東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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目次
主婦が交通事故の被害者となった場合、会社員などと異なり交通事故で大きく収入が減るということがないため、損害賠償額が少なくなるのではないかと思うかもしれません。
しかしこれは誤りです。
被害者が主婦である場合にも、それによって家事労働ができなくなった分に見合う損害賠償を受け取ることができます。
そこで、専業主婦や兼業主婦が交通事故にあった場合の、損害賠償や慰謝料の計算方法についてくわしく説明します。
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一般に、交通事故の被害者が受け取ることのできる損害賠償金の内訳は、以下のとおりです。
種類 | 内容 |
---|---|
慰謝料 | 精神的な苦痛に対して支払われる |
治療費・入院費 | 治療にかかる費用、入院雑費なども含まれる |
通院交通費 | タクシーも含め通院にかかった交通費 |
通信費 | 交通事故によりかかった通話代など |
修理費 | 車両の修理にかかった費用(レッカー代・代車の費用も含む) |
付き添い看護費 | 入通院で付き添いが必要になった際に認められる費用 |
器具等購入費 | 治療や後遺症が残った際にかかる必要(車椅子・松葉杖など) |
家具等改造費 | 後遺症が残ることによってかかる自宅のバリアフリー化などの費用 |
物損費用 | 交通事故が原因で破損したものの費用 |
葬儀関係費 | 葬儀に関する費用 |
休業損害 | 休まずに働いていれば得られた現在の収入減少に対する損害賠償 |
逸失利益 | 交通事故がなければ将来得られたであろう経済利益 |
交通事故の被害者が主婦である場合でも、治療費や通院にかかる交通費などの実費を損害として加害者に請求できることについては争いがありません。
これは収入があるか否かとは無関係の損害賠償金であるため当然です。
これに対し、休業損害、逸失利益、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料については、被害者が主婦である場合の計算方法が問題となります。
なかでも休業損害と逸失利益については、被害者が主婦であると交通事故によって仕事を休んで勤務先からの収入が減るということがないため、どのように計算すべきかが重要となってきます。
休業損害、逸失利益、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料については、認められた場合の金額も大きいため計算方法をよく理解しておく必要があります。
なお、後で説明するように、被害者が専業主婦である場合と兼業主婦である場合とで計算方法が異なる点にも注意しましょう。
先ほど説明したとおり、主婦が交通事故にあった場合にもらえる慰謝料としては、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。
交通事故の損害賠償額の相場については、自賠責基準、任意基準、弁護士(裁判)基準という3つの基準があります。
種類 | 内容 | 金額 |
---|---|---|
自賠責保険基準 | 最低限度の補償 | もっとも低い |
任意保険機基準 | 任意保険会社が独自に設定 | 自賠責保険よりは高い |
裁判所基準 | 弁護士依頼・裁判時に採用される基準 | もっとも高い |
自賠責基準とは、自賠責保険における基準であり交通事故の被害者に最低限補償されるものです。
任意基準とは、加害者が加入している任意保険会社が独自に定めている基準ですが基本的に公表はされていません。
弁護士(裁判)基準とは、過去の裁判例に沿った基準であり裁判を起こせばもらえる可能性の高い金額といえます。
金額は、自賠責基準<任意基準<弁護士(裁判)基準となっています。
加害者側の任意保険会社と示談交渉を進める場合、保険会社は自社の任意基準をベースに損害賠償額を提案してきます。
しかし、任意基準は多くの場合に自賠責基準と大差がなく、裁判をすれば認められる金額である弁護士(裁判)基準と比較すると非常に低額におさえられています。
被害者としては弁護士(裁判)基準で示談交渉を進めたいところですが、被害者本人が任意保険会社と交渉をしても弁護士(裁判)基準での示談には応じてもらえないことが多いといえます。
このとき、保険会社との交渉を弁護士に依頼すれば弁護士(裁判)基準に近い金額で話を進めることが可能となります。
保険会社からすれば、「被害者が弁護士に依頼しているということは交渉が決裂した場合に裁判を起こしてくるだろうから結局弁護士(裁判)基準での解決になる。
そうであれば、弁護士(裁判)基準での示談を受け入れた方が早期に解決できる」と考えるためです。
入通院慰謝料とは、交通事故によって被害者が受ける精神的苦痛に対する慰謝料です。
治療期間や入院および通院の日数によって定型的に定められています。
自賠責基準によれば、入通院慰謝料は1日あたり4,200円が原則となります。
対象となる日数は、実治療日数の2倍と治療期間の日数を比較して日数が小さくなる方とします。
実治療日数とは、実際に入院または通院した日数のことです。
治療期間とは治療開始日から治療終了日までの通算の日数をいい、実際に入院または通院したかは問いません。
これに対し、弁護士(裁判)基準においては、むちうち症で他覚症状がない場合と、それ以外の場合とで異なる金額が定められています。
以下の表では、むちうち症ではない場合の入通院慰謝料について、自賠責基準と弁護士(裁判)基準の違いをみていきます。
実治療日数/治療期間 | 自賠責基準の入通院慰謝料 | 弁護士(裁判)基準の 入通院慰謝料 |
---|---|---|
15日/通院2か月 | 12万6,000円 | 52万円 |
35日/通院3か月 | 29万4,000円 | 73万円 |
60日/通院3か月・入院2か月 | 50万4,000円 | 154万円 |
入通院慰謝料については、自分で示談交渉を進めた場合の相場である自賠責基準と弁護士に依頼した場合の相場である弁護士(裁判)基準とで3倍から4倍の開きがあることがわかります。
後遺障害慰謝料とは、交通事故によって負ったケガが完治することなく後遺障害となった場合に受け取ることのできる慰謝料です。
後遺障害慰謝料を受け取るためには、後遺障害等級の認定が必要となります。
後遺障害等級は、後遺障害の程度や部位に応じて1~14級までに分けられています。
1級に近付くほど障害が重いこととなり、等級に比例して損害賠償額も大きくなります。
交通事故の後遺障害として比較的多いのは、むちうち症によるものです。
むちうち症の場合の後遺障害等級は14級9号か12級13号に認定されます。
この場合の慰謝料は、先ほどの基準によれば以下のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責基準の後遺障害慰謝料 | 弁護士(裁判)基準の 後遺障害慰謝料 |
---|---|---|
14級9号 | 93万円 | 290万円 |
12級13号 | 32万円 | 110万円 |
被害者が自分で保険会社と示談交渉をした場合には自賠責基準に近い金額となります。
これに対し、弁護士に依頼した場合には弁護士(裁判)基準に近い金額となることが多いといえます。
そうだとすれば、自分で交渉した場合と弁護士に交渉を依頼した場合とで、受け取れる慰謝料の金額に3倍以上の開きがあることがわかります。
死亡慰謝料は、交通事故によって被害者が死亡した場合に遺族が受け取ることのできる慰謝料です。
死亡慰謝料は家族内の立場や家族の人数によって変わります。
たとえば、一家の家計を支える親が死亡した場合は最も高額になります。
したがって、被害者が主婦である場合特有の計算方法が問題となるのが死亡慰謝料ということができます。
被害者が専業主婦であった場合の死亡慰謝料は、自分で示談交渉を進める際の相場である自賠責基準では死亡者本人について350万円、遺族について請求者が1人の場合は550万円、2人の場合は650万円、3名以上の場合は750万円となります。
被害者に子どもなどの被扶養者がいる場合には、さらに200万円が加算されます。
たとえば、主婦であった母親が交通事故で亡くなった場合、夫と子ども1人が請求できる慰謝料は自賠責基準では1,200万円となります。
これに対し、弁護士に依頼した場合の相場である弁護士(裁判)基準では、被害者が主婦である場合の死亡慰謝料は一律2,400万円となっています。
自賠責基準と異なり、請求者の数や子どもの数に左右されません。
死亡慰謝料については、自分で示談交渉を進めた場合と弁護士に依頼した場合とで約2倍の開きがあるといえます。
主婦が交通事故にあった場合、慰謝料以外で受け取ることのできる損害賠償として休業損害や逸失利益があります。
休業損害とは、交通事故が原因で現実に仕事ができなくなったことについての損害です。
交通事故の被害者が主婦である場合には、家事ができなくなった分を金銭に換算して損害賠償請求をすることができます。
主婦の場合には給与収入がないため「交通事故によって収入が減った」とはいいにくく請求できないのではないかと思われがちです。
しかし、主婦が従事する家事は、実態としてみれば労働としての側面があります。
そうだとすれば、主婦だからといって休業損害が受け取れないというのは公平ではありません。
このため、被害者が主婦である場合にも休業損害が受け取れることになっています。
ただし、主婦の休業損害の計算方法は給与収入がある会社員などとは異なる点に注意が必要です。
主婦の休業損害の計算においても、先ほど説明した自賠責基準と弁護士(裁判)基準とがあります。
自賠責基準による主婦の休業損害は、以下の計算式となります。
(主婦の休業損害)=(日額5,700円)×(休業日数)
これに対し、弁護士(裁判)基準における計算式は以下のとおりです。
(主婦の休業損害)=(日額基礎収入)×(休業日数)
専業主婦であるか兼業主婦であるかによって、上の計算式でいう日額基礎収入と休業日数の算定方法が変わってきますので、以下で詳しく説明します。
専業主婦の場合、日額基礎収入については厚生労働省が公表している賃金構造基本統計調査を基にした賃金センサスを参考に計算します。
賃金センサスについては、「赤い本」と呼ばれることもある日弁連交通事故相談センター「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」に一覧表が掲載されており実務上はこれを利用します。
この本は一般的な本屋では販売されていませんが、WEB上から購入することができます。
この本がない場合には、賃金センサスの元データである厚生労働省の賃金構造基本統計調査の結果から、計算することになります。
元データからの計算は少し複雑ですが、考え方としては「学歴計」の「企業規模計(10人以上)」における、「決まって支給する現金給与額」の12か月分および「年間賞与その他特別給与額」を合算したものを年収とします。
賃金センサスの計算は厚生労働省が公表している資料に基づくものですので被害者本人にも可能ではありますが、慣れていないと非常に面倒に感じます。
このため、基本的には交通事故の損害賠償事件について経験豊富な弁護士に相談することが望ましいといえます。
賃金センサスには性別および年齢ごとに平均賃金額のデータが掲載されています。
専業主婦の場合には女性のデータを使います。
なお、専業主婦(夫)が男性である場合にも女性のデータを使うこととなっています。
これは、労働の内容が同じである以上、男女で差を設ける必要がないためです。
注意したいのは専業主婦の場合、原則として該当する年齢の平均収入ではなく全年齢の平均賃金額を用いる点です。
全年齢の平均賃金額は1年あたりの収入なので、これを365日で割ることで日額基礎収入が求められます。
以上をまとめると、専業主婦の日額基礎収入の計算式は以下のとおりです。
(日額基礎収入)=(事故前年の賃金センサスの女性の全年齢平均賃金額)÷365日
たとえば、交通事故の被害者が45歳の専業主婦だった場合には、次のようになります。
平成30年の賃金センサスを見ると、女性労働者の「学歴計」の全年齢平均賃金額は497万2,000円です。
したがって、これを365日で割った1万3,621円が日額基礎収入になります。
次に、専業主婦の休業日数について説明します。
休業日数は、交通事故の発生日からケガが完治した日または症状固定となった日までの期間において、実際に家事労働を休まざるを得なかった日数となります。
しかし、家事労働の場合には、家事労働を休まざるを得なかったことについて客観的に証明することが難しいため、実務上は一定の計算方法があります。
まず、入院または通院していた日については家事労働ができなかったといいやすいため、入院または通院の日数を休業日数とする計算方法があります。
もっとも、入院または通院をしていない日であっても症状によっては家事労働ができずに家で休んでいることが当然あります。
このため、交通事故の発生日からけがが完治した日または症状固定となった日までの期間に対し、一定の休業割合を掛けることにより、その日数を休業日数とみなす計算方法もあります。
特に休業期間が長期間にわたる場合には、交通事故から期間が経つごとに休業割合が少しずつ減少してく逓減方式といわれる計算方法が使われることもあります。
兼業主婦の場合は、家事労働とは別に勤務先からの収入も得ています。
勤務先からの収入に関しては、当然に休業損害の対象となります。
ポイントとなるのは、兼業主婦の場合には家事労働についての休業損害と、勤務先からの収入についての休業損害のいずれかを選択することができる点です。
一般的には、家事労働と勤務先からの収入について休業損害の金額が大きくなる方を選択することになります。
ここでも、自賠責基準と弁護士(裁判)基準とで計算方法は異なります。
自賠責基準の場合、以下のとおりです。
自賠責基準では専業主婦と兼業主婦とで違う基準を設けていません。
(休業損害)=(日額5,700円)×(休業日数)
弁護士(裁判)基準における計算式は、専業主婦の場合、以下の2つから金額が高くなる方を選択します。
【家事労働の休業損害】
(休業損害)=(日額基礎収入)×(休業日数)
日額基礎収入は以下のとおりです。
(日額基礎収入)=(事故前年の賃金センサスの全年齢平均賃金額)÷365日
【勤務先からの収入の休業損害】
(休業損害)=(事故前の年収÷365日)×(休業日数)
勤務先がアルバイトやパートなどである場合には、家事労働の休業損害として計算した方が金額は高くなることが多いといえます。
勤務先からの収入についての休業損害について、休業日数は実際に勤務先を休んだ日数となります。
ただし、シフト制のような場合には自主的にシフトを入れないことができるため、明確な休業日数を証明しにくいのが実情です。
このような事情がある場合には、通院した日数をベースとして休業日数を計算する方法もあります。
主婦といっても家事労働の内容は、人によって異なります。
そこで、ここでは被害者が主婦である場合の休業損害の算定において、具体的な事例ごとに考え方を整理します。
現代の核家族にあっては、主婦が1人で家事労働を担っているケースも多いといえます。
これに対し、両親と同居しているケースなど二世帯以上で暮らしているような場合には、家事労働者が複数いることがあります。
複数いる家事労働者のうち1人が交通事故の被害者となったような場合には、主婦が1人で家事労働を担っている場合と比較して休業損害が低くなることがあります。
ただし、これも実態に即して判断されるので、複数の家事労働者がいたとしても片方が高齢でほとんど稼働していないような場合には、主婦が1人で家事労働を担っている場合と同等と評価され休業損害は減らされないこともあります。
被害者が主婦である場合には、このように家事労働の実態をどのように主張していくかにより損害賠償額が変わる点に注意が必要です。
主婦が交通事故にあって家事労働をできなくなった間に家事代行を依頼することが考えられます。
このような場合、ケガの症状等に照らして家事代行を依頼せざるを得なかったといえる状況があれば、家事代行の費用について損害賠償をすることも可能です。
ただし、家事代行を依頼した場合には、被害者である主婦本人は家事をする必要がなくなっているため、家事代行費用の損害賠償とあわせて主婦本人の休業損害を請求することはできません。
たとえば、交通事故の前後で出産する場合など被害者が交通事故とは別の理由で入院したために家事労働ができなかったというケースがあります。
このような場合、その入院は交通事故とは無関係であるため入院期間については休業日数に含めないことになります。
ただし、入院の直接の原因が出産であったとしても、交通事故があったために入院が長引いたケースなどは交通事故と入院が無関係とはいえません。
この場合は、交通事故が入院に影響した程度に応じて休業損害の対象となることもあります。
交通事故の被害者が専業主婦または兼業主婦である場合、どのような書類によって家事労働を休業したことを証明するのでしょうか。
まず、主婦が家庭内で家事労働に従事していたこと自体を示す書類としては住民票があります。
住民票によって家族構成を証明することで家事労働に従事する主婦であったことを主張できます。
なお、男性が専業主夫や兼業主夫として家事労働に従事している場合には、住民票に加えて非課税証明書や他の家族の源泉徴収票などを求められることがあります。
また、兼業主婦で勤務先を休業したことを証明する必要がある場合には、会社員と同じく勤務先の休業損害証明書や源泉徴収票を提出する必要があります。
専業主婦の場合には、兼業主婦とは異なり給与収入に関する証明書は不要です。
逸失利益は、後遺障害によって労働能力が低下した場合に得られる損害賠償で、将来得られるはずであった利益を補填するものです。
逸失利益は、次のように計算されます。
(逸失利益)=(年収)×(労働能力喪失率)×(労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数)
逸失利益の計算方法についても、専業主婦と兼業主婦とで異なりますので別々に説明します。
専業主婦の場合には、給与収入などを得ていないのでここでも年収をどのように計算するかが問題となります。
考え方は休業損害と同様で、厚生労働省の賃金センサスにおける女性の全年齢平均給与額を年収とみなすことが一般的です。
次に、労働能力喪失率についてです。
労働能力喪失率とは、交通事故の後遺障害によって労働能力がどの程度減少しているかを示すものです。
これは自賠責基準においては後遺障害等級ごとに一律に決まっています。
たとえば、むちうち症で14級9号の後遺障害等級認定を受けている場合には、労働能力喪失率は5%となります。
ただし、自賠責基準はあくまでも最低限の基準であるため、被害者が示談交渉に臨むにあたっては、これを参考にしつつも被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位・程度、事故前後の仕事状況や生活状況などを加味して計算する必要があります。
最後に、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数についてです。
逸失利益については将来得られるべき収入を保険金として現時点で一括して受け取ることになるため、早く受け取った期間に対応する運用益を控除する必要があります。
この調整のための係数がライプニッツ係数です。
適用されるライプニッツ係数を決めるためには、先に労働能力喪失期間を算定する必要があります。
労働能力喪失期間は原則18歳から67歳までとされていますので、症状固定日から67歳までの期間が労働能力喪失期間となります。
なお、症状固定日から67歳までの年収が平均余命の2分の1より短くなる場合には、症状固定となった年齢から平均余命までの2分の1の期間を労働能力喪失期間とします。
このように計算された労働能力喪失期間に対して、国土交通省がライプニッツ係数を一律に定めています。
なお、ライプニッツ係数と同様に将来得るべきである収入を現時点で受け取ったことによる運用益を控除する役割を果たすものとして、新ホフマン係数が使われることがあります。
少し専門的な話になりますが、ライプニッツ係数が複利計算に基づくものであるのに対し、新ホフマン係数は単利計算に基づくものです。
複利計算の方が損害賠償額から控除すべき運用益の金額が大きくなりますので、ライプニッツ係数を使うと新ホフマン係数を使う場合と比較して損害賠償額が低くなるといえます。
かつては裁判所によってライプニッツ係数と新ホフマン係数のいずれを用いるかが異なることもありましたが、最近ではライプニッツ係数を使う裁判所が多いといわれています。
被害者が兼業主婦である場合についても、休業損害と基本的に同じ考え方となります。
年収については、事故前の実際の年収と賃金センサスの女性の全年齢平均賃金額を比較して高い方を用います。
労働能力喪失率は専業主婦の場合と同様に、後遺障害等級ごとに定められています。
もっとも、兼業主婦の場合には仕事の内容なども加味して判断されることがあります。
労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数についても、専業主婦と同様です。
交通事故の被害者が主婦である場合の損害賠償について、実際に裁判ではどのような判断がされているのでしょうか。
【事例】
この事例について、裁判所は次のように判断しています。
休業損害について、日額基礎収入は当時の女性の全年齢平均賃金を採用しています。
また、被害者Aは交通事故から137日間パートを休み、その後週1~2日程度復職していました。
これについて、裁判所はパートを休んだ137日間は労働の制限が80%であったとし、パートへの復職後は労働の制限が40%であったとしました。
また、パートへの復職後、痛みを遮断するための硬膜外ブロック治療を開始しているところ、この治療開始から症状固定までの間は労働の制限は20%であったとしています。
このように、休業損害についてはケガが仕事や家事にどの程度影響しているのか、実態をもとにして判断されていることがわかります。
【事例】
この事例について、裁判所は次のように判断しました。
この事例は、後遺障害等級が1級1号と最も重い認定がされていることからもわかるように脳に極めて重大な傷害を負ったケースといえます。
特に介護費用の金額が大きいのですが、これは後遺障害の程度が重いことに加え家族が高齢であることも考慮され、職業付添人の介護費用が損害として認められたためです。
また、逸失利益については女性の全年齢平均賃金額ではなく年齢別平均賃金額が基礎収入とされました。
労働能力喪失期間は原則通り67歳までの14年が認められ、労働能力喪失についても自賠責基準と同様の100%とされました。
【事例】
この事例について、裁判所は次のとおり判断しました。
後遺障害等級が3級3号と相当に重い後遺障害が残っています。
これに加え、被害者が事故当時30歳と若年であったことが損害賠償の金額が大きくなった理由といえます。
介護費用について、介護にあたる予定の母親が高齢であるため職業介護人への依頼が必要であることを考慮した金額となっています。
また、被害者は事故当時休職中でしたが復職の可能性がありました。
復職した場合には兼業主婦となることから、賃金センサスにおける年齢別の女性の平均賃金額を基礎収入とみなしました。
そのうえで、労働能力喪失率100%、労働能力喪失期間を67歳までの36年間としました。
【事例】
この事例について、裁判所は休業損害を431万3,229円としました。
交通事故から精神症状が現れるまでの休業割合を30%とし、精神症状が現れてから症状固定までの休業割合を60%としました。
精神症状が現れたことにより家事労働が大きく制限され始めたという実態に即した判断ということができます。
また、休業損害の算定の基礎となる日額基礎収入については、賃金センサスの女性労働者の全年齢平均賃金額を用いました。
【事例】
この事例について、裁判所は以下のとおり判断しました。
この事案では、被害者が子どもを育てているというような事情がないため、家事労働の負担が少なかったのではないかという点が問題となりました。
もし、被害者の家事労働の負担が元から少なかったと認められてしまった場合には、逸失利益や休業損害の計算の基礎となる日額基礎収入が低く計算されますので、損害賠償額の総額に大きな影響があります。
しかし、被害者が主婦として家事労働のすべてを担っている場合、家族構成にかかわらず家事労働の負担はそれなりのものです。
この事案のように、被害者が主婦である場合の家事労働については加害者側が低く評価してくる傾向があります。
しかし、家事労働を仮に外部に依頼する場合には、それなりの賃金が発生します。
そうだとすれば、家事労働だからといって外で働いている場合と比較して不当に低く見積もるというのは本来おかしいのです。
主婦の損害賠償の算定には、家事労働をどのように評価するかということが問題とされやすいので注意が必要です。
主婦が交通事故にあった場合、弁護士に依頼するメリットはどのような点にあるのでしょうか。
交通事故の被害者が主婦であるかを問わず、加害者側の保険会社と被害者本人が示談交渉をする場合、裁判で認められる相場よりかなり低い金額が提示されます。
上記でも説明しましたが、慰謝料の金額算出では「弁護士基準」がもっとも高い基準になります。
示談交渉を弁護士に依頼することで、弁護士基準での慰謝料計算ができるため、請求する慰謝料金額がもっとも高くなります。
さらに弁護士に示談交渉を依頼することで、自分の過失割合を下げられる可能性もあります。
過失割合とは「事故の過失がお互いにどれぐらいの割合であったのか?」を示す数字です。
例えば過失割合が自分7:相手3だった場合は、自分の方が事故の過失が多く、100万円の示談金請求をしても、もらえる金額は30万になります。
弁護士の示談交渉によって過失割合が自分2:相手8に変化した場合は、同じ100万円の示談金請求でも80万円もらえます。
このように過失割合が変化することでもらえる示談金が大きく変わるため、弁護士への依頼はおすすめです。
したがって、一般的に交通事故の示談交渉は弁護士に依頼した方がより良い条件で合意できる可能性が高まるといえます。
交通事故の被害者が専業主婦や兼業主婦である場合、加害者側の保険会社からは収入がないことを理由に休業損害や逸失利益をゼロに近い金額で提案されることもあります。
しかし、上で説明したように専業主婦であっても外で働いている人と同じような賃金を得られたものとして損害賠償額を算定することができます。
ただし、被害者が主婦である場合の休業損害や逸失利益の計算は、外で働いている場合と異なり、交通事故によるけががどの程度家事に影響したかということを証明しにくいという難点があります。
それ故、妥当な損害賠償額の計算は被害者本人にはなかなか難しいといえます。
また、主婦が交通事故の被害者となる場合の損害賠償額の計算方法は実務上ある程度確立はされています。
しかし、その計算方法自体が複雑であり、たとえば休業損害を計算するために必要となる賃金センサスの見方ひとつとっても簡単に理解できるようなものではありません。
被害者本人が勉強しながら理解していくことは決して不可能ではないものの、交通事故によってケガを負っている状況のなかでは大きな負担となるでしょう。
また、計算方法が複雑であるがゆえに、被害者本人が損害賠償額の計算方法を誤って本来獲得できるはずの損害賠償を得ることができないという事態も想定されます。
交通事故の示談交渉では、一度示談が成立したら計算方法が間違っていたとしても後から覆すことは基本的に難しいものです。
そうなると、交通事故後の生活に必要となる資金が不足してしまうことにもなりかねません。
このような複雑な損害賠償の計算も、交通事故事案について経験豊富な弁護士であれば迅速かつ正確に計算することができます。
これは被害者が主婦である場合に限ったことではありませんが、示談交渉の相手となる保険会社はあくまでも加害者側の立場です。
したがって、交通事故の被害者からすると冷たい対応と感じることがしばしばあります。
また、保険会社は交通事故の示談交渉のプロであるため、被害者本人が示談交渉をすると押しに負けて不利な条件で合意することになるおそれもあります。
このため、被害者本人にとっては保険会社と示談交渉を進めること自体が精神的・肉体的に大きな負担となることがあります。
このような負担を軽減することができるだけでも、弁護士に示談交渉を依頼するメリットはあるといえます。
弁護士に依頼するときに気になるのが、費用だと思います。
弁護士への費用は、相談料・着手金・日当・成功報酬などたくさんあり、決して金額も安くありません。
「弁護士へ依頼はしたいけど、なるべく費用は抑えたい・・・」と思う人もいるでしょう。
そこでおすすめなのが、弁護士特約の利用になります。
弁護士特約を利用すれば、自分の加入している保険会社が弁護士費用を300万まで負担してくれます。
交通事故の弁護士依頼で費用が300万円を超えることはほぼないため、実質無料で依頼できるといえます。
ただし自分が契約している保険に弁護士特約がついていないと利用できません。
自分が加入している保険に弁護士特約がついているかどうか確認して、ついているなら必ず利用してくださいね。
交通事故の被害者が専業主婦や兼業主婦であった場合にも、家事労働ができなくなったことに対して損害賠償請求をすることができます。
もっとも、その計算方法は会社員などと比較すると複雑でわかりにくいところがあります。
このため、加害者側との示談交渉に臨む前に、交通事故の解決について経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。