最終更新日:2025/4/18
株を持っていなくても取締役になれる!株を持たない取締役について解説します

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
書籍:プロが教える! 失敗しない起業・会社設立のすべて (COSMIC MOOK) ムック
この記事でわかること
- 取締役が株を持たなくても就任できる理由
- 株を持たない取締役のメリット・デメリット
- 取締役と株主の違い
- 取締役が将来的に株を持つときの注意点
取締役という役職にあっても、必ずしも自社の株を持つ必要はありません。「会社の経営者は株主でもある」というイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実際には株を持たなくても取締役や代表取締役に就任することが可能です。取締役などの役員は株主総会で選任される役職であり、取締役には外部の専門家が選ばれることもあります。
株を持たない取締役には、経営判断における中立性を保つことができる、優秀な人材を柔軟に登用できるといったメリットがあります。一方で、報酬や人事権が株主に依存する、労働基準法の適用外となるなどのデメリットもあります。
この記事では、株を持たない取締役の立場や、株主との違い、株を取得する際の注意点などについて詳しく解説します。
目次
株を持っていなくても取締役になれる
会社の取締役が、必ずしも自社の株を持っている必要はありません。「会社の経営に関わる役員は株を持っている」というイメージがある人もいるようですが、取締役が株を持つ義務はありません。
取締役は株主総会で選任される会社の経営陣のことです。会社の株主でなくても取締役に就任することができます。企業によっては、外部の専門家を取締役に迎えることで経営の効率化や企業価値の向上を図るケースもあります。
取締役が自社株を購入することは問題ない
株を持っていることは、取締役の条件ではありません。ですが、取締役が自社の株を購入しても問題はありません。
特に、代表取締役の場合は、自社株を持つことが自らの立場の安定につながるというメリットがあります。また、取締役が株を持ち自らが株主となることで、経営判断における主体性を高めることもできるでしょう。
株を持たない取締役のメリット・デメリット
株を持たない取締役には、メリットとデメリットがあります。それぞれの観点から見ていきましょう。
株を持たない人を取締役にするメリット
まずは、取締役が株を持っていないケースのメリットを解説します。
経営に対する意識
取締役という役職は、社内の上層部であり意思決定をする重要ポストです。取締役という地位に就くことで、経営に対する意識を改革することができます。
また、株主としての立場を持たないため、短期的な配当や株価の動向に左右されることなく、純粋に経営のための視点で意思決定を下せます。
能力や人脈を持つ人材に最適な役職
企業の成長には、専門性の高い人材や優秀な人材を経営層に迎えることが重要です。
例えば、社外取締役として、財務、マーケティング、技術分野において優れたスキルを持つ人材を取締役として迎えることで、企業の競争力を向上させることができます。
取締役が株を持たないことで、経営に専念できる環境を整えられるという点もメリットといえるでしょう。
社内・社外での影響力が強くなる
取締役という役職は、社外においても社内においても非常に強い影響力を持っています。株を持たない一般社員や中間管理職よりも、取締役の方が企業の意思決定に大きな影響を与える立場にあります。
特に、社内においては、取締役の発言や決定が会社の戦略に直接反映されることが多く、組織全体の方向性を決める役割を担います。また、社外においては、企業の代表として取引先や金融機関、株主と対話する機会が多く、会社の信頼性を高める役割を果たします。
株を持たない取締役は、経営の透明性や公正性を確保するために、独立した立場から監督機能を発揮することができます。
取締役が株を持たないデメリット
取締役が株を持たないことで発生するデメリットについても解説します。
株を持たない取締役は、会社の経営には関与するものの、会社の所有者ではありません。株を持っていないため、株主総会の決議に影響を与えることはできません。
また、取締役として経営に関わるなかで、自社株を持つべきかどうか悩むケースもあります。特に、スタートアップ企業やオーナー企業では創業者が株を多く保有しており、外部から招かれた取締役は株を持たないことが一般的です。
株を持たない取締役の役割や立場を理解することが、より適切な経営判断につながるでしょう。
報酬や人事権がない
取締役を含めた役員の報酬や人事権は、株主総会で決定されます。自らが株を持たないということは、株主総会の決議で報酬を急に下げられてしまう可能性があるということです。
また、取締役は株主総会の決議があればいつでも解任できるため、急に職を失ってしまう可能性もあります。
このほか、株を持たない取締役は自分以外の役員の人事権がないというのもデメリットのひとつです。
労働基準法の範囲外
取締役は会社の経営を担う立場であり会社と雇用契約を結んでいないため、労働基準法の適用を受けません。一般社員のように労働時間の規制や残業手当の支給がないため、労働者としての保障はありません。
また、委任契約であるため、長時間労働が発生しても報酬に必ず反映されるとは限りません。特に、代表取締役が株を持たない「雇われ社長」の場合、企業の経営状況が悪化すると報酬を削減されるリスクがあります。
取締役と株主の違い
取締役と株主は会社においてまったく別の立場を意味しています。取締役と株主の違いについて解説します。
取締役は会社の経営陣
取締役は、株主総会で選定される会社の経営陣です。
取締役は会社の経営判断をする立場であり、経営方針の決定や事業戦略の策定を行います。会社法上の責任を負い、会社の業績向上のために業務を行います。
株主は会社の出資者
株主は、会社に資金を提供している人や法人のことです。会社の持ち主は株主であり、株を保有している人には会社の利益を配当として受け取る権利があります。
株主は、取締役の決定や、定款変更の決定などの議決権を持っていますが、経営には直接関与しません。
代表取締役と株について
一般的に「社長」と呼ばれる代表取締役と株について実務的な視点で解説します。
雇われ社長とは?
雇われ社長とは、一般的に自社株を持たずに代表取締役に就任するケースを指します。
株を持っているかどうかに関わらず、代表取締役は経営陣としての責任を担います。ですが、一般的な雇われ社長は株主ではないため、会社の所有権や株主総会の議決権は持っていません。
そのため、雇われ社長の場合、会社の方針や報酬、役職の継続について、自らの経営判断が株主総会の決定に大きく左右されることがあります。
代表取締役兼株主というケースもある
代表取締役が自社の株を持っている場合、株を持たない場合と比べて経営の自由度が大きくなります。
特に代表取締役の場合、株を持つことで会社の経営権をより強固なものにすることができます。持株比率が高いほど、株主総会での発言権が強くなり、他の株主の影響を受けにくくなるため経営の自由度が増します。
一方、代表取締役が株を持つことで、経営者自身が短期的な株価の変動に影響されやすくなるというデメリットもあります。経営判断が、企業の成長よりも株価対策に偏るリスクもあるでしょう。
取締役と株主の関係
取締役と株主は、企業において異なる役割を担っています。
株主は会社の所有者であり、資本を提供しています。そして、取締役は会社の経営を任される立場にあります。
取締役と株主の違いについて解説します。
株主が取締役を選任する
株式会社では、取締役は株主総会の可決により選任されます。そして、取締役の解任についても、株主総会で決定されます。
取締役本人の意思とは関係なく、株主総会で可決されれば取締役はその職を失うことになるのです。会社の持ち主は株主であり、取締役は株主から経営を任されているのです。
取締役については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
株主総会の決議で取締役の解任ができる
株主総会の決議があれば、任期の途中でも取締役を解任できます。取締役の人事権は株主総会が持っているのです。
取締役と株主の間に対立が生じたり経営不振に陥ったりした場合、取締役らは自らの意思とは関係なく解任されるリスクがあります。そのため、株主との信頼関係の構築や高い経営能力の発揮などが、株を持たない取締役には強く求められます。
取締役が株を持つこととインサイダー取引について
取締役が会社の株を取得する場合には、インサイダー取引のリスクに注意が必要です。
インサイダー取引に注意
取締役などの会社の上層部の人間は、一般には公開されていない情報を知っていることがあります。
その情報を知った上で株を購入した場合には「インサイダー取引」に該当する可能性があります。
株を持たない取締役が将来的に株を持つ場合
株を持たない取締役であっても、会社と関わるなかで株を保有しようと考えることもあるでしょう。その場合の購入価格や資金について解説します。
オーナーから株を購入する
株を取得する場合は、株を持っているオーナー(株主)から株を購入します。取締役の経営権の強化や、長期的な経営の安定化という視点で有効です。
自己資金を投資する
株を購入する場合は、自己資金を会社に投資することになります。例えば、雇われ社長でずっと経営をしてきて、会社が大きくなってきたから「会社のお金で株を買う」ということはできません。
株を購入する場合は、自分のお金を使うことになります。
会社の株の時価について
会社の株を購入する際の株価は「時価」です。時価を算出する方法として、以下のものがあります。
- M&Aの仲介業者の評価額
- 相続税評価
- 第三者割当
M&Aの仲介業者の評価額とは、将来性、業種、財務状態などを客観的に評価して算出される金額です。そして、相続税評価とは、会社を相続したときの税金の額から会社の時価を算出する方法になります。
上記の方法以外では、第三者割当増資という方法もあります。第三者割当の場合、会社は新たに資金を調達することになります。
自分で会社を設立する場合
株を持たない取締役が、自分で独立して会社を設立するケースもあります。この場合、新しい会社の株を持つことができます。
自分が取締役になって株を持つことができる
新たに会社を設立する場合、創業者自身が取締役となり株を持つのが一般的です。
この場合、株主としての権限と取締役としての経営権の両方を兼ね備えるため、経営の自由度が高くなります。前述のインサイダー取引のリスクやオーナーから株を購入する手間を回避したい場合には、独立して自ら株主になれる会社を設立するのもひとつの方法です。
株を持たない取締役にはメリットとデメリットがある
取締役は、必ずしも自社の株を持つ必要はありません。社外取締役のように、過去に会社と関わりがない、株を持たない取締役が選任されることもあります。
株を持たない取締役のメリットには、経営判断の中立性の確保や専門的な人材の登用がしやすい点があげられます。一方で、報酬や人事権が株主総会に依存するため、報酬を下げられたり解任されたりするリスクがあるという点はデメリットです。
また、取締役が将来的に自社の株を取得する場合には、インサイダー取引に注意が必要です。経営に関与する立場でありながら株を取得することは法的リスクを伴うため、慎重な判断が求められます。取締役としての役割を理解し、企業の方針や自身の立場に合わせた選択を行うことが重要です。