東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
物損事故とは、物に被害を受ける事故を言います。
例えば、家の外壁やブロック塀、車のほか、ペットが撥ねられてしまった場合も物損事故の扱いです。
物損事故では、被害についての損害賠償を加害者(または保険会社)に請求できます。
全国での任意保険の加入率は約9割で推移しているため、多くの場合は加害者の任意保険会社に請求するでしょう。
物損事故にあうと、
などが気になるところでしょう。
今回の記事では、これらの疑問にお答えするために、物損事故と人身事故の違いや、賠償金・慰謝料などへの影響を解説していきます。
物損事故で損をしないための注意点も解説しています。
参考にしてみてください。
目次
物損事故とは、物だけが壊れたり傷ついたりした事故を指します。
以下が物損事故の例です。
物損事故でも賠償金は発生しますが、加害者が賠償する範囲は物に対する賠償金のみです。
人身事故とは、交通事故によって人が死傷してしまった事故です。
物が損壊したかどうかにかかわらず、人が負傷するか死亡すれば、人身事故にあたります。
物損事故と人身事故では、事故後の保険適用や処分が異なります。
物損事故と人身事故の主な違いは、以下の表の通りです。
物損事故 | 人身事故 | |
---|---|---|
自賠責保険 | 適用されない | 適用される |
行政処分 | 加算されない | 加算される |
刑事処分 | 対象とならない | 対象となる |
慰謝料の請求 | 原則不可 | 可 |
損害賠償請求権の消滅時効(短期) | 被害者が損害および加害者を知った時から3年 | 被害者が損害および加害者を知った時から5年 |
損害賠償請求権を受働債権とする相殺 | 悪意のある場合は可 | 不可 |
交通事故に関する行政処分とは、運転免許の点数に関する処分です。
物損事故を起こして他人の物や公共の物を壊してしまった場合は、基本的に民事上の損害賠償責任が発生します。
そして壊れてしまった物の修理代や時価を支払います。
違反点数が加算されて免許停止などの行政処分の対象になる場合や、罰金や懲役などの刑事処分の対象になるケースも珍しくありません。
交通事故の被害者の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料は、人身事故の場合にのみ認められます。
そのため、物損事故の場合、慰謝料は発生しません。
人身事故の慰謝料は、以下の場合で精神的な苦痛に対して支払われます。
一方、物損事故の場合は、もし事故によって大切にしていた物が壊れてしまった場合でも、精神的苦痛としての慰謝料は認められません。
壊れてしまった物の客観的な価格を基準にして賠償金を支払います。
被害者が物損事故で請求できる損害賠償は、以下の通りです。
それぞれの損害賠償について詳しく解説します。
停車中の車にぶつけられたなど、自動車に被害があった場合にはその修繕費用を相手方に請求可能です。
修繕費用として請求できる範囲は、破損箇所を塗装するための塗料や板金、その他の部品代等の実費に加え、工賃も含まれます。
修理費が補償されるのは修理が可能な場合に限られ、全損によって修理が不可な場合は、修理費ではなく買替えの費用を請求します。
また、修理代の上限は車の時価額です。
例えば、破損が大きく修理に時間・人件費が多くかかる場合や、車種や年式によっては部品の生産が終了して部品代が高騰している場合もあります。
計算した結果、車の時価額よりも修理費が高くなってしまう場合は、車の時価額までしか請求できません。
ただし、この場合も修理していけないわけではありません。
どうしても修理にこだわりたい場合は、差額分は自費で負担する必要があります。
交通事故の発生原因について自己にも過失がある場合には、請求額は過失の割合に応じて減額になります。
車が全損して買替が必要になったり、修理に時間がかかったりすると、その間は車を使えなくなってしまいます。
このような場合、修理業者から代車を借りるための費用や、レンタカーを利用する費用を、代車使用料として相手方に請求可能です。
代車使用料は、必要と認められる場合に限ります。
車を通勤に利用していた場合でも、徒歩圏内にある場合や公共交通機関で足りる場合などは、代車にかかる費用を請求できるとは限りません。
また、代車は原則として被害を受けた車と同クラスの車に限られるため、不必要にグレードの高い車の利用も不可になります。
代車使用料の計算方法は、例えば1日3,000円のように、保険会社に一定の基準がありますが絶対ではありません。
また、支払われる日数も無制限ではなく、必要と認められる限度です。
レンタカーが快適だからといってなかなか買替しない等の対応は不適切で認められません。
この場合、代車使用料は通常必要と認められる期間で計算され、争いになる場合は最終的に裁判で判断されます。
車が全損して修理が難しい場合や、修理可能であっても買替えの方が安い場合には、買替えを選択するでしょう。
買い替えの際に、本体代金以外にかかるお金についても「買い替え諸費用」として加害者へ請求可能です。
基本的には新車の購入代金総額から本体価格を引き、廃車費用を足したのが買い替え諸費用になります。
買い替え諸費用の範囲として認められた事例としては、以下の費用があります。
これらについても、交通事故がなければ発生しなかった費用であるため、基本的には補償対象になります。
ただし、自動車税や自動車重量税、自賠責保険料などは買い替えに関わらず発生する可能性がある費用であり、損害賠償の対象外になります。
基本的には実費での請求になるため、相場を大きく超えるような請求は認められません。
車が交通事故で損傷をうけると、その後はいわゆる「事故車」の扱いになります。
事故車になると、将来的に売却する際に告知義務があり、イメージの悪化から買い手がつきにくくなってしまいます。
そのため、無事故の車と比べると評価額が下がってしまうのが通常であり、この価格下落が「評価損」です。
評価損も、自己によって受けた損失の1つと言えるため、損害賠償の対象になります。
通常は、修理費用の1~2割程度に収まるケースが多いです。
ただし、売却する段階にならないと売却額(損失額)が明らかにならないため、売却前に評価損を計算するのは非常に難しい作業になります。
なお、評価損は年式の浅い高級車ほど評価損によるダメージを受けやすい特徴があります。
使用年数が長く比較的安価な車であれば、売却額がそもそも安価であり、事故車になっても価格下落が小さいためです。
車が被害を受けた場合において、評価損を考慮する必要がありそうなら、弁護士に相談するなどの丁寧な対応が必要になるでしょう。
ここからは、警察への連絡など、物損事故を起こしてしまった場合の対応方法と流れを紹介します。
交通事故を起こしてしまった場合は、人身事故だけでなく物損事故でも警察に通報する必要があります。
物損事故を起こして警察に通報しなかった場合、道路交通法の第72条第1項の違反として、免許停止の行政処分や罰金などの刑事処分の対象です。
自分の運転で物損事故を起こした場合でも、必ずしも運転者だけに過失があるとは限らないため、現場の状況確認も大切です。
たとえば、事故現場となった道路や施設などの管理が不十分で、事故の一因となる場合があるでしょう。
上記の場合では、相手にも過失があるとして賠償金の減額を主張できる可能性があります。
万が一事故が発生した場合に備えて、客観的な状況を把握・証明するために、車にドライブレコーダーを搭載しておきましょう。
交通事故の際は、できるだけ早めに加害者と連絡先を交換しましょう。
警察の到着前に聞いておくと、逃げられるリスクを軽減できます。
聞いた方が良い内容は、以下のとおりです。
最低限、相手を特定して連絡ができるよう、住所、氏名、電話番号を押さえておきましょう。
示談交渉や、場合によっては訴訟の際などに必要になります。
交通事故の際には加害者の免許証の写真を撮らせてもらうのも一般的です。
開示を渋る場合は、警察が到着してからか、互いに保険会社への連絡後であれば素直に応じてくれるでしょう。
事故の解決に必要である旨を告げ、できるだけ早めに連絡先を聞いておきましょう。
事故により物損被害を受けた際は、自己の契約する任意保険会社へ連絡しておきましょう。
先に連絡しておくと、保険を利用する際の手続きがスムーズです。
電話口では事故の状況を伝え、現在の契約内容や、保険が利用できるかどうかを確認しておきましょう。
そのほか、今後の対応の注意点なども教えてくれる場合が多いです。
保険の等級や、保険料のアップが気になるかもしれませんが、結果として保険を利用せずに済めば等級等はかわりません。
また、相手方もその場で保険会社へ連絡し、相手方保険会社の担当者と話をするケースも多いです。
この場合、その場で過失を認めたり、賠償金に合意するなどの行為はNG。
一度認めてしまうと、後から覆すのは難しくなります。
また、保険会社が損害の状況を把握する前に修理を終わらせてしまうと、損害の範囲がわからなくなり修理費用の支払いで揉める場合があります。
保険会社と連絡する際は、修理までの流れも確認しておきましょう。
修理費用や代車の費用などによって、損害額を計算します。
また、実際に支払った金額を証明できる領収書や請求書などの書類を用意しておきます。
交通事故により発生した損害額が確定し、その書類を用意できたら、相手方と示談交渉を行います。
示談交渉では、損害の内容や過失割合などを話し合いにより決定し、加害者側が負担する損害額を決定します。
示談の注意点は、以下の通りです。
それぞれの注意点について詳しく解説します。
示談を相手任せにするのは絶対にNGです。
示談を相手任せにすると相手の主張がとおりやすく、自分が不利になる可能性が高くなるためです。
前提として、保険会社は交渉のプロです。保険金の支払いを安く済ませるのが自社の営業利益になります。
相手の主張に耳を傾けるふりをしつつ、専門用語で濁したり、相場をわかりにくくするなどして、支払いを安く済ませるのが仕事です。
これに対し、弁護士に依頼して保険会社と交渉すると、賠償額が増額できるケースが多いです。。
これは過剰に請求を上乗せしているわけではありません。
過去の裁判例を基準にして法的な適正額を請求した結果、必然的に保険会社の(安い)提示額よりも高くなります。
後述のとおり、示談は原則としてやりなおしできません。
相手任せにせず、こちらの主張を正しく伝え、内容に反映させましょう。
示談とは、話し合いによる争い解決の最終的な合意です。
法的には和解契約の性質を持つため、一度示談が成立すると原則として撤回や取消による蒸し返しはできません。
示談のやり直しができるのは、以下のようなケースに限られます。
こうして並べるとやりなおせるケースが多いように見えてしまいますが、実際にはそうではありません。
保険会社が公序良俗に反する契約を行うわけはなく、詐欺や強迫も基本的にないためです。
示談の前提となる事実に誤りがあった場合とは、例えば後からしか発見し得ないケガが見つかったケースなどですが、実際には稀です。
「損害賠償の相場を勘違いしていたためやり直したい」は通用しません。
示談金が正当であるかの判断は、示談成立前に行うのが原則です。
少しでも不安な場合は弁護士に相談しましょう。
少しでもケガがあれば、物損から人身事故への切り替え手続きを行っておきましょう。
保険会社は、基本的に事故証明書から物損事故か人身事故かを判断します。
警察での調書が『物損』の場合、事故証明書は物損として発行されるため、保険会社としても治療費が必要と判断できません。
証明書上はケガがないはずの相手に対し、治療費の支払いはできないわけです。
このように、人身事故への切り替えを行わなければ、あとから痛みが大きくなっても保険会社から治療費を受け取れない可能性があります。
治療費を自費で負担するか、自費で治療を継続できなければ、治せたはずのケガが後遺症として残るケースもあるでしょう。
交通事故にあった際は必ず病院で診断をうけ、少しでもケガがあれば人身事故への切り替えを必ず行っておきましょう。
物損事故を人身事故へ変更する流れは、以下の通りです。
それぞれの流れについて詳しく解説します。
人身事故への切り替えの際は、現にケガがあったと示す証拠として、医師の診断書が必要になります。
診断書は、医師免許の国家資格を持つ医師により発行されます。
病院より先に接骨院や整骨院に行くのはNGです。
整体師等は医師ではなく、診断書を発行できません。
また、医師の診断前に無用な処置が施されてしまうと、痛みの原因が分かりにくくなる場合や、医師が診断書の発行を渋るケースもあります。
病院へ行くタイミングは、事故当日か2~3日以内が望ましいです。
痛みがないと思っても、病院での治療または検査を受けるようにしましょう。
交通事故においては、直後に痛みが出にくい場合があります。
興奮状態になり痛みに気づきにくいケースや、内出血・むちうちなどの特徴として痛みがあとから出てくるケースがあるためです。
診断書を得たあとは、警察で人身事故への切り替え手続きに進みます。
病院から診断書を受け取ったら、管轄の警察署にて人身事故への切り替え手続きを行います。
手続きの際は、原則として電話での事前予約が必要です。
人身事故への切り替え手続では、現場での実況見分が行われ、その際に加害者の立会も必要になります。
直接行ってもすぐには対応できない可能性が高いため、警察の指示に従って予定を調整する必要があるでしょう。
日付が決まれば、実況見分が行われ、人身事故への切り替えが行われます。
人身事故への切り替えは事故から10日~14日以内が目安です。
日にちが経つほど、医師としても事故によるケガか判断しにくくなります。
同様に、現場の証拠や本人の記憶も曖昧になっていく場合があり、警察も動きにくくなります。
事故後はすぐに病院で診察を受けるなど、早めの行動が大切です。
物損事故でよくあるトラブルは、以下の通りです。
それぞれのトラブルについて詳しく解説します。
当て逃げされると、加害者がわからないため対応が難しくなります。
基本的な対応方法は次のとおりです。
自己の加入する任意保険会社へ連絡しておくといいでしょう。
結果として保険を利用しなければ等級や保険料は変わりません。
映像などから車のナンバーがわかれば、被害届とともに警察へ提出しましょう。
後日、警察から加害者が見つかったと連絡が入る場合があります。
ただし、過失による物損のみでは器物損壊等の犯罪が成立しない可能性が高く、警察が動いてくれないケースも考えられます。
そのような場合、陸運局でナンバーから所有者を特定する方法もありますが、弁護士からの照会でないと回答を得られない場合もあります。
当て逃げの際は、警察に被害届を出すとともに、弁護士にも一度相談するといいでしょう。
加害者によっては、反省の色が見られない人や、自己保身、支払う賠償額の減額にしか興味を示さないような人もいます。
物損のみでケガがなければ不幸中の幸いですが、加害者の口からそう言われると複雑な気持ちになる場合もあるでしょう。
被害者としては、物損も大きな被害であり、怒る気持ちも自然です。
しかし、相手に怒鳴ったり謝罪を強制したりする行為はNG。
ましてや動画を撮ってSNS上で公開するなどの行為も絶対にしてはいけません。
場合によっては、脅迫や恐喝、名誉棄損等にあたる可能性があり、事故被害者のはずが逆に刑事告訴されてしまう場合もあります。
加害者から悪態をとられた場合、精神的苦痛による慰謝料を請求できる可能性があります。
感情的になれば、法律上は不利になるケースがほとんどです。加害者の言葉は録音するなどして、冷静な対処を心掛けましょう。
今回は、物損事故について解説しました。
事故で物損の被害にあった際は、物損のみだろうと自己判断しないのが大切です。
ケガがないと思っても、病院で診察を受けた結果ケガが発覚する場合も少なくありません。
ケガがあれば、早めに人身事故への切り替えを行いましょう。
結果的に物損のみの場合、損害に対する修理費用を請求できるほか、代車等の諸費用を請求できる場合があります。
しかし物損事故では、ケガがないために任意保険会社や弁護士に依頼せず、自分で示談交渉を進めるケースが少なくありません。
この場合、相手方保険会社の都合で話をすすめられ、こちらの主張が受け入れられないケースが多くなってしまいます。
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