

東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。

スマートフォンの普及により、移動中にメールを確認したり、SNSを操作したりする光景は珍しくなくなりました。しかし、運転中や自転車に乗っているときにスマートフォンへ意識が向くと、周囲への注意が薄れ、思わぬ事故を引き起こす危険があります。
加害者となった場合には道路交通法違反として罰則を受ける可能性があり、被害者の立場では治療費や慰謝料などの賠償を請求できる場面もあります。どちらの立場にとっても、法律上のルールや事故後の流れを理解しておくことが重要です。
この記事では、ながらスマホで事故を起こしたときの罰則や被害にあったときの注意点について、事故件数や裁判例などを基にわかりやすく解説していきます。
目次
「ながらスマホ」とは、スマートフォンを操作しながら運転や歩行などをする行為を指します。数秒でも視線を外せば、車なら数十メートル進んでしまい、事故の危険が一気に高まります。
自動車・オートバイ・原付バイク・一定の出力を超える電動キックボードを運転中にスマホを使うと、道路交通法違反となります。罰則の対象となるのは、次のようなケースです(道路交通法第71条第5号の5)。
「何秒見たら違反か」といった明確な基準はなく、最終的には警察官の判断によります。国家公安委員会によるカーナビ事業者などに向けた告示では「注視(おおむね2秒を超えて画面を見続けることをいう。)」と記載されていますが、法的な根拠があるわけではありません。
スマホ以外でも、カーナビやタブレット端末を操作したり画面を見続けたりすれば「ながら運転」とみなされます。信号待ちで停車中にスマホを触るだけなら直ちに違反ではありませんが、青信号に気付かず発進が遅れたり、そのまま操作を続けて走り出したりすれば違反となります。
また、Bluetoothイヤホンやハンズフリー通話は法律で一律に禁止されてはいません。しかし、会話に集中して前方への注意が散れば、安全運転義務違反として処罰の対象になることがあります。
ながらスマホは単なる注意不足で済む話ではなく、道路交通法に基づき明確に罰則が定められています。違反の内容によって、反則金や違反点数にとどまる場合と、より重い刑事罰の対象となる場合があります。
ここでは代表的な2つのケースを見ていきましょう。
運転中にスマホを手に持って通話したり、画面を見続けたりすると「携帯電話の保持違反」として違反点数と反則金が科されます。
罰則:「6月以下の拘禁刑」または「10万円以下の罰金」
反則金:18,000円(普通車の場合)
違反点数:3点
保持違反を繰り返すと免許停止の可能性もあります。たとえ「少しの時間だから」と思っても、道路上では危険行為とみなされることを理解しておきましょう。
運転中にスマホを操作し、事故を起こした場合は「保持違反」とは区別され、より重い処罰の対象となります。事故につながらなくても「交通の危険を生じさせた」と判断されれば、この規定が適用されます。
罰則:「1年以下の拘禁刑」または「30万円以下の罰金」
反則金:適用なし
違反点数:6点(即免許停止処分の対象)
さらに、ながらスマホによって人を死傷させた場合には、過失運転致死傷罪(過失致死傷罪)が成立し、7年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、飲酒やスピード違反などと組み合わさった場合には「危険運転致死傷罪」が成立し、さらに重い刑罰(最長20年の拘禁刑)が科されることもあります。
交通反則通告制度とは、自動車や原付バイクの運転者が行った違反のうち、比較的軽微なものについて、反則金を納めることで刑事裁判や家庭裁判所での審判を受けずに済む仕組みです。いわゆる「青切符」で処理されるケースがこれにあたります。
ながらスマホの場合も、運転中に携帯電話を保持して通話したり、画面を見続けたりする行為はこの制度の対象です。違反点数と反則金が科されますが、反則金を納付すれば刑事罰を受けることはありません。
ただし、スマホ操作が原因で事故を起こしたり、交通の危険を生じさせた場合にはこの制度は使えません。反則金で済まず、刑事事件として扱われ、懲役や罰金といった重い処罰の対象になります。
ながらスマホの危険は車だけに限りません。自転車では法律で罰則の対象となり、事故を起こせば重い責任を負うことになります。一方、歩きスマホには直接の罰則はありませんが、接触事故を起こせば賠償責任を問われる可能性があります。
自転車に乗りながらスマホを操作する行為は、道路交通法で禁止されています。令和6年11月の法改正により、これまで自動車や原付に限定されていた規定が「自転車」にも適用され、罰則が強化されました。
ながらスマホをした場合:6か月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
ながらスマホで交通の危険を生じさせた場合:1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
手に持って通話する、操作するだけでなく、自転車に取り付けたスマホ画面を注視する行為も対象となります。さらに、3年以内に2回以上ながらスマホによる違反・事故があると、「自転車運転者講習」の受講が義務付けられます。命令を無視した場合には、5万円以下の罰金を科される可能性があります。
歩きながらスマホを操作する「歩きスマホ」には、道路交通法上の直接的な罰則はありません。
しかし、歩きスマホが危険行為であることに変わりはありません。画面に気を取られて周囲への注意が散れば、転倒や車道への飛び出し、他人との接触事故などにつながる可能性があります。
また、歩きスマホで事故にあった場合、画面注視により注意が散漫になっていたとして歩行者側に過失が10%程度認められる傾向があります。過失がつくと、その割合分だけ受け取れる損害賠償金が減額されます。
改正道路交通法により携帯電話使用の罰則が強化されたのは令和元年12月のことです。その後、広報や取締りが徹底された結果、令和2年の携帯電話使用に関連する交通事故は1,283件まで減少し、前年の2,645件から半分近くにまで抑えられました。
ところが、令和3年以降は再び件数が増える傾向を示しています。とりわけ注目すべきは、死亡事故全体に占める「携帯電話を使用していたときの事故」の割合が大きく上昇している点です。ながらスマホによる事故の危険は依然として深刻であり、社会全体で継続的に対策を強める必要がある状況だといえるでしょう。
ながらスマホが原因で起きた事故は、刑事事件や高額な損害賠償に発展することがあります。判例を見ると、通話やアプリ操作によって死亡事故や重い後遺障害が生じ、厳しい刑罰や賠償責任を負った事例が少なくありません。ここでは代表的なケースを取り上げて紹介します。
トラックを運転していた被告人は、走行中にスマートフォンで通話をしていました。注意が散漫になったまま赤信号の交差点に進入したため、右折してきたタクシーと衝突し、乗客が死亡、運転手が重傷を負う重大事故となりました。
神戸地裁尼崎支部は、運転中の通話によって前方確認を怠り、信号を無視して交差点に進入した行為は重大な過失にあたると判断しました。また、被告人が同様のスマホ通話を繰り返していたことも考慮され、過失運転致死傷罪で禁錮3年6カ月の実刑判決が言い渡されています(神戸地方裁判所尼崎支部令和3年11月22日判決)。
被告は人気ゲーム「ポケモンGO」をスマートフォンで操作しながら車を運転し、画面に集中したまま前方不注意で走行していたため、直線道路で歩行者(85歳女性)を見落として衝突し、死亡させる事故を起こしました。裁判では、少なくとも108メートルにわたって約7秒間にわたるスマホ注視の記録が確認され、被告の注意義務違反が重大と判断されました。
この裁判において、名古屋地裁岡崎支部は「ながらスマホによる重大な過失行為」と断じて、禁錮1年4カ月の実刑判決を言い渡しました。その後、名古屋高裁もこの判決を維持し控訴棄却となりました(名古屋高等裁判所令和2年8月24日判決)。
神奈川県川崎市の歩行者専用道路で、20歳の元女子大学生が電動アシスト自転車を運転中にスマートフォンを操作し、イヤホンで音楽を聴きながら走行していました。左手でスマホ、右手で飲み物を持ったまま運転していたため前方への注意が散漫になり、77歳の女性と衝突して死亡させる事故となりました。
横浜地裁川崎支部は、歩行者の存在が予見できる状況にもかかわらず、スマホ操作に気を取られていたことを重大な過失と認定し、禁錮2年・執行猶予4年の有罪判決を言い渡しました(横浜地裁川崎支部平成30年8月27日判決)。
ながらスマホによる事故で損をしないためにも、以下3つの点に注意することが大切です。
ながらスマホによる事故でケガをした場合、加害者や保険会社に対して請求できる賠償金は一つではありません。治療費や通院費といった直接的な費用に加え、休業による収入の減少、後遺障害が残った場合の逸失利益、さらに精神的苦痛に対する慰謝料など、複数の項目が存在します。
これらは本来すべて請求できる権利がありますが、知識がないまま交渉すると「慰謝料だけ」など一部しか認められないことがあります。特に後遺障害や将来の介護費用などは、専門的な算定が必要になるため見落としがちです。
請求できる賠償金は多岐にわたるため、漏れなく把握することが重要です。必要に応じて専門家のサポートを受けることで、本来受け取れる補償をしっかり確保できます。
交通事故では、加害者と被害者の双方にどの程度の責任があるかを「過失割合」として算定します。この割合によって、受け取れる賠償金の額が大きく変わります。
たとえば、被害者に2割の過失が認められた場合、総損害額が500万円でも実際に受け取れるのは400万円に減額されてしまいます。わずかな割合の違いでも、金額には大きな差が生じるのです。
ながらスマホは明らかに危険な行為であり、加害者の過失が大きいと評価されやすい要素です。したがって、交渉の際には「相手がスマホを操作していた事実」をしっかり主張し、自分に不利な過失割合がつかないよう注意することが大切です。
慰謝料は、被害者が受けた精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。金額はけがの程度や後遺障害の有無によって決まりますが、加害者の行為が特に危険で悪質だった場合には、増額が認められることがあります。
ながらスマホは、法律で禁止されている危険な行為です。運転中にスマホを操作していたことが証明できれば、通常の慰謝料に加えて増額を主張できる可能性があります。
警察の実況見分調書や目撃証言、通話・アプリの使用履歴などが「ながらスマホの事実」を裏付ける証拠となります。これらを基に慰謝料の増額を求めれば、被害者の精神的苦痛に見合った補償を受けられる可能性が高まります。
ながらスマホによる事故では、過失割合の判断や証拠集め、保険会社との交渉など専門的な知識が求められる場面が多くあります。被害者が一人で対応しようとすると、不利な条件で示談がまとまってしまったり、本来受け取れるはずの賠償を受け取れなかったりするおそれもあります。
こうしたリスクを避けるために、弁護士へ相談することは大きな意味を持ちます。
被害にあったときに適切な補償を受けるためには、できるだけ早い段階で弁護士へ相談することが重要です。
ながらスマホで事故を起こし、交通の危険を生じさせたり、人を死傷させたりした場合には、反則金で済む「青切符」の処理ではなく刑事事件として扱われます。過失運転致死傷罪などが適用され、有罪判決を受ければ前科がつきます。特に死亡事故や重傷事故では実刑となる可能性も高く、社会的影響も大きくなります。
保険会社や加害者と直接交渉することは可能ですが、法律知識が不足していると賠償金の算定で不利になりやすく、請求できる項目を見落とすリスクもあります。ながらスマホは加害者の過失が大きく評価される行為ですが、その主張を裏付ける証拠や法的根拠を示せなければ十分に認められません。適切な補償を受けるためには、弁護士に相談することが望ましいといえます。
道路交通法では「運転中に前方や周囲の交通に注意を払うこと」が義務付けられています。イヤホンを装着して音楽を聞く行為自体は直ちに禁止されていませんが、音量が大きく周囲の音が聞こえない、会話に夢中になって前方不注意となる、といった場合には安全運転義務違反に問われ、取り締まりや罰則の対象となる可能性があります。
ながらスマホは、一瞬の不注意が大きな事故につながる非常に危険な行為です。法律上も厳しく規制されており、罰則や刑事責任を問われることも少なくありません。さらに、被害に遭った場合には賠償金の請求や過失割合の調整など、専門的な知識を必要とする場面が数多くあります。
自分だけで対応しようとすると、不利な条件で示談がまとまってしまい、本来受け取れる補償を逃すリスクがあります。弁護士に相談すれば、法的な根拠を踏まえて交渉を進めてくれるため、適切な賠償を受けやすくなるだけでなく、精神的な負担も軽減できます。
もしながらスマホによる事故に巻き込まれたら、早い段階で専門家に相談し、安心して生活再建に向けた一歩を踏み出すことが大切です。相談先に迷ったら、交通事故で豊富な実績を持つ「VSG弁護士法人」までぜひお気軽にご相談ください。

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