東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
目次
実況見分調書とは、事故の当事者や参考人の立会いのもと警察官が現場検証(実況見分)を行い、その調査結果をまとめた書類のことです。
警察官が道路脇にパトカーを止めて、道路上にチョークで印をつけたり、写真を撮ったりしているシーンを見たことがある人も多いと思います。そのシーンが「実況見分」です。
実況見分調書を作成する理由は、当事者の刑事処分を決める際の証拠を集めるためです。
物損事故と違い、人身事故では当事者に刑事罰が科される可能性があります。警察は、犯罪捜査の一環として実況見分を行い事故状況を確認します。
なお、実況見分調書は警察官が作成します。事故の当事者は事故状況を警察に報告するだけで、調書を自分で作成することはありません。
実況見分調書には、主に以下の内容が記載されます。
実況見分では、警察官が事故現場や事故車両を撮影したり、当事者や目撃者などに事情聴取をおこないます。事故現場の見取り図も作成されるので、事故状況を示す客観的な証拠になります。
実況見分調書は刑事手続きに利用するために作成されますが、民事上で損害賠償請求をする際にも証拠能力がある資料として利用できます。
事故の発生状況について当事者の言い分が食い違う場合は、過失割合などの話し合いがまとまらず、示談交渉が進まないことがあります。ここで実況見分調書が有力な証拠となるのです。
ただし、自分の言い分を証明して適切な損害賠償金を受け取るためには、実況見分調書に事故の発生状況などが正確に記載されていることが前提です。記載内容が間違っていると、自分の言い分を証明できないだけでなく、場合によっては相手の言い分が証明されてしまいます。逆にこちらが多くの損害賠償金を支払うことになる可能性もあります。
したがって、実況見分調書に何が記載されるかは、民事で損害賠償請求をするためにも非常に重要です。
供述調書も、人身事故で警察が捜査をする際に作成する書類です。
通常、実況見分調書は交通事故の現場で立会人が説明した客観的な事実を記録します。一方で、供述調書はその人が話した内容を物語式の文章でまとめた書類です。そこには、客観的な事実だけではなく、加害者に対する感情なども記載されます。
また、供述調書を作成する際には、警察官が記載した内容を読み上げて間違いないかどうかを確認します。間違いないことを確認して初めて、調書への署名・押印を求められるという流れです。
それに対して実況見分調書を作成する際には、記載内容に間違いないかどうかを立会人に求める手続きはありません。立会人が調書に署名・押印することもありません。
したがって、実況見分調書には、自分の言い分と違う内容が記載されてしまう危険性が供述調書よりも高いという問題点があります。
実況見分で警察官が確認する主な内容は、「現場の客観的な状況」と「事故の発生状況」の2つです。
現場の客観的な状況については、立会人が説明をすることはありません。現場の状況を警察官が現認することで確認します。
実況見分調書には、主に次のような内容が記載されます。
確認項目 | 内容 |
---|---|
事故現場の条件 |
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交通規制の有無 |
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道路の条件 |
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事故の発生状況は、立会人の指示説明に基づいて警察官が現場の状況と照らし合わせたり、距離を計測したりして確認します。
実況見分に立ち会う際は、以下の4点に注意しましょう。
実況見分の立ち会いは任意ですが、できる限り拒否せずに警察へ事故状況を伝えるべきでしょう。
交通事故の発生状況や、事故直後の初期対応は当事者しか見ていないため、実況見分調書を作成する上での重要な補完情報になります。
立ち会いを拒否した場合、警察は相手側の主張だけ聴取することになり、事実と異なる内容で実況見分調書が作成される恐れがあります。
実況見分調書は過失割合に大きく影響する可能性があるので、できる限り実況見分には立ち会ってください。
事故の相手と一緒に実況見分に立ち会っていると、「それは違うだろう」などと自分の主張を押し付けられることがあります。しかし、ここで相手と議論してはいけません。
実況見分は議論をして真実を確定するものではなく、立会人の記憶を警察官に伝える手続きです。相手が何を言ってきても、自分の記憶のとおりに警察官に事実を伝えましょう。
自分の記憶通りに話していても、警察官から「こうでなければつじつまが合わない」と言われることもあります。
しかし、実況見分は事故当事者の記憶を正確に伝える手続きです。警察官から言い分を変えるように説得されても、応じてはいけません。
お互いの言い分が食い違っていると、実況見分調書を別々に作成する必要が出てきてしまいます。警察官としては、少しでも手間を省くために、言い分を変えるように勧めてくることがあるのです。
記憶が曖昧なそぶりを見せると、警察官は相手の言い分とつじつまが合うように誘導してくる可能性があります。自分の記憶に自信を持って、毅然とした態度で警察官に伝えましょう。
自分が警察官に伝えた記憶が間違っていたために、実況見分調書に間違った内容が記載されることもあります。後日誤りに気づいて警察官に申し出ても、訂正に応じてくれることはまずありません。
人間の記憶にはそもそも曖昧なところがあります。警察官は、事故から時間が経っていないときの方が当事者の記憶が正確だと考えます。
事故直後に実況見分が行われる場合、当事者は精神的に動揺している状態で警察官と話すことになります。ときには事実と違う内容を話してしまうこともあるでしょう。警察官もそういった事情は考慮してくれるので、できる限り冷静に事故の瞬間を思い出すことに注力してください。
後日、実況見分を行うことになった場合には、事故に遭った当日のうちに、事故の発生状況を自分でメモして記録を保管しておくことも大切です。
事故で大きなけがを負ってしまい救急搬送された場合は、当日の実況見分に立ち会えません。その場合、以下のような対処をしてください。
事故直後の実況見分に立ち会えない場合、立ち会った相手側の主張だけが実況見分調書に残ってしまいます。けがが回復したら、改めて実況見分をしてもらいましょう。
ただし、長期の入院になると事故当時の記憶が薄れてしまいます。正確な情報を早く警察に伝えたいときは、供述調書を先に作成してもらう方法もあります。
記憶が鮮明なうちに作成された供述調書であれば、相手と過失割合を争うときにも証拠能力の高い書類として扱われます。
実況見分調書を取り寄せる方法は、以下のとおりです。加害者の刑事処分の状況で請求先や請求方法が変わります。
【不起訴処分】
※ 自分で開示請求をする流れ
【公判中】
【確定判決後】
実況見分調書を入手するときは、以下の3点に注意してください。
実況見分調書を入手できるタイミングは、加害者が不起訴処分になったあと、刑事裁判中、確定判決後です。
したがって、警察が捜査している段階では、実況見分調書を入手することはできません。
物損事故の場合、実況見分調書が作成されないケースも多いので注意が必要です。
物損事故では、事故状況を簡潔に記載した「物件事故報告書」が作成されます。主に、以下のような情報が記載されます。
実況見分調書に比べて情報量が少ないため、事故状況の証拠にはなりにくいでしょう。
実況見分調書は法律によって保管期間が定められており、以下の期間を過ぎると廃棄処分になる可能性があります。
不起訴処分になった人身事故 | 1~5年 |
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起訴処分になった人身事故 | 3~10年(※) |
過失運転致死傷罪でも5年間しか保管されない場合があるので、実況見分調書はできるだけ早めに入手してください。
実況見分調書は民事上の損害賠償請求で重要な証拠となりますが、記載内容が正確でないと示談交渉でもめてしまう可能性があります。
実況見分や実況見分調書の内容について困ったことがあるときは、交通事故トラブルに強い弁護士に相談してみることをおすすめします。
実況見分調書は検察庁や裁判所から取り寄せできますが、手続方法を知らないと、余計な時間と手間がかかります。いざ取り寄せても、記載内容が専門的でわかりにくいケースもあります。
ベンチャーサポート法律事務所では、交通事故に関する無料相談を受け付けています。実況見分の流れや調書の取り寄せ方、調書の見方について悩みがあればぜひお気軽にご相談ください。