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バイクや自転車に乗っている人が交通事故をした場合には、腕を負傷するケースが非常におおく見受けられます。
「腕」と一言に言っても様々な部位があるのですが、腕の部位の中に一般的にはなじみのないTFCCという部位があり、ここに関する損傷をすることを「TFCC損傷」と呼びます。
TFCC損傷は場合によっては後遺障害となってしまう重大な怪我といえるので、患者さんや患者になるかもしれない人は損害賠償請求に向けて充分に知識を得ておくべきです。
TFCC損傷についてお伝えします。
まず、TFCC損傷とはどのようなものでしょうか。
TFCCとは、英語でTriangular Fibrocartilage Complex と呼ばれるものの省略で、日本語では「三角線軟骨複合体」という言い方をされています。
手の関節は滑らかな動きをするために筋肉・骨など様々な器官から構成されていますが、手関節の中でも小指側には主に尺骨三角骨靭帯、尺骨月状骨靭帯、掌側橈尺靭帯、背側橈尺靭帯、関節円板、尺側側副靱帯、三角靱帯といったものが存在しており、これらを総称したものをTFCCと呼んでいます。
TFCCは、手首を滑らかに動かし、手首の外側の衝撃を吸収する役割を持っています。
TFCC損傷は、上記のTFCCを損傷したものです。
損傷の原因としては、スポーツや交通事故などの外傷を原因とする外傷性損傷のほかに、加齢により発生する変性損傷があります。
野球やテニスといった手首を強く頻繁にひねるスポーツでは頻発することが知られており、交通事故においてはバイクや自転車に乗っている人が転倒をした際に手をついてしまったような場合に発症しやすいといえます。
自動車に乗っていても、ハンドルを握ったままで交通事故にあったような場合には、TFCCを損傷する要因になりえます。
TFCC損傷をすると、主には手関節の疼痛や可動域の制限、クリック音が鳴るなどの症状が現れます。
疼痛は特に手首をひねる時に発生することが多いとされています。
疼痛の程度によっては日常生活に影響する程度のものになるため、後述するといり後遺障害の認定がされる対象となります。
TFCCは上述したとおり、器官の中でも「軟部組織」といわれるもので構成されています。
そのため、整形外科の診断のためによくつかわれる、レントゲン検査は骨などの損傷についての診断には役立ちますが、尺骨突き上げ症候群かどうかの判断をすること以外の、軟部組織の損傷の診断には向きません。
MRI検査もしくは関節造影検査といったものによって診断をします。
TFCCの治療は時期によって次のように行います。
交通事故直後のような初期治療としては、サポーターやギブスを用いて保存療法、消炎鎮痛剤の投与を行って、なるべく安静にしていることを原則とします。
固定を行う期間は原則として3ヶ月間程度が適切とされ、それ以上の期間がすぎても状態が良くならないような場合には手術の対象となります。
TFCC損傷の場合には全身麻酔をしての内視鏡を用いたTFCC 部分切除術、TFCC 縫合術・再建術や関節滑膜部分切除術が行われます。
尺骨突き上げ症候群が認められるような場合には尺骨短縮術という、尺骨を切り取った上でプレートとボルトで固定することになり、骨がつくまでは5~6ヶ月程度はかかると言われています。
なお加齢などが原因で手術ができないような場合には、手関節にステロイド注射を行うような場合もありますが、間接内へのステロイド注射は軟骨が痛むなどの危険性があるため慎重に行われるようです。
TFCC損傷を起こした場合の後遺障害認定について知っておくべきことは以下のようなことです。
交通事故でTFCC損傷を発症した場合には、場合によっては後遺障害として等級認定されることがあります。
TFCC損傷で後遺障害認定されるとすると、次のような等級が一般的なようです。
第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
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第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
TFCC損傷は上述しましたとおり、原則としては保存療法で3ヶ月程度の期間は固定をしておくのが通常です。
そのため、後遺障害を検討する期間が交通事故当初からは後になることがあります。
また、TFCCは画像診断が不十分であった場合には、等級が認めらず、低い等級しか認定してもらえない場合があります。
TFCCになるような受傷をした場合には、最初のうちから念入りに画像初見を集めておくことなどが必要になると考えておくべきです。
このページではTFCC損傷についてお伝えしてきました。
バイク・自転車が交通事故の当事者の場合によく起きるこの怪我ですが、診断・症状の状態の判断に長期間かかることがあります。
後遺障害認定だけではなく、保険会社との過失割合などの話合いもしなければならない事など交通事故においては様々な専門知識と交渉術が必要です。
交通事故分野に詳しい弁護士に相談するなどすることをお勧めします。
平成5年 大阪大学医学部附属病院整形外科 勤務
現在 大阪市住吉区長居の北脇クリニックにて院長を務める
日本整形外科学会・専門医/脊椎脊髄病院/麻酔科標榜医
日本ペインクリニック学会所属
骨折・むちうち・捻挫・脱臼などの症状から背中や首の痛み・手足のしびれ・肩こり・腰痛・関節痛などの慢性的な症状まで、整形外科に関するあらゆる症状に精通する。
地域のかかりつけ医として常に患者の立場に立った診察には定評があり、治療内容や医薬の分かりやすい説明をモットーとしている。