東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
交通事故は、私有地である駐車場で発生しても、お店など不特定多数が利用している駐車場では、道路交通法の適用があります。
よって、道路上で発生した物損事故や人身事故などと扱いは同じです。
この記事では、お店などの駐車場内で発生した交通事故について、当て逃げの被害に遭ったときの対処法と当て逃げの加害者になってしまったときにすべきことを解説します。
目次
平成30年の日本損害保険協会東北支部の調査によると、車両事故の27.6%が駐車場内で発生していていたとの結果が公表されました。
この事故の実態としては、車両同士の接触・追突が59.4%、駐車場内の施設物(壁、塀、柱、看板など)が29.6%で、当て逃げが1.6%でした。
お店などの駐車場内で発生しやすい事故は、主に次の3つのケースがあります。
駐車場内の通行路から駐車スペースへバック走行で進入しようとしたときに、先に駐車していた両側の車両へ接触してしまう事故です。
バック走行時は視界が悪く、バック走行自体を苦手とする運転手も多くいることが原因だといわれています。
駐車場内の通行路を進行している車両と、駐車スペースから通行路へ進入してきた車両の接触・衝突、または通行路を進行している車両同士が接触・衝突してしまう事故です。
これは、お店などの駐車場内では死角が多く、道路上と比べて人や車両の動きが不規則で予測しにくいことが原因だといわれています。
駐車している車両のドアを開閉するときに隣の駐車車両にドアを接触させてしまう「ドアパンチ」と呼ばれている事故です。
これは、お店など駐車スペースの間隔が狭い駐車場で多く発生します。
被害がキズやへこみなど軽微であり、被害者が事故現場に不在なことも多いことから、加害者が現場から逃走してしまう当て逃げに繋がりやすいと言われています。
ここからは、お店などの駐車場内で当て逃げの被害に遭ったときに、加害者の特定につながる対処法について説明します。
交通事故では、加害者の過失や事故直後の状況などを被害者が証明しなければなりませんので、以下のような証拠を確保して加害者の特定につなげることが重要です。
被害車両にドライブレコーダーが設置されていれば、録画データを保存して、必要があれば警察へ提出できるように準備をしましょう。
被害者が事故現場にいて、加害者や加害車両の色・車種その他の特徴やナンバープレートの登録番号などを目撃していたのであれば、忘れないうちにメモしておきましょう。
事故に遭った被害車両を移動させる前には、損傷部や車両全体と破損片の散乱状態、周辺の様子などを写真に撮っておくことをおすすめします。
目撃者の証言も加害者特定の重要な証拠となりますので、周辺にいる方たちに証人として協力してもらえるよう依頼することも忘れないでください。
駐車場内の防犯カメラや周辺施設の防犯カメラの記録については、被害者が事故当時に現場に不在で、ドライブレコーダーの記録もないときに重要な証拠となります。
これらの管理者へ連絡をするとともに、必要があれば警察を通して協力を依頼してください。
特にコインパーキングやお店などの商業施設内の駐車場では、防犯カメラが設置されていることが殆どなので記録データの提供を必ず依頼しましょう。
道路交通法では、交通事故の当事者に警察への届出義務が定められているので、被害者であっても通報することを怠らないでください。
交通事故を届け出ていないと、被害者が損害の賠償金または填補金として保険会社へ保険金の請求手続きに必要な交通事故証明書の交付を受けることができませんので注意しましょう。
当て逃げ事故に遭ったときに乗車中または乗降車中であれば、身体に怪我を負っている可能性もありますので必ず病院を受診してください。
むちうち症は、交通事故直後よりも後になって痛みなどの症状が現れてくることが多い典型的な症例だといわれ、乗車中の座った状態で一方向から間接的に頚椎に強い衝撃を受けたときに起こります。
また、交通事故から時間が経過しすぎてしまうと、怪我と事故との因果関係を否定されて人身事故へ切り替えられない恐れがあります。
その結果、治療費などの賠償金を支払ってもらえないことになりますので注意してください。
被害者自身が加入している車両保険があるのであれば、保険会社へ連絡をして、加害者が特定できないという最悪の事態に備えて、加入している保険から修理費の支給を受けられるように相談しておきましょう。
保険会社へ相談したからといって、必ず自身が加入している保険を適用しなければならないということはありません。
修理費が低額であれば自己負担にして、保険契約更新時に保険料が増額にならないようにすることも可能です。
交通事故で加害者がその場から逃げてしまったときに、物損のみの被害であれば「当て逃げ」、人身にも被害があれば「ひき逃げ」と呼んでいます。
人身事故(ひき逃げ)であれば、政府保障事業によって自賠責保険から支払われる賠償金と同程度に被害者が救済を受けられます。
また、通院治療費については、自身が加入している健康保険で所定の手続きをすれば保険治療も受けられ、業務中に事故被害に遭っていれば、労災保険の適用を受けられる可能性もあります。
物損事故(当て逃げ)では、政府保障事業で救済がなされませんので、自身が加入している車両保険を利用するか自己負担して修理費を捻出するしかありません。
ただし、後になって加害者が特定されたときは、自己負担した修理費などの損害について賠償請求をすることができますので、領収証などの記録を保管しておくことを忘れないでください。
物損事故では、刑事責任を追及するための警察の捜査が行われませんが、当て逃げ事故では人身事故と同様に刑事責任を問われるので警察の捜査が行われます。
もし当て逃げの加害者になってしまった場合、逃げ切って事なきを得ようとするのではなく、次の対応をすることをおすすめします。
事故発生から間もないときは、被害者が現場にいる可能性が高いので、すぐに現場へ戻って警察に通報した上で事故処理に協力してください。
また、被害者が現場にいないときでも、駐車場の管理人へ連絡した上で警察の対応を待ちましょう。
事故発生から日が経ってしまったときは、事故車両の修理をする前に警察へ届け出て、必要があれば事故車両とともに警察署へ出頭しましょう。
被害者に面会できたときは、まず誠心誠意の謝罪をし、その後の示談交渉に真摯に応じて、一日でも早く示談が成立するように努めましょう。
被害者との示談が成立していれば、刑事処分が保留されることもあり、刑事罰を受ける可能性が低くなります。
被害者の損害を賠償しなければならないので、任意保険に加入しているのであれば保険会社へ連絡をしましょう。
弁護士特約などを利用し弁護士に示談交渉をしてもらうときでも、被害者への謝罪を怠らないでください。
加害者となった時に事故の対応に困ることがあれば、交通事故の賠償問題や刑事事件の弁護などに実績のある弁護士へ相談して、警察への届出や被害者への謝罪などに同行してもらいましょう。
物損事故を起こした場合、警察に報告して適切な対処をしていれば罰則の対象にはなりません。
しかし、その場から逃げてしまった場合は「当て逃げ」となり処罰の対象となります。
対象となる処分は「行政処分」と「刑事処分」の2つです。
罰則はそれぞれ下記に該当します。
行政処分 | 危険防止等措置義務違反 違反点数5点 安全運転義務違反 違反点数2点 |
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刑事処分 | 危険防止措置義務違反 1年以下の懲役または10万円以下の罰金 |
なお、道路交通法は公道上で適用されるので私有地である商業施設・お店の駐車場や、コインパーキングなどは適用外と思われるかもしれません。
しかし「たとえ私有地であっても不特定の人が自由に通行できる駐車場」などは公道とみなされて道路交通法が適用されます。
物損事故を起こしたら被害者への損害賠償は必要ですが、その場から逃げなければ「行政処分」と「刑事処分」の2つの処分は受けずに済みます。
あってはならない事ですが、怖くなって当て逃げしてしまった場合は、早急に警察に連絡して、できるだけ早く被害者に謝罪しましょう。
当て逃げしたのは事実なので刑事処分は免れないかも知れませんが、被害者の心象に影響して示談でこじれることが少なくなるかもしれません。
当て逃げの被害は、大切にしていた車、友人から借りていた車、業務で必要な車などの事情によって、物損事故であっても被害者が精神的なダメージを受けることもあります。
一日でも早く加害者が特定され、被害者の損害が賠償されることが最良の解決方法ですが、必ずしもそうならないことも多いでしょう。
まず、当て逃げ被害に遭って困っている方は、交通事故問題に精通した弁護士へ相談してみることをおすすめします。