東京弁護士会所属。
交通事故の程度によっては、入院が必要になったり、定期的な通院、精神的にも疾患を負ったり、PTSDとして現れることもあります。
こうした状況の中で、交渉ごとを被害者本人でまとめようとすることは非常に大変です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、直接示談交渉をしたり、資料を準備したりする精神的負担が軽減できます。
つらい事故から一日でもはやく立ち直るためにも、示談交渉は弁護士に任せて、治療に専念してください。
車同士の衝突で交通事故となったものの、車両に大きな破損がなく、ケガや痛みもないことから物損事故として扱うケースはよくあります。
しかし、事故から数時間経って痛みが出始める、あるいは数日後にしびれが出ると一定期間の治療が必要となり、治療費の支払いも生じてきます。
このようなケースでは物損事故から人身事故へ切り替えるべきですが、いつまでにどのような手続きをしなければならないのでしょうか?
被害者が不利な状況にならないよう、人身事故へ切り替えるメリットや、物損事故と人身事故の違いも理解しておきたいところですね。
そこで今回は、物損事故から人身事故へ切り替える期限や、手続きの方法をわかりやすく解説します。
目次
物損事故から人身事故への切り替えに期限はありませんが、手続きは早めに済ませることをおすすめします。
人身事故への切り替えは治療費や慰謝料の請求が目的となりますが、事故発生から長い期間が経過していると、事故とケガの因果関係を証明しにくくなります。
警察から切り替え期限の指示があれば、必ず期限内に手続きしてください。
なお、人身事故への切り替えを検討する際は、物損事故と人身事故の違いも理解しておくとよいでしょう。
物損事故と人身事故を表面的にみると、死傷者がいるかどうかの違いだけに思えるでしょう。
しかし、被害者への補償や加害者のペナルティは大きく異なるため、ケガを負った場合はできるだけ人身事故扱いとなるように働きかけるほうが得策といえます。
具体的には以下のような違いがあるので、物損事故から人身事故への切り替えを検討している方はぜひ参考にしてください。
物損事故では基本的に車の修理費や買換費用、代車費用しか請求できませんが、人身事故の場合は以下の損害賠償を請求できます。
物損事故扱いにすると死傷者がいない事故になるため、治療費や慰謝料などの請求はできなくなり、自己負担で治療を続けなければなりません。
ケガや後遺障害が原因で仕事が制限される、あるいは退職や廃業を余儀なくされるケースもあるので、できる限り人身事故として扱うべきでしょう。
物損事故には行政処分がなく、無事故の扱いとなります。
一方、人身事故の場合は行政処分の対象となり、違反点数が加算されるため、免許停止や免許取消などの処分が下されるケースもあります。
加害者としては人身事故より物損事故の方が都合がよいため、被害者にケガがあっても、軽傷であれば物損事故にして欲しいと頼まれることが少なくありません。
あくまでも加害者側の一方的な都合なので、安易に応じることがないよう注意してください。
死傷者のいる交通事故であれば、加害者は刑事罰となる過失運転致死傷罪に問われます。
罰金や禁固刑となるため、加害者は社会的信用を失い、あるいはこの刑罰が仕事に影響するでしょう。
被害者がケガを負っている交通事故でも、物損事故にしてほしいと頼まれる理由には、行政処分や刑事処分が大きく影響しています。
実況見分調書や供述調書を刑事記録といいますが、人身事故となった場合のみ警察によって作成されます。
人身事故の加害者に損害賠償を請求する場合、実況見分調書は過失割合の決定に大きく影響します。
事故の過失割合は加害者側の保険会社が決定しますが、被害者にまったく非がない事故にも関わらず、何らかの過失を主張してくるので注意しなければなりません。
このようなケースでは、実況見分調書があると強引な主張にも対抗できるようになります。
なお、物損事故の場合は物件事故報告書が作成されますが、過失割合の決定にはほとんど影響がありません。
物損事故は損害賠償の範囲が限られるため、ケガを負った場合は人身事故に切り替えるべきです。
人身事故に切り替えると以下のメリットがあるので、十分な補償を受けたい方や、交渉が苦手な方は参考にしてください。
物損事故を人身事故に切り替えると、車の所有者には自動車損害賠償保障法(自賠法)が適用されるため、加害者の責任が明確になります。
自動車損害賠償保障法は被害者保護を目的としているため、加害者は過失の証明責任や損害賠償の義務を負わなければなりません。
加害者によっては反省の色がなく、謝罪すらしないケースもありますが、責任を明確にして罪を追求すれば、被害者の溜飲も下がるでしょう。
物損事故にはこのような扱いがないので、十分な補償を受けたいときは人身事故への切り替えをおすすめします。
被害者にまったく過失がないもらい事故(追突事故など)でも、物損事故にすると自分で示談交渉を行わなければなりません。
保険会社は過失のない被保険者(被害者)の代理人になれないためですが、自分で示談交渉する場合は高度な専門知識が求められます。
保険会社は営利を目的としているため、基本的には損害賠償を低く見積もっています。
十分な補償を獲得するためには理論武装も必要となりますが、素人ではまず太刀打ちできないでしょう。
しかし、人身事故に切り替えると保険会社同士の示談交渉となるため、不利な賠償金で納得させられる可能性は低くなります。
物損事故と人身事故の大きな違いは補償の範囲です。
人身事故の場合は慰謝料や治療費、逸失利益(事故がなければ得られたはずの利益)などを請求できるので、病院への支払いを自己負担することもなくなります。
交通事故によってケガを負った場合でも、人身事故にしたくない加害者から、「すべて自分の過失で治療費や修理費も全額支払うから物損事故にしてほしい」と頼まれるケースがあります。
しかし、加害者側の保険から修理費などを補償する場合、保険会社も事故状況を調査するため、被害者にも過失があったと主張される可能性は否めません。
加害者の言い分を鵜呑みにしても、最終的には保険会社の判断となりますが、物損事故では実況見分調書もないため、被害者の主張が否定される可能性もあります。
ただし、人身事故の扱いにすれば実況見分調書も作成されるので、過失割合も適正に算定される可能性が高くなります。
物損事故から人身事故への切り替えはそれほど難しくないため、以下のように対応してください。
ただし、できるだけ早めに手続きしておくことがポイントになります。
人身事故への切り替え手続きには診断書が必要となります。
接骨院や整骨院では作成してもらえないので、必ず医療機関の診察を受けて診断書を発行してもらいましょう。
なお、事故発生日と初診日の日付が離れていると人身事故が認められなくなる可能性があるので、遅くとも事故発生から10日以内には病院に行きましょう。
警察に人身事故への切り替えを届け出るときは、以下の書類を提出します。
必要な書類
この時点では受理のみとなりますが、事故発生時の状況を聞かれることがあるので、記憶を整理しておくようにしてください。
警察への届け出が終わったら、加害者側の保険会社にも連絡しておきます。
期限は定められていませんが、事故とケガの関係を疑われないよう、できるだけ早いタイミングで連絡するようにしてください。
人身事故へ切り替えが認められた場合、当事者立ち合いのもとで警察による実況見分が行われます。
加害者や被害者の取り調べも行われるので、事故の状況を正確に伝えてください。
人身事故となった場合は実況見分調書も作成されるので、過失割合も適正に算定されるでしょう。
なお、人身事故への切り替えが完了すると、交通安全運転センターに交通事故証明書の発行を申請できるようになります。
人身事故の証明となり、損害賠償の請求に必要となることもあるので、失くさないように注意しましょう。
衝撃の強い交通事故であっても、ケガや痛みがなければ「物損事故でよいだろう」と考えがちです。
しかし、痛みやしびれは後から自覚するケースが多く、適切な初期対応を逃すと重症化する可能性もあります。
治療期間が長引く、あるいは高度な治療になると治療費も高額になるため、できるだけ早いタイミングで人身事故に切り替えておくべきです。
ただ、人身事故に切り替えても示談交渉の展開によっては不利な状況になるので、専門家のアドバイスも参考にした方がよいでしょう。
交通事故の問題解決で困ったときは、弁護士への相談も検討してください。