最終更新日:2024/12/5
執行役員って何をする人?執行役員の仕事や報酬は?取締役や役員との違いを解説します
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- 執行役員の定義と仕事内容
- 取締役や役員との違い
- 執行役員の報酬
- 執行役員のメリット・デメリット
「執行役員」という役職を耳にしたことはありますか?企業の役職の中でも耳慣れないこの言葉、執行役員という役職に就く人は、一体どのような仕事をしているのでしょうか?また、取締役や役員とはどう違うのでしょうか?
執行役員は、企業の経営に深く関わる重要なポジションでありながら、その定義や仕事内容についてはあまり知られていないのが現状です。
「執行役員とは何か?」という基本的な疑問から、仕事内容、報酬体系、取締役や役員との違い、さらには執行役員を目指すためのキャリアパスまでわかりやすく解説していきます。
執行役員とは?基本的な定義を解説
執行役員とは、会社の業務執行を担う重要な役職のひとつです。
執行役員は、会社法で定められた「法定役員」ではなく、会社の内部規定で設置される役職です。
執行役員は、多くの企業が執行役員制度を採用しており、その役割や制度上のメリットが注目されています。
執行役員は企業の運営を担う重要なポジション
執行役員の主な役割は、企業の経営戦略を実行する業務を具体的に運営することです。経営方針の策定と決定は、取締役会で決定されます。
そして、その取締役会の決定に基づいて業務を実行するのが執行役員です。執行役員は、取締役会の方針を実際に現場に落とし込むことを主な業務としています。
つまり、会社の大切なことを決めるのは取締役で、実行するのが執行役員ということです。
執行役員は会社で任命される
執行役員は、登記が必要な取締役とは異なり、会社の内部で任命される役職です。執行役員の地位や責任を定めた法律はありません。社内で自由に執行役員を任命できるのです。
執行役員の雇用形態は「雇用型」と「委任型」の2種類です。「雇用型」の場合は、執行役員は従業員となります。会社とは雇用契約を結ぶ労働者という位置づけになります。雇用保険にも加入できます。「委任型」の場合は、会社と業務委託契約や委任契約を締結します。委任型の場合は、雇用保険への加入はできません。
契約形態がどちらであっても、執行役員は、取締役をはじめとした会社の経営陣から評価されて任命される重要な役職です。
執行役員と取締役の違い
執行役員と取締役の最も大きな違いは、執行役員は取締役のような法的な地位がないという点です。執行役員は、取締役のような会社法上の法定役員ではありません。
そのため、執行役員を選任しても登記をする必要はありません。社内の意思決定のみで執行役員をおくことができます。また、執行役員は、法定役員ではないため、取締役に比べて法的な責任の範囲が限られています。
執行役員と一般的な役員の違い
執行役員と法定役員は、どちらにも「役員」という言葉がついているため、似ているように思えるのではないでしょうか。ですが、実際には執行役員と法定役員はまったく別のポジションです。
まず、法定役員とは、取締役、監査役、会計参与のことです。この三役に関しては会社法に規定があり登記が必要で、善良なる管理者の注意義務などが会社法に明記されています。
一方で、執行役員に関する会社法の規定はありません。そのため、登記が必要なく、選任や解任の手続きが極めて容易です。また、執行役員の責任の範囲は、法定役員より軽く、限定されています。雇用型の執行役員の場合は他の従業員と同じです。
執行役員と部長の違い
執行役員も部長も、法定役員ではない社内の役職であるという点は同じです。
一般的に執行役員は、会社全体の業務の執行を統括する立場ですので、各部署のリーダーである部長よりも上位の役職とされています。どちらも従業員ではありますが、執行役員は部長の上司と考えていいでしょう。
執行役員と部長を同じ人が兼任しても法律上は全く問題ありません。
従業員が執行役員になれる
どのような人が執行役員になれるのかですが、執行役員は、従業員と雇用契約をしたまま執行役員に昇進させることができます。
「雇用型執行役員」というのですが、雇用契約を維持したままで執行役員として任命されるため、役職が変わっても労働の対価としての報酬を得ることになります。
もちろん、執行役員という役職に就いていても雇用保険や社会保険に加入できますし、労働基準法に守られているためその枠の中で労働します。
執行役員にはいろいろなメリットがある
法定役員ではないものの「役員」と呼ばれる執行役員のポジションはつかみにくく、少しあいまいに感じられるかもしれません。
会社法に縛られない執行役員制度の自由度の高さと社内での地位のバランスが、会社・従業員双方にメリットがあります。
執行役員というポジションはとても使い勝手がよいのです。
会社のメリット:登記をしなくてよい
執行役員の任命は社内で決定するだけです。
登記などの手続きが必要ないため、実力のある社員を登用するときの役職に利用しやすいのです。法定役員ではなく登記の必要がないというだけで、任命の自由度が高く、役職を与える会社側にとってハードルが低くなります。
例えば「非常に優秀だけれど、取締役に選任するのはまだ早い」という従業員に能力に見合ったポジションを与えたいときや「家族経営の会社で他人を取締役にするのに抵抗がある」というケースで、執行役員というポジションはちょうど良いのです。
執行役員は取締役に次ぐ会社の幹部として優秀な人材にふさわしい役職ですから、任命された従業員のモチベーションにもつながります。
執行役員というポジションを与えることが、結果として、優秀な人材の流出防止につながるという効果もあります。
本人のメリット:モチベーションにつながる
執行役員に任命されることは、会社から高く評価されていることを意味します。執行役員への昇進は、本人のキャリアにもなりますし、自分が評価されていることをわかりやすい形で実感できます。
また、社内社外での地位が上がるため、本人のモチベーションや仕事のしやすさにも直結します。
本人のメリット:役職名のステータス
ほとんどの人が、執行役員といわれると「あ、この人は会社の偉い人なんだ」「権限を持っている人なんだ」と判断することでしょう。
執行役員という役職名には社会的なステータスがあり、名刺に「執行役員」と書かれるだけで、取引先などからの信頼度が高まります。
これは単に「偉くなった」というステータスではなく、社内での地位を与えることで、仕事をしやすくなるというメリットがあるのです。
会社・本人双方のメリット:報酬面でのメリット
執行役員の報酬は、法人税上の損金として扱うことができるため会社にとって税法上のメリットがあります。
取締役の報酬は損金として扱えませんが、執行役員の報酬は給与ですので、損金として扱うことができます。
簡単に言えば、取締役より執行役員のほうが会社にとって節税になるということです。
本人にとっても、雇用型執行役員であれば従業員という形になるため、安定した収入を得ることができます。また、社会保険や雇用保険に加入できるというメリットもあります。
執行役員のデメリット
ここまで、執行役員のメリットについて解説しましたが、執行役員制度を導入するデメリットもあります。
まず、執行役員という役職が社内に存在することで、指揮系統が混乱する可能性があります。会社には、執行役員以外にも取締役や社長、部長といった肩書きがあります。
肩書きの種類が増えることで「一体、誰が責任者なのか」がわかりづらくなりやすいのです。
また、経営陣と執行役員の間で対立が発生するケースもあります。例えば、現場の従業員が、複数の上司から違う指示を受けて混乱してしまうという事態も想定されます。
こうした混乱はときに、指揮系統だけでなく会社の意思決定に影響する可能性もあります。
また、執行役員という肩書きを得た本人が大きなプレッシャーをかかえて精神的に追い込まれてしまうというデメリットもあります。特に、成果を重要とする社風の場合はこのプレッシャーが大きくなります。
ただし、これらのデメリットについては社内での運用がしっかりとしていれば起こりにくいのも事実です。プレッシャーに関しても、メンタルケアやフォローをすることで解決できます。
執行役員の導入が進む理由
多くの企業で執行役員制度の導入が進んでいます。その背景にはどのような理由があるのでしょうか。
意思決定を効率化できる
執行役員のデメリットで「意思決定が複雑化する」という点に触れましたが、執行役員制度は、上手く機能すれば意思決定を効率化させることができる制度でもあります。つまり、使い方ひとつでメリットにもデメリットにもなるということです。
執行役員は、取締役などの経営陣と現場で働く従業員の中間に位置するポジションです。ですので、現場との橋渡し役として上手く機能して現場の運営をすることで、経営陣の正しい意思決定とスピードアップに貢献できます。
現場の従業員にとっても、自分達の声を上層部に届けてくれる執行役員という存在がいることで、作業がしやすくなりモチベーションの向上にもつながります。
専門性や能力の活用
執行役員は特定の専門家や優秀な従業員に会社の内部規定で役職を付与できるため、従業員の専門性や能力に見合ったポジションとして重宝されます。
取締役とは異なり、任命の手続きは簡素です。そのため、会社が優秀な従業員の能力を活かすために与える役職として、執行役員はとても便利な肩書きなのです。
対外的・社内的な地位を向上させつつも、従業員としての立場を変える必要がないため、専門性や能力を活用する方法として利用されています。
役員の一歩手前のポジションとして活用できる
執行役員は、役員の一歩手前のポジションとしても活用できます。いきなり役員に昇進させるのではなく、ひとまず執行役員のポジションで役員としての資質があるのかなどを判断するという方法です。
従業員側からしても、役員になる前の登竜門としての執行役員というポジションで、経営陣とのやりとりを通した肌感覚で会社の中枢を知ることができるわけです。
大手企業は執行役員を置いているところが多い
会社にとっても、本人にとってもメリットが多い執行役員は、多くの大手企業で取り入れられている制度です。
執行役員は、会社法で定められている地位ではないため、置かなくても問題はありません。にもかかわらず、執行役員を置いている企業が多いという事実から見ても、執行役員という役職に魅力があるということがわかります。
執行役員の具体的な仕事は?
法的な枠組みがないからこそ自由に使える執行役員ですが、具体的にどんな仕事をしているのでしょうか。
執行役員が担当する主な業務
執行役員は、企業の経営戦略を実行したり部門ごとの目標達成を指揮したりする非常に重要なポジションです。
会社の方針は取締役会で決定しますが、その決定を現場に伝えて実行し会社の業績を上げるのが執行役員の主な業務です。
経営戦略
執行役員の主な業務は、取締役会で決定した方針に従ってその戦略を現場で指揮し実行することです。
つまり、執行役員は取締役会と現場の従業員の橋渡しをするポジションなのです。
取締役会などの経営陣と従業員を執行役員がつなぐことで、経営陣の決定を現場に浸透させつつ、現場からの情報や声を経営陣にフィードバックできるようになります。
執行役員がそのポジションをまっとうすることで、経営陣の判断を助け、現場での作業効率を上げられるというわけです。
また、執行役員はその場の判断をするリーダーではなく中長期的な経営計画を念頭に置いています。執行役員ではない、一般の管理職やリーダーとは別の視点で現場を指揮しているのです。
簡単に言えば、決定は取締役会が行い、その決定を現場に伝えて指揮するのが執行役員ということです。そして、現場の従業員は、部長や課長などの管理職のもとで作業をします。
こうした一連の流れの中で、執行役員は社内の潤滑油のような役割を果たしているのです。
部門ごとの目標達成と管理
執行役員は、自分が担当している部署や部門に与えられた目標を達成できるよう指揮をとります。
まずは、目標や目的を現場の従業員と共有します。ここで、具体的な戦略や売上目標などをあげていきます。
続いて、目標達成までのプロセスを定期的にチェックし、何か問題があれば対応します。もし、目標達成が困難になれば、その原因を追及して改善します。
また、複数の部門が連携してプロジェクトに臨む場合は、執行役員の働きは非常に重要です。取締役の一歩手前のポジションの執行役員は複数の部門を統括できる役職ですから、調整役としての働きを期待されます。
もちろん、その際には人間関係や社内のパワーバランス、得意分野などをすべて把握した上で、現場の従業員のモチベーションを維持しつつ評価やフィードバックを行います。
執行役員の報酬は?
取締役などの役員といえば、高額な報酬をイメージする方が多いかと思います。確かに、大企業の取締役の中には、億単位の報酬を受け取っている人がいるのも事実です。
それを踏まえた上で、執行役員の報酬はどのくらいなのかを見ていきましょう。
一般的な報酬
まず、前提として執行役員は、会社と雇用関係にあるため、働き方としては一般社員と同じです。ここが、業務委託契約や委任契約をする取締役とは異なります。
取締役は、経営の成果として報酬を受け取りますが、お給料という形ではありません。一方で執行役員は、雇用型の場合は従業員と同じようにお給料をもらいますし、時間外労働をした場合は手当がつきます。
ボーナスの規定がある会社であれば、一般社員と同じように執行役員もボーナスをもらうことができます。
ただし、役員のような「役員報酬」はないケースが多く、会社にどれだけ貢献したとしても高額の報酬を受け取るというケースはあまりありません。
あくまでも雇用されている労働者ですので、報酬の形態は一般社員と同じです。
では、執行役員がもらえる金額についてはどうなのでしょうか。
取締役や一般社員との報酬の差は?
労務行政研究所の調査によると、執行役員の報酬の平均は以下のとおりです。
専務執行役員とは、役職の専務と執行役員を兼務している人です。専務執行役員は執行役員の中でも特に上位の地位にあります。常務取締役についても兼務しているという点は同様ですが、一般的には専務のほうが社内の地位は上になります。
非役付の執行役員とは、専務や常務という役職がない執行役員のみの役職にある人です。
役職 | 年収 |
---|---|
専務執行役員 | 3,058万円 |
常務執行役員 | 2,246万円 |
非役付の執行役員 | 1,593万円 |
金額を見ればわかるとおり、執行役員の年収は、給与所得者の平均年収である458万円を大きく上回っています。
「専務」や「常務」のような役職がない、非役付の執行役員であっても、報酬の平均は1,500万円を超えていますので、一般社員の平均の3倍以上ということになります。
また、専務取締役になると平均年収「3,337万円」となっており、執行役員の報酬は高いといっていいでしょう。
では、取締役との差はどの程度なのでしょうか。
労務行政研究所の調査によると、専務取締役の年収の平均は3,337万円です。これは、専務執行役員の平均より、279万円ほど高い数字です。やはり、同じ役付であれば、執行役員より取締役のほうが報酬は多い傾向があるようです。
ですが、常務取締役になると年収の平均は2,560万円となります。取締役は執行役員より上位に位置していますが、役職が下であれば、執行役員のほうが平均年収が高くなっています。
つまり、会社という組織では、取締役か執行役員だけでなく、「専務」や「常務」といった役職と報酬がリンクする傾向があるといえそうです。
参考:令和4年分 民間給与実態統計調査 |国税庁
参考:2023年役員報酬・賞与等の 最新実態(PDF)| 労務行政研究所
執行役員とは自由度が高い重要ポスト
執行役員とは、取締役会で決定された会社の方針にしたがって実際に現場で実行し、目標達成を指揮するという重要な役職です。いわゆる、経営陣と現場の橋渡しをするポジションです。
執行役員は取締役のような法定役員ではなく、登記の必要はありません。会社内部の規定に基づいて経営陣によって任命されるため、自由に設置できるという特徴があります。
執行役員は、取締役などの役員と混同されがちですが、会社法上は役員ではなく、雇用契約のままで執行役員登用できます。
執行役員を置くことで、会社は優秀な人材の専門性や能力を活かせるという点、そして、税法上もメリットがあります。また、任命された側は重要なポジションを経験することで、成長するチャンスとなります。
加えて、執行役員の報酬は一般社員を大きく上回る高い水準を維持しているため、働く側にとっての魅力のひとつといえます。