東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、皆様の問題に真摯に取り組む所存です。
目次
交通事故で被害者を死なせてしまったとしても、その時点で人生が終了するわけではありません。
総務省の統計データによると、令和5年に起きた交通事故の件数は307,930件で、そのうち死亡事故件数は2,618件となっています。
参照:令和5年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について|e-Stat 政府統計の総合窓口
毎年多くの死亡事故が発生していますが、加害者全員の人生が終了しているというのは言い過ぎです。死亡事故を起こしている以上重い責任を負うことにはなりますが、人によってはその後の人生をやり直せるケースもあるのです。
交通事故で被害者を死なせてしまった場合、次の3つの理由から人生が終了すると言われるケースが多いです。
交通事故で被害者が亡くなってしまった場合、加害者は奪ってしまった命の重さを実感します。
精神的ショックから立ち直れなくなってしまう人もいるでしょう。責任感が強い人ほど将来に希望が持てなくなり、「人生が終わってしまった」と強く感じる可能性が高いです。
たとえ故意に起こした事故ではなかったとしても、被害者を死なせてしまったことによる自責の念は、相当重いものになるでしょう。
死亡事故の加害者は、高額な賠償金の支払い義務を負うことになります。
事故状況によっては賠償金が1億円を超えるケースもあり、無保険だった場合には借金を背負うことになってしまうでしょう。
その場合、生活が困窮し日常生活が一変する可能性が高いです。多額の借金を背負うことで将来への希望が持てなくなるだけでなく、家庭崩壊につながる可能性もあります。
死亡事故を起こしてしまった場合、事故状況によっては刑事裁判で有罪判決を受け、刑事罰を科される可能性があります。
実刑判決が出て刑務所に服役することになった場合、耐えられなくなった家族との関係が崩壊してしまう可能性があります。
また、子どもがいじめの対象になったり、周辺住民に噂を立てられ引っ越しを余儀なくされることもあるでしょう。
職場で噂が広まれば仕事を続けられなくなる恐れもあるため、日常生活は事故前と大きく変わってしまいます。
交通事故で被害者を死なせてしまった場合、加害者は大きく3つの責任を負います。
死亡事故を起こして人生が終了するかどうかは、加害者の責任について正確な知識をもって判断する必要があります。
交通事故の加害者が負う行政責任とは、運転免許の停止・取り消し処分のことです。
交通違反があると運転免許に点数が加算されていき、一定の点数に達するとペナルティを受けることになります。
加算される点数は交通違反の内容により異なりますが、死亡事故の場合、被害者にも過失がある過失運転致死罪でも15点以上の点数が加算されます。つまり、一発で免許取消しの基準を超えてしまうのです。
より悪質な危険運転致死罪が成立する場合には、違反点数が62点加算されます。この場合、欠格期間も10年と長期に及ぶ場合があります。
交通事故の加害者は、被害者や遺族に対して損害の賠償義務を負います。
賠償金には、慰謝料や逸失利益などさまざまな項目があります。具体的な金額は示談交渉によって決まりますが、たとえば死亡慰謝料の場合、弁護士基準で2,000〜2,800万円が相場となります。裁判例では5億円の賠償金が認められたケースもあり、おおよそ個人で支払うのは困難である可能性が高いでしょう。
任意保険に加入していれば保険を使うことで賠償金を支払えます。一方、無保険だった場合には、自賠責保険の補償上限額を超える部分については、加害者自身が賠償する義務を負うことになります。
交通死亡事故の加害者は、事故状況によっては刑事裁判にかけられ刑事罰を負う可能性があります。刑事裁判で有罪判決が出た場合、前科がついてしまい日常生活に悪影響を及ぼすでしょう。
刑罰の重さは、成立する犯罪によって異なります。
成立する犯罪 | 刑罰 |
---|---|
危険運転致死罪 | 1年以上20年以下の懲役 |
準危険運転致死罪 | 15年以下の懲役 |
過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪 | 12年以下の懲役 |
過失運転致死罪 | 7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金 |
無免許加重 | 成立する犯罪の刑が重くなる |
道路交通法違反 | 該当する項目によって異なる |
どの犯罪が成立しどのような刑罰が科されるかは、事案によって異なります。
たとえば、高速道路でのあおり運転や酩酊状態での飲酒運転で事故を起こした場合には、危険運転致死罪が成立する可能性が高いです。また、居眠り運転や前方不注意で事故を起こした場合には、過失運転致死罪の成立が争われることになります。
不注意による事故であれば、争い方次第で執行猶予がつく可能性もあるでしょう。一方で、飲酒運転やあおり運転など悪質性が高い事故の場合には、実刑判決が出る可能性が高いです。
交通犯罪による刑罰の相場
①危険運転致死罪、②過失運転致死、③過失運転致死アルコール等影響発覚免脱、④無免許過失運転致死、⑤無免許過失運転致死アルコール等影響発覚免脱、⑥道路交通法違反について、それぞれの科刑状況につき以下のページを参照にデザインの作成をお願いしたいです。
参照ページ:令和6年版犯罪白書 4-1-3-4表「交通事件 通常第一審における有罪人員(懲役・禁錮)の科刑状況」P180
交通死亡事故が発生した場合、次のような流れで手続きが進みます。
なお、損害賠償など民事上の手続きについては、刑事手続きと並行して進んでいくケースが多いです。
交通事故が発生すると、警察の捜査が開始されます。
以下のケースに該当する場合には、身柄を拘束される可能性があるでしょう。
一方で、これらの事情が認められない場合には、逮捕せずに捜査が進められる場合もあります。
また、その場では逮捕されなかったとしても、「嫌疑の相当性」や「逮捕の必要性」が認められれば、後日逮捕もあり得ます。
警察での捜査の結果、さらに詳しく調査が必要だと判断された場合には、検察官が事件を引き継ぎます。
検察官が捜査した結果、刑事裁判にかけるのが相当であると判断した場合には、起訴することで刑事裁判に移行します。身柄を拘束されていなかった場合には、在宅のまま起訴されることになります。
なお、身柄を拘束されていた場合には、送検から最大20日の間で起訴・不起訴の判断を下すことになります。一方で、身柄を拘束されていなかった場合には、送検から起訴までのタイムリミットがありません。そのため、在宅事件の場合には判断が下されるまでに時間がかかる場合があります。
刑事裁判では、容疑者に刑事罰を与えるのが相当かどうかが審理されます。事故状況や過去の裁判例、お互いの主張などを総合的に判断し、裁判官が判決を下します。
過失致死などのケースでは、執行猶予判決が出て一定期間の間で刑の執行が猶予されるケースも多いです。一方で、危険運転致死罪など悪質なケースでは、実刑判決が出て懲役刑など刑の執行を受けるケースが多いでしょう。
交通死亡事故の加害者になってしまった場合、まず何をすればよいのでしょうか。
交通事故が発生した直後にすべきことは、以下のとおりです。
負傷者の救護、安全確保、警察への報告は法律上の義務です。怠った場合には刑罰が科せられるほか、ひき逃げ犯としてより重い犯罪が成立する可能性があります。
また、交通事故の加害者はいち早く示談を成立させることも重要になります。賠償金についての示談が成立していれば、刑事手続きにおいて起訴猶予処分になったり、執行猶予付き判決が出る可能性が多少上がります。
ただし、金銭的示談が成立しているからといって刑事責任を必ず免れることができるわけではありません。被害者が死亡している以上、重い刑事罰を受けることは覚悟しておくべきでしょう。
交通死亡事故の加害者が、被害者の葬儀に参列すべきかどうかはケースバイケースです。
遺族に誠意を見せる意味では参列するのがベストですが、凄惨な事故の場合、加害者の顔も見たくないと考える遺族も多いです。遺族の感情を逆撫ですると、精神的苦痛が増大したとして示談交渉が難航する可能性があります。
もし参列する場合には、保険会社の担当者や弁護士など第三者に同行してもらうのがよいでしょう。持参する香典についても、適切な金額を弁護士に確認しておくのがおすすめです。
交通死亡事故の加害者になってしまったら、なるべく早めに弁護士に相談してください。
弁護士に依頼する主なメリットは、以下のとおりです。
死亡事故では、賠償金額が高額になります。遺族も弁護士を入れて対応してくるケースが多いので、対等な立場で手続きを進めるためにも、こちらも弁護士を入れて対応するメリットが大きいです。
また、刑事事件に強い弁護士に依頼すれば、早期釈放・不起訴処分・執行猶予付き判決・無罪判決獲得などに尽力してもらえます。
同じ交通死亡事故の加害者でも、成立する犯罪によって科される刑罰が異なります。
たとえば、危険運転致死罪が成立する場合、1年以上20年以下の懲役を科される可能性があります。ただし、実際には危険運転致死罪が成立するケースで懲役1年程度の判決になることは稀であり、5年以上の懲役刑になる場合が多いです。
また、過失運転致死罪で懲役刑になる場合、法定刑が7年以下の懲役であっても懲役3年以下の判決が出るケースが多いです。
交通死亡事故の責任を負うのは、あくまでも加害者本人です。そのため、家族が直接刑事責任や民事責任を負うことにはなりません。
しかし、加害者が賠償責任を負ったり、刑事罰を受けることで、加害者家族の生活に間接的に影響を及ぼす場合はあるでしょう。
交通死亡事故の責任から逃れることはできません。
事故を起こしてしまったショックから、責任から逃れる方法を考えてしまうかもしれません。しかし、過失とはいえ被害者を死なせてしまっている以上、その責任は真摯に受け止めるべきです。
くれぐれもひき逃げをしたり、責任逃れの言動で遺族を苦しめないようにしてください。示談交渉が困難になり、より重い刑事罰を科されてしまう可能性があります。
交通死亡事故の加害者は、主に行政責任・民事責任・刑事責任の3つの責任を負います。いずれにしても重い責任を負うことになりますが、必ずしも人生が終了してしまうわけではありません。
長い時間をかけて罪をつぐなうことになりますが、真摯に向き合うことで今後の人生に希望を持てるようになります。
もし交通事故の加害者になってしまった場合には、なるべく早めに弁護士に相談しましょう。精神的支えになってくれるだけでなく、不慣れな手続きをスムーズに進めてもらえます。