全く予測していないことがほとんどであり、信じられないという思いでいらっしゃることでしょう。

しかし、交通事故で亡くなられた方はもはや加害者からの補填を受けたり責任追及をすることはできないため、故人にかわり遺族がそれらを行わなければなりません。
交通事故で人を死亡させてしまった加害者には、民事上の損害賠償請求をすることができますし、刑事上行政上の罰則が適用されますが、手続きには様々な被害者遺族の関与が必要です。

この記事では、交通事故で死亡された被害者のご遺族がやるべきことについて、ご説明します。

死亡事故の慰謝料請求

死亡事故の被害者は、生命という最も大切な財産を、加害者によって奪われてしまったことになります。民法709条は、故意過失により他人の生命、身体、財産を侵害した者はその損害を賠償するべき旨を定めています。また、道路交通法は、全ての運転者に安全運転を義務付けています。
つまり、この安全運転義務に反して不注意な運転をしていた加害者には、過失があり被害者の命を奪ってしまったので、その損害を金銭をもって償う必要があります。

死亡慰謝料について」こちらの記事も参照ください。

死亡事故の慰謝料請求ができるのは誰?

本来は、民事上の損害賠償請求をできる人は、被害者その人です。しかし、死亡事故の場合は、被害者はすでに亡くなっており、現実的には損害賠償請求はできません。

そのため、被害者の相続人が、被害者に帰属した損害賠償請求の債権を相続し、加害者に対して損害賠償請求をします。また、近しい親族の場合は、相続した被害者の損害賠償請求権に加え、愛する人を奪われた精神的苦痛に対して固有の損害賠償請求権が認められることもあります。

被害者の相続人は、民法により範囲と優先順位が定められます。まず、配偶者がいれば配偶者は必ず相続人になります。その他の相続人には順位があり、第一順位の相続人は子になります。子が親より先に死亡していて、その子がいれば、代襲相続といって、)その孫が第一順位になります。

もし、子や孫がいれば、親兄弟は相続人にはなりません。直系卑属の方が、直系存続よりも優先されます。
もし、子や孫がいなければ、親が相続人になります。親がいれば兄弟姉妹は相続人にはなりません。

子も親もいない場合には、第三順位として兄弟姉妹が相続人になります。孫の代襲相続と同様、兄弟姉妹の方が先に死亡していれば、その子、つまり被害者の甥や姪が相続人になります。

示談交渉のタイミング

上述の順位で決まった相続人は、慰謝料請求について、加害者、通常は加害者の保険会社と示談交渉をすることになります。
愛する人を失った悲しみを思い出したくはありませんし、早く慰謝料をもらいたいため、示談交渉を急ぐ気持ちはわかりますが、もし加害者の刑事訴追で厳しい量刑を望むのであれば、示談を成立させるタイミングは、弁護士等にも相談して慎重に決めましょう。

というのは、刑事訴追の前に、被害者遺族との示談交渉が成立している場合、ある程度事件が解決されたという考えから、警察や検察の刑事訴追の手が緩むという事情があるからです。
本来は、民事上の損害賠償の示談交渉と、国家権力による罰則である刑事手続きは連動しません。しかし、加害者を刑事起訴して刑事責任を問うかどうかは、検察の広範な裁量に委ねられます。検察は決定の際に、様々な要素を考慮に入れますが、遺族の処罰感情等についても当然考慮にいれます。

起訴前や、起訴後であっても刑事裁判で量刑が決まる前に、加害者と遺族との間に賠償額の示談が成立していると、検察は遺族とは示談が成立しているから、処罰感情はある程度和らいでいるのではと考えますし、起訴後であれば加害者の弁護人は法廷でそのように主張します。

その結果、不起訴になってしまったり、実刑ではなく執行猶予がついたりと、量刑が軽くなってしまいます。亡くなった方はかえってこないので、加害者の未来を考えて厳しい処分を望んでいないというわけであればそれでもいいのですが、やはり加害者にきちんと処罰を受けて欲しいと思う方は注意が必要です。
加害者の保険会社としては早く事件を決着したいので、事件後すぐに示談交渉について連絡してくると思いますが、交通事故案件に詳しい弁護士に依頼し、うまく時期を調整してもらうなどしましょう。通常は死亡後の手続きが一段落する四十九日が過ぎた頃から、示談交渉の話の働きかけが本格化するでしょう。

示談金はいくらが適正か

示談金を計算する基準として、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の三つがあります。どの基準を採用するかで、示談金の額は大きく変わります。具体的には、自賠責基準が最も安く、弁護士基準が最も高額となります。被害者遺族としては、弁護士基準での示談金の支払いを求めていくべきでしょう。任意保険基準は、加害者が加入している保険会社によって違う基準ですが、自賠責基準と弁護士基準の中間くらいの基準となります。

自賠責基準は、自賠責法という運転者全てに保険加入を義務付ける法律に基づき定められている基準です。法の趣旨として、被害者の最低限の救済を目的としているため、金額が最も低廉になってしまうのです。
弁護士基準は、過去の判例の蓄積によって決まってきた慰謝料相場です。東京地裁の交通部がまとめた通称赤本という本の別表に定められた金額で、裁判官は余程の特殊事情がない限りはこれに沿って金額を決定します。その他、別の地裁でも同様の基準があり、青本、緑本などの資料もあります。弁護士が示談交渉するときも、この基準にそって行います。

加害者の保険会社は、なるべく慰謝料の金額を抑えたいという事情があるので、自賠責基準または任意保険基準で示談金を提示してきます。上述のように、弁護士を通して示談交渉をしたり訴訟で争ったりすればそれよりもたかい弁護士基準での慰謝料を獲得できます。よそのため、任意保険会社から提示された示談金に、安易にイエスと言わないようにしましょう。

死亡事故の場合は、怪我の場合のように一定期間の治療を経て症状固定し、後遺障害慰謝料請求をするというような長丁場ではなく、死亡慰謝料として範囲が明確です。しかし、上述のように計算基準によって全く金額が異なることに注意しましょう。

慰謝料として請求できる金額

日本における損害賠償の考え方は、実損填補です。死亡により遺族が被った損害実額を慰謝料として支払うことになるのですが、その損害とは以下のようなものを含むとして考えます。亡くなった方の葬儀費用、亡くなった方が生きていれば就労などで得られた収入分である逸失利益、亡くなった方の生命と精神的苦痛への慰謝料、近親者の精神的苦痛への慰謝料、訴訟により争われた場合の弁護士士費用などです。

葬式費用は、規模によって実費は様々ですが、妥当なところをみなしで決めようということから、自賠責基準で60万円、任意保険基準で120万円、弁護士基準で150万円前後が多いようです。

逸失利益の計算は少し複雑なのですが、以下のような考え方になります。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

基礎収入は亡くなった方の前年の年収です。専業主婦の場合など実際に収入がない場合は、厚生労働省の賃金センサスを使って同世代の人の平均年収で代入することになります。

生活費控除率とは、生存していれば収入があるのみならず、衣食住などの生活費もかかるので、その分を控除するという考え方になります。
ライプニッツ係数とは、長期間にわたって得られるはずの収入を一時金として前払でもらうのでその中間利息率を控除するための係数です。計算式としては、将来の収入時までの年5%の利息を複利で差し引いています。

労働能力喪失率は、死亡事故の場合には、もはや就労は一切望めないのでまた100パーセントとなります。後遺障害慰謝料の請求にあたっての逸失利益の算出であれば、障害があっても働ける職種や、労働時間の短縮などで収入は減ってもある程度は稼ぐことができる場合も多いため、それぞれの後遺障害の度合いによって定められた労働能力喪失率をかけあわせることになります。

死亡による逸失利益について」こちらの記事も参照ください。

慰謝料については、被害者が即死の場合でも、死の直前に味わった極度の精神的苦痛と、近親者をなくした遺族の精神的苦痛に対する損害を賠償するものです。精神的苦痛は、感受性や家族関係にもよるので一律に判断することは難しいのですが、判例により一定の基準が形成されていて、それに沿って判断されることになります。

また、示談金の交渉が裁判にまでもつれ込んでしまった場合は、損害賠償額の約10%程度を、被害者の弁護士費用相当額して上乗せして請求することができます。
民事訴訟の裁判の場合、起訴から判決まで1年程度かかることが一般的ですので、
死亡事故の場合には、事故の日から支払いの日まで年5%の遅延損害金もつけて請求できます。死亡慰謝料の場合は、金額が高額ですので、遅延損害金の学もそれだけ高額になります。

示談金の請求方法

死亡慰謝料の請求方法は、後遺障害慰謝料と同様、自賠責保険会社と任意保険会社の両者に対して行うことができます。

【弁護士監修】事故で死亡した場合 生命保険金と示談金は両方支払われる?」こちらも参照ください。

請求方法としては、被害者請求といって、まず自賠責保険会社に請求してから、その後、任意保険会社に残りを請求する方法があります。例えば、亡くなった方が一家の働き手であった場合など、まずは自賠責保険に被害者請求をして当座の慰謝料を受け取って余裕をもってから、納得のいく金額を追加で得るために、別途任意保険会社と示談交渉を進めることができます。なお、自賠責保険の損害賠償額は、3,000万円が上限です。

もう一つの方法は、任意保険会社に自賠責の支払い分とまとめての請求をする方法です。この方法だと、保険会社への請求手続きが一回で済むのがメリットです。また、金額で揉めて訴訟になる場合は、判決支払いが一年ほど遅れるので、受け取れる時期は大幅に遅れますが、遅延利息金が事故時から金利年5%でつくため、総額はアップします。

示談金はいつまで請求できる?


保険会社の提案に安易にのってはいけないとはいえ、示談金の請求できる期間には時効があることも一応頭に入れておきましょう。示談金請求債権の消滅時効は、事故から3年間です。

亡くなった方の相続問題など他のことに気を取られているあいだにうっかりすぎてしまったということはないようにしましょう。
なお、時効は、加害者に内容証明などで請求をし、そこから6ヶ月以内に訴訟を提供したり、加害者側が債務があることを認めている場合には中断します。もう少しで時効が切れそう、という方はとりあえず内容証明で請求をしましょう。

ちなみに、轢き逃げ事件など、加害者がわからない自動車事故の場合は、加害者が判明したときから3年交通事故から20年で時効です。現代の警察の捜査は非常に優秀ですので、20年逃げおおせるという可能性は低いですが、一応知っておきましょう。

示談金がまとまらないときはどうするの?

亡くなった方にも過失があったなどの主張がなされ、過失相殺が争われるなど、なかなか示談金の交渉がまとまらないときは、交通事故に詳しい弁護士に示談交渉に入ってもらいましょう。被害者のご遺族という個人が、保険会社という交通事故のプロ組織と対等に交渉していくのにはやはり限界があります。
死亡慰謝料は命の値段とも考えられ、亡くなられた方のためにも安易に安い提案には乗りたくないですよね。弁護士に入ってもらうことにより、より高い弁護士基準での示談金獲得が可能になることも多いです。

弁護士による交渉でもまとまらない場合は、訴訟で司法判断を仰ぐことになります。日本では三審制が採用されていますので、まずは地裁に訴訟を提起し判決を受けます。判決結果に対して原告も被告も控訴しなければ、その内容で判決が確定し慰謝料の額が決まります。
どちらかが不服である場合は、高裁に控訴することができます。交通事故の場合は、ほとんど高裁の判決で確定します。最高裁は法律審といい、地裁や高裁のように事実関係を判断することはなく、法令などの内容に憲法違反などがないかを判断する場所だからです。

過失相殺で争われたとき

死亡事故の損害賠償の争点の大きなものは、過失相殺です。交通事故の原因は加害者だけにあることもありますが、加害者と被害者どちらにも過失があるということも多く、そういう場合は過失割合を決定して、被害者の過失割合部分は損害賠償額から控除されるということになります。

過失相殺は、パーセントまたは割合で計算しますが、損害賠償額自体が高額な死亡事故の慰謝料は、少しの過失割合の違いで、受け取ることができる慰謝料の額が数百万円単位で変わります。
最近ではドライブレコーダーを搭載している車もあるのでそうした場合は客観的な立証が可能ですが、そうではない場合、事故現場の近所の聞き込みなど目撃者の証言を集めたり、駐車場や店舗など防犯カメラに写っている可能性があればそれを見せてもらうなどをして調査をする必要があります。加害者の保険会社は、被害者の有利な情報があってもわざわざ教えてくれないと思われますので、遺族の方が主体的に証拠を収集していく必要があります。

刑事訴追への遺族の関与

刑事訴追と厳しい求刑を望むかどうかは、遺族の考え方にもよります。もし、できる限り厳しい刑事訴追をと考えたときは、なるべく加害者からの謝罪を受け入れるような行為は避けましょう。

例えば、被害者のお葬式などで、加害者やその保険会社の担当者が参列し、お香典などを持ってくることがあります。シビアな話ですが、処罰感情が強い場合は、参列やお香典も断った方が無難かもしれません。加害者の弁護人としては、なるべく被害者の遺族が加害者の謝罪を受け入れたというストーリーを作り少しでも処罰を軽くしようとするので、そのように取られる事情はないにこしたことがないのです、

また、上述のように、警察や検察は、起訴など刑事訴追の判断において、遺族がどう思っているかを事情聴取します。処罰を望む場合は、被害者にいかに未来があったのか、自分たちがいかに悲しい思いをしたかを伝え、被害感情の強さを訴えた方がよいでしょう。
遺族の感情を訴訟の公的な場で述べて、裁判官の心証形成に働きかけることができる手続きとして、加害者の刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」もあります。参加を希望する場合は、弁護士などに相談してみましょう。

死亡事故の被害については弁護士に相談しよう

大切な家族を交通事故で失ってしまうと、誰しも気が動転してしまいます。お葬式、死後の手続き、相続などただでさえ大変なときに、交通事故の加害者と交渉しなければならないなどとは、非常に気が重いですよね。
しかし、特に被害者が一家の大黒柱であった場合などは、交通事故の死亡慰謝料は、今後のご家族の生活の支えとなるものです。死亡慰謝料は元々の金額が大きいですので、適用される計算基準などによっては結果に大きな差が出ますので、正しい知識を持ってのぞみたいところです。
また、加害者の刑事訴追の行方にも、被害者遺族の対応は大きく影響します。加害者を罰しても、残念ながら亡くなった方は帰ってきませんが、社会的制裁を与えることで、ご遺族が気持ちに踏ん切りをつけるきっかけになります。また、きちんと刑事罰を受けることによって、今後の不注意な運転への抑止力として働き、このように悲しい思いをする交通事故の被害者が減るという可能性もあります。自力救済は日本の法律では禁止されていますので、被害者遺族が直接加害者を罰することはできないですが、被害者参加制度などを利用することで、間接的に法執行機関に声を届けることはできます。こうした法律上の手続きを利用していくためには、やはり弁護士のサポートはあった方が良いでしょう。

弁護士相談と聞くと、高額な費用がかかるのではと身構えてしまうかもしれませんが、多くの事務所では初回無料相談なども行なっていますし、全額を依頼時に払う必要はなく、慰謝料をもらったあかつきに、そこから成功報酬として支払えば問題ありません。
また、被害者が加入している任意保険で、弁護士特約という特約がつけられている場合、示談交渉などに必要になった弁護士費用を保険でカバーしてもらうことができます。
弁護士特約は、被害者の遺族も利用できるようになっていることが多いですのでぜひ契約内容を確認してみましょう。
弁護士特約を利用すると、最大300万円までの弁護士費用が補填されます。死亡慰謝料は高額ですので、金額に応じて計算される弁護士慰謝料もほかの事件に比べると高額ですので、保険がついていれば安心です。
弁護士特約に加入しているかを確認するためには、保険証券を手元に置き、保険会社のカスタマーサポートか営業担当者に聞いてみると教えてくれます。

こちらも「交通事故にあってしまったら 弁護士に相談するタイミングを教えて」参照ください。

最後に

いかがでしたでしょうか。交通死亡事故の被害者のご遺族の方がやるべき慰謝料請求の手順や刑事手続への関与についてご理解いただければ幸いです。

保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。 保険会社とのやり取りを私たちが代行し、最後まで妥協することなく示談交渉していきます。事故直後にできる対策もありますのでお早めにお電話ください。

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