東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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妊娠中に交通事故にあったときにはどのように対処したらよいのでしょうか。
お母さんはお腹の中の子どものことが気がかりで仕方がない状況だと思います。
今回は、妊婦さんが交通事故に遭った場合の慰謝料の問題について解説していきます。
目次
妊娠中の女性が交通事故に遭ってしまった場合には、まずはどのような対応が必要になるのでしょうか。
以下必要な対応について解説していきます。
交通事故にあった場合には、まずは警察や保険会社に連絡しなければなりません。
警察は事故現場を保存し、交通事故の状況を客観的に見分してくれます。
このように警察によって作成された書面は、今後の手続においても重要な資料となります。
また、加入している保険会社にも連絡をして弁護士特約が利用できるか否かについて確認しておきましょう。
弁護士特約とは、交通事故について弁護士に依頼した場合に必要になる弁護士費用を保険会社が負担してくれる制度です。
妊娠中に相手方の保険会社と複数回連絡を取らなければならないのは、母体にとって負担ですので、弁護士に依頼しておき、必要に応じて弁護士に相談できるようにしておくと安心です。
そして、事故の事実についても保険会社に早期に連絡しておくことで今後の手続がスムーズに進む可能性が高まるでしょう。
交通事故によって腹痛や出血がある場合にはただちに救急車を呼びましょう。
駆け付けた救急隊員には自身が妊娠中であることをきちんと告げておきましょう。
交通事故による目立った外傷がみられない場合であっても、事故によって腹部に衝撃が伝わっている可能性も考えられますので、産婦人科で胎児への影響をきちんと検査してもらうようにしましょう。
胎児への影響を考えてシートベルトの装着の仕方にも注意を向けておきましょう。
具体的には腰部のベルトは腹部の膨らみを避けて腰骨のできるだけ低位置に通して、肩ベルトについては、首に負担がかからないように腹部の側面を通します。
たとえ交通事故による目立った症状がなかったとしても、お腹の中の子どもへの影響を考慮して事故後すみやかに病院で検査を受けることが重要です。
交通事故の加害者や加害者側の保険会社との示談交渉は、子どもを出産した後に行うようにしましょう。
なぜなら、生まれてくる子どもへの影響がそれまではわからないからです。
出産まで示談交渉を急ぐ必要はありません。
加害者や加害者側の保険会社に対しては、出産までは示談をしない旨を告げておきましょう。
ここで、消滅時効について注意が必要です。
法改正により、2020年4月1日以降の人身事故の時効については「交通事故の発生日から5年」となりました。
2020年3月31日以前については「事故日から3年」で時効になります。
次に、交通事故にあった場合に妊婦さんに一般的にみられる傾向の多い症状について説明していきます。
切迫早産・切迫流産とは腹部に強い衝撃が加わることで、流産及び早産しそうになる状態をいいます。
切迫流産や切迫早産の症状としてはお腹の張りや出血、破水、子宮口の開大などがありえます。
胎盤早期剥離とは、胎児への血液や酸素の供給が止まってしまう症状です。
妊娠後期に腹部に強い衝撃が加わることで発生する可能性があります。
出血や激しい子宮の痛みなどがみられます。
子宮破裂とは、腹部に衝撃が加わることで、子宮が破裂してしまう症状のことをいいます。
子宮破裂は、以前に帝王切開での出産経験がある場合に引き起こしやすくなる傾向があります。
一般に、交通事故によって首や腰、肩などを痛めることは多いです。
むち打ち症と呼ばれている症状は正式には頸椎捻挫や腰椎捻挫と言われています。
頸椎捻挫や腰椎捻挫は、交通事故による衝撃によって首や腰が鞭のようにしなることによって、身体に神経痛などを引き起こす症状のことを言います。
胎盤には母体と胎児の血液が混ざらないようにするために薄い膜があります。
交通事故の衝撃でこの膜が破れてしまうと、母体と胎児の血液が混ざり合ってしまいます。
お腹の胎児に骨折などの外傷が生じることを言います。
妊婦さんが交通事故にあった場合には、妊娠した女性自身の治療と同時に胎児に対する検査も必要になります。
まずは、母体については捻挫や骨折などの検査を整形外科で受診しましょう。
そして、お腹の中の子どもについては、普段から利用している、かかりつけ医の産婦人科で検査してもらうようにしましょう。
症状の中には母体には症状が現れず、胎児にのみ影響が出るものもあります。
交通事故によってお腹の中の子どもに影響する可能性があるものについて以下詳述していきます。
早期に対処することで避けることができる症状もありますので、すみやかに対処することがもっとも重要です。
妊婦さん自身に何らかの症状が認められる場合のみならず、とくに症状がない場合も病院を受診することが大切です。
妊娠中後期以降は子宮が大きくなっているため、交通事故による外傷を受ける可能性が高くなり、切迫早産を起こす可能性も高まります。
切迫早産とは一般的な流産とは違い、胎児は生存している点が異なります。
切迫早産や流産の場合には、出血や下腹部の痛みが現れるのでできるだけ早く産婦人科を受診する必要があります。
切迫流産または早産と診断されたときには、投薬治療により安静にしておかなければなりません。
腹部打撲により、胎盤早期剥離を引き起こす可能性があります。
胎盤早期剥離とは、胎児と母体を結びつける胎盤が子宮の中ではがれてしまう症状で、胎児の生命が危険な状態になります。
胎盤早期剥離によって、母体に現れる症状としては子宮の痛みと出血です。
胎盤剥離への対処法としては、お腹の中の子どもへの血液や酸素提供がストップしてしまわないようにしなければなりませんので、すみやかに帝王切開をする必要があります。
子宮破裂とは、腹部に衝撃が加わることで、子宮が破裂してしまう症状のことをいいます。
子宮破裂は、交通事故後に激しい腹痛を起こします。
このような場合にはすみやかに救急車を呼んで、帝王切開で出産するという手段をとることになります。
頸椎捻挫や腰椎捻挫の場合には電気治療を行うことがありますが、妊娠している女性は電気治療を受けることができませんので、辛い痛みが続く可能性があります。
頸椎捻挫や腰椎捻挫に対する対処法としては、整形外科の医師に診断してもらい、その医師の指示に従って治療を受けることになります。
胎児母体間輸血症候群になると胎児が貧血を引き起こすリスクがあります。
胎児母体間輸血症候群は、母体には影響が出ないために症状に気が付きにくいため注意が必要です。
より細心の胎児への検査が必要とされます。
具体的にはエコー検査や胎動の有無を確認したり、心拍の状況のチェックや血液検査を行ったりすることで胎児母体間輸血症候群の診断が行われます。
交通事故の衝撃で胎児への直接的な外傷を生じさせる場合があります。
交通事故の衝撃で胎児そのものに直接的な影響が出ることは少ないものの、まれに骨折や頭蓋内出血を起こしている場合が考えられます。
このような胎児に対して直接的に骨折や頭蓋内出血が引き起こされているか否かは腹部エコーを実施することで確認することができます。
妊娠している女性の場合には、妊娠していない人と同じ治療を行っていると、それが胎児に悪影響を及ぼしてしまうリスクがあります。
そのようなことを回避するためにも、治療を受ける際には自身が妊婦であることを医師にきちんと伝えることが重要です。
医師に妊婦である旨を伝えていれば安全な治療を実施してくれるはずですが、ここでは妊婦さんが気を付けるべき治療法を紹介していきます。
ここで説明することは一般論ですので、治療の詳細については担当の主治医にしっかりと確認し指示に従うようにしましょう。
妊娠中にレントゲン検査が受けられないというのは誤解です。
妊婦さんへのレントゲン検査を制限している病院もありますが、妊婦さんであってもレントゲン検査を受けてはいけないとは言い切れません。
「公益社団法人日本放射線技術学会」は以下の内容を公表しています。
まず、多くのX線検査での胎児の被ばく量は、中絶を要するほどではない。
そして、多くの一般的なX線検査での被ばくを理由に、胎児の奇形や精神障害、小児がん、白血病などの危険性が上昇することはない。
母親の胸部・頭頚部・四肢のX線検査では胎児はほぼ被ばくすることはない。
妊娠に気づかないほどの妊娠初期に受けたX線検査が胎児に及ぼす影響はほとんどない。
しかし、上記のような見解を受けても、お腹の中の子どもへの影響を心配する気持ちは十分わかります。
そのような不安があるのであれば、医師からレントゲン検査が必要だと言われた場合に胎児への影響が不安である旨を素直に医師に伝えて相談してみましょう。
医師が適切に対応してくれると思います。
交通事故により受傷し、日常的に痛みが継続する場合やけがの治療を継続する場合、通常は痛み止めの薬や麻酔を投与することが多いと思います。
しかし、妊婦さんの場合には投与される薬が胎児に何らかの影響を与える場合もあり、一定の薬については服用ができない可能性もあります。
もし、投薬治療ができないことによって我慢ができないほどの痛みが継続し、日常生活に支障がでるような場合には、かかりつけの産婦人科に相談してみましょう。
なお、この通院の費用や診察料なども損害として加害者側に請求できますので、忘れないように請求しましょう。
頸椎捻挫や腰椎捻挫(むち打ち症)の場合には、整骨院・接骨院でマッサージや電気治療を受けることがあります。
しかし、マッサージや電気治療という施術も胎児に悪影響を及ぼす可能性があります。
したがって、妊婦さんの場合には上記のような施術が受けられないようになっていたり、受けられたとしても微弱な施術しか受けられないとされていたりする可能性が高いです。
特に、妊娠した女性は妊娠初期には妊娠していることがわかりにくいため、治療を受ける際には必ず妊婦であることを病院や整骨院等に伝え、母体に配慮してもらうようにしましょう。
ここでは妊婦さんが交通事故で請求することができる慰謝料について解説していきます。
交通事故によって胎児にとくに影響がなかった場合には、交通事故の被害者が妊婦さんでないケースと同じように慰謝料を受け取ることができます。
妊婦さんが請求することができる慰謝料は以下の3種類です。
交通事故が原因で受傷して、入院または通院により治療することを余儀なくされたことで生じる精神的または肉体的な苦痛に対してこれを賠償するために支払われる慰謝料のことを言います。
交通事故によって入院または通院する必要が生じた場合には、基本的には入通院慰謝料が発生すると考えて差し支えありません。
入通院慰謝料の具体的な金額については、入院または通院の期間・回数によって計算されます。
入院ないし通院期間が長くなればなるほど、または回数が多くなれば多くなるほど入通院慰謝料の金額は大きくなります。
後遺障害とは、交通事故で治療を継続したにもかかわらず、これ以上の改善が見込めないと医師が判断し、後遺障害として認定されたものをさします。
後遺障害慰謝料とは、このような後遺障害が残ったことで被害者に生じる精神的または肉体石な苦痛に対して、これを賠償するために支払われる慰謝料のことをさします。
後遺障害は、事例によって今後一生被害者の身体に残り、被害者はこの障害と付き合っていかなければならないものです。
したがって、将来のそのような被害者の負担についても考慮したうえで慰謝料金額が決定されていると言えるでしょう。
そのため、入通院慰謝料と比較した場合に、一般的に後遺障害慰謝料の方が慰謝料の金額が高額となる傾向があります。
被害者が交通事故で死亡した場合に死亡させられたことに対する精神的または肉体的な苦痛に対する損害賠償金のことを言います。
実際には被害者の遺族が加害者に対して請求することになります。
被害者の遺族は、被害者から相続した被害者自身の死亡慰謝料とは別に、被害者を亡くした精神的または肉体的な苦痛による遺族独自の慰謝料を請求することが認められています。
交通事故で慰謝料が請求できるのは、基本的に被害者が事故によって受傷して人身事故として扱われた場合になります。
なぜなら自動車その他の物品が壊れたり故障したりしただけの物損事故では、慰謝料は問題にはならないからです。
したがって、短期間であっても病院に通院した期間がある場合であれば慰謝料の請求ができるようになるでしょう。
交通事故による衝撃や事故後の手術や治療の影響で、障害のある赤ちゃんが生まれてきた場合にはどのような慰謝料を請求できるのでしょうか。
このようなケースでは、加害者に対してその赤ちゃんに対する治療費、後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益を請求することができます。
後遺障害逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が喪失または減少したことによって、将来にわたって本来であれば得られた収入が得られなくなったことに対する損害賠償請求です。
また、生まれた赤ちゃんの障害が重大なもので、死亡に匹敵すると評価できる場合には、赤ちゃんの母親及び父親に対する慰謝料も請求できる可能性があります。
しかし、ここで重要なのは、赤ちゃんに生じた障害が交通事故と因果関係があると証明できなければならないことです。
因果関係が立証できない場合には、上記のような慰謝料は請求できない可能性が高いです。
交通事故が原因で受傷したことによって中絶した場合、母親は加害者に対して慰謝料を請求することができます。
しかし、まだ出生していない胎児に対する慰謝料は請求できません。
交通事故による中絶には3つのケースがあります。
1つ目は交通事故の衝撃や治療を考慮してやむを得ずに中絶するケースです。
2つ目は必ずしも中絶の必要性はないが、交通事故や治療の影響を考慮し中絶するケースです。
3つ目は交通事故後に治療中に妊娠したが、治療の影響を考慮し中絶するケースです。
上記いずれの場合でも被害者は加害者に慰謝料を請求することができます。
具体的な事案としては、妊娠3~4か月で、事故後の容態や投薬治療による胎児への影響を考慮した結果妊娠継続は不可能と判断し中絶したケースで、中絶による慰謝料100万円が認められました。
このケースでは妊婦が17歳という若年であったことから、出産可能性が低いケースとして慰謝料額が低額になっている可能性が高いです。
交通事故やその後の治療の影響で妊婦さんが流産してしまった場合には、母親の身体的負担や精神的負担を考慮して、母親の入通院慰謝料が増額されます。
この場合も交通事故と流産との間に因果関係が立証できなければなりません。
また、まだ出生していない胎児に対する慰謝料は請求できません。
具体的な事例を見てみましょう。
事故の衝撃によって妊娠2か月の胎児が死亡したとして慰謝料150万円が認められたケースがあります。
また、出産予定日の4日前により事故により死産したとして慰謝料800万円が認められたケースもあります。
ここでは妊婦さんが示談交渉する際のポイントを説明します。
まず、示談交渉は出産後に開始するべきです。
なぜなら検査の段階で胎児への影響がないとされた場合であっても、実際の影響は出産後までわからないからです。
仮に出産前に示談が成立していた場合に、生まれてきた赤ちゃんに障害などがあっても再度示談交渉ができない可能性があります。
したがって、妊婦さんの示談交渉は出産後にするべきです。
また、損害賠償請求権は「損害を知った時から5年」で消滅してしまいます。
生まれてきた赤ちゃんに障害があり損害賠償請求する場合には、基本的には赤ちゃんが出生した日または、障害があると診断された日から5年です。
妊婦さんの交通事故の示談交渉は弁護士に依頼することをおすすめします。
示談交渉は加害者側と電話やメール、FAXを用いて行います。
自分で交渉する場合には産前・産後のあわただしい時期に相手方と示談交渉をしなければならなくなります。
そのような状況下では自身の主張をしっかりと伝えて好条件を引き出すという成果を得るのは難しいと思います。
そこで示談交渉は弁護士に一任してしまうことがおすすめです。
また、加害者側の保険会社は交渉のプロです。
専門的な用語を用いて、低い金額で和解を迫ってきます。
時には高圧的な態度を取られることもあるかもしれません。
弁護士に保険会社との和解交渉を任せることで、このような被害者の心理的なストレスを軽減することができます。
加害者側の保険会社は任意保険基準という自社基準に基づいて和解案を提示してきます。
しかし、この基準は弁護士が交渉に用いる弁護士基準よりも低額な基準となっています。
そこで、弁護士に依頼することがポイントとなってきます。
弁護士に依頼することで、慰謝料相場の高い弁護士基準での交渉が可能になるため、好条件で和解を成立させられる可能性が高くなります。
今回は妊婦さんが交通事故にあったときに受け取ることができる慰謝料について解説してきました。
お母さんが産前・産後に通院を続けながら示談交渉をするのは非常に困難が伴うことが多いと思います。
そのような場合には、一人で悩まず、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。