東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
私有地である駐車場で発生した交通事故でも、お店の駐車場など不特定多数が利用している駐車場では道路交通法の適用があります。つまり、駐車場内でも当て逃げをされた以上、通常の道路で発生した事故と同じように扱われます。
駐車場で当て逃げをされてしまった場合、加害者が特定できずに泣き寝入りするしかないケースもあります。しかし、適切な対処をすれば、加害者を特定し被害を賠償してもらえる場合もあります。
この記事では、駐車場で当て逃げに遭ったときの対処法を解説していきます。
目次
平成30年の日本損害保険協会東北支部の調査によると、車両事故の27.6%が駐車場内で発生していたとの結果が公表されました。
参考:駐車場での事故防止を東北6県で注意喚起
駐車場内で発生した事故の詳細を見てみると、「車両同士の接触・追突」や「駐車場内の施設物(壁、塀、柱、看板など)との接触」が全体の約90%を占めています。
当て逃げは全体の1.6%程度に留まっていますが、泣き寝入りしているケースも多いと考えられるため、実際に当て逃げ被害にあっている件数はさらに多くなる可能性があります。
駐車場内の通行路から駐車スペースへバック走行で進入しようとしたときに、先に駐車していた両側の車へ接触してしまう事故です。バック走行時は視界が悪くなることや、バック走行自体を苦手とする運転手も多くいることが原因だといわれています。
高齢者だけでなく、自分の運転を過大評価し注意を怠った場合に、接触事故を起こす傾向があります。
駐車場内で起きる出会い頭の事故には、以下のようなケースがあります。
お店などの駐車場内では死角が多く、道路上と比べて人や車両の動きが不規則で予測しにくいことが原因だといわれています。
混み合っている大型の商業施設などで駐車スペースを探している最中に、前方不注意で事故に遭ってしまうケースもあります。
駐車している車のドアを開閉するときに隣の駐車車両にドアを接触させてしまう、通称「ドアパンチ」と呼ばれている事故です。
駐車スペースの間隔が狭い駐車場で多く発生する傾向にあり、風が強い日に不可抗力でドアをぶつけてしまうケースもあります。
被害がキズやへこみなど軽微であり、被害者が事故現場に不在なことも多い事故形態です。そのため、加害者が現場から逃走してしまう「当て逃げ」につながりやすいといわれています。
当て逃げ被害にあった場合には、以下4つの対策を取りましょう。
当て逃げ被害にあったら、まずは証拠の確保を最優先に考えてください。次に挙げる証拠があれば、加害者の特定につながる可能性があります。
車にドライブレコーダーが設置されていれば、当て逃げされたときの映像が残っている可能性があります。上書きされてデータが消えてしまうケースもあるので、早めに録画データを保存して、必要があれば警察へ提出できるように準備をしましょう。
被害者が事故現場にいたのであれば、加害車両の色・車種・その他の特徴やナンバープレートの登録番号などを忘れないうちにメモしておきましょう。
警察が現場に到着するまでに、加害者の氏名・連絡先・加入する保険会社などについても確認しておくのがベストです。
事故に遭った被害車両を移動させる前に、車の損傷部分や破損が散らばった現場の状況、周辺の様子などを写真に撮っておくことをおすすめします。
当て逃げ直後の現場資料が残っていれば、示談交渉でもめた際に事故時の状況を示す有力な証拠となります。
目撃者の証言も加害者特定の重要な証拠となりますので、周辺にいる方たちに証人として協力してもらえるよう依頼することも忘れないでください。
目撃者の証言も加害者特定の重要な証拠となります。現場周辺にいる方たちに証人として協力してもらえるよう依頼してみるとよいでしょう。
協力してもらえるようであれば、連絡先を聞いておくと手続きがスムーズに進みます。
駐車場内の防犯カメラや周辺施設の防犯カメラの記録があれば、被害者が事故当時に現場に不在だった場合やドライブレコーダーの記録がないときでも重要な証拠となります。
防犯カメラの映像を取得するには、施設の管理者に許可をもらう必要があります。個人情報の保護等を理由に映像の提示を拒否されてしまったら、警察を通して協力を依頼してみましょう。
とくに、コインパーキングやお店などの商業施設内の駐車場では防犯カメラが設置されていることが殆どです。加害者特定のためにも記録データの提供を必ず依頼しましょう。
駐車場内で当て逃げをされたら、必ず警察に通報してください。道路交通法では、交通事故の当事者に警察への届出義務が定められています。たとえけがのない軽微な事故であっても、速やかに通報することを心がけてください。
警察に通報しなかった場合、保険金の請求手続きに必要な交通事故証明書の交付を受けることができず、補償を受けられない場合があります。
当て逃げをされた際に乗車中または乗降車中であれば、衝突の際にけがを負っている可能性があります。少しでも身体に違和感があるのであれば、必ず病院で受診してください。
交通事故に多いむちうち症は、事故から時間が経ってから痛みやしびれなどの症状が現れてくることが多いです。乗車中の座った状態で一方向から間接的に頚椎(けいつい)に強い衝撃を受けると、数日後に突然首などに痛みが出てくる可能性があります。
病院での初診が遅すぎると、事故が原因で負ったけがであることを証明できず、物損事故から人身事故へ切り替えられない恐れがあります。物損事故ではけがの治療費や慰謝料を請求できないので、事故で衝撃を受けたら痛みがなくても念の為医師に見てもらいましょう。
当て逃げをされて加害者を特定できない場合には、被害者自身が加入する保険会社に連絡して、車の修理費を補償してもらえるかを確認しましょう。
保険会社へ相談したからといって、必ずしも保険を適用しなければいけないわけではありません。修理費が低額であれば、自己負担にして保険料が増額にならないようにすることも可能です。保険内容を確認し、保険を使うかどうかをじっくり検討しましょう。
交通事故で加害者がその場から逃げてしまった場合、物損のみの被害であれば「当て逃げ」、けがをしていれば「ひき逃げ」と便宜上区別されます。
人身事故(ひき逃げ)であれば、政府保障事業によって被害者の救済が図られます。補償金額は自賠責保険から支払われる賠償金と同程度ですが、加害者が特定できない場合や無保険でも一定の補償を受けることができます。
また、けがの治療費については、被害者自身が加入している健康保険を使うことも可能です。業務中に事故被害に遭っていれば、労災保険の適用を受けられる可能性もあるでしょう。
一方、物損事故(当て逃げ)の場合には、政府保障事業による救済がされません。そのため、加害者を特定できない場合には、自身が加入している車両保険を利用するか、自己負担して修理費を捻出するしかないことになります。
ただし、あとになって加害者が特定されたときは、自己負担した修理費などの損害について賠償請求できます。領収証や明細書などの記録を保管しておくことを忘れないでください。
物損事故では、刑事責任を追及するための警察の捜査が行われないのが原則です。一方で、当て逃げ事故では人身事故と同様に刑事責任を問われるので、警察の捜査がおこなわれます。
逃げようとすると罪も重くなり、示談交渉でも不利な事情として働きます。もし当て逃げの加害者になってしまったら、次の対応をすることをおすすめします。
事故発生から間もないときは、被害者が現場にいる可能性が高です。すぐに現場へ戻って、警察に通報したうえで事故処理に協力してください。
もし被害者が現場にいなかったら、駐車場の管理人へ連絡して警察の対応を待ちましょう
事故発生から日が経ってしまったときは、事故車両の修理をする前に警察へ届け出て、必要があれば事故車両とともに警察署へ出頭しましょう。
被害者に面会できたときは、まず誠心誠意の謝罪をし、その後の示談交渉に真摯に応じてください。一日でも早く示談が成立するように努めましょう。
被害者との示談が成立していれば、刑事処分が保留されることもあります。刑事罰を受ける可能性が低くなりますので、示談交渉には真摯に応じてださい。
ただし、被害者からの相場以上の賠償金を請求された場合、無理に応じる必要はありません。場合によっては弁護士に間に入ってもらいましょう。
加害者は、車の修理費など被害者の損害を賠償しなければいけません。任意保険に加入しているのであれば、保険会社に連絡をして賠償金を補償してもらいましょう。
弁護士費用特約などを利用すれば、弁護士に示談交渉を任せられます。しかし、被害者に対して誠実に対応する意味でも、被害者への謝罪を怠らないでください。
事故の対応に困ることがあれば、交通事故の賠償問題や刑事事件の弁護などに実績のある弁護士へ相談しましょう。警察への届出や被害者への謝罪などに同行してもらえるので、精神的な負担が大きく軽減されます。
刑事手続きで不利にならないよう対策をしてもらえるので、前科がついてしまい今後の人生に悪影響を及ぼす可能性が低くなるでしょう。
物損事故を起こした場合、警察に報告して適切な対処をしていれば罰則の対象にはなりません。しかし、その場から逃げてしまった場合は「当て逃げ」となり処罰の対象となります。
対象となる処分は「行政処分」と「刑事処分」2つです。罰則はそれぞれ以下のとおりです。
行政処分 |
|
---|---|
刑事処分 |
|
物損事故を起こしたら被害者への損害賠償は必要ですが、その場から逃げなければ「行政処分」と「刑事処分」の2つの処分は受けずに済みます。
あってはならない事ですが、もしも怖くなって当て逃げしてしまった場合は、早急に警察に連絡してできるだけ早く被害者に謝罪しましょう。
当て逃げしたのは事実なので刑事処分は免れないかも知れませんが、被害者の心象に影響して示談でこじれることが少なくなるかもしれません。
当て逃げの被害は、大切にしていた車、友人から借りていた車、業務で必要な車などの事情によって、物損事故であっても被害者が精神的なダメージを受けることもあります。
一日でも早く加害者が特定され、被害者の損害が賠償されることが最良の解決方法ですが、必ずしもそうならないことも多いでしょう。
当て逃げ被害に遭って困っている方は、交通事故問題に精通した弁護士に相談してみることをおすすめします。