記事の要約
- 故人が保有していた投資信託も相続財産であり、相続税の課税対象となる
- 被相続人名義のままでは口座の解約や売却はできないため、投資信託を相続するには移管手続きが必要となる
- 基準価額は日々変動するため、手続きが遅れると相続人間でのトラブルを招きやすくなる点に注意
「亡くなった人が保有していた投資信託は、どのようにすればよいのだろう?」
投資信託は、現金や不動産と同様に相続の対象となる財産です。
ただし、一般的な預貯金のように、単純に口座解約をして分割できるわけではありません。
評価額を算定したり、相続人名義の口座への移管といった段階的な手続きが必要です。
この記事では、投資信託の相続税評価額の計算方法から、手続きの流れ、複数の相続人での分け方、売却時の税金や注意点まで、はじめての方にも分かりやすくお伝えします。
なお、VSG相続税理士法人では、相続に関するご相談を無料で受け付けておりますので、相続でご不安なことがございましたら、お気軽にご連絡ください。
目次
投資信託は相続できる:知っておきたい3つのポイント
投資信託は、亡くなった人(被相続人)の財産として、相続人が引き継ぐことができます。
まずは、相続を進めるうえで前提となる、基本的な3つのポイントをお伝えします。

(1)投資信託は相続財産になる(受益権を引き継ぐ)
投資信託を保有している人は「受益者」と呼ばれ、運用による利益を受け取る権利(受益権)を持っています。
この受益権にも財産としての価値があることから、現金や不動産と同様に相続の対象になり、相続税の課税対象にもなります。
相続後は、そのまま運用を継続することも、売却して現金化することも可能であり、その選択は相続人が行うことができます。
(2)名義人が亡くなると口座は凍結され、そのままでは解約できない
「早めに解約して現金化したい」という場合であっても、被相続人の名義のままでは、原則として解約や売却はできません。
証券会社や銀行は、投資信託の名義人の死亡を知った時点で、その人の口座を凍結し、新たな売買や入出金、運用の指示などの取引を一時停止します。
口座凍結の措置は一見不便に感じられますが、相続人の知らないうちに財産が処分されることを防ぎ、相続人全員の権利を守るための大切なしくみです。
したがって、投資信託を相続する際は、預貯金のように直接現金で払い戻しを受けるのではなく、いったん「相続人名義」の口座へ移管手続きをします。
移管完了後、相続人の判断で運用の継続、または売却による現金化を選択できるようになります。
(3)相続せず放置すると売却できず、手続きも複雑化する
投資信託の相続手続きをしないまま放置すると、解約・売却ができないまま、相場の急変により価格が値下がりした際に大きな損失を被るリスクがあります。
また、法律上は相続人全員の共有財産(準共有)となり、売却時には相続人全員の同意が必要になるなど手続きが複雑化します。
投資信託の相続税評価額の計算方法
相続税がかかるかどうかを判断するには、この投資信託はいくらの価値かという「相続税評価額」を計算する必要があります。
相続税評価額の算出方法は、投資信託の種類によって異なります。

評価の基本:相続開始日に解約した場合の受領額で評価
投資信託の相続税評価額は、原則として相続開始日(被相続人の死亡日)において、解約または買取請求をした場合に、手元に残る金額を基準とします。
土日祝日など、相続開始日が金融機関の休業日で基準価額が公表されていない場合は、相続開始日前に公表された基準価額のうち、最も近い日の基準価額を使って評価します。
正確な評価額を知るには、金融機関に「相続開始日時点の残高証明書」を請求して、基準価額と保有口数を確認する必要があります。
なお、投資信託は国税庁の財産評価基本通達により、大きく以下の3種類に分けて評価します。
(1)一般的な投資信託の評価方法(公募型の非上場投資信託など)
現在販売されている投資信託の多くは、いつでも購入・換金ができる「追加型投資信託(オープン・エンド型投資信託) 」です。
この、いわゆる「一般的な投資信託」は、次の式で評価します。
計算式
通常、基準価額は1万口単位で表示されています。
その場合は基準価額を1万で割って、1口あたりの価額を求めます。
信託財産留保額とは、解約時(換金時)に差し引かれる費用のことです。
なお、控除する所得税等相当額には、所得税・復興特別所得税・住民税相当額が含まれます。
実際の評価では、解約時に控除される信託財産留保額や手数料の有無も銘柄によって異なるため、金融機関が発行する相続開始日時点の残高証明書や評価資料で確認しましょう。
たとえば、次のようなケースで計算してみましょう。
- 1万口あたりの基準価額:12,000円(=1口あたり1.2円)
- 保有口数:500万口
- 解約時に源泉徴収されるべき所得税等相当額 :30,000円
- 信託財産留保額:基準価額の0.3%
- 時価:1.2円 ✕ 500万口 = 600万円
- 信託財産留保額:600万円 ✕ 0.3% = 1万8,000円
- 評価額:600万円 ー 源泉所得税相当額3万円 ー 1万8,000円 = 595万2,000円
(2)日々決算型投資信託(MRF・MMFなど)の評価方法
「日々決算型投資信託」とは、毎日決算が行われるタイプの投資信託です。
計算式
このタイプは1口=1円が基本なので、ほとんどの場合は「保有口数 ✕ 1円」に近い金額になります。
外貨建てMMFなど外貨建ての資産は、原則として、相続開始日における対顧客直物電信買相場(TTB)またはこれに準ずる相場で円換算して評価します。
なお国内のMMFは、2016年のマイナス金利政策導入以降、運用難により販売休止されていましたが、金利上昇を背景として9年ぶりに販売再開の動きもみられます。
また、MRFの取り扱いを再開した証券会社もあり、普通預金より高い利回りが期待できる待機資金の運用先として再び注目を集めています。
(3)上場している投資信託(ETF・J-REITなど)の評価方法
証券取引所に上場しているETF(上場投資信託)やJ-REIT(不動産投資信託)は、上場株式の評価方法に準じ、以下の4つの価格のうち最も低い価格を使います。
- 相続開始日の終値
- 相続開始月の毎日の終値の平均額
- 前月の毎日の終値の平均額
- 前々月の毎日の終値の平均額
計算式
相続開始日が取引所の休日で終値がない場合は、その前後で最も近い日の終値を採用します。
また、複数の取引所に上場している場合は、その中から最も低い価格を選ぶことができます。
投資信託の相続手続きの流れと必要書類
実際の相続手続きは、主に以下の4つのステップで進みます。

ステップ1:金融機関への死亡連絡と残高証明書の取得
証券会社や銀行に、口座名義人が亡くなったことを連絡します。
この通知により、口座は凍結されます。
このとき、相続税申告および遺産分割協議の基礎資料となる「相続開始日時点の残高証明書」の発行も依頼しましょう。
ステップ2:遺言書の確認・遺産分割協議
次に、遺言書が残されているかどうかを確認します。
法的に有効な遺言書がある場合は、その内容に従うのが一般的です(相続人全員の合意で、遺言書の内容と異なる分割にすることもできます)。
遺言書がない場合は、相続人全員の話し合いである「遺産分割協議」を行い、誰がどの投資信託を、どのように引き継ぐかを決めます。
ステップ3:必要書類の準備
金融機関からの案内に従い、必要書類一式を揃えます。
ステップ4:相続人名義の口座開設と移管
投資信託を相続する場合、原則として故人が利用していた証券会社や銀行に相続人名義の口座を開設し、そこへ移管する必要があります。
必要書類の提出から移管完了までは、通常2週間から1カ月程度を要します。
主な証券会社・銀行別の手続きの違い
金融機関によって、連絡手段や手続きに違いがあります。
| 金融機関のタイプ | 主な金融機関 | 手続きの特徴 |
|---|---|---|
| ネット証券 | SBI証券、楽天証券など | ・手続きの受付はWebフォームやコールセンターが中心。 ・書類は郵送でやり取りする。 |
| 対面型の証券会社 | 野村證券、大和証券など | ・店舗窓口の担当者から対面で書類確認や手続きの案内を受けることができる。 |
| 銀行・信託銀行 | みずほ銀行、三菱UFJ銀行など | ・店舗窓口での手続きが基本。 ・投資信託だけでなく、同一金融機関内の預貯金口座の相続手続きを並行して進めることが可能。 |
| ゆうちょ銀行 | ゆうちょ銀行 | ・ゆうちょ銀行の窓口にて相続手続きの申し出をする。 |
投資信託を複数の相続人で分ける方法
投資信託は口数単位での分割が可能であるため、複数の相続人間で細かく分けることが可能です。
分け方には主に3つの方法があります。

(1)現物分割:口数で分けて移管する
現物分割とは、投資信託の口数を相続人ごとに分けて、それぞれの口座へ移管する方法です。
「相続後も各自の判断で運用を続けたい」という場合に適しています。
(2)換価分割:売却して現金で分ける
換価分割とは、投資信託をすべて売却して現金化し、その現金を相続人間で分ける方法です。
1円単位で公平に分けられる反面、売却により利益が出た場合は、譲渡所得税の課税対象となります。
(3)代償分割:1人が引き継ぎ現金で清算する
代償分割とは、特定の相続人が投資信託をすべて引き継ぎ、ほかの相続人には、承継者から相当額を支払って精算する方法です。
代償分割を行う場合は、遺産分割協議書に「代償分割のために金銭を支払う」旨を明記しましょう。
この記載がない場合、単なる親族間の「贈与」とみなされ、贈与税が課税されるおそれがあります。
遺産分割協議書の記載例
投資信託を遺産分割協議書に記載するときは、どの投資信託かを特定できる情報を書きましょう。
- 特定に必要な情報
- 金融機関名・支店名、口座番号、銘柄名(ファンド名)、保有口数
- 換価分割の記載例
- 「被相続人名義の〇〇証券における投資信託(銘柄名:〇〇、口数:〇〇)をすべて売却換価の上、その売却代金から諸費用を差し引いた残額を、相続人Aが〇分の一、相続人Bが〇分の一の割合で取得する。」
- 代償分割の記載例
- 「相続人Aは、被相続人名義の〇〇証券における投資信託(銘柄名:〇〇、口数:〇〇)を取得する。その代償として、相続人Aは相続人Bに対し、現金〇〇円を支払う。」
相続した投資信託にかかる税金と確定申告
投資信託の相続においては、取得時の相続税だけでなく、相続後に売却した際の税金にも留意しましょう。
売却益にかかる税金と取得費の引き継ぎ
相続した投資信託を売却して利益(譲渡益)が出ると、その利益に対して20.315%の譲渡所得税がかかります(所得税15.315%・住民税5%) 。
税金の計算に使う「取得費(購入価額)」は、相続時の時価ではなく、故人がその投資信託を実際に購入した当時の価格を引き継ぎます。
保有期間も同様に、被相続人の取得時期を引き継ぎます。
購入当時の価格がわからないときは、売却代金の5%を概算の取得費として計算します。
ただし、この計算方法は税負担が大きくなる傾向があるため、購入当時の資料はできるだけ探しておきましょう。
「取得費加算の特例」で譲渡所得税を抑える
相続税の課税対象となった投資信託を、「相続開始日の翌日から3年10カ月以内」に売却した場合、納めた相続税のうち一定額を取得費に加算して、譲渡所得税を軽くできる特例があります(取得費加算の特例)。
取得費加算の特例の適用を受けるためには、確定申告を行う必要があります。
確定申告が必要なケース・不要なケース
売却して利益が出た場合に確定申告が必要かどうかは、移管先として選択した口座区分によって異なります。
- 特定口座(源泉徴収あり)の場合
- 金融機関が税金を計算して源泉徴収してくれるため、原則として確定申告は不要。
ただし、取得費加算の特例、損益通算、繰越控除を使う場合は確定申告が必要になることがある。 - 一般口座、または特定口座(源泉徴収なし)の場合
- 相続人自身で年間利益を計算し、確定申告を行う必要がある。
被相続人の準確定申告が必要なケース
故人にその年の収入(生前に受け取った分配金や売却益など)があった場合、相続人は相続の開始を知った日の翌日から4カ月以内に、被相続人の代わりに所得税の「準確定申告」を行う必要があります。
亡くなった人のNISA口座の投資信託はどうなる?
被相続人がNISA口座で保有していた投資信託は、通常の特定口座とは少し扱いが異なります。
なお、「NISA口座の相続手続きや生前贈与」に関しては、以下の記事もご参照ください。
(1)NISAの非課税枠は引き継ぐことができない
NISA口座の非課税枠は、口座名義人が死亡した日をもって終了します。
NISAの非課税枠そのものを、相続人が引き継ぐことはできません。
故人のNISA口座にある投資信託は、相続人の「特定口座」または「一般口座」へ移管され、死亡後に支払いが確定した分配金や配当金は、非課税とならず課税されます。
(2)取得価額は「死亡日の時価」になる
通常、投資信託の相続では、被相続人の購入価格(取得費)を引き継ぎますが、NISA口座内の投資信託については例外です。
相続人の口座へ移管される際の取得価額は、被相続人の購入価格ではなく「被相続人が死亡した日の時価(基準価額)」になります。
例
- 被相続人が50万円で購入したNISA内の投資信託が、死亡日に100万円に値上がりしていた場合
相続人は「100万円で購入したもの」として扱われます。
その後、投資信託を120万円で売却した場合、課税対象となる利益は、値上がりした20万円(120万円 - 100万円)のみとなります。
被相続人の保有期間中の値上がり益(50万円分)に対しては課税されません。
なお、NISA口座から相続した投資信託であっても、要件を満たせば「取得費加算の特例」が使えます。
投資信託を相続するときの注意点
投資信託の相続における主な注意点は、以下のとおりです。
(1)基準価額の変動リスクがある
投資信託の基準価額は、市場環境に応じて日々変動するため、「相続が発生したとき」「遺産分割協議のとき」「売却のとき」で、価値が大きく変わることがあります。
「協議のときより値下がりした」といったことから、相続人間で不公平感が生まれ、トラブルになる可能性も否めません。
分け方や売却のタイミングについては、価格変動リスクを織り込んだうえで話し合い、合意しておくことが大切です。
(2)移管手続き中は売却できない
名義変更(移管)が完了するまでの期間は、投資信託を売却できません。
手続きの進行中に相場が急変し、基準価額が下落するリスクもあります。
現金化を急ぐ場合は、速やかに必要書類を揃えて手続きを進めましょう。
(3)ネット証券は口座の存在に気づきにくい
インターネット証券は取引報告書等の郵送物が届かないケースも多く、相続人が口座の存在に気づきにくい傾向があります。
故人の財産を調べる段階で、メールや取引通知、スマートフォンのアプリなども確認しましょう。
投資信託の相続に関するよくある質問
Q1:複数の金融機関に口座がある場合は、どうすればいい?
Q2:相続手続きと同時に、別の証券会社へ直接移管できる?
Q3:相続した投資信託は、すぐに売却したほうがよい?
Q4:売却して損失が出た場合、損益通算はできる?
まとめ:確実な投資信託の相続に向け、まずは専門家へご相談ください
投資信託は、現金や不動産と同じように相続できる財産です。
相続手続きは、金融機関への死亡連絡と残高証明書の取得から始まり、相続税評価額の計算、相続人名義の口座への移管という流れで進みます。
実務上、特に大切なポイントは以下の3点です。
- 「相続開始日の基準価額」をもとに、相続税評価額を算出すること
- 通常の口座では「被相続人の取得費(購入価額)」を引き継ぐこと
- NISA口座内の資産については「死亡日の時価」が取得価額となること
これらの評価計算のほか、特例の適用には専門的な判断が求められます。
手続きをスムーズに進め、申告漏れや過大申告による不利益を防ぐためにも、要件の確認や実際の申告に際しては、税理士をはじめとする専門家へ相談されることをおすすめします。
VSG相続税理士法人には、相続専門の税理士はもちろん、元国税調査官も在籍しており、評価ミスで損をすることも、申告漏れで追徴課税を受けることもないよう、投資信託の評価から申告までサポートしています。
また、グループ内の司法書士や行政書士などの各種専門家と連携し、お客様の相続に関するお悩みに、窓口ひとつで対応しております。
初回のご相談は無料ですので、気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。


