東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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目次
逸失利益とは、交通事故の被害がなければ得られたはずの将来的な収入です。
逸失利益には以下の2種類があり、事故前の年間収入や失った労働能力を基準に金額を計算します。
無職の方は厚生労働省が公表する賃金センサス(賃金構造基本統計調査)を用いますが、障害者の逸失利益も賃金センサスを参考とするかどうかが争点となります。
では、逸失利益がどのように決まるのか、計算方法からみていきましょう。
逸失利益は統一的な計算方法が確立されており、被害者の収入と失った労働能力の度合いが計算のベースとなります。
しかし、この計算方法では健常者よりも障害者の逸失利益が低くなってしまうため、裁判に発展するケースも少なくありません。
後半では過去の裁判例もわかりやすく解説しますが、まずは現在のスタンダードとなっている計算方法を理解しておきましょう。
後遺障害逸失利益は以下のように計算します。
基礎収入は前年の収入となるため、会社員であれば源泉徴収票、自営業者は確定申告書の写しを参照します。
労働能力喪失率は後遺障害の等級に連動しており、5~100%までの喪失率が段階的に定められています。
逸失利益は将来的な収入の先払いとなるため、ライプニッツ係数を使って中間利息分(増額分)を差し引き、現在の価値へ換算して金額を算出します。
労働能力喪失率とは、交通事故に遭う前の状態を100%とした場合、後遺障害が残ったことでどのくらい労働能力が落ちたかをあらわしたものです。
自賠法(自動車損害賠償保障法)施行令に定められた割合ですが、以下のように後遺障害等級と連動した目安があります。
障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
なお、逸失利益について任意保険会社と示談交渉する場合、妥当性を欠く障害等級や労働能力喪失率を適用するケースがあるので注意してください。
死亡逸失利益は以下のように計算しますが、生活費控除率を反映させるため、家庭内における被害者の立場がポイントになります。
就労可能年数は労働能力喪失期間と同じ考え方です。
なお、亡くなった被害者は生活費が不要となるため、生活費分を差し引いて逸失利益を計算しなければなりません。
生活費を差し引く場合、被害者の立場別に以下の生活費控除率を反映させます。
【被害者の立場と生活費控除率】
厚生労働省が公表する「平成30年度障害者雇用実態調査結果」によると、民間企業における身体障害者の賃金は以下のようになっています。
各賃金には勤続年数や人事評価も影響するため、あくまでも平均値となりますが、知的障害者や精神障害者(発達障害含む)の場合はさらに低くなります。
一般労働者の場合、令和3年の賃金センサスでは男性の平均賃金が33万7,200円、女性は25万3,600円となっているため、逸失利益にも1.5~5倍程度の格差が生じるでしょう。
では次に、逸失利益をめぐる過去の判例を解説します。
障害者の逸失利益は健常者の6~7割程度が相場となっています。
収入をベースに計算すると健常者との格差が埋まらないため、障害者とその家族にとって納得できる扱いとは言い難いでしょう。
しかし、過去の判例や現在も継続中の裁判例をみると、人の尊厳や命の重さ、障害者を取り巻く情勢の変化が判決に影響を及ぼしているようです。
いくつか裁判例を紹介しますので、判決に影響を与えた要素などを参考にしてください。
事例重度障害者の逸失利益4,000万円が認められた判例
特別養護学校に通う男子生徒(重度の自閉症)がバスから降りた際、ヘルパーが運賃精算している間に道路に飛び出し、車にひかれて死亡した事例です。
当初の示談交渉は損害賠償1,600万円、逸失利益はゼロと提示されたため、両親が相手方の運転手などを相手取って訴訟を起こしました。
訴訟金額は逸失利益4,200万円程度を含む約7,000万円です。
裁判は4年以上に渡りましたが、逸失利益1,560万円を含む4,000万円の損害賠償で和解しています。
逸失利益は最低賃金から1,131万円を算出し、20~65 歳で受け取れた障害年金 431 万円を加算したものですが、以下の訴えも争点となったようです。
事例平均賃金の8割を妥当とした裁判例
全盲女性が交通事故の被害に遭い、高次脳機能障害などが残った事例です。
相手方の運転手に対して訴訟を起こし、一審では全国平均賃金(一般労働者)の7割が妥当とされたところ、控訴審では8割を妥当とする判決が出ています。
一般的な障害者の逸失利益から1割増しとなった控訴審判決ですが、以下の要素が影響したようです。
注目を集めた裁判でしたが、健常者と同等の逸失利益が認められず、十分な補償とはならなかったため、評価の分かれる判決となっています。
事例健常者と同基準の逸失利益を訴えた裁判
重度の聴覚障害者であった女性(当時11歳)が重機にはねられ、死亡事故となったケースです。
遺族が運転手を相手取って訴訟を起こし、健常者と同基準の逸失利益を請求していますが、当初の提示額は健常者の4割程度となる約153万円でした。
その後、11万筆超の支援署名が集まったことをきっかけに、加害者側は健常者の6割程度となる約294万円に逸失利益を引き上げています。
現在も継続中の裁判ですが、「裁判所が注目する聴覚障害者支援アプリが判決に影響するのではないか?」と社会から注目されています。
支援アプリを使えば聴覚障害などのハンディキャップはある程度克服できるため、逸失利益が増額される可能性も期待できます。
障害者の逸失利益には様々な変遷があり、かつては「障害者に逸失利益は発生しない」という考え方が一般的な時代もありました。
現在は健常者の6~7割程度が相場となっていますが、障害者をサポートする制度の確立やIT技術の進歩もあるため、逸失利益の考え方も徐々に変化しています。
環境さえ整えば健常者と同レベル、あるいはそれ以上の労働能力を発揮できる方もおられるでしょう。
裁判においても、障害者を取り巻く情勢変化が判決に影響しているため、今後も何を争点にするかが重要となります。
障害を持つ方が交通事故の被害者となり、加害者側から不当な条件を提示されたときは、弁護士への相談も検討してみましょう。
交通事故裁判は被害者や家族にとって過酷なものとなるため、専門家にサポートしてもらうことをおすすめします。