東京弁護士会所属。新潟県出身。
交通事故の影響で怪我や病気になってしまうと、体調の不安に加えて、経済的な不安も発生します。
慰謝料を請求するためには、法律上の知識や、過去の交通事故被害がどのような慰謝料額で解決されてきたかという判例の知識が必要です。
我々はこういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって、妥当な損害賠償金を勝ち取ることが期待できます。是非一度ご相談ください。
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目次
まさか自分が交通事故にあうと思っていなくても、ある日突然、交通事故に巻き込まれてしまうということはありえます。
交通事故被害にあってしまったら、けがの治療にお金も時間もかかりますし、後遺症が残ってしまった場合の精神的苦痛などは大変なものです。
やはり、被害者としては交通事故の慰謝料を適切に求めていきたいところですよね。
交通事故の慰謝料は、最初は加害者側の保険会社と被害者との間の示談交渉で話し合いが行われますが、どうしても合意が得られない場合は、司法手続きにのっとって裁判官の判断を求めていくことになります。
では、実際に慰謝料の損害賠償請求訴訟を起こしたときには、どの程度の慰謝料の支払いが判決で認められてきているのでしょうか。
この記事では、実際の裁判事例からケース別の慰謝料金額を紹介していきます。
交通事故の損害賠償請求訴訟の数は、弁護士特約の普及によって増加しているといわれています。
2005年は年間5,000件以下の件数でしたが、10年後の2015年には3倍以上もの1万9,000件を越えました。
弁護士特約とは、任意保険に付帯させる特約です。
交通事故被害にあってしまった場合に、弁護士に示談交渉や訴訟など被害の解決を依頼するための弁護士費用をカバーしてくれます。
これによって、弁護士費用のほうが、得られる示談金よりも高いのではと心配する被害者の方も安心して納得のいく損害賠償請求訴訟ができるようになりました。
弁護士特約が付帯していることに気づいていない方も多いようですが、最近の保険にはデフォルトで入っていることも多く、気づかずに加入しているというケースもあるようです。
交通事故被害にあってしまったら、ぜひご自身の保険証券を確認して、弁護士特約の付帯がないか確認してみましょう。
交通事故の示談金の中には、けがをした場合の入院通院費や交通費、雑費、仕事を休まなければならない場合の休業損害や逸失利益、壊れた車の修理代などの他に、精神的なダメージに対する金銭的賠償である慰謝料が含まれます。
民法709条は、故意過失により他人の生命、身体、財産に損害を与えた者はその損害を賠償する責任を負う旨を定めており、民法710条はその損害は財産的なものに限られないとしています。
つまり、不注意な運転、道路交通法に反するような飲酒運転やわき見運転など過失のある運転をした加害者は、財産的な損害とともに、交通事故にあった被害者の精神的な損害についても、賠償責任を負うということです。
交通事故にあってけがを負ったり、最悪の場合死亡してしまったりすると、大きな恐怖や苦痛を味わうことは想像に難くありません。
起きてしまった事故をなかったことにすることはできないので、慰謝料によって金銭で賠償することになります。
交通事故の慰謝料には大きく分けて3種類のものがあります。
以下では、この3種類をそれぞれ解説します。
まず傷害慰謝料は、治療をしていた期間や実際の入通院日数に基づいて、支払われる慰謝料です。
治療期間や入院期間が長引くほど精神的ダメージが大きくなるので、慰謝料の金額も高額になっていきます。
後遺症慰謝料は、交通事故の治療でも症状が治りきらず、症状固定というそれ以上状態が良くも悪くもならないという状態になり、自賠責機関から後遺障害等級が認定された場合に、被害者に支払われる慰謝料です。
後遺障害等級は1級から14級まであり、番号が若いほど重篤な障害となり後遺障害慰謝料も高額になります。
交通事故被害の最たるものとして、被害者が死亡してしまうことがあります。
死亡慰謝料は、亡くなった被害者本人に対する慰謝料と、その遺族に対する慰謝料の2種類があります。
交通事故で即死した場合、精神的な苦痛はないだろう、という考えがあった時代もありましたが、現在では、死の直前に極限までの精神的苦痛が発生したのであるから、本人に対しても当然死亡慰謝料が支払われるべきという考え方に変わっています。
実際には、被害者本人は亡くなっており死亡慰謝料を受け取ることはできないので、被害者の相続人が死亡慰謝料の請求権を相続することになり、相続人に対して支払われるということになります。
死亡慰謝料としては、本人に対する慰謝料に加えて、被害者の近親者に対しても別途の慰謝料が発生します。
被害者のごく近しい家族の場合、交通事故で突然愛する人を失った悲しみには大きいものがあります。
近親者への死亡慰謝料賠償義務は、民法711条に定められています。
民法711条では、近親者として認められる範囲として、被害者の父母、配偶者、子が定められていますが、判例では場合によっては被害者の兄弟姉妹についても認めている例もあります。
慰謝料には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準の3つの算定基準があります。
どの基準で計算するかによって慰謝料の金額は大きく変わってきますので、注意が必要です。
まず、一番低額となってしまうのが、自賠責基準という基準です。
自賠責とは、自賠責法という法律に基づきすべての運転者に加入が義務付けられている強制保険です。
自賠責法は、すべての交通事故被害者に最低限の保証をするということを立法目的としているため、1人に付与される保険金額はやはり低廉になってしまいます。
真ん中の基準である任意保険基準とは、加害者が加入している任意保険会社が自社基準としてそれぞれ設けている基準になります。
任意保険基準は、自賠責基準よりは高いですが、弁護士基準と比べると低廉になります。
多くの運転者は、上述の強制保険である自賠責保険に上乗せして任意保険に加入しています。
そのため、慰謝料は、通常加害者に代わって任意保険会社が被害者に支払うということになりますが、任意保険会社は営利法人であるため、被害者に対してはなるべくお金を払いたくないということになります。
そのため、弁護士基準よりは低いという結果になってしまうのです。
最後の弁護士基準は裁判基準ともよばれ、もっとも高額な慰謝料算定基準となります。
弁護士基準は、判例の蓄積により構築されたものであり、裁判所がまとめた基準になります。
東京地方裁判所の交通部が発行している赤本や、大阪地裁や名古屋地裁の基準が有名です。
慰謝料は、任意保険会社と被害者の示談交渉がまとまらない場合、裁判所に損害賠償請求訴訟がおこされて決定されることになりますが、裁判官も弁護士もよほどの特殊事情がなければ上述の基準によって、慰謝料の金額を決定することになります。
上述のように、弁護士基準が被害者にとって一番有利な金額になるということを頭に入れておくことは大切です。
示談交渉がはじまると、加害者の任意保険会社からは示談書を提示されますが、その提案は任意保険基準であり、被害者が請求できる最高の金額よりは低いということを認識したうえで、保険会社と交渉しなければなりません。
一度示談に応じてしまうと、基本的には後から弁護士基準で計算しなおして増額してほしいという主張はできなくなってしまうので、安易に保険会社からの提案を受けないように気を付けましょう。
被害者は一個人であるのに対して、保険会社は示談交渉のプロであり企業としての交渉力もあるので、示談交渉にあたっては交通事故の被害者の代理人となった経験が豊富な弁護士に解決を依頼したほうが得策であるといえます。
弁護士に示談交渉に早めに入ってもらえれば、示談交渉がまとまらず訴訟になってしまったときの代理もスムーズに進むことが期待できます。
弁護士に依頼すると弁護士費用が気になるという方も多くいらっしゃると思いますが、被害者側で加入している任意保険に弁護士特約という特約が付帯されている場合、保険で弁護士費用がかなりの部分でカバーされます。
ぜひ、一度ご自身の保険内容を確認してみましょう。
実際の判例ではどの程度の慰謝料が認められているかを、事例を挙げてみてみましょう。
弁護士基準は、いわゆる赤本、青本などとよばれる本に記載された基準を採用しており、裁判所は基本的にはこの基準にのっとって判決をだします。
しかし、必ずしもすべての事故について画一的に適用されているわけではなく、事故の状況、加害者の悪質性、被害者の属性などに着目し、より高額な慰謝料を認定している判例も数多くあります。
たとえば、本人と近親者に対する死亡慰謝料について出された仙台地裁平成28年12月26日判決は、加害者が無免許、飲酒、仮眠状態という過失の大きな場合で、亡くなった被害者の60歳の女性について、本人の死亡慰謝料3,000万円とその夫への慰謝料200万円の死亡慰謝料の支払いを命じています。
被害者は、自営業者であり、夫の世話をする主婦の役割を担いつつ、一家の支柱として生計を支えていました。
加害者は、赤信号を無視したうえで、高速度で交差点内に進入し、歩行中の被害者をひいたうえで、被害者の救護措置をとることなく逃走しています。
東京地裁の弁護士基準では、一家の支柱の死亡慰謝料は2,800万円ですが、加害者の悪質性や被害者の役割の大きさなどが加味されて増額されたということでしょう。
また、東京地裁平成28年4月27日判決では、加害者が飲酒運転をして、35~45キロの速度超過をしたうえで、中央線を乗り越えて反対車線を通行中の車両に衝突して50歳男性被害者を死亡させた事案についても、赤本基準を超えて、本人の死亡慰謝料3,200万円と同居していた母親に対して300万円の慰謝料を認定しています。
反対に、被害者にも過失があった場合は、赤本の基準よりも減額される判例もあります。
ヘルメットを着用せずに12歳の弟が運転する大人用の自転車の荷台に乗っていた13歳の女子中学生が車に衝突し、脳挫傷を負ったうえで常時要介護状態となり後遺障害等級認定1級1号という最も重い後遺障害を負った事例です。
両親は1億超の慰謝料を求めて提訴しましたが、極めて危険な運転姿勢であったことが重篤な障害につながったという判断から、被告に対して45%の過失相殺が認められ、慰謝料は4,200万円に減額されたという判例があります。
交通事故被害は、上述の仙台地裁の判決のように、完全に加害者が悪いという事案だけではなく、被害者にも過失があるという例も多くあります。
そうした場合は、被害者の過失部分については、加害者は損害賠償責任を負う必要がないため、過失割合が認定され、慰謝料が減額されるということになります。
過失割合の認定は示談交渉でも慰謝料請求訴訟でも争点になる部分ではあります。
交通事故は、目撃者がいる場合やドライブレコーダーに記録されている場合や店舗の防犯カメラなどに写っているような、状況を客観的にあとから検証できるものだけではありません。
状況証拠などからそれぞれが主張立証を尽くしていかなくてはいけないものも多くあります。
保険会社が主張する過失割合は必ずしも妥当であるとは限りませんので、被害者側として不利な認定をされないように、交通事故案件に精通した弁護士に相談をしましょう。
いかがでしたでしょうか。
交通事故の慰謝料について、実際の裁判例ではどのように判断されてきたかがご参考になれば幸いです。
ポイントをまとめると、示談交渉で保険会社から提示される慰謝料は、ほとんどの場合任意保険基準であり、裁判基準で被害者が正当に手に入れることができる金額よりも低いので、安易に妥協してはなりません
。
示談交渉で納得のいく金額が提示されず訴訟になった場合は、弁護士基準で判断されることになりますが、弁護士基準の適用においては、事故の悪質性や、被害者の特性、過失割合などさまざまな要素が加味され、増額または減額されて適用されることになります。
増額できる要素がある場合は、被害者自らが裁判所にこれを主張立証していく必要があります。
妥当な金額を手にすることができるように、交通事故案件に精通した信頼のおける弁護士に相談をしましょう。