東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
目次
交通事故の責任を負うのは、事故を起こした本人です。たとえ家族でも、連帯して事故の責任を負うことはないのが原則です。
交通事故を起こした加害者は、被害者に対して賠償金を支払う義務(民事責任)を負います。違反点数の加算(行政責任)や悪質な事故であれば刑事罪(刑事責任)も課されるでしょう。
一方で、行政責任や刑事責任は運転者本人にのみ課される性質の罰です。民事責任についても、運転者本人に民法上の不法行為が成立することから発生する責任になります。
そのため、たとえ同居している家族であっても、交通事故の責任を負うことにはならないのが原則です。
ただし、以下のケースでは例外的に事故の責任を家族が負う可能性があります。
これらのうち、認知症の家族や12歳以下の子どもなど責任能力がない者による事故については、監督者責任(民法714条)が問われることがあります。特に監督義務者(親権者や成年後見人など)が相応の監督を怠った場合、損害賠償責任を負う可能性があります(最高裁昭和49年3月22日判決参照)。
一方で、未成年の子供が事故を起こした場合、子供自身に責任能力があれば(おおむね12歳以上)、本人が不法行為責任(民法709条)を負うことになります。この場合、親権者は監督者責任ではなく、親権者自身の不法行為責任(監督義務違反や特別な事情がある場合)を問われる可能性があります。
このように、監督者責任と親権者の不法行為責任には「責任の根拠」や「責任主体」が異なるという重要な違いがあります。
交通事故を起こした本人が認知症だった場合、事故の責任を家族が負う可能性があります。
認知症が進み責任能力が認められないような場合、加害者本人に賠償責任は生じません。この場合、家族が認知症患者を監督する立場にあれば、監督者責任として賠償義務が発生するケースがあります。
たとえば、運転を禁止されている認知症患者が手の届くところに車の鍵を放置していて、知らない間に自動車を運転して事故を起こしたケースなどが挙げられます。
なお、監督者責任を家族の誰が負うかについては、さまざまな事情を総合的に考慮して決定することになります。
子どもが自転車を運転中に、高齢者と衝突して大けがを負わせたようなケースでは、子どもの代わりに親が賠償責任(監督者責任)を負うことになります。判断能力が未熟な子どもには、法律上責任能力がないとされているからです。
裁判例によると、おおむね小学校を卒業する12歳前後が民事上の責任能力の境界線となっています。つまり、まだ12歳にも満たない子どもが起こした事故については、監督義務者である親が代わりに賠償責任を負うことになるのです。
ただし、この12歳という年齢については法律で明確に規定されているわけではなく、個別具体的に子どもの責任能力の有無を判断します。したがって、13歳以上の子どもが起こした事故であっても、親が監督責任を負うケースもあります。
なお、刑事上の責任能力の境界線は14歳となっています。
未成年者であっても、責任能力があると判断されれば本人が不法行為責任(民法709条)を負います。
この場合、親権者は監督者責任ではなく、自身の不法行為責任(監督義務違反や特別な事情)を問われる可能性があります。
監督者責任は本人が責任能力を欠く場合に代わって監督者が負う責任であるのに対し、不法行為責任は親権者自身の行為(過失)に基づくもので、責任の根拠や主体が異なります。
家族所有の車に乗って事故を起こした場合には、運転者だけでなく車の所有者も賠償責任を負う場合があります。たとえば、夫名義の車の鍵をがいつでも取れるような管理状況になっていた場合で、妻がその車で事故を起こしたようなケースでは、夫も事故の責任を負う可能性があります。
車の名義人であればいつでも事故の責任を負うわけではありませんが、「車の使用について実質的に支配権を持っていて、かつ車の運転によって利益を得ている場合」には、運行供用者責任が認められる可能性があります。
なお、運行供用者責任は慰謝料や治療費などの人身損害部分にのみ適用されます。そのため、車の修理代や代車使用料などの物損部分について、車の所有者である家族が運行供用者責任に基づいて責任を負うことはありません。
飲酒運転であることを知りながらその車に同乗した場合、同乗者にも道路交通法上の罰則が課される可能性があります。
罰則は運転者が「酒気帯び運転」もしくは「酒酔い運転」だったかで異なります。また、助手席ではなく後部座席に同乗していた場合でも、飲酒運転同乗罪に問われます。
さらに、運転手と一緒にお酒を呑んで送迎を依頼するなど悪質なケースでは、飲酒運転の共同不法行為・幇助などで事故の賠償責任を負うケースもあるでしょう。
家族が交通事故を起こした場合、その後の生活はどうなってしまうのでしょうか。
家族が交通事故を起こした場合、被害者への賠償で生活が困窮する恐れがあります。
加害者が任意保険に加入していれば、基本的に賠償金は保険会社が支払ってくれます。一方で、無保険で事故を起こした場合には、高額な賠償金を加害者自身が支払う必要が出てきます。ケースによっては1000万円以上の賠償金が認められるケースもあるので、家族の経済的負担は計り知れないでしょう。
また、任意保険を使えたとしても、保険を使うことで保険等級が下がり翌年の保険料は上がります。
家族が直接賠償金の支払い義務を負うケースもあるので、事故による家族への経済的負担は大きいといえます。
交通事故を起こした本人は、違反点数の加算により免許停止や免許取り消しになる恐れがあります。車の運転を禁止された場合、家族の生活に間接的に影響を及ぼす恐れがあります。
たとえば、タクシー運転手やトラックの長距離運転手などが事故を起こした場合、運転を禁止されることで仕事もできなくなります。職を失ってしまえば、当然家族の生活にも悪影響を及ぼします。
また、子どもの送り迎えができなくなったり、買い物に行けなくなったりするなど、日常生活を送るうえでも不便が多くなります。
交通事故の内容によっては、運転者本人に刑事罰が科される場合があります。前科がついてしまうと、日常生活のさまざまな場面で悪影響を及ぼします。場合によっては、家族仲が悪くなり離婚の危機に陥る恐れもあるでしょう。
ひき逃げ、飲酒運転、過度なスピード違反など悪質な事故では、有罪になる確率も高くなります。大規模な事故で実名報道されてしまうと、誹謗中傷などで家に居にくくなってしまったり、会社で噂が立ってしまう可能性もあります。
インターネットで加害者家族が誹謗中傷されたり、子どもが学校でいじめに遭う可能性もあることを頭に入れておく必要があります。
家族が交通事故を起こしたら、次の3つのポイントを頭に入れて行動しましょう。
家族が事故を起こした場合、自分が起こした事故と同じように対応することが大切です。被害者への謝罪はもちろん、示談交渉についても真摯に対応することを心がけましょう。
任意保険に加入していれば、基本的に示談交渉は保険会社がおこなってくれます。しかし、被害者への謝罪なしでは誠意が伝わらず、示談交渉が難航する恐れがあります。加害者本人だけでなくその家族も一緒に謝罪することで、被害者側に誠意が伝わりやすくなります。
また、反省している旨が伝わらないと、刑事事件化した場合に被害者側から厳罰を要求されてしまう恐れもあるでしょう。
加害者である家族本人も、事故を起こして精神的につらい思いをしています。今後も良好な家族関係を保つためにも、事故を起こした家族の精神的な支えになってあげましょう。
家族が事故を起こしたら、その事故で利用できる保険を確認しましょう。保険を使えるかどうかで、家族の金銭的負担が大きく変わります。
契約内容にもよりますが、加害者本人だけでなく家族の保険を使える場合があります。保険にはさまざまな種類があるので、保険証券や問い合わせなどで具体的な保障内容を確認しておきましょう。
また、弁護士費用特約の有無もしっかり確認しておいてください。特約を使えれば、多くのケースにおいて無料で弁護士に依頼できます。
家族が交通事故を起こしたら、なるべく早めに弁護士に相談しましょう。交通事故の加害者側が弁護士に依頼する主なメリットは、以下のとおりです。
監督者責任や運行供用者責任など家族自身に賠償義務が認められる場合、対策しないでいると高額な賠償金を支払うことにもなりかねません。
事故直後から適切な対応を取れば、賠償金を減額できる可能性や前科がつかない可能性もあります。
被害者側、警察に対してどのように対応すればいいかわからない場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故を起こしただけでは、原則として離婚を強制することはできません。
ただし、実名報道による誹謗中傷や懲役刑になったことが原因で家族関係が崩壊した場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」として裁判で離婚が認められる場合があります。
なお、協議離婚や調停離婚などでお互いが離婚に同意しているのであれば、交通事故を原因として離婚することも可能です。
高齢者が事故を起こしても、原則としてその家族が責任を負うことはありません。
ただし、認知症が進んだ高齢者が事故を起こした場合には、家族が監督責任を負う場合があります。
高齢者が免許返納後に事故を起こしたようなケースでは、家族が車の鍵を高齢者の手の届くところで管理していたなどの場合に、その家族に賠償責任が発生する可能性があります。
前述のように運行供用者責任を負うケースもあるので、高齢者の家族が事故を起こしたら早めに弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の責任を負うのは加害者本人です。ただし、一定のケースでは加害者家族も事故の責任を負う場合があります。
監督者責任、運行者責任など責任を負うケースはさまざまですが、いずれにせよ事故直後から適切に対処しないと、高額な賠償金を支払うことになり今後の生活が一変する可能性があります。
家族が事故を起こしたら、自分が起こした事故と同じように対応することを心がけましょう。被害者への謝罪、利用できる保険の確認をしっかりおこない、早めに弁護士に相談することをおすすめします。