

東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。

電動キックボードは、街中や観光地で気軽に利用できる新しい移動手段として注目を集めています。コンパクトで取り回しやすく、環境にやさしい点も魅力とされ、若者を中心に利用者が増えています。2023年の道路交通法改正で「特定小型原動機付自転車」という区分が新設され、16歳以上であれば免許不要で乗れるようになったことも普及を後押ししました。
その一方で、交通ルールを十分に理解しないまま利用する人も多く、電動キックボードによる交通事故の件数は増加傾向にあります。事故に遭った場合、「加害者としてどのような責任を負うのか」「被害者になったときに受けられる賠償はどうなるのか」「保険は適用されるのか」といった疑問や不安を抱える人は少なくありません。
この記事では、電動キックボードによる交通事故の現状や背景、適用される交通ルール、賠償や保険の仕組み、弁護士に相談するメリットまでを整理して解説します。
目次
電動キックボードは、都市部を中心に利用が広がっていますが、その影響として交通事故も少しずつ目立つようになっています。自転車やバイクと違い、まだ歴史が浅い乗り物であるため、利用者がルールを理解していないまま走行してしまうケースも少なくありません。
ここでは、電動キックボードによる交通事故の件数、事故が増える理由、実際に裁判にまで発展した事例を確認していきます。

電動キックボードに関連する交通違反・事故の発生状況①

電動キックボードに関連する交通違反・事故の発生状況②
引用元:警視庁
警察庁の集計によると、電動キックボードが関わる人身事故は、令和2年から令和5年1月までに76件発生しています。負傷者は78人、死亡者も1人確認されています。
年ごとの件数をみると、令和2年は4件にとどまっていましたが、令和3年は29件、令和4年には41件と増加し、利用の広がりに比例して事故が目立つようになってきました。
事故の相手を見ると、四輪車との衝突が最も多く全体の約4割を占めます。続いて自転車、歩行者との接触があり、単独事故も全体の約4分の1を占めています。
都市部を中心に幅広く事故が報告されており、交通量の多い場所での利用にリスクが集中していることがうかがえます。
電動キックボードの事故が増えている背景には、社会的な普及の速さと、安全対策や利用者教育の不足が大きく関わっています。ここでは、事故件数の増加につながる代表的な要因を整理します。
電動キックボードは新しい移動手段として便利な一方で、特性やルールを理解しないまま利用すると大きなリスクにつながることを忘れてはいけません。利用者自身が意識を高めることが、安全な普及に欠かせない要素といえるでしょう。
電動キックボードの事故は「小さな接触」や「転倒」で済むものばかりではありません。なかには重傷や死亡につながり、裁判や刑事処分に至ったケースもあります。ここでは代表的な事例を紹介し、交通事故がもたらす現実の重さを確認していきます。
2021年5月、大阪市内で男女が電動キックボードに二人乗りをして歩道を走行中、前方の女性に衝突する事故が発生しました。被害者は首の骨を折る大けがを負い、運転していた男性は自動車運転死傷処罰法違反で逮捕され、後に罰金50万円の略式命令を受けています。さらに民事裁判では、同乗者の帽子が運転者の視界を遮っていた点が過失とされ、同乗者を含む2人に約1,110万円の賠償を命じる判決が下されました。
一見「軽い遊び感覚」の二人乗りが、刑事処分と高額賠償という大きな代償につながった事例といえます。
2024年2月、一方通行を逆走していた電動キックボードが歩行者と衝突し、鎖骨や肋骨を折る大けがを負わせました。運転者はそのまま逃走しましたが、後に逮捕・起訴され、罰金50万円の略式命令を受けています。
本件は、逆走という基本的な交通違反に加え、事故後の「逃げる行為」が罪を重くする典型例です。自転車や自動車と同じように、電動キックボードの利用者にもひき逃げ責任が問われることを明確に示した事例といえるでしょう。
2023年12月、女性が赤信号を無視して交差点に進入し、高速バスにはねられて死亡する事故が発生しました。女性が乗っていたのは、最高速度20km/hを超える原付扱いの電動キックボードで、本来は免許が必要でしたが、無免許で運転していました。事故後、女性は無免許運転と信号無視の疑いで書類送検されましたが、死亡していたため不起訴となっています。
この事例は「免許不要の電動キックボード」と「免許が必要な電動キックボード」が混在している現状を浮き彫りにしており、車両区分の理解不足が命に関わるリスクにつながることを示しています。
電動キックボードは見た目が似ていても、性能によって法律上の区分が異なります。区分ごとに必要な免許や装備、走行ルールが定められており、知らないまま乗ると無免許運転などの違反になる危険もあります。
ここでは主な区分ごとのルールを整理して解説します。
電動キックボードの原動機出力が0.60キロワットを超える場合や、大型のスポーツタイプなどは「普通自動二輪車等」に該当します。この場合は二輪免許の取得が必須であり、灯火やミラーなどの保安部品も備えなければなりません。免許や装備を満たさずに運転すると、交通法規違反となります。
出力が0.60キロワット以下であっても、最高速度が20km/hを超えるなどの条件に当てはまると「一般原動機付自転車(原付)」として扱われます。原付免許が必要で、二段階右折や車道走行のルールを守らなければなりません。また、ヘルメット着用、自賠責保険加入、ナンバープレートの装着が義務となります。
車体や速度などの基準をすべて満たす電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」として扱われます。16歳以上であれば免許不要で運転できますが、ナンバープレートの登録と自賠責保険への加入は必須です。また、ライトやブレーキといった保安装置を備えている必要があり、ヘルメットの着用は努力義務とされています。
また、自転車と同じように飲酒運転は禁止されており、違反した場合は道路交通法に基づき処罰の対象となります。
最高速度が6km/h以下に制御され、速度表示灯が点滅する仕様を備えたものは「特例特定小型原動機付自転車」として扱われます。この場合、「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識等が設置されている歩道の通行が可能になりますが、歩行者優先であることや一時停止義務などのルールを守らなければなりません。
電動キックボードが関わる事故でも、自動車や自転車と同じように「過失割合」が決められます。これは、どちらの当事者にどの程度の責任があるかを数値で表すもので、最終的に支払う賠償金額に直結する重要な判断基準です。
現在のところ、電動キックボードは基本的に原動機付自転車と同じ扱いとされるため、過失割合はバイクや原付の事故基準を参考に算定されるケースが多いと考えられます。しかし、必ずしも一律に当てはまるわけではなく、次のような点から修正される可能性があります。
このような背景から、過失割合の判断は一律ではなく、従来のバイク・原付事故の基準を参考にしつつも、電動キックボードの特性を踏まえて調整されることが考えられます。
電動キックボードの事故に関する判例や裁判例はまだ多くありません。とくに「特定小型原動機付自転車」に該当する車両の事故は、実務上これから事例を積み重ねていく段階にあります。そのため、明確な基準がない中で過失割合を決める必要があり、当事者間で揉めるケースが多くなることが予想されます。
電動キックボードによる事故では、事故の状況や立場に応じて請求できる賠償金が異なります。以下4つのパターン別に、請求できる賠償金や請求方法などを整理しました。
電動キックボードで転倒したり、電柱やガードレールにぶつかったりして、自分だけがけがをした場合や物を壊した場合は、基本的にすべて自己負担となります。損壊した電動キックボードや持ち物の修理代も同様です。
ただし、任意保険に加入していれば補償を受けられる可能性があります。たとえば、火災保険や自転車保険の補償内容によっては、以下のような費用を保険でまかなえる場合があります。
なお、自賠責保険は相手の身体的な損害を補償する制度であるため、自損事故には利用できません。
電動キックボードで事故を起こし、歩行者や自転車、自動車などに損害を与えた場合は、加害者として賠償責任を負います。相手にけがをさせたときは治療費や慰謝料、仕事を休んだ場合の休業損害などを支払う必要があります。後遺障害や死亡事故に至れば、逸失利益や葬祭費用など高額な賠償金が発生します。
賠償金の支払いはまず自賠責保険から行われますが、自賠責には補償の上限があります。上限を超えた部分については、任意保険でカバーするか、加入していない場合は加害者本人が負担しなければなりません。任意保険に入っていないと、数百万円から数千万円規模の賠償金を自力で支払うリスクがあります。
さらに、事故の内容によっては民事責任にとどまらず、刑事責任を問われる可能性もあります。重大事故や飲酒運転など悪質なケースでは、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われ、逮捕・起訴される例もあります。
このように加害者となった場合、経済的負担だけでなく刑事責任を負う可能性もあるため、日頃から保険加入と交通ルールの遵守が欠かせません。
電動キックボードとの事故で被害を受けた場合には、加害者に対して損害賠償を請求できます。請求できる内容は、治療費や入通院慰謝料、仕事を休んだ場合の休業損害などが中心です。後遺障害が残ったときは後遺障害慰謝料や逸失利益、死亡事故の場合は死亡慰謝料や葬祭費用なども含まれます。
加害者が任意保険に加入していれば、任意保険会社との交渉によって賠償金が一括して支払われるのが一般的です。加害者が自賠責保険のみの場合は、まず自賠責保険に「被害者請求」を行い、不足分は加害者本人に直接請求することになります。しかし、支払いに応じてもらえないケースもあるため、交渉が難航することもあります。
そのため、被害者側が不利な条件で示談してしまわないよう、弁護士に相談して交渉を進めることも有効です。専門家が介入することで、適正な金額での示談やスムーズな請求につながる可能性が高まります。
電動キックボードとの事故で加害者がその場から逃げてしまった場合、相手が特定できなければ直接賠償を請求することはできません。加害者が判明すれば、通常の事故と同様に相手の保険や本人に対して損害賠償請求が可能ですが、逃走によって解決が長引くケースも少なくありません。
このような場合に備えて、自分が加入している保険に「人身傷害補償特約」や「無保険車傷害特約」が付いていれば、それを利用して補償を受けられる可能性があります。これらの特約は自動車保険や自転車保険に付帯していることが多く、歩行中の事故にも適用される場合があります。
さらに、加害者が分からないまま被害を受けた場合でも、政府保障事業を利用すれば一定の補償を受けられる可能性があります。これは、自賠責保険に準じて治療費や慰謝料、死亡・後遺障害に関する損害を補償する制度で、ひき逃げや無保険車による事故被害者を救済するために設けられています。
電動キックボードの事故は、従来の自転車や原付と同じ基準では判断しにくい特徴があります。判例の少なさから交渉が複雑になりやすく、過失割合をめぐって対立することも珍しくありません。
以下では、電動キックボードの事故で弁護士への相談が重要となる具体的な理由を解説します。
電動キックボードは比較的新しい交通手段であるため、事故に関する判例や過去の解決事例が十分に蓄積されていません。その結果、示談や保険会社との交渉では、自転車や原付バイクの基準を参考にしつつも調整が必要になり、話し合いが複雑化しやすいのが現状です。
特に「特定小型原動機付自転車」に区分される車両については、制度自体が導入されて日が浅いため、基準の解釈が定まっていない部分もあります。こうした不透明さから、被害者・加害者の双方にとって納得できない条件を提示されるリスクがあります。
弁護士に相談することで、これまでの判例や法的な考え方をもとに主張を整理し、複雑な交渉を有利に進めることが可能になります。
電動キックボードの事故では、どちらにどの程度の責任があるかをめぐって揉めるケースが少なくありません。自転車や原付バイクの基準を参考にすることが多いものの、車両区分や走行状況が異なるため、単純に当てはめることはできません。
たとえば車道での事故は自動車に近い基準で判断されますが、歩道や横断歩道での事故では歩行者や自転車の基準が影響します。このようにケースごとに判断が分かれるため、当事者や保険会社と意見が食い違いやすいのです。
専門知識がないまま交渉を進めると、不利な過失割合を受け入れてしまう危険があります。弁護士に相談すれば、事故状況や判例をもとに適切な割合を主張でき、納得のいく解決につながりやすくなります。
交通事故の慰謝料には、大きく分けて「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」の3つがあります。このうち最も高い水準で認められるのが弁護士基準です。
電動キックボードの事故でも、保険会社から提示される金額は任意保険基準に沿った低い額であることが多く、被害者にとって十分な補償とはいえない場合があります。たとえば入通院慰謝料や後遺障害慰謝料は、弁護士基準で請求することで数十万円から数百万円単位で増額されるケースも珍しくありません。
専門知識のないまま保険会社の提示額をそのまま受け入れてしまうと、本来受け取れるはずの賠償を逃してしまうおそれがあります。弁護士に依頼することで、弁護士基準に基づいた適正な慰謝料を請求でき、結果として大きな差につながる可能性があります。
電動キックボードをシェアリングサービスで利用している場合、多くは事業者が加入している自賠責保険や任意保険によって補償を受けられます。保険料は利用料金に含まれており、利用者が別途加入する必要はありません。
たとえばLUUPでは、利用中の事故について搭乗者への補償と対人・対物の賠償責任保険が用意されています。2025年4月に補償内容が拡大され、死亡や後遺障害に対する補償額や、入院・通院に関する保険金も見直されています。対人・対物の補償は無制限で設定されているため、高額な賠償が発生しても一定の安心感があります。
ただし、飲酒運転やながらスマホなど重過失がある場合は保険が適用されないこともあります。その場合、任意保険でまかなわれるはずの部分は利用者本人の負担となる可能性があります。
損害賠償の請求先は加害者本人と事業者の両方ですが、実際には事業者の保険会社が示談交渉を行い、一括で支払う形が一般的です。被害者としては、加害者本人に分割して請求するよりも、シェアリング事業者に全額を請求した方がスムーズに解決しやすいでしょう。
特定小型原動機付自転車なら16歳以上は免許不要ですが、それ以外の車両を無免許で運転すると道路交通法違反になります。事故を起こした場合は、民事上の賠償責任に加え、無免許運転として刑事罰を受ける可能性もあります。さらに、多くの保険では無免許運転中の事故は補償対象外となるため、高額な賠償を自費で負担するリスクがあります。
電動キックボード(特定小型原動機付自転車)ではヘルメット着用は努力義務とされていますが、未着用で事故に遭った場合、過失割合に影響する可能性があります。特に頭部の損傷が重くなった場合、「適切な安全対策を怠った」と判断され、被害者側の過失が加算されることもあります。安全性を考えて、努力義務であってもヘルメットを着用するのが望ましいでしょう。
電動キックボードは「車両」に分類されるため、自転車保険や日常生活賠償責任保険では補償されません。対人・対物の賠償をカバーするには、バイク保険や自動車保険の「ファミリーバイク特約」への加入が必要です。
また、自分自身のけがについては、契約内容によっては自動車保険の人身傷害補償特約や搭乗者傷害保険が利用できる場合もあります。
電動キックボードも自転車や自動車と同じく、飲酒運転は禁止されています。酒気帯びや酒酔いの状態で事故を起こした場合、道路交通法違反として刑事罰を受ける可能性があり、重大事故では拘禁刑が科されることもあります。
また、保険についても飲酒運転中の事故は補償対象外とされることが多く、高額な損害賠償を自費で負担しなければならないリスクがあります。
加害者が外国人でも、日本の道路交通法が適用されます。特定小型以外を無免許で運転すれば違反となり、事故を起こせば刑事・民事責任を負います。被害者は日本人相手と同じように損害賠償を請求できますが、観光客などで保険未加入の場合は賠償を受けにくいこともあり、その際は事業者の保険や自分の保険を利用する必要があります。
電動キックボードは便利な移動手段として広がっていますが、事故が増えているのも事実です。車両区分によって適用されるルールや保険の仕組みが異なり、過失割合や賠償金の算定も一筋縄ではいきません。さらに、シェアリングサービスや外国人利用者など、状況によって対応が複雑になることもあります。
事故に遭ったとき、不十分な知識のまま示談に応じてしまえば、本来受け取れる補償を逃してしまうおそれがあります。被害者・加害者のどちらであっても、専門知識を持つ弁護士に早めに相談することで、適切な交渉と有利な解決につながりやすくなります。
相談先に迷ったら、交通事故で豊富な実績を持つ「VSG弁護士法人」までぜひお気軽にご相談ください。

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