東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
交通事故のニュースなどをみると、「現場検証」や「実況見分」という言葉がよく使われています。
実況見分の場合は実況見分調書が作成されるため、事故の過失割合や損害賠償請求に関わってきますが、現場検証には事件性のある交通事故が関係しています。
一般的にはどちらも同じ意味で使われますが、法律上の意味は異なっているため、交通事故に遭遇した方は両者の違いをよく理解しておくことをおすすめします。
現場検証(実況見分)の流れがわかると、交通事故が起きたときに適切な対応ができるので、不当な過失割合に納得させられることもないでしょう。
また、実況見分調書は慰謝料などの請求額に影響するため、自分でもしっかり内容を確認しなければなりません。
今回は、現場検証と実況見分の違いをわかりやすく解説します。
目次
交通事故で現場検証が行われるのは、事件性があるケースです。
事件性のある交通事故には飲酒運転やひき逃げなどの人身事故があり、裁判所が発付した令状をもとに現場検証が行われる場合があります。
ただし、令状を必要とするかどうかは警察の判断になるため、事件性があれば必ず現場検証が行われるわけではありません。
また、交通事故のニュースでは実況見分とほぼ同じ意味で使われていますが、厳密には以下のような違いがあります。
現場検証と実況見分の違いを簡単に説明すると、以下のようになります。
道路交通法では交通事故の通報が義務付けられているため、駆け付けた警察官によって実況見分が行われ、事故の詳細を記録した実況見分調書が作成されます。
つまり、警察への通報によって行われるのが実況見分であり、結果的に事件性が判明した場合は現場検証が行われるケースがある、という理解になるでしょう。
ただし、物損事故では実況見分調書が作成されないケースが多く、代わりに簡易的な物件事故報告書が作成されることになります。
事件性がない交通事故は現場検証が行われないため、一般的な交通事故では実況見分になるケースが多いでしょう。
なお、実況見分調書が作成されない物損事故の場合、後で後遺障害が判明しても人身事故に切り替えられない可能性があります。
物損事故はけが人がいない事故として扱われるため、事故から数日後に負傷がわかっても、治療費や慰謝料の請求が認められなくなってしまいます。
事故の相手から「被害が車両だけなので物損事故にしないか?」と頼まれるケースもありますが、後遺障害は事故から数日後に判明することがあるので、安易に応じないよう注意しましょう。
交通事故の現場検証(実況見分)は以下のような流れで進んでいきます。
事故発生状況などの聴き取りもあるので、警察には正確な情報を伝えるようにしておきましょう。
交通事故の現場検証(実況見分)では、当事者となる加害者・被害者に事故の発生状況を聴き取りします。
事故直前の車両の位置関係や信号の状態、車の整備状況などを聴かれるので、できるだけ正確に答えましょう。
ただし、はっきり覚えていないことは無理に回答せず、「わからない」または「思い出すまで待ってほしい」と伝えておきましょう。
曖昧な回答をすると、後で事実を思い出しても実況見分の内容が覆らない可能性があります。
交通事故の現場検証(実況見分)が行われた場合、以下の内容を記載した実況見分調書が作成されます。
実況見分調書は刑事処分にするか否かを決定するための書類ですが、民事における過失割合や損害賠償請求の重要資料にもなります。
また、実況見分調書には加害者側の主張のみ記載されるケースが多いので、被害者になった場合でも実況見分に立ち会い、自分の意見を主張した方がよいでしょう。
なお、事故の当事者であれば、後日検察庁で実況見分調書の閲覧や謄写が可能です。
現場検証(実況見分)の所要時間は概ね20分程度ですが、複数の車両を巻き込む事故である場合や、けが人がいる事故の場合は、1~2時間程度になるケースもあります。
交通事故の現場検証(実況見分)には以下の注意点があるので、事故の発生状況をできるだけ正確に伝えなければなりません。
警察は現場検証(実況見分)から事件性などを確認しますが、事故の当事者にとっては過失割合や慰謝料を決定する重要な証拠になるため、最終的には損害賠償に関わります。
交通事故の現場検証(実況見分)が行われた場合、後で実況見分調書を修正してもらうことは原則的にできません。
事実と異なる受け答えをすると自分が不利な立場になる可能性が高いので、以下のような項目はできるだけ正確に、かつ覚えていることだけを警察に伝えてください。
事故状況は自分や相手のドライブレコーダー、または現場周辺の防犯カメラに記録されていることがあり、事実と異なる受け答えはすぐに発覚するので注意しましょう。
もし事実と異なる内容が実況見分調書に記載されていたときは、すぐにその場で訂正してもらいましょう。
実況見分調書は過失割合の決定に影響するため、相手側に有利な内容を記載された場合、自分が被害者であっても十分な補償を受けられなくなってしまいます。
警察官に事実が正確に伝わっていても、文字に起こすと違った意味になってしまうケースもあるので、必ず実況見分調書を確認してください。
また、専門用語が記載されていたときは、どういう意味なのか聞いておきましょう。
署名・押印した後の実況見分調書は原則的に訂正できないので、自分でもよく確かめておかなければなりません。
交通事故の現場検証(実況見分)では感情的にならず、冷静な気持ちで対応してください。
事故状況などを警察が聴き取る際、自分と相手の主張が噛み合わずに言い争いになるケースもありますが、冷静さを欠いてしまうと正確な情報が警察に伝わりにくくなります。
感情的に訴えても事実は変わらないので、自分と相手の主張がまったく噛み合わないときは、実況見分調書を別々に作成してもらいましょう。
交通事故によって負傷した場合、現場検証(実況見分)よりも治療を優先する場合があります。
事故発生当日の現場検証(実況見分)に立ち会えないときは、事故の相手や目撃者だけの現場検証(実況見分)を行ってもらい、後日、自分の現場検証(実況見分)をしてもらいましょう。
なお、時間が経過すると交通事故の記憶が薄れていくので、車両の位置関係なども含め、覚えていることはすべてメモなどに書き出してください。
以下のような書類やデータも保存しておくとよいでしょう。
ドライブレコーダーのデータは定期的に書き換わるので、事故当時の映像はパソコンへ移すようにしてください。
現場検証(実況見分)の結果に納得できない場合、自分で作成した供述調書や陳述書を追加提出できますが、弁護士に対応してもらう方がよいでしょう。
交通事故に詳しい弁護士へ依頼すると、事故状況を分析して精度の高い供述調書を作成してくれます。
また、自分が治療中で身動きが取れなくても、代理人として証拠収集してくれるので、ドライブレコーダーなどのデータも確実に保存できます。
事実を証明する証拠は時間が経つと集めにくくなるので、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
交通事故の発生を警察に通報すると、法律用語や警察内部の専門用語が飛び交うため、「何を言われているのかさっぱりわからない」といった状況になりかねません。
自分なりの解釈で対応すると、後で不利な結果になる可能性が高いので注意してください。
現場検証(実況見分)では事実だけを警察に伝え、わからないことがあれば必ず質問しましょう。
ただし、必ずしも事実どおりに実況見分調書が作成されるとは限らず、交通事故裁判に発展するケースも少なくありません。
交通事故の対応に不安がある方や、納得できない実況見分調書を作成されてしまった方は、少しでも早く弁護士へ相談してください。