東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
目次
交通事故で行われる現場検証とは、警察が事故現場や事故車両などから事件性がないかを調べる捜査のことをいいます。飲酒運転やひき逃げなど事件性のある人身事故では、裁判所の令状をもとに現場検証が行われる場合があります。
人身事故であれば必ず現場検証がおこなわれるわけではなく、事故状況次第では実況見分だけで捜査が終了するケースもあります。事件性のない一般的な交通事故では、現場検証ではなく実況見分で終了するケースが多いでしょう。
現場検証と実況見分の違いは、以下のとおりです。
捜査 | 特徴 |
---|---|
実況見分 |
|
現場検証 |
|
道路交通法では、事故が起きたら警察への通報が義務付けられています。駆け付けた警察官は事故現場で実況見分をおこない、事故の詳細を記録した実況見分調書が作成されます。
その後、事故に事件性があると判断した場合には、現場検証がおこなわれて加害者の刑事処罰を検討するという流れになります。
現場検証がおこなわれるのは、事件性のある人身事故だけです。物損事故では現場検証がおこなわれず、実況見分調書ではなく物件事故報告書が作成されます。
注意したいのは、実況見分調書が作成されない物損事故の場合、あとでけがをしていたことが判明しても人身事故に切り替えられない可能性がある点です。人身事故への切り替えが認められないと、治療費や慰謝料の請求も認められません。
事故の相手から「けがをしていないので物損事故にしないか?」と頼まれるケースもありますが、事故から数日して症状が出始めることもあるので、安易に応じないよう注意しましょう。
現場検証(実況見分)は早ければ20分程度で終わりますが、大規模な事故やけが人が複数いる事故の場合は、全体で1~2時間かかるケースもあります。
交通事故の現場検証(実況見分)では、事故の当事者である加害者・被害者に事故の発生状況に関する聴き取りがおこなわれます。事故直前の車両の位置関係や信号の状態、車の整備状況などを聴かれるので、記憶に基づきできるだけ正確に答えましょう。
ただし、はっきり覚えていないことは無理に回答せず、「わからない」または「思い出すまで待ってほしい」と伝えておきましょう。曖昧な回答をすると、あとで事実を思い出しても実況見分の内容が覆らない可能性があります。
実況見分調書には、以下のような事実が記載されます。
実況見分調書は刑事処分にするか否かを決定するための書類ですが、示談交渉で有利な過失割合を主張したり慰謝料を増額するために重要な資料となります。実況見分にはなるべく立ち会い、自分の主張を明確に伝えましょう。
なお、事故の当事者であれば、後日検察庁で実況見分調書の閲覧や謄写(とうしゃ)が可能です。
実況見分や現場検証に立ち会う際は、以下の点に注意してください。
実況見分調書に正しい内容が記載されているか、しっかり確認しておきましょう。事実と異なる内容が記載されてしまうと、示談交渉の際に賠償金を減額されてしまう恐れがあります。
あとで実況見分調書を修正してもらうことは原則的にできません。以下のような項目はできるだけ正確に、かつ覚えていることだけを警察に伝えてください。
事故状況は自分や相手のドライブレコーダー、または現場周辺の防犯カメラに記録されていることがあり、事実と異なる受け答えはすぐに発覚します。
もし事実と異なる内容が実況見分調書に記載されていたときは、すぐにその場で内容を訂正してもらいましょう。警察官に事実が正確に伝わっていても、文字に起こすと違った意味になってしまうケースもあります。また、専門用語が記載されていたときは、曖昧なままにせずどういう意味なのか聞いておきましょう。
現場検証(実況見分)では、感情的にならずに冷静な気持ちで対応してください。自分と相手の主張が噛み合わずに言い争いになるケースもありますが、冷静さを欠くと正確な情報が警察に伝わりにくくなります。
感情的に訴えても事実は変わらないので、自分と相手の主張がまったく噛み合わないときは、実況見分調書を別々に作成してもらいましょう。
証言を二転三転させないよう、記憶に基づき事実を正確に伝えることが重要です。証言がコロコロ変わると、「自分の過失を隠すために嘘をついているのではないか」と疑われます。
信用性の低い証言ばかりしていると、正確な実況見分調書が作成されず示談交渉で不利になります。また、刑事裁判にかけられた際にも不利な事情として扱われる可能性があります。
事故のショックで記憶が曖昧になることもありますが、よくわからない場合には「わからない」と回答しておくことをおすすめします。
交通事故でけがをした場合、現場検証(実況見分)よりも治療を優先する必要があります。事故発生当日の現場検証(実況見分)に立ち会えないときは、先に事故の相手や目撃者だけの現場検証(実況見分)を行ってもらい、後日に自分の現場検証(実況見分)をしてもらいましょう。
現場検証(実況見分)が後日になった場合、時間の経過により事故の記憶が薄れていく恐れがあります。車両の位置関係なども含め、覚えていることはすべてメモなどに書き出しておくとよいでしょう。
また、以下のような書類やデータも保存しておくことをおすすめします。
ドライブレコーダーのデータは定期的に書き換わるので、事故当時の映像が消えないようパソコンなどに移しておくとよいでしょう。
現場検証(実況見分)の結果に納得できない場合、自分で作成した供述調書や陳述書を追加で提出することができます。ただし、法律知識のない状態でこれらの書面を作成するのは困難です。対応は交通事故に強い弁護士に任せるのがよいでしょう。
弁護士なら、事故状況を的確に分析して精度の高い供述調書を作成してくれます。また、自分が治療中で身動きが取れなくても代理人として証拠を集めてもらえるので、ドライブレコーダーなどのデータも忘れることなく確実に保存できます。
事故の事実を証明する証拠は時間が経つと集めにくくなるので、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
交通事故の発生を警察に通報すると、法律用語や警察内部の専門用語が飛び交うため、「何を言われているのかさっぱりわからない」といった状況になりかねません。自分なりの解釈で対応すると、あとで不利な結果になる可能性が高いので注意してください。
現場検証(実況見分)では事実だけを警察に伝え、わからないことがあれば必ず質問しましょう。ただし、必ずしも事実どおりに実況見分調書が作成されるとは限らず、裁判に発展するケースも少なくありません。
交通事故の対応に不安がある方や、納得できない実況見分調書を作成されてしまった方は、少しでも早く弁護士へ相談してください。