最終更新日:2024/12/5
取締役は何をする人?取締役の報酬と責任について解説!取締役のルールも徹底解説!
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- 取締役とは何か
- 取締役の役割と責任
- 取締役の種類
- メリットとデメリット
取締役は、会社の重要な意思決定を担う、会社経営において非常に重要なポジションです。しかし、報酬や責任、種類などの具体的な内容については意外と知られていないことも多いのではないでしょうか。
この記事では「取締役とは何か?」という基本から、報酬の理由、責任の範囲、取締役会での役割、非常勤取締役や社外取締役といった種類の違い、取締役という役職のメリットやデメリット、さらに任期や登記のルールまで網羅的に解説します。
取締役とは何か
取締役とは、会社法の規定に基づいた地位で、会社の経営を行う役員を指しています。
取締役と聞くと「偉い人」というイメージがありますが、それも間違いではありません。取締役は会社の中心的な役割を果たす立場であり、幹部と呼ばれる役職です。取締役は、会社全体の重要な意思決定や経営戦略に直接関与する大変重要なポジションです。
取締役については、会社法に規定があって法的には「株式会社の業務執行を行う者」(会社法第362条)という位置づけがされています。
取締役の定義
取締役の地位については、会社法第348条に規定されています。
会社法第348条【取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。)の業務を執行する】
取締役には意思決定や業務の執行だけでなく「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」と「忠実義務」が課されています。つまり、取締役は会社の偉い人というだけでなく、会社や株主に対しての経営責任を負っている立場でもあるのです。
取締役の役割と責任
取締役の主な役割は、経営方針の策定や業務執行、リスク管理、そして、ステークホルダーとの関係構築などがあげられます。こうしたさまざまな役割を果たすときに、取締役は常に会社の利益を最優先に考えなければなりません(会社法第355条 忠実義務)。
また、取締役はさまざまな責任を負っています。会社への責任としては経営判断における注意義務(会社法第330条)がありますし、株主への責任や場合によっては、第三者への責任(会社法第423条)が発生することもあります。
会社法の規定に違反した場合、解任や賠償請求をされる可能性があります。
取締役の種類と他の役職との違い
会社には取締役以外にもいろいろな役職があります。取締役と他の役職の違いについて見ていきましょう。
取締役の種類
まず、取締役には、「取締役」「社外取締役」「代表取締役」「専務取締役」「常務取締役」といった種類があります。
それぞれの立場や役割は異なるものの、いずれも取締役という基本的な枠組みの中で会社の利益のために動いています。
社外取締役
社外取締役とは、文字通り「会社の外」の人間が取締役になるということです。社外取締役とは、社内で昇進した取締役とは担当する業務が異なります。
どうしてわざわざ会社の外の人間を重要なポストである取締役にするの?と思われるかもしれません。これは、社内のしがらみにとらわれない人物を取締役にすることで、透明性を確保するのが目的です。
代表取締役
代表取締役とは、会社を代表する権利がある取締役のことです。代表取締役以外の取締役は、会社を代表する立場ではありません。
専務取締役・常務取締役
専務取締役や常務取締役は、社内の役職である「専務」や「常務」と、役員の「取締役」をひとつにした呼称です。ですので、登記上は「取締役」となります。「専務」や「常務」はあくまでも会社内部の役職のことで、登記が必要な「取締役」とは本来は別のものです。
ですので、専務取締役や常務取締役は、社内の役職である「専務」や「常務」と、「取締役」という、ふたつの役職を持っている人のことです。
取締役と従業員の違い
会社には、従業員と呼ばれる人達がいます。一般的に社員と呼ばれていますよね。この従業員は、取締役とは全く違う立場で会社に関わっています。
まず、従業員は会社と雇用契約を結んで労働する労働者です。従業員は、その労働の対価としてお給料をもらっています。
一方で、取締役は会社と雇用関係にはありません。取締役は会社と「委任契約」や「業務委託契約」を結んでいます。取締役は従業員ではないのです。
従業員は労働の対価として決まったお給料をもらいますが、取締役は労働の対価としての報酬はありません。
また、職務上負っている責任の範囲も異なります。従業員は、基本的に業務上の義務のみを負うに止まります。
ですが、取締役は会社の経営責任という重責を負っており、場合によっては法的責任を問われることもあります(会社法第423条)
取締役と代表取締役の違い
取締役とは、会社の意思決定を行う権限を持つ役職のことです。そして、代表取締役は会社法で定められた会社の最高経営責任者であり、会社を代表する権限を持っています(会社法第349条)。
代表取締役は一人というイメージがあるかもしれませんが、複数人の代表取締役を置くこともできます。
取締役の報酬が高いのはなぜ?
取締役といえば「多額の報酬を受け取っている人」というイメージを持つ方も少なくないでしょう。確かに、一人で億を超える報酬をもらう取締役も存在しています。
でも、取締役の報酬はどうしてこんなに高いのでしょうか。
取締役は経営責任の対価として報酬をもらう
まず、前提として取締役の報酬は、労働の対価ではありません。
取締役は、会社全体の重要な意思決定を担っており経営責任があるという立場です。そして、取締役の決定は、会社の業績や将来にわたる成長に直接関わるものです。
重要な意思決定とその責任を負うわけですから、経営が上手くいった時には、立場に見合った報酬が設定されます。特に代表取締役は、会社を法的に代表する立場となるため、とても大きな責任が伴います。
その責任と経営判断に対する報酬として、対価を受け取るため高額になるケースがあるのです。もちろん、正しい経営判断で会社に利益をもたらしたことへの報酬でもありますから、成功報酬的な意味合いもあります。
取締役の報酬の金額はもちろん会社によって大きく異なります。ちなみに、TOPIX500社における社内取締役(執行役を含む)において、取締役の年間1人当たりの平均総報酬の中央値で6,660万円とされています。
国税局によると、給与所得者の平均給与は 460 万円ですから、取締役の報酬はかなり高額であると言えます。
ですが、当然、すべての取締役や代表取締役が高額な報酬を受け取っているというわけではありません。
取締役のメリット・デメリット
取締役は高い報酬や社会的地位といったメリットもありますが、その一方で取締役になるデメリットもあります。
取締役のメリット
取締役には、以下のようなメリットがあります。高い報酬や社会的地位だけでなく、やりがいのある役割や成果への評価など、多くの魅力があります。
やりがいがある
取締役は、会社の重要な経営戦略や重要な意思決定を行う立場です。そのため、自らの判断や行動が会社の成長に大きく影響を与えることとなり、それがやりがいにもつながります。
取締役会に参加し、経営全般における重要な議論に携わることで、責任とともに充実感を得られるポジションです。
報酬
取締役は、重い責任や経営判断のリスクを伴う一方で、それに見合った報酬を受け取ることができるというメリットがあります。
特に上場企業の取締役の場合は、高額な報酬を受け取れる可能性があります。取締役として正しい判断とリスク管理をして会社の成長に貢献すれば、報酬という非常に解りやすい形で評価されます。
社会的なステータス
「取締役」という肩書きは、社会的に高い地位を示すものです。自らの名刺に「取締役」という役職名があるだけで取引先や顧客から信頼されやすくなります。
一般的にも「会社の偉い人」として認識される役職ですので、そのステータスは交渉などで役立ちます。
取締役になるデメリット
社会的地位や報酬といったメリットが注目される取締役ですが、デメリットもあります。
取締役には大きなプレッシャーがかかる
取締役は、経営判断をする権限があると同時にその責任も負っています。取締役の責任については、会社法第355条で規定されており、場合によっては賠償責任を負う可能性があります。
株主やステークホルダーから期待される立場であり、常に正しい経営判断を行うことが求められるため、大きなプレッシャーがつきまといます。
取締役には残業手当がない
取締役は従業員ではないため拘束時間が長くなる可能性があります。雇用契約ではないので、労働基準法は適用されません。そのため、時間外労働をしても残業手当はつきませんが、取締役としての責務を果たすために、多忙なスケジュールをこなす必要があります。
公私の区別をするのが難しく、プライベートを犠牲にして取締役としての職務を果たすという場面にも遭遇するかもしれません。
会社の経営判断を行うための情報収集などもしなければならず、想像以上の労力を必要とします。
雇用保険に加入できない
取締役は労働者ではないため、雇用契約に加入できません。当然、労災保険や失業保険も適応外です。雇用契約のもとで労働基準法に守られている従業員と比較しても、取締役の福利厚生やさまざまな保障はかなり手薄です。
そのため、取締役になるときには、自分の将来設計や資金計画を長期的に考える必要があります。
このように、高額な報酬や社会的ステータスが注目される取締役ですが、常に経営失敗というリスクを負っています。雇用関係ではないことで発生するデメリットがあるため、取締役になればいつまでも安泰というわけではなさそうです。
取締役の業務
取締役は会社で具体的に何をしているのでしょうか。取締役の役割と業務について解説します。
取締役はなにをするのか
取締役という言葉は聞いたことがあっても「一体、何をしている人達なのか」と言われると、イメージができないかもしれません。
まず、取締役の役割は与えられた仕事をこなす労働者とは異なります。
取締役は会社の経営方針を決める取締役会のメンバーです。会社の重要な意思決定は、取締役会で行われます。
この、取締役会に出席するのも取締役の重要な役割です。他にも、会社の経営戦略策定や業務の監督などを行います。
取締役会での役割は?
取締役会は、株主総会に次ぐ重要な意思決定機関です。取締役には、取締役や代表取締役、非常勤取締役や社外取締役などがありますが、取締役会では会社の利益のための話し合いを行います。
取締役会では、会社の重要な判断をするための話し合いが行われるのです。取締役会に出席する取締役はすべてが会社と株主に対する責任を負っていますから、この話し合いは取締役にとっても非常に重要な会議となります。
取締役の責任範囲と義務
取締役は、会社や株主に対してさまざまな責任と義務を負っています。取締役の責任に関しては会社法で規定されており、会社経営における重要な役割を果たす中での行動を制約するものでもあります。
取締役にはさまざまな責任がある
取締役の責任は大きく2つに分けられています。ひとつは会社に対する責任、もうひとつは株主に対する責任です。
会社に対する責任
取締役は会社と業務委託契約や委任契約を結んでいます。
そのため取締役には「善良なる管理者に期待されるべき注意義務」を負っています。簡単に言えば「注意深く誠意をもってちゃんと仕事をしましょう」といったところです。
取締役は、会社の利益のためや株主のために、常識的に仕事をする必要があります。例えば、ライバルと話し合って会社に損害を与えるような行為(利益相反といいます)などは、してはいけないということです。
第三者に対する責任
会社法では、会社の所有者は株主です。取締役は会社の所有者に対して責任を負っています。取締役と会社の関係は、業務委託契約や委任契約です。
もし、取締役がさきほどご紹介した「善良なる管理者に期待されるべき注意義務」を怠って会社に損害を与えた場合には、株主に対して責任を負います。
この取締役の責任については、会社法第423条に規定されています。
取締役の義務
取締役はさまざまな義務を課せられている立場です。
会社法やその他の法律に従って業務を行う法令遵守義務や、株主やステークホルダーに対し、経営状況や財務情報などを説明して情報開示を行う報告義務も負っています。
取締役として成功するために必要なスキル
取締役としての成功とは、会社の業績を伸ばして成長させることです。この成功を収めるためには、さまざまなスキルが必要です。
企業経営をする才能と能力
取締役として、経営判断の能力や高い分析力、時には大胆な経営判断が必要な場面もあるでしょう。
また、従業員や取引先とのコミュニケーション能力も備わっている必要があります。
リーダーシップ
取締役には当然のことながら、リーダーシップが求められます。
会社の経営戦略や重要な意思決定を担うポジションですから、取締役のリーダーシップは事業の成功に直結しています。
従業員に対して透明性のある説明ができるか、取引先や株主への説得力のある報告ができるかは取締役としての評価に直結します。
取締役の任期と登記
取締役は、会社との関係では業務委託契約や委任契約ですが、取締役は登記をする必要があります。他にも取締役には任期が定められています。
取締役の任期
取締役の任期は原則、2年です。これは、会社法で定められているのですが「選任後2年以内」となっているので、2年より短い任期でも問題はありません。
また、任期終了後の再任は禁止されていません。
任期が2年と決められているのは株主が市場で取引できる公開会社のみです。非公開会社の場合は、最長で10年まで設定できます。
取締役は登記をする
取締役は法務局で登記をする必要があります。取締役の選任、再任などはすべて登記しなければならず、登記の内容は開示されます。
つまり、登記簿を見ればその会社の取締役が誰なのかがわかるということです。
会社の登記簿には、会社の名称や本社の所在地、事業の目的などが記載されていますが、取締役の氏名もここに記載されることになります。
取締役は途中解任や辞退ができる
取締役には、任期がありますが、任期の途中でも解任や辞任ができます。辞任は取締役本人が、自らその役を降りること。そして、解任は、取締役本人の意思に関わらず株主総会の決議で取締役を解任するというものです。
取締役を解任するためには、株主の過半数が合意する必要があります。任期の途中であっても株主総会の決議があれば、理由を問わずいつでも取締役を解任できます。
もちろん、辞任や解任をしたときも登記の変更が必要です。
ただし、株主総会の決議があっても「解任の正当な理由がない」場合は、会社は取締役に賠償をすることになります。
この「正当な理由」に関して、裁判所は以下の3つの理由をあげています。
- 職務執行上の法令・定款違反行為
- 心身の故障
- 職務への著しい不適任(経営能力の著しい欠如)
参考:会社法339条2項の「正当な理由」に関する主張の整理(PDF)|裁判所
取締役はどうやって選ぶ?
会社法のルールが細かく定められている取締役ですが、取締役はどのようにして選任されるのでしょうか。
株主総会に出席した株主の過半数
取締役の選任は、株主総会の決議で行われます。つまり、取締役を選任するのも解任するのも株主総会の決議ということになります。
従業員であれば、例え役職が重要ポストであっても雇用契約を結ぶだけで完結します。ですが、取締役はより重要な意思決定を行うため株主総会の決議が必要になるのです。
選任や解任の際には、議決権を行使できる株主の過半数が必要です。これは、株主総会に出席した株主の過半数ということになります。株主総会を欠席した株主の議決権はここにカウントされません。
取締役に関する会社法の規定
取締役に関する会社法の規定はひとつではありません。
代表的なものとしては、取締役の役割を規定した第348条やこのあとご紹介する取締役の人数や選任について定めた第331条などがあげられます。
取締役の人数は決まってる?
取締役の人数は、会社のタイプによって異なります。非公開会社であれば、取締役は1人で構いません。1人で開業して自分を取締役にして1人で会社を運営しても問題はありません。
ただし、公開会社の場合は3人以上の取締役を置く必要があります。
取締役のルールは上場企業と中小企業で違う
取締役に関するルールは会社法で規定されているのですが、上場企業と中小企業で内容が異なっています。
上場企業と中小企業の取締役の違い
上場企業と中小企業では、取締役に関するルールが違います。例えば、中小企業の場合は、取締役会を置かないという方法もあります。
ですが、会社の規模などに関わらず、取締役が極めて重要なポジションであることは変わりません。会社の意思決定を行うという点や、取締役には責任が伴うこと、登記が必要という基本的な部分は同じです。
その他の取締役の制度
ここまで、取締役について解説してきましたが、他にも取締役に関してはさまざまな制度があります。取締役会設置会社などの制度が存在します。
項目 | 取締役会非設置会社 | 取締役会設置会社 |
---|---|---|
取締役の人数 | 1名以上 | 3名以上 |
取締役の業務執行権限 | ある | 代表のみ |
監査役の設置 | なくてもよい | 必要 |
業務執行の決定方法 | 取締役の過半数の賛成 | 取締役会の決議 |
株主総会の権限 | 会社に関する一切の事項を決定する(会社法295条1項) | 会社法及び定款に規定されている事項のみを決定する(会社法295条2項) |
上記の表の決まりはすべて、会社法の規定です。
このように「どういう形の会社なのか」によって、取締役のルールも変わってくるのです。複雑なルールではありますが、取締役の役割が会社にとって重要であるからこそ法律のルールが必要なのです。
取締役は会社の経営判断をする重要ポスト
取締役とは、会社の経営を担い、重要な意思決定を行う役員のことです。
取締役については会社法によって、経営責任や忠実義務、善管注意義務を負うことが定められています。取締役は、株主や会社に対して責任を負う立場です。
取締役は高い報酬をもらうこともありますが、報酬は責任と意思決定の重さを反映したものということができます。高額な報酬が期待できるという一方で、プレッシャーや法的責任、雇用保険に加入できないというデメリットもあります。
また、取締役を選任・解任した際には登記をしなければならず、株主総会の決議も必要です。
このように取締役は社内的にも社外的にも非常に重要なポジションです。