記事の要約
- 亡くなった人の高額療養費は、法定相続人や受遺者が受け取れる
- 相続人が受け取った還付金は相続税の課税対象(相続財産)になる
- 還付金を受け取ると、相続放棄ができなくなる可能性がある
入院や治療にかかった医療費が高額だった場合、あとから「高額療養費」としてお金が戻ってくることがあります。
この還付金は、残された相続人が受け取ることができます。
ただし、受け取る前に必ず知っておきたいポイントが2つあります。
- 受け取った還付金は、相続税の対象(相続財産)になる
- 相続放棄を考えている場合、受け取ると放棄ができなくなるおそれがある
また、高額療養費の手続きは、制度そのものが複雑であり、ほかの相続手続きと重なると負担になりやすいのが実情です。
この記事では、亡くなった人の高額療養費における相続税の扱い、相続放棄との関係、そして請求手続きの流れや「遺族がつまづきやすいポイント」まで、順を追ってお伝えします。
なお、VSG相続税理士法人では、相続に関するご相談を無料で受け付けておりますので、相続でご不安なことがございましたら、お気軽にご連絡ください。
目次
高額療養費とは?自己負担額が払い戻される公的医療保険の制度
高額療養費とは、1カ月(月の初めから終わりまで)の医療費の自己負担額が上限額を超えたとき、超えた分の払い戻しを受けられる制度です。
長期の入院や高度な治療を受けると、窓口での支払いが大きくなることがあります。
このような経済的負担を軽減するため、一定の基準を超えた負担分が高額療養費として支給されます。
支払いの上限額は、年齢や所得によって異なります。
また、窓口での支払いを事前に上限額までに抑えられる(立て替え不要になる)手続きもあります。
日本の公的医療保険(国民健康保険や健康保険など)に加入しているすべての人が、支給の対象です。
高額療養費制度の制度について
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高額療養費の対象になる費用・ならない費用
払い戻しの対象になるのは、健康保険が適用される医療費です。
- 高額療養費の「対象になる」もの
- 診察代、投薬代、入院費、保険適用の医療材料費(ギプスやコルセットなど)
- 高額療養費の「対象外となる」もの
- 入院時の食事代、差額ベッド代、先進医療にかかる費用、保険適用外の自由診療
自己負担限度額は「年齢」や「所得」で異なる
自己負担の限度額は、診療を受ける人の年齢や所得によって段階的に分かれており、戻ってくる金額も変わります。
70歳以上の人は70歳未満の人とは別の区分で判定され、外来・世帯単位の上限なども関係します。
また、同じ世帯の医療費を合算して上限を超えれば支給される「世帯合算」や、過去12カ月以内に3回以上上限に達している場合、4回目から上限が下がる「多数回該当」という負担軽減のしくみもあります。
なお、高額療養費制度の見直しにより、2026年8月以降は、月額の自己負担上限額が段階的に引き上げられるほか、新たに「年単位の自己負担上限額」が新設されます。
実際に申請する際は、故人が加入していた健康保険(協会けんぽ、組合健保、各種共済組合、市区町村の国保や後期高齢者医療制度)の窓口に確認しましょう。
亡くなった人の高額療養費は相続人が請求できる
高額療養費は、本人が亡くなったあとでも、相続人が手続きをすれば払い戻しを受けられます。
生前に請求していなかった未支給分についても、期限内であればさかのぼって請求可能です。
一部の健康保険組合では、申請をしなくても自動的に払い戻される「自動償還」を行っているケースもありますが、口座凍結により振り込みができない場合は、別途手続きが必要になります。
高額療養費を請求できる人
亡くなった人の高額療養費を請求できるのは、「法定相続人」と、遺言で指定された「受遺者(じゅいしゃ)」です。
相続人が複数いる場合、一般的には代表者1人が還付金請求の手続きを行います。
受け取った高額療養費は「相続税」の対象になる
亡くなった人の高額療養費は、「相続財産」として相続税の対象になります。
相続税の申告が必要なケースでは、還付された金額が少額でも財産目録に含め、相続税の計算や申告をする必要があります。
なぜ、高額療養費は相続財産になるのか?
高額療養費の還付金が相続税の対象になる理由は、医療費の払い戻しを受ける権利(請求権)自体は、「故人の生前や亡くなった時点」ですでに発生していると考えられるためです。
そのため、振り込みが死亡後であっても、還付金は現預金や不動産と同じように「亡くなった人が遺した財産(未収入金)」とみなされ、相続税の対象になります。
誰の財産になるかは「保険の種類」で異なる
高額療養費が誰の財産になるかは、亡くなった人が加入していた保険の種類や立場によって変わります。

| ケース | 高額療養費の扱い |
|---|---|
| 亡くなった人が健康保険・後期高齢者医療制度の被保険者だった、 または国民健康保険の世帯主だった |
亡くなった人の相続財産として扱われる |
| 亡くなった人が被扶養者だった | 被保険者に帰属する給付として扱われる(相続財産にならない) |
亡くなった人が「被扶養者」で、その扶養者である被保険者が還付金を受け取る場合、そのお金は「被保険者自身の財産」として扱われます。
そのため、故人の相続財産には含まれず、相続税もかかりません。
還付金は「遺産分割」の対象になる
遺言書に高額療養費の還付金に関する指定がない場合、この還付金は相続人全員による遺産分割協議の対象になります。
あとから判明する還付金の取り扱いについては、遺産分割協議書にあらかじめ「後日判明した未収入金は〇〇が相続する」などと記載しておくと、手続きがスムーズです。
高額療養費と同じく相続財産になるお金:高額介護合算療養費など
故人の死亡後に戻ってくるお金のうち、以下のお金も高額療養費と同じように相続財産として扱われます。
金額が数千円から数万円と少額であっても、財産目録に漏れなく含めるようにしましょう。
- 高額介護合算療養費
- 介護保険と医療保険の自己負担を合算し、上限を超えた分が払い戻される制度。
高額療養費と一緒に受け取ることがある。 - 保険料の還付金
- 納めすぎていた介護保険料や健康保険料の還付金。
- 故人が受取人になっている入院給付金
- 未収入金として相続財産に含まれる。
一方で、死亡後に遺族が受け取るお金でも、未支給年金のように相続税の対象にならないものもあります。
お金の種類によって税務上の扱いが異なるため、まとめて同じ扱いにしないよう注意が必要です。
準確定申告の「医療費控除」との関係
準確定申告とは、亡くなった人の所得税を相続人が代わりに申告・納税する手続きのことです。
準確定申告では、故人が死亡するまでに支払った医療費も控除を受けられます。
ただし、医療費控除の金額を計算するときは、支払った医療費から、高額療養費や入院給付金などの「補てんされる金額」を差し引かなければなりません。
計算式
申告の時点で還付額が確定していなくても、還付金を受け取ることが確実な場合は、その「見込額」を差し引いて計算します。
未払いの医療費は「債務控除」できる
故人が亡くなった時点でまだ支払っていなかった入院費や治療費(未払医療費)は、所得税の医療費控除を使うかどうかにかかわらず、相続税の計算において「債務控除」の対象になります。
債務控除とは、亡くなった人の借金や未払金などの「マイナスの財産」を遺産総額から差し引いて、相続税の負担を軽くするしくみです。
死亡後に支払った医療費の「所得税(医療費控除)」の扱い
故人が亡くなった後に遺族が支払った医療費は、準確定申告では医療費控除の対象にできません。
一方で、医療費を支払った親族が、故人と生計を一にしていた場合には、支払った親族自身の所得税で医療費控除の対象にできることがあります。
| 医療費を支払った親族と故人の関係 | 所得税(医療費控除)の扱い |
|---|---|
| 故人と生計を一にしていた親族が支払った | 支払いをした親族の医療費控除の対象にできる |
| 故人と生計が別であった親族が支払った | 原則として、支払いをした親族の医療費控除の対象にはできない |
【重要】還付金と未払いの医療費は相殺しない
相続税の申告書を作成するとき、高額療養費と、病院へ支払う未払いの医療費は相殺しません。
未払いの医療費は「債務(マイナスの財産)」として、高額療養費は「財産(プラスの財産)」として、それぞれ分けて計上します。
例
債務の欄: 100万円 と記載する
財産の欄: 30万円 と記載する
相続税の申告で高額療養費を入れ忘れたときは?
相続税申告書を提出したあとに高額療養費の記載を忘れていたことに気づいた場合は、まず、税額への影響を確認します。
高額療養費を加えることで相続税の額が増える場合は、修正申告が必要になることがあります。
なお、税額が変わらない(配偶者が取得し、配偶者の税額軽減が適用できる等)場合は、申告のやり直しまでは不要なことが多いですが、支給通知書や通帳などの関係資料はしっかり保管しておきましょう。
少額でも税務調査の対象になることがあるため、判明した時点で放置せず、税理士等の専門家に確認することをおすすめします。
相続放棄を考えている人は受け取りに注意
相続放棄を考えている場合、高額療養費の受け取りには注意が必要です。
高額療養費を受け取ると、相続放棄ができなくなる
相続放棄は、故人の借金などの「マイナスの財産」だけでなく、預貯金などの「プラスの財産」もすべて引き継がない手続きです。
相続放棄をした人は、初めから相続人ではなかったものとみなされます。
しかし、故人の高額療養費の還付金を、相続人が受け取ったり使ったりすると、財産を相続したとみなされ(単純承認)、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
家庭裁判所で一度は相続放棄が認められたあとであっても、あとから還付金を受け取ったことによって「放棄が無効」となる可能性もあります。
高額療養費を受け取ってよい場合・だめな場合
受け取ってよいかどうかは、「その還付金が相続財産にあたるかどうか」で決まります。
- 受け取ってはいけない(注意が必要)
- 亡くなった人自身の保険(国保の世帯主、健康保険の被保険者など)から生じる還付金
=相続財産にあたるため、受け取ると単純承認になる。 - 受け取ってもよい
- 亡くなった人が「被扶養者」だった場合の還付金
=被保険者(扶養者)自身の財産になるため、受け取っても相続放棄に影響しない。
すでに受け取ってしまった場合の対処法
すでに高額療養費を受け取ってしまい、単純承認とみなされた場合、借入金などのマイナスの財産も引き継ぐことになってしまいます。
どのように判断されるかは個別の状況(受け取ったお金の使途など)によって変わるため、早めに相続放棄の手続きや判断に詳しい「司法書士」や「弁護士」へ相談してください。
参考限定承認について
借金がどれくらいあるか分からず、単純承認も相続放棄もためらう場合は、「限定承認」という方法もあります。
限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ手続きです。
ただし、手続きは相続人全員でする必要があり、期限も定められています。
死亡後の高額療養費の請求手続きの流れ
ここからは、故人の高額療養費の払い戻しを受けるための、請求の手続きについてお伝えします。

(1)「高額療養費支給申請書」の到着を待つ
高額療養費の対象に該当すると、市区町村や協会けんぽ、健康保険組合などから「高額療養費支給申請書」や案内が届きます。
一般的には、診療を受けた月の約2〜4カ月後に発送されます。
なお、退職等により直前に加入保険が変わっている場合は、通知が届かないケースもあります。
もし届かない場合は、加入先の窓口(保険者)へ問い合わせてみましょう。
(2)必要書類を準備する
主に必要となる書類は、以下のとおりです。
- 高額療養費支給申請書
- 医療費などの領収書(原本)
- 亡くなった人と申請者の関係が分かる書類(戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写しなど)
- 委任状(代理人が申請する場合)
- 相続人代表者名義の振込口座がわかるもの(通帳やキャッシュカードのコピーなど)
- 申請者(相続人)の本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
三親等以外の親族が申請する場合は、公正証書遺言の写しなどが必要になるケースもあります。
国民健康保険高額療養費支給申請(請求)書(見本)
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引用元 千代田区
(3)加入していた保険の窓口へ請求する
請求先は、亡くなった人が診療時に加入していた保険によって異なります。
- 国民健康保険・後期高齢者医療制度
- 亡くなった人の最終住所地の市区町村役場
- 健康保険(社会保険)
- 故人が加入していた協会けんぽまたは健康保険組合、共済組合など
(4)振り込みを待つ(時期の目安)
書類を提出してから、おおむね1〜2カ月で指定した口座に還付金が振り込まれます。
審査状況によっては、さらに時間がかかる場合もあります。
【注意】高額療養費の請求期限は2年
高額療養費を請求できる期限は、原則として「診療を受けた月の翌月1日から2年以内」です(健康保険法第193条)。
医療費を診療月の翌月以降に支払った場合は「支払った日の翌日から2年間」が期限となります(例:1月診療分の医療費を3月1日に支払った場合、時効は翌日の「3月2日」からカウントする)。
2年を過ぎると、請求権は時効を迎えてしまい、受け取る権利が消滅してしまうため、早めの手続きを心がけましょう。
高額療養費の手続きで、遺族がつまずきやすい3つのポイント
事前に「どのような部分でつまずきやすいのか」を知っておくだけでも、心理的な焦りはやわらぎます。

(1)相続人の代表者や振込先口座が決まらない
実務上、相続人が複数いる場合、高額療養費の還付金は「代表相続人」が指定した口座に振り込まれます。
金融機関に死亡が伝わると、故人の口座は凍結され、受け取りには使えません。
そのため、「誰が代表して還付金を受け取るか」を早めに決める必要がありますが、話し合いが長引いてしまうケースも珍しくありません。
(2)必要な書類を揃えるのに手間がかかる
高額療養費の申請には、医療費の領収書に加えて、故人の死亡の事実や相続関係を証明する「戸籍謄本」など、いくつもの書類が必要です。
これらの書類を揃えるには時間と手間がかかり、特に本籍地が遠方にある場合は、戸籍謄本の取り寄せに日数がかかることもあります。
相続手続きを効率化するために、全国どこの市区町村窓口からでも戸籍謄本を取得できる「戸籍の広域交付制度」や、一度作ればさまざまな相続手続きに使い回せる「法定相続情報一覧図」の活用を検討しましょう。
(3)2年の請求期限を過ぎてしまう
相続手続きは、葬儀の準備をはじめ、不動産の名義変更(相続登記)や・預貯金口座の解約など多岐にわたります。
ほかの相続手続きに追われているうちに高額療養費の存在をうっかり忘れてしまい、請求期限の2年を過ぎてしまうケースも少なくありません。
手続きのつまずきを防ぐためには「生前からの準備」が大切
こうしたつまずきを防ぐためにできることは、大きく2つあります。
①生前からの医療費・保険証情報の整理と、代表者の早期決定
万が一に備え、生前のうちに保険証や医療費の領収書を保管する場所を家族間で共有しておくことが大切です。
また、相続が発生した後は、できるだけ早い段階で代表相続人を決めておきましょう。
② 生前のうちに「限度額適用認定証」や「マイナ保険証」を活用する
医療費が高額になりそうなことが分かっている場合は、生前のうちに、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられる「限度額適用認定証」を利用する方法があります。
高額な医療費を一旦支払う必要がなくなるため、「遺族があとから払い戻しを受ける手続き」そのものをなくす、あるいは最小限に減らすことが可能です。
また、マイナ保険証を利用すれば、限度額適用認定証がなくても限度額を超える支払いが免除されます。
高額療養費のほかに受け取れるお金
家族が亡くなった際、高額療養費以外にも、要件を満たすことで受け取れる公的な給付金があります。
いずれも期限内の請求が必要ですので、最寄りの年金事務所や役場の窓口へ問い合わせましょう。
- 遺族年金・未支給年金
- 亡くなった人が年金受給者または加入者だった場合
- 寡婦年金・死亡一時金
- 国民年金の第1号被保険者が亡くなった場合
- 埋葬料(費)・葬祭費
- 葬儀を行った人に対して支給される給付金
高額療養費の相続に関するよくある質問
Q1:故人の高額療養費は、相続人以外の親族でも受け取れる?
Q2:亡くなった人との世帯合算はできる?
Q3:故人の高額療養費はオンライン(電子申請)で手続きできる?
まとめ:高額療養費は早めの手続きと正しい申告で安心につなげよう
高額療養費は、医療費の負担を軽くしてくれる大切な制度です。
対象になる場合は、2年の期限を過ぎないよう早めに手続きを行いましょう。
一方で、受け取った還付金は相続税の対象になり、相続放棄を考えている場合は受け取り自体がリスクになるなど、税務・法務的な判断を伴います。
少しでも不安なときは、専門家に相談しながら進めましょう。
- 高額療養費は相続人が請求可能。ただし、受け取った還付金は相続税の課税対象(相続財産)になる。
- 亡くなった時点で未払いの医療費は「債務控除」が可能。還付金と相殺せず、別々に分けて計上する。
- 相続放棄を考えている場合は、還付金を受け取ると「単純承認」とみなされ、放棄できなくなるリスクがあるため要注意。
VSG相続税理士法人では、相続専門の税理士をはじめ、グループ内の司法書士や行政書士、社会保険労務士などと連携し、相続の手続きをワンストップでサポートいたします。
初回のご相談は無料ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

